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紙の本
世界を肯定する二拍子の運動
2007/03/12 06:50
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:M - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作は2002年から2004年にかけて「月刊サンデーGX」誌上にて発表された、浅野いにお初の連載作品、連作短編集である。
——浅野いにおは「素晴らしい世界」を描いている。
本作を読んだひとならば誰しもが感じることだろう。しかしまた、本作以降の作品を読んでもそう感じることだろう。浅野いにおの全ての著作を「素晴らしい世界」連作集と呼びたいくらいである。その意味でも、この連作短編集は現在発表されている作品のなかで、とりわけ重要な位置を占めているのではないか。
『素晴らしい世界』の世界は、ゆるやかに結ばれている。絡まりあう人物の関係(例えば姉妹、同業者、元恋人)や配置(同じ虹を見あげている)によって各エピソード間はつながり、そのようにして、ひとつの世界であることが強調されている。ただしそこには時間的な前後の移動がない。四季は移り変わる。時間は河のように流れゆく。そうした万物流転のイメージが度々あらわれる。要するに、つながりは空間的な横の移動に限られているのである。そしてこの事実は、以下に記すように本作の主題と深く関連しているように思われる。
まず読み進めて気づくのは、各エピソードがほとんど同じ調子で展開されているということである。
一、酷い現在によって未来が否定され、
二、それでも世界は素晴らしいのだ!と未来を肯定すること。
この一から二への移動。未来へ踏み出す歩み。世界を肯定する二拍子の運動によって各エピソードが織りあげられていると気づくとき、タイトルの「素晴らしい世界」とは、「それでも世界は素晴らしいのだ!」と世界を肯定することなのだと理解できる。その満ち溢れた意志が、高揚した気分が、恥かしいほど率直に伝わってくる。
しかし、読み進めながら身に馴染んでゆくこの二拍子のリズムは、最終話のひとつ前、第18話で乱される。安定していた足並みが、何かに躓く。
三、素晴らしい現在を肯定して未来が否定され、
私は体ごと投げ出される。宙吊りにされたような、不安定な印象を強く受ける。だが、この個所こそ本作をただの短編集にとどまらせない、最も優れた点であると私は思う。というのも、本作を第17話までのリズムで、安定した歩調のままに終わらすこともできたはずだ。「それでも世界は素晴らしいのだ!」と世界を肯定する物語として幕をおろすことも可能だったろう。
にもかかわらずラスト二話が描かれた。これはどういうことだろうか。
私が思ったのは、読者の能動性が求められているということである。これまでのエピソードで読者は完全に傍観者だった。世界を肯定する登場人物たちを微笑ましく見ているだけでよかった。しかし今やその登場人物はいないのである。世界を肯定すること。それは、過去や現在だけではなく、いまだ到来せぬ未来を肯定することも含まれているのだというあまりにも素朴なことを(素朴ゆえに)、ここにきて初めて気づかされるのだが、その未来は否定されているのである。「それでも世界は素晴らしいのだ!」と、否定を否定する人物がいないのである。
いや、ひとりだけいる。
注目したいのは、このとき、各エピソードにおける登場人物の関係が、全体としての物語における読者の関係に等しくなっていることだ。
もはや読者は登場人物である。読者だけが、安定した二拍子の運動を取りもどし、世界を、素晴らしい世界にすることができる。
紙の本
読み進める度に読み返したくなる
2020/09/11 06:40
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投稿者:海老の天ぷら - この投稿者のレビュー一覧を見る
1巻のあの方も再登場。登場人物を使い捨てないところが好きです。
2巻の方がやわらかい印象且つ、最終巻なのでまとめられてすっきりしました。
「生きていればきっと、いつかどこかでいいことがある。」
といっていいことがある描写があまりないです。ですが読んだ後は死ぬまで生きようと思えます。不思議です。
浅野いにおさんの作品は、行動や結果よりも気持ちの変化が重視されてるような印象を受けます。
気持ちの変化を見ることで自分も何か変われたような、変われるような気がします。
★Program Column★
10st program バードウィーク
11st program 雨のち晴れ
12st program 砂の城
13st program おやすみなさい
14st program 月となると
15st program ウイスキー・ボンボン
16st program 素晴らしき世界
17st program あおぞら
18st program 春風
Last program 桜の季節