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著者の山本博文氏は、日本近世史を専門とする歴史学者。1992年に「江戸お留守居役の日記」で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞し、その後も江戸時代の大名や武士を取り上げた作品を多数発表している。
本書は、「歴史学」と「日本通史」という大きなテーマ二つを取り上げている。
前段では、歴史学は何を目指しているのか、歴史学とはどういう学問なのかに加えて、歴史学にはどのような技法があるのか、即ち、歴史を学ぶ上で必要な「考え方」や「見方」が紹介されている。
そして後段では、前段の「歴史学とは何か」を踏まえて、幕末までの日本の通史を、“著者の解釈”に基づいて展開している。それは、日本の幕末までの歴史を、鎌倉幕府の成立を境に「古代」と「中世・近世」に分けた上で、「古代」については、天皇の血筋がいかに継続したのかという視点、「中世・近世」については、鎌倉・室町・江戸という三つの武家政権がいかに移行したのかという視点から見たものである。
また、「聖徳太子はなぜ天皇になれなかったのか?」、「鎌倉時代に幕府はなかったのはないか?」、「江戸時代には藩も鎖国もなかったのではないか?」など、著者の独自の視点からの、興味ある分析も提示されている。
歴史学と、その一つの例としての日本通史がまとめられた一冊。
(2014年4月了)
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技法についてというよりも、著者の歴史認識や解釈が展開されている。よって、これもひとつの主観であり、あらためて歴史認識や解釈の難しさを痛感した。そもそも正解などないのかもしれないが。
一応、大学の先生らしく中立性や相対性は意識されており、概ねマジメな本ではる。が、歴史学者として非科学的・感情的・ロマン主義的な歴史ドラマや歴史小説に対しては、敵対心も感じられた。この類は歴史に興味を持つきっかけになれば、悪くはないとは思うのだが、学者としては歴史的事実とは異なる似非物語として流布する事に許せない部分もあるのだろう。
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歴史用語がなぜ分かりづらいのかが分かった。皇統の考え方、血筋がいかに重要視されたかなどの解説もあり勉強になることが沢山。また、歴史研究は細かい証拠を積み上げて検証される地味~~~なものであるということもよく分かった。一方歴史小説というものは歴史研究や歴史的発見に基づいて想像力を膨らませ描かれるので面白い。歴史を楽しむためには歴史小説がとっても大切なんだと再認識。
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曖昧なまま覚えて、歴史を勉強しようとすると定義がよく分からなくて困惑する時代区分の解説、歴史小説と時代小説、歴史学の違い等、歴史を学習する上で躓きやすい部分が、学者らしい真摯な文で書かれています。
「現代の感覚で歴史を見ない」ことを心掛けていたつもりですが、この本を読んでまだまだ現代視点が抜けていないのが自覚できました。私もまだまだ。
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日本の歴史をつかむ本です。
歴史を理解するためには、その時代の常識であったり、社会情勢などを把握していないと、正しく理解することが難しく、難しいだけでなく誤解をしてしまう恐れがあるという。
理解するための助けとなる、考え方、思考方法を本書では提示してくれている。
と、書いてみたものの、うーん、、なかなかこの本だけでそこまでいくのは難しいかとも正直思います。
ただ、最後に書かれている著者が考える「歴史を学ぶ意義」には、これから歴史を学んでいこうとする人の背中をそっと押してくれるものだと思います。
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日経新聞の紹介記事を読み、タイトルに惹かれて購入しました。
技法というとノウハウが思い浮かびますが、その様な内容ではなく、世にある史観・考え方の紹介から始まり、文部科学省の歴史に対する学習指導要領と学校でのアプローチ、歴史学者と歴史小説家の違いなど、歴史を学ぶための構えについて、歴史学者の視点で解説しています。
いま読んだからかもしれませんが、中高生の現役時代にこの様な知識を得た上で学んでいればと、悔やまれてなりません。
いわゆる知識偏重な学習ではなく、思考訓練により深い洞察力を得られたかもしれません。
但し著者も主張されていますが、歴史研究にifが厳禁である様に、ある程度の基礎知識がないと理解が進まない以上、致し方ない面もあるでしょうね。少ない知識で、本書の様な学ぶ心構えを解説されても、馬の耳に念仏でしょうしね。要はバランスなのでしょう。現場を預かる教師の方々も大変ですね。
ただ本書からは、かなりのインパクトを貰いました。
その一つは、人類は進歩してきたのか 単に歩んできたのかという論です。マルクス主義史観の様な、歴史に法則性が存在するのか。またはブラウン運動の様に、その時の様々な偶然が重なり、今に至っているのか。著者は、その時代背景や価値観を照らした上で、因果関係を読み解くというその時間軸での分析の重要性を主張されています。
もう一つは、歴史を一連の時代を通貫した通史や、世界史からみた日本史の関係性の様なマクロ的な視点、政治史だけでなく社会史や、気候など自然史などを重層的で多様な視点で俯瞰してみることの重要性も指摘しております。
まさに"なるほど"でした。
そう考えると、どの様な学問も、アプローチは公約数かなとも感じます。
ミクロからマクロ、要素から全体システム。まさに、様々な視点・視野・視座から、深く洞察して最適解を追い求める。
学びの奥深さを再認識しました。
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歴史的思考力
歴史的思考力とは、現代に起こる事象を孤立したものとしてではなく、「歴史的な視野の中でかんがえていく」ということだと考えています。
現在、世の中で起こっていることは、事象そのものは偶然に起こったものかもしれませんが、そのすべてに歴史的な背景があります。このことに留意できる歴史的な知識とそれを参照して考えられる思考力、つまり知性が必要です。そしてまた、そもそも私たちの考え方自体も、歴史的に形成されてきた所産だということに留意することが必要です。
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新幹線に乗る前に買って車中で読了。
前半部は、歴史学での史料信憑性の重要性や、重厚な論理的推論で史実の背景を推理していく面白さについてのエッセイ。後半は日本史の概観をざーーと記述。
全体として、歴史学および日本通史入門という新書なのだと、読んでみて理解した。題名からだけでは、アナール学派など史観の理論の解説にも見えるし、日本でいえば東西の政権交代、中央集権と封建のダイナミズム、武士台頭、中国との関係など、歴史をシステムとして捉えたときのキーとなる概念を、色々と紹介するようなものにも見えるのだが、そうではなかった。特に後半は、山川教科書を読みやすくしただけ、という感じもする。
ただ、上代の天皇の皇位継承は天皇を父、皇女を母とする直系を基本とするという考え方、六国史の時代の歴史記述のタッチが、それ以降と異なるということなど、小ネタとしては、ああそうか、と納得できる楽しいものがいくつかあった。
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歴史学とは何か、日本史との向き合い方が分かる一冊。
時代区分について書かれている箇所が面白かった。各時代の時代区分についてもっと詳細に述べた書籍があってもいいのではと感じた。
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歴史学の視点から史実と様々な説について、きちんと整理しているのはありがたい。古代から中世、中世から近世の転換期について丁寧に説明しているのも、歴史の流れをつかむのに役立った。
さきたま古墳群から出土した鉄剣に書かれた「ワカタケル大王」は、熊本県の江田船山古墳から出土した鉄剣に書かれた名前も同じと考えられており、五世紀に九州から関東に及ぶ政権があったことが判明している。宋書の倭人伝に書かれている「倭の五王」の武が、日本書紀に大泊瀬幼武(ワカタケル大王)と書かれた雄略大王とされている。
かつての1万円冊に使われた聖徳太子の肖像が持っている笏は、奈良時代の遣唐使によってもたらされたもので、聖徳太子の功績が高く評価されていた奈良時代に作成されたと推測できる。ただし、聖徳太子が架空の人物とする説に対しては批判も多く、日本書紀の記述には一定の史実が含まれているという見方が有力。
日本書紀に始まる6つの正史が、9世紀の「日本三代実録」で終わっていることは、律令国家が転換したことを示していると考えられる。平安時代中期の摂関政治までは古代に分類するのが一般的。「詳細日本史B」では、院政期からを中世としているが、鎌倉時代からとしている教科書もある。頼朝が義経の探索を理由に、全国の守護・地頭の任命権などを朝廷に認めさせた1185年を鎌倉幕府の成立とするのが、研究者の間では最も有力。
近世の始まりは織豊期からとするのが一般的。筆者は、秀吉の太閤検地や刀狩りによる兵農分離が近世社会の本質と考える。室町幕府以前、領地は個々の武士の家の独自財産だったが、江戸幕府では上から給付されるものへと大きく変化した。
「幕府」という言葉が使われるようになったのは、江戸末期になってから。頼朝の政権は「鎌倉殿」、室町幕府の将軍邸は「室町殿」、将軍は「公方」と呼ばれた。「藩」が使われたのは明治になってからで、各大名の統治機構は「家中」と呼ばれていた。
時代小説はフィクションを主体としており、歴史小説はほぼ史実に即したストーリーを描く。「坂の上の雲」は、歴史小説というより研究者が行う歴史叙述にきわめて近い。
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知識偏重の傾向にある学校教育と比べこの本は「歴史的思考力を磨く」事に焦点を当てている。歴史小説と歴史学の違いの話は面白い。詳細→http://takeshi3017.chu.jp/file7/naiyou27801.html
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日本史を概略で説明している。ただ、それだけではなく、歴史のひかりの当て方を書いている。歴史を学ぶことによって「歴史的思考力」を身につけることができる。歴史を学び、視野が飛躍的に広がる。ものの見方が豊かになる。これは意識的にやる必要がある。もっと歴史を学びたいと思う。
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わりとまっとうなことが、まとまって書かれているなあという本。淳仁天皇のだいに淡海三船がかんふうしごうをつけたという話、恵美押勝政権であっのでさもあらんと思うが、その淳仁が長いこと淡路廃帝であったのは不憫だ。専門の近世意外は基本的にフーンってかんじだが、最後に多くの人が避けてとおっている歴史的思考力の定義を「現代に起こる諸事を歴史的な視野の中で考えていく」こととシンプルに書いてくれていることは、心強い。
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日本史に関する教科書を始めとする資料をどう受け止めるべきか、ということに加え、120ページ程でヤマト朝廷から日露戦争まで、著者の視点での日本史の流れが書かれていた。
新書120ページ程度の分量で日本史の流れが書かれたものを読んだのは初めてで、その全体を一度に読み切ることももちろん初めてで、初めて日本史の全体像が実感を持って頭の中に入ってきた気がする。
著者の記載に当たっての姿勢も、どっちつかずだと言う人もいるかもしれないけれど、自分にとっては好ましい。
ページの制限や狙いにもよるのだろうけれど、もう少し解像度高く説明されていれば、と物足りなく思うところがいくつもあった。
200803
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歴史を学ぶ上での注意点、心構えみたいなものを学べました。作者がどのような立場で視点で歴史を述べているのか、元にした史料はそもそも正しいのか、そういった視点を持つことが大事だということが印象に残っています。今後、日本史の本を読むのにあたり、そういう視点をもって読まなくてはと思えました。
また、歴史を学ぶ意義として、現代に起こる事象を孤立したものとしてではなく、「歴史的な視野の中で考えていく」ということという作者の意見に共感しました。
自分の歴史知識が少なく、本書を理解しきれていない箇所もあるので、また勉強したうえで読み直したいです。