投稿元:
レビューを見る
東京という街ならではのちょっと歪んだ現代人の姿を切り取った短編集。筋はともかく文章だけで読ませる作家陣に傾倒しつつあったこの頃に水を差すような、かっさかさに乾ききった文章に、久々に衝撃を受ける。相変わらずの無頼さ加減が由来すると思われる戦中戦後のどん底の生い立ちを振り返る文章も見られ、興味深く読んだ。けれど否応なく感じられる古くさい感じは、日本の時代を他のどこよりも鋭敏に反映する東京という街を活写すればするほど避けがたく纏うことになる泡沫の時代性の証左なんではあろうなあ。
投稿元:
レビューを見る
1988年から1989年にかけて『小説現代』に連載された連作短編シリーズ。バブル景気のまっただ中、そして昭和から平成へと年号が変ったまさにその時に連載されていた作品。野坂作品でよく出てくるテーマを扱いながらどこか冷めて漂白されたような体温のない雰囲気が当時の世相を色濃く反映しているような気がする。「純愛篇」の乙女的なロマンチシズム漂うオチと「隅田川篇」の意表を突く着地点と物悲しい余韻が個人的にはお気に入り。
投稿元:
レビューを見る
【速読】東京のモノ・消費社会みたいなのがにおってくる少作品いろいろ、でして、それは都会の生活とイコールでもあると思うんですが、そこに戦争の記憶をぶち込むと情緒の変遷に厚みが増すんですね。これは野坂昭如がずっと前から書いてきたことの延長なのかもしれませんが、友情編は富山から状況し都会的流行を痛感した藤子Fさんの大人向け作品にも通じる、なんてことも思いました。で、この文体を迂回的でありながらきびきびした文章、と町田康が書いてまして、このただ一言だけどもすごいなと思いますね。