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紙の本
ともだちとは何だろう。何だったのだろう……
2010/07/10 19:16
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぶにゃ - この投稿者のレビュー一覧を見る
思想家雨宮処凛の活動と発言には、時折ネット上で接することもあるが、小説家雨宮処凛を知るのは、この作品が初めてである。彼女の紡ぐ言葉と表現は、彼女が自分の思想を語るときと同じように、小説においても等身大であり、自分の思いを自分の掴んだ言葉だけで語ろうとしている。この、しっかりと自分で握りしめた言葉のみによって小説を成り立たせようとするのは、作家にとっては当然な営為のようにも思えるが、しかしたいへん難しい作業なのではないかと素人ながらに考える。レトリックのためには、借り物の言葉だって必要なのだ。雨宮はこのレトリックによる装飾を極力排除し、ゴツゴツとしたむき出しの言葉で世界を語る。
語られる世界は、人間関係であり、その救いようのないひずみとして現れ、人の心を蝕んでゆく「いじめ」である。そして、蝕まれた心にひろがってゆく暗闇である。
7年前の中学2年だった自分と、予備校生の現在の自分をオーバーラップさせながら「私」の物語は展開する。登場人物に非凡な人間はいない。いじめられる「私」。いじめる「あなた」。あなたと一緒になって私をいじめ、あるいは傍観するだけの生徒たち。無能を通り越して愚劣でしかない教師。子供がいじめに遭っていることを気づくことができない平凡な両親。――今現在、この瞬間にも、日本のあちこちの学校で繰り広げられているであろう悲惨な日常の、その当事者たちと寸分違わぬ登場人物たちである。
「殺してやればいいのに。自分を傷つける者に殺意を持って何が悪い?悪いのは弱い自分なんかじゃない。弱いと思い込まされている自分なんかじゃない。……」
中学校のバレー部の、その小さな空間の中で、ともだちに裏切られ、ともだちを裏切りながら、いつしか「私」はこころの中に黒い闇を懐胎する。「あなた」と自分の立場が逆転した姿を夢み、決してそうはならないことを思い知らされながら、こころの闇を育ててゆく。やがて二十歳になった「私」は、成人式の案内通知を手に、ふるさとの実家へ帰省する。そして雪深い北海道の元日の朝、「私」のこころの黒い闇は強固な意志を持って実体化する。
「ともだち刑」とは何であろうか。
作者は作品の中で、この題名の意味を語ることはない。この言葉すら出ては来ない。だから読者である僕たちが個々に考えるしかこの刑罰の内容を理解する手だてはないのである。
今、刑罰と書いたが、むろん、刑法のどこを探しても「ともだち刑」という用語は見つからない。そして当然ながら、この刑罰に対応する犯罪も刑法には、ない。「法律なければ犯罪なく、法律なければ刑罰なし」という原則を罪刑法定主義と呼ぶが、法律にない刑罰を、作者はなぜ創ったのだろうか。
想像に過ぎないが、作者は「いじめ罪」という犯罪をこそ創りたかったのではないか。いじめは犯罪であるのに、法律にその罪がない。法律なければ犯罪なしで、いじめを裁くことは誰にもできない。だから雨宮処凛は、先ず、刑罰を創ったのだ。もし人間が互いに尊厳すべきもの尊厳されるべきものとして平等であるならば、いじめが犯罪と認められなくとも、いじめた人間は罰せられるべきである。
そして、法律に「ともだち刑」がない以上、この刑罰を執行する者が如何なる者であるかは明瞭である。
最初は何の意味かなと思った程度の題名だったが、今こうして考えてみると、ずいぶん深く、拡がりのある題名であることに気づいた。
読む者に黙考を強いる稀な小説である。
紙の本
「友達だよね」の裏側
2010/07/17 11:43
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夜雲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
あーあ、駄目だよ教師なんかに助けを求めちゃ。
親?
めんどくさいでしょ、心配かけちゃうし。
重要なのはね、何事も無かったかのように見せることだよ。
もう10年も前の出来事だったろうか。
私の「友達だよね」というイジメが終わったのは。
命令されたことをやらなかったら、「絶交するよ」と言われる毎日。
日々どれほどの幸福を奪われ捨てて、涙を流してきただろう。
そう、私は「絶交」という言葉が恐かった。
あなた達なんか大嫌い。
何度殺してやろうと思ったことか。
でも私はあなた達が大好き。
矛盾してるよね。
命令のミッションをコンプリートした後の「友達だよね」という言葉にすがっていた。
クラスが変わり、私のイジメは激減した。
「友達だよね」という言葉は私の大嫌いな言葉になった。
この本の主人公は「絶対に許さない」と言っているが、実際のところ私はもう許している。
優しい面も知っているから。
主人公がもっともっと歳をとってからの考えの変動も、知りたいものですね。
きっと懐かしい昔話になっていることでしょう。