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日本メーカー、特にソニー、シャープ、パナソニック、NEC、日立、三菱電機などの電機メーカーは、サムスンやアップルなどに敗退している。
なぜ、日本型ものづくりは世界で勝てないのか。その理由を考察した一冊。
筆者の湯之上氏は、日立製作所入社から16年にわたり半導体の開発に従事した、日本のものづくり現場を熟知した人物である。
湯之上氏は、日本企業の問題点は「イノベーション」の捉え方にあると指摘する。
イノベーションは「技術革新」と同義で使われることが多いが、経済学者シュンペーターの定義では、「発明と市場との新結合」であるという。
いくら革新的な技術が生み出されても、それが技術者の自己満足に過ぎず、ユーザに普及することがなければ、それはイノベーションとは呼べない。
湯之上氏は、「爆発的に普及した技術や製品」をイノベーションと呼んでいる。
「日本の技術力は高い」と日本人の多くは何の疑いもなく信じているが、そもそも、「技術」の定義はひとつではない。
日本は確かに「高品質を作る技術」は高いが、「低コストで作る技術」は韓国メーカーや台湾メーカーに負けている。
さらに、サムスン電子は専任のマーケッターを数多く配置し、市場の動きにいち早く対応している。
日本の中においても、例えば日立とNECでは「技術開発」の定義が異なるという。
半導体の開発において、日立の「技術開発」は、新材料や新構造を検討し新装置を開発することを指す。
一方、NECの「技術開発」は、試作ロットが流れるための最適条件を決めることを指すという。
エルピーダメモリにおいて、日立とNECという文化の全く異なる2社が合併したが、規模が大きくなったのみで、その中身においてはそれぞれ合併前から変わることはなく、混ざり合うことはなかった。
日立にしろNECにしろ、エルピーダにしろルネサスにしろ、半導体業界にしろテレビ業界にしろ、技術力の使い途を誤った日本企業は、世界の中で勝ち抜くことはできない。
日本企業は、欧米やアジアの後追いだけに終始するべきではない。
特にものづくり分野においては、先進者を模倣しながらも、日本企業が得意とする摺り合わせ技術を用いて、発明と市場との新結合であるイノベーションを起こすことで、新市場を創り出す「イモベーター」となるべきである。
湯之上氏は日本の半導体製造業界を熟知した人物であり、業界内部の暴露話的なものも書かれており、ルポタージュ的な読み物としても面白い。
ちなみに、サブタイトルに出てくる零戦については、日本のものづくりが特定の要求は完璧に実現するが(零戦の格闘戦性能や航続距離、DRAMの耐久性など)、ユーザのニーズを満たすものではない(零戦の防弾性能、DRAMのコストなど)ために、イノベーションとはならない説明の例として書かれているだけであり、半導体やテレビに比べると、あまりページを割いているわけではない。
ここ最近の「永遠の0」や「風立ちぬ」における零戦人気に便乗したものか・・・。
世の中は常に変化する。
パラダイムシフトが起こったときに、コスト的に対策するだけでは、日本企業は勝てない。
「あなたが世界をどう変えたいのか」という視点を持って現場へ赴き、「問題の発明」を行い、創造的模倣力を発揮すること。
私自身は自動車産業で働いていたことがあるが、日本の完成車メーカーや部品メーカーも、今でこそ世界で有数の技術を誇る企業は多いが、うかうかしていると他国にイノベーションを起こされかねない。
イモベーターとなり、常に変化していくことが必要である。
日本のものづくり企業だけではなく、すべての日本のビジネスパーソンが今こそ読むべき一冊。
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元日立でエルピーダにも在籍した半導体技術者が、日本半導体の敗戦の原因をその内部にいた経験から分析したものである。まずは日本の技術は一流でそこは負けていないという神話の否定がある。少なくともコストパフォーマンスの面で劣っていたことは確かだろう。エルピーダで経験した事実の解説は負けるべくして負けた状況が理解できる。
日本には、イノベーションとマーケティングがなかった、と著者は言う。イノベーションは「技術革新」と捉えられ、本来の「新結合」という意味では捉えられていなかった。マーケティングも「市場調査」と捉えられ、本来の「市場創造」の思考が日本にはなかった。イノベーションとマーケティングはかの日本びいきのドラッカーが企業が成果を生む二つの機能として定義したイノベーションとマーケティングがなかったのだ。
また、政府主導のプロジェクトへの批判も強い。一度決めたことを変えられず、何もしないことが最善になっても止められない状況も発生していたようだ。官僚の無謬性の罠にはまった形だし、そもそも政府が誘導するべきではないのだ。
本当に当事者としてその戦いに参加し敗れた著者の言葉には説得力がある。腑に落ちるとはこのことかもしれない。
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自分の会社は半導体とは縁もゆかりもないが、妙に納得できて興味深かった。
・パラダイムシフトに付いていけなければ負ける。
・技術力とは単に高性能な商品の開発能力でない。
・イノベーションとは爆発的に普及した新製品。技術革新とは無関係。
・サムスンのマーケティング重視=売れるものを創る姿勢が成功の要因。
一方で日本企業は作ったものを売ろうとする。
・価格支配権がなければ高シェアでも低利益
・無駄な性能追求が日本メーカーの弱点
・日本企業の強みは摺り合わせと継続的改善
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DRAMから続く半導体ショックについて、内部最前線で働いていた著者による分析と提言。合弁会社、国PJ等色々テコ入れ画策するも、ことごとく潰れる状況とのこと。
ニュースできいていた情報と大きくことなる内部事情に驚きながらもワクワク?しながら読む。これは半導体業界だけではない。機械系も同じかも。マーケティングが死命を制する、というのはまさに今の我社にもあてはまってたりして・・・。
色んな分析本がある中で、直球でわかりやすい記述がされている点で出色。これは読んでよかった。
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半導体業界で活躍した著者であるため,半導体に関する記述が多い.特に,コンソーシアム(セリート)や国家プロジェクト(あすか)での,日本のやり方の失敗について手厳しく批判している.
イノベーションは単なる高い技術ではなく,製品を作る以上は必要とされるものを作る技術でなくてはならない.マーケッティングをおろそかにし,不必要に品質の高い半導体(25年保証!?)を高コストで作り続けた日本はいろいろな視点を欠いていたのであろう.
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これからの日本の製造業を考える。
模倣というと言葉は悪いが今あるものを組み合わせる事で新しさを作り出せる。
これからのキーワードは模倣だと思う。
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【「ものづくりニッポン」再生の処方箋は?】日本の技術力は高い――。だとしたらなぜ半導体・電機業界が崩壊したのか? 日立の技術者から大学の研究者に転じた著者が抉りだす。
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言いたいことは分かる。過剰品質や自己満足の品質追求、グローバル市場の見誤り…
ただ筆者の恨み節が強過ぎて、結果、説得力や納得感、前向きな提言から遠ざかってしまったのが残念。
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1980年代に世界をリードした日本の半導体産業。ところが現在では日立とNECのDRAMの合弁会社エルピーダメモリーは経営破綻し、日立、三菱、NECのマイコンを経営統合したルネサスエレクトロニクスも倒産寸前まで追い込まれるなど、当時の面影はありません。
日本の半導体産業が世界一であった1980年代に日立に入社し、その凋落を目の当たりにしてきた著者が半導体産業の裏側とその凋落の理由を解説。
半導体とはどのように製造されるのか?、なぜマイコンの世界シェアNo.1のルネサスが赤字なのか?、東日本大震災でルネサス那珂工場が被災した時、代替生産がなぜできなかったのか?、日本が強い技術分野と弱い技術分野とは?、日本のテレビ産業の凋落の原因はなにか?、など興味深い視点からの解説は製造企業に身をおいた著者ならではの分かりやすさです。
述べられているさまざまな論点のなかでも「各工程の部分最適を求めるあまり、製造工程全体としての全体最適が実現できていない」という現象は大企業に限らず、中小企業でも忘れてはならない視点だと再確認させられました。
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一方こちらは現場サイドのお話から。恨み節が多々含まれているものの、NECも日立も商売を気にせず自己満足の道に突っ走った結果終わるという心温まるストーリー。
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日本には低コストでものを作る技術者はなく、過剰品質、生産の結果が今日の状況を作り上げたと感じた。またサムスンとの比較のなかで顕著だったことはマーケットインの志向が強いということ。優秀なマーケッターが各国にいることで、その先の顧客の生活習慣まで把握できる。マーケッターの数も桁違いであることや、意思決定が速いことも挙げられる。不良品ゼロ神話もなく、開発量産品体制も日本にはない。
その上で日本の強みは、製造工程の改善や、総合的な擦り合わせ技術、連続的な技術。例えば洗浄装置など暗黙的なノウハウの蓄積を要する分野。
模倣力も大切だと言えるのではないか。
イノベーションは技術力ではなく、マーケットへのインパクトで描画されるべきである点は教官した。
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日本の電機、半導体がどうしてここまで落ち込んでしまったのか、この本読んでよく分かりました。イノベーションは技術革新と訳すのは間違い、という出張も納得。テクノロジー>ビジネスという日本にありがちな価値観もこういう流れを助長していると思います。
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読み応え十分だった。半導体産業の歴史、日立、NECの半導体事業の衰退が筆者の経験を踏まえダイナミックに語られている。なぜ日本の半導体産業は衰退したのか、その理由も明かされ一気に読んでしまった。DRAM、CPUと来て今はセンサーへの活路を模索している半導体産業の現実がよくわかった。
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電子立国日本の中核を担っていた半導体産業の凋落と、サムスンを始めとした新興国の隆盛。その渦中の中にいた、半導体メーカ技術者であった著者による分析と今後の日本の半導体産業への提言が本書。
目から鱗だったのが、半導体産業の凋落の理由。今までのメディア情報で、設備投資のタイミングが遅いことと、アメリカからの貿易不均衡が同時に重なったことだと思い込んでいた。しかし、その本質が職人気質という日本文化の影響で、全体最適を考える経営者が不在で、技術者は部分最適の技術レベル向上に固執するという、典型的な日本メーカの負けパターンだったとは。
しかし、半導体技術開発の困難さが初めて分かりました。その意味で、半導体技術の概要を解説した本書の第2章は、自分にとっては、次章以降を読み解くためには、大変有意義でした。
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【ポイント】
23/イノベーションとは、シュンペーターの定義:「発明と市場の新結合」
◆「爆発的に普及した技術や製品」 と著者はしている。
55/半導体の量産技術
量産移管の方法には、「コピーイグザクトリとコピーエッセンシャリ」がある。
89/エルピーダはなぜ倒産したか?
→低コストでDRAMをつくることがてきなかったその技術が問題。
つまり、坂本社長の経営者として責任は、低コストでDRAMをつくる技術を
向上させることができなかったことにある。
89/ 30年間変わらなかったDRAM技術力 (25年の耐久性)
93/ 開発と量産の境界がない組織(サムスンとの比較)
95/ 装置を変えない、プロセスを変えない。
96/ 歩留り100%はめざさない
98/ 230人もいる専任マーケッター
99/サムスンは、一番優秀な人間をマーケッターに抜擢する。
→自社の未来はマーケッターの双肩にかかっている。
世界の動向からその国や地域での市場を予測し創造することが、
マーケッターに要求される。
この能力は、その人間が持っている「センス」である。教育できない。
★このセンスを持った人間を世界じゅうから探し、集めるのが経営者の仕事。
100/ 即断即決する極めて優秀な専務たち
112/玉ねぎの皮を剥いていったら最後になにが残る?
170/日本人は、技術者だけでなく、
経営学者までも、イノベーションを正しく理解していない。
★経済学者のシュンペーターは、「イノベーションは、発明と市場との新結合」と定義
★ 「イノベーションとは、爆発的に普及した新製品」
←技術が革新的かは一切関係ない。
技術開発を行ってもイノベーションにならない。
→その技術をつかった新製品が売れて初めてイノベーション。
176/「つくったものを売ろうとする間違い。
178/サムスンは、売れるものをつくろうとしているのに対し、
日本は依然として作ったものを売ろうとしている。
日本人が認識しているマーケティングとサムスンが考えるマーケティングが違う。
◆サムスンにとって、マーケティングはとは「市場創造」である。
180/日本企業が認識する「マーケティングとは、「市場統計・市場調査」だ。
←サムスンの「市場創造」ではない。
←日本では、マーケティングは質の低い人がつくと見做され、軽視されている。
181/マーケティングの本質とは?
研究も開発も製造も営業も総務も経理も資材も人事も、関わるすべての組織と社員が
★マーケティングの感性★をもっていなければ、変化する世の中に対応できない。
社員全員がマーケッターにならなければ、生き残れない。
183/サムスンは、液晶テレビの模倣容易性を理解していたからこそ、他社との比較優位を 持たせるために、世界の国ごとにマーケティングした。
←技術の模倣はできるが前提。
211/日本人の得意なことは何か?
?製造工程に競争力の源泉がある産業
?高度な擦り合せ(インテグラル)技術が必要な産業
?持続的技術が必要な産業
232/価値のほとんどは模倣者が得ている。→半導体産業とは大いなる模倣産業である。
234/科学における創造とは「二つまたはそれ以上の事実または理論を統合すること」
経済学者のシュンペーターは、イノベーションを「発明と市場の新結合」と定義した。
イノベーションとは、「新結合」である。
241/模倣能力を今一度甦らすことが再生への近道。
再生した模倣能力を最大限に活用して、新市場創出するイノベーションを起こすこと。
243/新市場を作るために技術は一切必要ない。
「新しい市場の作り方/三宅秀道」
どんな技術も商品も誰かの幸せの役にたたなければならない。
だから新市場ができる前にその幸せがイメージできなれればいけない。
★これを「問題の発明」という
←発見(すでにあるものを見つける)ではなく発明(存在してない価値を生み出す)
244/技術開発が必要になるのは、「問題が発明」された後。
247/エジソンがウォシュレットを発明できなかった理由は?
←お尻を洗えない不幸を感じなかった。
「お尻を洗うと気持ちがよいのではないか」という「問題を発明できなかった。
252/物理学は一神教、化学は多神教。
物理学は基本原理を理解すれば、後は論理で解決できる。
化学は、多面的なノウハウの蓄積が必要で、ある技術を習得するのに時間がかかる。