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表題作『君によせるブルー』。東京から転校してきた航平、地元の人見知りしない悠太、二人は距離を縮め、悠太は自分が一番お気に入りの浜辺で航平と遊ぶ。小さなクラゲを閉じ込めた瓶越しに悠太を見る航平の視線の描写が素晴らしい。
航平に告白されて戸惑ってしまった悠太に「…いきなりあんな事して 怖かったろ」と言う言葉が言える航平。
この作者さんは登場人物に喋らせる言葉の選び方が大げさでなく自己満足に浸るでもなく、物凄く的確で優し気だ。一方が見ている相手が存在する空間の間、二人がいて同じ事考えてるのに一人一人温度差が違う感じが出てる二人がいる間、この辺りの余白にお喋り過ぎず雄弁。
巻末収録『雨のゆめふる』は、人間の人生を書く脚本家がいて、その脚本家たちはリアルの人間に接触してはいけないと言うルールがある。接触すると永遠の存在では無くなる。安田は自分が書いた脚本に沿って生きている少年・瀬川を、自分の脚本通りに俯いて歩く彼を見ているだけだったのだが、彼の落とした詩が書かれているノートを拾ってしまう。安田が同僚の忠告がありつつも、自分の脚本通りに生きている瀬川くんに惹かれて止まない。自分の脚本通りの筈なのに、彼に対して情動が動かされて仕方ないのだ。自分が作った創作物の登場人物に感情移入し恋をする、なんてのは使い古されたフレーズかもしれないのだが、この作者さんは剛力でねじ伏せると言うのではなく、妙に捻るような事はしてないのに、透明感溢れる作家性でオリジナル性溢れる作品にしてしまう。
表題作も「都会から越してきた子と地元の子」と言う、こう書いてしまうと何作か頭に浮かぶぐらい使い古された図式だし、着地点も容易に想像できるんだけど、漫画と言うツールの中で人物が配置されている構図や、難しい言い回しや洒落た言葉遣いでもないのに、台詞が物凄く「正直」に響く。これはもう、作家性によるものではないか、と思った。