紙の本
著者の「ラスト・メッセージ」が指し示す将来は?
2010/05/20 14:58
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YO-SHI - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は2008年11月に亡くなっている。本書は、集英社新書編集部が著者の死後に、集英社のPR誌に書いた「若き友人への手紙」という連載と、早稲田大学と立命館大学での講演を基に構成したものだ。
PR誌への連載は、著者がすでに病に冒された後「遺しておきたい言葉がある」と言って、何度か掲載したものを新書の形でまとめる、ということで始めたものだそうだ。しかし、病の進行のために連載は2回しか続かなかった。だから本書は言わば著者の絶筆、まさに「ラスト・メッセージ」なのだ。
「若き友人への手紙」という連載と、大学での講演が基になっているのだから当然だが、内容は大学生ぐらいの若い世代へのメッセージだ。全編に感じられるのは、若者へのゆるぎない「信頼感」と「厳しさ」。「今の若い者は..」という指摘のほとんどは的外れかしばしば逆である、と言う一方、大勢に流され真剣に考えない姿勢には厳しい。
例えば憲法について。「第14条と第24条を知っているかと聞くと、ほとんど手が挙がらない。(中略)それでこの憲法は古いだの時代遅れだだのとよく言うよ。(中略)ファッションじゃないんですよ、憲法は」と、投げつけるかのような厳しい言葉だ。
著者が多くの批判を受けていることはもちろん知っている。私自身も、晩年のNEWS23を見て「おやっ」と思うことはあった。しかし、著者の「自分自身で考え、議論をして決める」という信条は正しいと思う。ここ2回の衆院選は、どちらも大波に呑まれたような選挙だったが、その時々の趨勢で世論が極端に振れることは心配だ。
最後に、本書の最終章にある興味深い指摘を紹介する。「国家がダメになっていくのはどういう時かといえば、それは優先順位を間違えた時です。」というものだ。そして例としてバブル崩壊後の「失われた10年」の入り口のころ、宮沢喜一内閣のことを挙げる。
国中の経済が停滞し、国民が疲弊していたあの時、政治は「優先課題を経済改革ではなく政治改革」にしたという。そしてその後、小選挙区制導入をめぐるこの政治改革の余波で、政界再編と称して新党が多数設立された。
どうだろう?今の政治の状況と合わせ鏡のようではないか。あの時はそれからさらに10年間の低迷をこの国は続けた。さて今回は?著者の指摘は興味深いだけでなく、不吉でさえある。
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読んでいる途中から、筑紫哲也が亡くなったことを恐ろしく感じた。
今の日本の大人でこんな風に言ってくれる人がいるだろうか。
日本の良心が死んじゃった、そんな気がして恐くなった。
分かっている。自分で考えなくちゃいけないことくらい。
けれど、私はそのための知識が何もない。
それだから考えることができないのだ。
要するに自分は怠け者なのか笑?
けど、私が日本の将来を憂いて政治家になった所で、
この日本が好転していくはずもないと思ってしまう。
ジャーナリストになって、それでどうなるというのだ。
例えば建築家にだって、映画監督にだって、
詩人にだって、主婦にだって、人事部の社員にだって……
世の中を少しでも良くしていくことが出来るんじゃないか、
そう思わせてくれる言葉が欲しかった。
自分が目の前にあることを一生懸命にやれば、
必ず日本は素晴らしい国になるよ!って。
けれど、そうできるのも恵まれた環境で、
きちんと勉強ができる人たちだけなんだろう。
いつかの二宮金次郎みたいな子ども、もういないんだろうな。
読めば読むほど、日本の政治がイヤになる。
テレビにでて喋っているあの人たちの頭の中に何があるのかしら。
日本の将来を本気で良くしようとしているひとたちが、
本当にいるのかしら。
もはや希望もあまり抱けない国だ。
それに人間自体も。
どう考えたってこんな理不尽な生活続けられるはずないのに。
恐竜が作った一億五千万年の歴史を人間は更新できるのか?
筑紫さんへ
日本は政権交代、しましたよ!
でも、今の私には何も変わっていなくて、
みんなが混乱してがっかりしているように感じます。
明るい国がつくれるように、
まずは自分が明るくなって行こう、今必死でそう思おうとしています。
最期に素敵で恐ろしい本を残してくれてありがとうございました。
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雑誌連載+大学院の講義をまとめた本。
巻末にある、若き日の自叙伝?を読んだあと、
本編を読むと、不思議な気持ちになる。
自信を得つつある、学生のときの筑紫さんが、
大人になって、晩年になり、
学生(それはきっと学生のときの筑紫さん)に伝えたいこと。
それがこの本に書かれてあることだと思う。
特に記憶に残るのはメディアについてのお話。
取捨選択。難しいよなぁ。
だけど、この本はそのたいせつさをきちんと教えてくれた。
また近いうちに読み直します。
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筑紫さんのような人はそれ以前にいただろうか。現在はいない。
諸手を挙げて讃える訳ではないのだが、
これだけのジャーナリスト精神を携え、
しかもニュースキャスターとして一般に受け入れられた人は
希有な存在だったと改めて感じた。
内容は大学院生に向け、それぞれの事項の表層をなぞったぐらいで、40一歩手前の自分にとっては若干物足りなくはあるが、
想いは伝わってくる。
付録の高校生時代の文章には、ジャーナリストの産声を上げる前の
沸々と煮えたぎっている心が見え隠れしている。
読書メモ
・二元論的なモノの見方ではいけない。物事には複雑な背景がある。
・日本人論が好きな日本人だが、本当の意味で日本人を捉えている人は少ない。判官贔屓は一つの特徴だが、最近勝ち馬に乗るような性質が見え始めている。
・信仰心は薄いが、八百万の神といった多神教的なDNAがあり、西洋の一神教文化とは決定的な違いがある。
・ジャーナリズムの視点に立つと、情報規制のかかる新聞と自由に発信できる雑誌では雲泥の差がある。しかし、報道のパワーは生きている。
・国家主義と愛国心を一緒にしてはいけない。島国の日本は混同しがち。
・国の底上げのためには教育が重要。
・日本人はもっと人生を楽しむべき。総理大臣がオペラを観に行く事と政治を一緒の土俵に上げて議論してはいけない。
・この情報化社会にあっては、Information、Knowledge、Wisdomの知の三角形という考え方がある。知識を体系化できるような教育が必要。
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私が心配なのは、にもかかわらず、「近ごろの若い者」があまりにも優しくてナイーブなために、そういう評価にふり回され、自分を見失いかねないことです。
いつも言われていることが正しいとは限らない。かつてそういう傾向があったとしても、それは変わるんだ、ということを知っておく必要がある。
ハリーポッターの世界でも9・11でも、起きたことは一神教同士の衝突です。我が信ずる以外に神なし。我が神以外に何を信じるのか、と。
自分に知識がないために、マスメディアが伝えるもののほうへ、一方的に誘導されていってしまう、ということが起こりがち
絶対に正しいものが一方にあり、絶対に間違っているものがこっちにある。簡単にいえば一元論です。あるいは宗教で言えば、一神教です。我以外に神無し。一つしか真理がない、一つしか正義がない、それがぶつかっているのが今の世界です。
世間で言われていることに懐疑心をもつことは大切ですが、そのなかに正しい答えが絶対にあるんだ、と考えることについても懐疑心をもつ。疑うことが学ぶことの意味だというのは、そういうことだと思います。
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学生時代制作したドキュメンタリーの作品が
筑紫さんが毎年ゲストでこられるゆふいん映画祭で上映されたこともあり、
勝手に親近感を頂いている。
昨年、癌で亡くなった著者の若者へのメッセージ。
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筑紫さんは新聞→雑誌→テレビと主要なメディアを渡り歩いてきた珍しい存在で、落ち着いた口調の中にも確固たる意思を感じる人でした。
中で書かれていることは日本の将来に対する不安。2007年に書かれた本ですが、不安は的中しています。(あの当時みんな不安に思っていたことだろうけど)日本はよくなっていません。震災を経てさらに悪化の一途をたどっています。
提言のように政府がやるべきことの順序を理解して問題解決にあたってもらいたい。日本の病気は以下の3つ。全く納得です。
・経済の破綻(金借りすぎ)
・人口の減少
・教育の崩壊
非常に心に残った一言
「学ぶことは具体的な問題を抽象化すること」
コンピューターにはできないことだと思います。人間の存在意義。その人が必要だと思われるためにはこのような考えが必要だと強く感じました。
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故人を偲び、残されたことばの一つ一つをかみしめながら、読み進めることができました。語り口も柔らかく、読み物としても簡潔にまとめられていると感じました。今の日本が抱えている構造的問題や、情報化社会の中で生きることを迫られる人間たちの苦しみを、丁寧にえぐりだしていると思います。なぜなら、著者の一言一言が、的確にかつジワジワと、脳みそに直接栄養剤を注入されていくかのような感覚を得ることができたからだと思います。
この稀代のジャーナリストの凄みは、多事争論という福沢諭吉の言葉を彼が生前のテレビ番組で用いていたことに象徴されているともいます。すなわち、反対派を退けず、その対置とつばぜり合いから何か新しいものを生み出せることを信じ続けていたということ。それゆえに、相手とぶつかることを恐れないこと。かえって、そのぶつかり合いこそが、言論と表現に与えられた自由と駆使しつつ、それに伴なう義務や責任をも同時に果たしていることを証明できると思い、彼自身が発言という行動で示してきたことにあると思うからです。
相手への一方的な攻撃や封殺がさまざまな部分で見え始めているように感じう中で、私たちが発見できていないのは論点の喪失がどの程度影響にするのかということだと思うのです。言い換えれば、「人間」という種につけられた関係性を意味する文字である「間」の消失そのものなのではないかと思うと、筑紫さんが生前にいっていた、なぜ私たちが「人」ではなく「人間」であるのかを死してなお問うているようにさえ思えてならないのです。
本書では、情報分析から記事や雑誌を通じて世の中に発信してきた筑紫さんの知的生産性の向上と効率化を上げるための前提条件となり得るような含蓄のある言葉があります。とくに、I-K-Wの3つで形作られる知の三角形は大変勉強になりました。ネットやパソコン、さらにクラウドコンピューティングを通じて外部化する記憶装置が、進化により人間が手に入れた大脳新皮質の退化になりはしないかとうっすら怖がっている私には、これからの知的生き方の行く先を先んじて見せつけられた思いです。
200ページ以上の新書ですし、以前週刊朝日MOOKを読んだ(http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1399289869&owner_id=320755)こともあって、大発見の数はさほど多くありませんが、筑紫哲也は死んでも筑紫哲也でありその期待を大きく裏切ることはこの本においてもなかったと思えます。
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物事をわかりやすく、さまざまな角度から検証できている。こういう視点を持っている人が亡くなってしまったことが残念。もう少し彼の著書を読んでみようかなと思う。
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日本がこれでまでに犯してきた罪や過ち、現在抱えている問題についてジャーナリスト筑紫哲也の考えを述べています。多くは日本の現状、未来を嘆く内容なのですが、その背後にある筑紫さんの強い愛国心が伝わってきます。
筑紫さんは本書で、「このままだと、この国は相当にひどいことになりそうなのです。そういうことにしたのは大人の責任であり、あなたのせいではありません。しかし、その負の債務を被らなくてはならないのは次の世代、つまりあなたたちだし、やがてあなたがこの国、社会を担う主役になるのはあっという間です」と述べていますが、この一言に筑紫さんの伝えたかったことが集約されているように思います。
筑紫さんの考えが取り越し苦労で終わるように、若者である自分たちの世代がこのラストメッセージをしっかりと受け入れ、託されたこの国の未来を明るくしなければと思わされました。
◆memo
この国の歴史のなかで、何を残し、何を捨ててもよいから、これだけはあなたたちが引き継いで欲しくはないと私が思い続けて来たもの、それが「KY」に凝縮している思考なのです
国を愛するということは、私自身、悪いことでもなんでもないと思っています。私は年をとるごとに、自分の国の文化というものに対する愛着、あるいは誇りというものが深まっています。だから私の気持ちの上では愛国主義が強まっています。でもそれが地球環境の問題やいろんな問題を考えたときに過剰に出てくるのは、自分にとっても世界にとってもプラスにならない。愛国主義とは、そういう両刃の剣だということをきちんと認識していたほうがいいと思う
本土から行った軍人たちは沖縄語、琉球方言というのを一切解しませんから、方言を喋った者をスパイ扱いされるわけです。分からない言葉を使う連中は米軍と通じているのではないかという疑いをもって、島民たちを殺してしまったというケースが、久米島を始めたくさんあります
沖縄は珊瑚礁の島ですから洞窟、ガマといいますが、それがいっぱいあります。地上はメチャクチャに砲撃されますから、日本軍はガマに潜んだ。そこへ当然、住民も逃げ込んできます。赤ん坊連れもいます。赤ん坊が泣くと場所がバレてしまうというので、赤ん坊を殺させたという例もあります。自分の子供を泣く泣く殺させられた母親が、かなりいるんです
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読んでどうだったかと言えば、申し訳ないけどあまり良かったとは言えない。
というか判断のしようがないといったところ。
この本は彼の死語に大学での講演を紙に起こしたらしく、語りかけるような文体。文字にして紙に起こす上での言葉の選択がなされていないからか、その崩れた文体どおりに柔らかさやゆるさがある。
講演の骨子はもう飽きるぐらいに聞かされている自分で考え判断しろということ。
できれば、講演を聞きたかった。
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すばらしい!!
多面的な見方・本質を見抜く大切さを教えてくれます!!
日本人全員に読んで欲しい!!
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筑紫さんから日本人への、思いやりのある激励を感じる一冊でした。
全面的に今の若い人を擁護しつつ、愛国主義や美辞麗句に惑わされず、自分の頭で考えて判断することの大切さを説いてくれたと思います。
ただ、亡くなられた後に、大学院での講義録を元に編集された内容の為、筑紫さんの言葉の背景や思いをもっと知りたいと感じました。
もっと、色々な話を聞いたり、文章を読みたかったです。
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筑紫哲也さんのメッセージ本。
かれの杞憂が正夢にならないよう、
僕ら若者はもっと考え、進んでいかないといけない。
日本という贅沢なフィールドで自殺する人がいてはいけない。
世界の人を幸せにする義務は先進国にあると思う。
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この本を手に取ったきっかけは、
憲法の個所で日本国憲法に男女平等を書いたベアテ・シロタ・ゴードンに言及していたから。
読んでみると、イメージしていたものとは少し違って、
良い意味で期待を裏切られた。
特に「知の三角形」に関しては、耳が痛く、
私はもう筑紫哲也が対象として描いた「若い友人」の年代からは外れているだろうに
いまだにこの「知の三角形」の構築をおろそかにしてきたためにドキッとした。
あとがきに代わって掲載されていた筑紫氏の高校時代の文章は、
なんだか悲しいのに力強く、学生たちに向けたこの本のメッセージが
より暖かいものに感じられる。
帯の写真ともリンクして、身近に、感じられた。
さらっと読んでしまったので、もう一度パラパラ読んでみるつもり。