紙の本
古くて新しい幻惑世界
2009/04/05 22:44
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
ホフマンというと幻想的な作品でよく知らしのれているが、本書では狂気ともつかない激烈な幻想「黄金の壷」、奇妙な犯罪の真相が改名される「マドモワゼル・スキュデリ」、モーツァルトのオペラにまつわる奇妙な話「ドン・ファン」、奇妙な音楽楽長の手記「クライスレリアーナ」の4編を収録。裁判官を本業とし、音楽家としても活動したホフマンの多彩な面をまとめたものになっている。
「黄金の壷」は運の悪い大学生の日常が、瞬く間に幻想世界との往還に変わってしまう過程が剛腕だ。言われるところによると、神や悪魔、妖精といったものの存在が前提とされる世界を描くのでなく、そういったものが狂気の産物とされる現実世界における幻想として描かれるところがホフマンの19世紀初頭当時における新しさであったということ。宗教や神秘主義、民間伝承などの世界を伝道的に表現するのでなく、題材として処理しているのは、それらが精神の所産であるという近代的合理性によるわけで、その上でさらにアラビア的幻想や、アトランティス伝説まで駆使して組み立て上げた、精緻にして甘美な人工世界が膜一枚を隔てて我々の生活空間に隣接している。その一方でホフマンの同時期やそれ以降の時代においても、信仰の世界を生きる人々の世間や文学というものがなお並立していたわけで、作品の構造や面白さとともに、ホフマンを当時の人気作家に押し上げた世相的背景も興味深い。
登場する神々や魔法使い達について、当時の教養が無いとどの程度のオリジナリティがあると考えていいのか分からないのだが、甘美な夢想を掻き立てる具合からして、相当インチキ臭い風を感じる。ただ無粋な俗世間から解き放たれて未知の国へ飛翔する欲望を刺激するだけでなく、そこに誘惑される心理さえ部品にして幾何学的に設計された小宇宙としても魅力的な作品だ。
古くは「スキュデリ嬢」と訳されていた作品が、この新訳ではドイツ人の書いたものを日本語にしてなぜ「マドモワゼル」になっているかというと、フランスを舞台にした作品だからで、この辺の言語感覚は非情に悩ましいものがあったと思う。異常心理による犯罪を描くにも、ある種の狂気の分析と言う点では幻想作品にも共通する。そして俗情的な捜査や裁判という流れと、論理との対決というのも永遠の人気テーマなのかもしれない。そして単なる対決ではなく、このマドモアゼルの老獪さや上品さを通して筋道が造られる掻痒的な過程もまた楽しめる。
作品選択も総花的だが、訳文も穏当な感じで、個人的にはもっとゴリゴリしててもいいように思ったが、それは僕の脳が犯されてきたせいかもしれない。むしろ爽やかでさえある文体は、怖くないからねといって誘う、本当の悪魔の囁きなのであろう。
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ホフマンの短篇集。物語の内包する物語の密度の濃さに圧倒される。幻想文学のリアリティとは描かれなかった物語の量に比例するのではないかと思われる。
物語の長さにそぐわないほどのイマジネーションを内包した結果、本文自体はほとんど粗筋をなぞっているだけのようである。その語られない物語背景の過剰さ、それがまた物語の豊穣さを支えている関係。
神は細部に宿るとはこういうことか。
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表題作の二編は、ファンタジーかつミステリ要素アリ!”美しいもの”に対する情景描写が豪華で、優雅な気分にも。
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なんとなく読んだが、おばけ作家のホフマンさん。
妄想の天才です。
この光文社古典新訳文庫)シリーズは、どれも読みやすくて、好きだ。
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くるみ割り人形、カルディヤック等の原作で知られるE・T・A・ホフマンの作品集です。
ホフマン"らしさ"あふれる作品である黄金の壺に対して、"らしさ"の少ない非常にきれいなマドモワゼル・ド・スキュデリ、その他の短い作品が収められています。
黄金の壺は岩波文庫の方が雰囲気が出てて、私は好きですが、スキュデリも収録されているということで、こちらに。(残念ながら岩波のは絶版なのです。あと、古い文章なだけに読みにくいかも?)
黄金の壺でホフマンの世界を、そして、スキュデリでホフマンが書くきれいな作品を味わってみてはいかがでしょうか?
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さて、満を持して(?)、E.T.A.ホフマン、いきます!というわけで、この新訳を買ってみました。手持ちの岩波文庫の「黄金の壷」と「スキュデリー嬢」と、頁ごとにつきあわせて読みました(また、なんと酔狂なことを……)。常体と敬体の文を、同じ地の文で混在させるのはどうでしょう、けれどもそのあたりは、「訳者あとがき」に詳しく述べられています。そこにあるとおり、「ほんとうに、古いか新しいかという問題は一筋縄ではいかないもの」なのですね。私には、昔なじみのホフマンのほうが、ホフマンらしい、とも思われますけれど。もちろん、この新訳を殊更に批判したいわけじゃないんです。そしてまたこのシリーズ全体の意図に関して、「いま、息をしている言葉で。」という栞の文言どおりそれが成功しているなら、それには大賛成なのです。だから、これからホフマンを読もうかな、と思う方は、どうぞこれを手に取ってください。珠玉の4篇、表題2作の他に「ドン・ファン」と「クライスレリアーナ(小品を抜粋)」とが収められています。カヴァーの感じもいいし、誰かの愛読書になることを願います。もちろん、それに見合うだけの作品です。
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久々に、非現実?というか、ファンタジーを読んだ!!て感じだった。
文章が面白い。長くて複雑だけど、読めば読むほど味が出る感じで。
大げさな感じの表現がすごくしっくりきて、おもしろい!!
一緒に入っている、マドモワゼルもよかった~!
続きが気になって、一気に読んでしまった。
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『黄金の壺』
『マドモワゼル・ド・スキュデリ』
『ドン・ファン』
『クライスレリアーナ』
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表題作の「黄金の壺」、冴えない男が二人の美女にもてる、日常の中に非日常が入り込むというのは一寸前のラノベの設定っぽい。いずれにせよ、予想していたよりも読みやすいので驚きました。他の出版社での訳と読み比べてみたい。
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どうせドイツ人なんて粗挽きウインナーに粒マスタードで黒ビールなんでしょう?→→!ウォ、ウォモシローイ!→→大学生が蛇に恋をします。夢うつつで何もやる気が起きません。学校の職員「そんでねー、ここに手伝いに行ってもらいたいわけー。お金も貰えるし皆が助かるの」依頼主「そんでねー、」学生「いやちょっと自分はこういう訳で、仕事をする気分では」主「あっごめえん。その蛇、私の娘ね!っていうっか、自分サラマンダーやし!」なんなのよドイツ。明るいじゃない。黒だけじゃなくて、白ビールも隠してるんじゃないのよ!出しなさいよ!
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『マドモワゼル・ド・スキュデリ』、ルイ十四世時代を舞台にしたミステリじゃないですか! 凄い。(森鷗外が絶賛して『玉を懐いて罪あり』として翻訳してるらしいので、そっちも比較して読んでみたいです)
『黄金の壺』の恋のさや当て+魔術+ファンタジーと寓話みたいな世界観も面白かったー!
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黄金の壺は、完全にファンタジー。こういう昔の小説って小難しいやらな問答というか語りというかで私生活がメインな気もするけど、でもはるか昔は聖書とかファンタジーだしな、珍しいってほどでもないかもだけど、ちょっと意外だー。
なもんだから、表現が仰々しいとかを除けば今風に読めるんではないか。
スキュデリさんの方も、いちいち表現が鬱陶しいというか、しょっちゅう感極まって大変だー、なんだけど、展開は面白いし、なにより結末への持っていき方もなかなか。人治主義がうまくまわることを示しているのか、にしても今どきの小説ではなかなか見られないぞな。
最後の方の小品はちと難易度高めかな。
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津村記久子さんの「やりなおし世界文学」の中で1番気になってた作品をやっと読んだ。黄金の壺はドタバタロマコメ。日常の中に入り込んだ魔術に人間が翻弄される感じは巨匠とマルガリータにも似た面白さ。2作めは推理小説的な面白さでこちらも完成度高い。
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■黄金の壺 ★4.5(1814年作品)
面白かった。
時々読者に直接呼びかけるのが特徴。
『砂男』『G.町のジェズイット教会』のようなサイコ的ダークさはなく、メルヘン度が高いファンタジーロマンス。
竜の化身である醜い魔女などもでてはくるが、精霊や神話がかった描写は美しい。特に庭の描写。アトランティス神話とは異なるけれど、アトランティスへの憧憬を感じ、ギリシア神話にも思いを馳せる。
また通常のロマンス小説は苦手だけれど、彼の作品では別。生物的に生々しい恋愛というカテゴリではなく、幻想のヴェールに包まれたファンタジー物語りだからだと思う。
美しい3和音にうっとり。
蛇はヨーロッパでは、永遠の愛を象徴するもの。竜は悪。
百合は生命や光の象徴。
■マドモワゼル・ド・スキュデリ★3.5
(1819年作品)
探偵小説風。他の幻想神秘ミステリとは一味違う。現実味が強い。スキュデリ婦人の聡明さが主題ではあるけれど、若者の美しい愛の物語。
あと罪に問われない伯爵って、身分力あるんだなぁとわかる。
■ドン・ファン★3(1812年作品)
彼が敬愛するモーツァルトの『ドン・ジョバンニ』の音楽的評論に、自身の経験を交えた短編。
どこからが現実でどこからが幻想かわからない。オペラは鑑賞したことも無いので小難しい。10年後ぐらいにまた読みたいです。
■■クライスレリアーナから
クライスラーはホフマンの投影
■『音楽嫌い』★3
ホフマン自身の音楽経験と評論かな。
天才に共感はしにくい
■『ヨハネス・クライスラーの修業証明書』★3
こちらも音楽評論と、天才芸術家が狂っていく狂気を
自身が自身に証書を書くという手法で演出している
【時代背景】
18世紀西ヨーロッパでは、市民革命・産業革命がおこり、封建制度が崩壊。 自由民権思想、個性尊重、自我発展の思想革命が活発になり、ロマン派文学が溢れた。
一方、ホフマンの生まれプロイセン王国(後にドイツ)は、啓蒙専制君主の暗愚の王の時代にあり、長年の国力が危機と改革の時代にあった。
※古典主義からロマン主義へ。
[参照文]
※https://www.y-history.net/appendix/wh1003-055.html
※https://www.y-history.net/appendix/wh1204-010.html
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%82%BB%E3%83%B3%E7%8E%8B%E5%9B%BD
https://www.y-history.net/wh_note/13note_0903.html
音楽、絵画も同様。
シューベルト、シューマン、メンデルスゾーンなど3大前期ロマン派といわれるドイツの音楽家が同時期。
プロイセン王国前の神聖ローマ帝国にはザルツブルク生まれのモーツァルト(1756−1791年)がいた。モーツァルトはE.T.AホフマンのA[アマデウス]、ペンネームの由来でもある。(モーツァルトの音楽体系は、ロココ様式。)
シューマンはホフマンに傾倒し、曲を送るなどしている。彼の物語クライスレリアーナからも命名している。
https://www.satomichihara.com/bloginjapanese/romanticism-jp