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面白かった──この一言に尽きる。
アクション性を伴ったスピード感に引っ張られ、どんどんページを繰ってしまう。先の読めない展開はいつも通り。意味不明な不安感は付きまとうものの、心地よい緊迫感が漂っているので、どういう着地でも受け入れてやるぞという覚悟(?)で読み進めていた。
とは言っても、やはり北欧ミステリ──ただのスパイ・アクションであるはずがない。パウラとグレーンス警部の追い詰められた心理が重低音となって、ストーリーを常に引き締めている。ふたりとも、最愛の人物との関係に苦悩しながら、ギリギリのところで任務に忠実であろうとするが、崩壊とは紙一重の危うさがある。彼らの互いの距離感が興味深く、警察・スパイ小説を縦糸に、ふたりの見えざる心理の結びつきを横糸に紡ぐ展開には脱帽。
映像としてイメージしやすいシーンが多いので、一見すると派手な印象に見えがちだが、終わってみると、国内情勢にメスを入れた、このシリーズ独特の社会性が色濃く残る。潜入捜査員や刑務所内での麻薬売買など、作中の多くの状況が実は現実に起こっているのだということに恐ろしくなり、また腹立たしく思う。
少し早いXmasプレゼントかな? 読み手としての願望が全て叶えられたプロットに大満足。これだから北欧ミステリは止められない。今年一番の収穫本。これを読まずに年は越せません。
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上巻の終わり頃から一気読みですよ、大どんでん返しもあります。「諦めない男」グレーンス警部の苦悩の中身がイマイチ分かりにくいところがありましたが〜。大きな力と闘うところは凄いです。小説の中だけでしょうが、こういうのを読むと、そういう警官がこの国にもいて欲しいと思ってしまいますね…ミ(`w´彡)
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本書は、『制裁』『ボックス21』『死刑囚』『地下道の女』に続くエーヴェルト・グレーンス警部シリーズの5作目であり、ある種の到達点となる作品である。それぞれの作品はそれぞれに異なる事件を扱っているものの、シリーズ全体がグレーンス警部を中心とした人生ヒストリーとなっているため、物語を動かす人間たちにも重点を置いて読みたい方は、どうか最初から順にお読み頂きたい。
かつてランダムハウス社から出されていた三作は同社倒産による長い絶版の後、『熊と踊れ』が大好評を得たことから同ハヤカワ文庫よりシリーズとして順次再刊された。角川文庫で本書が発売された当時から6年もの間未完であった待望の『地下道の少女』は、この2月に新訳で上記ハヤカワ文庫のシリーズに加わったため、今であれば、誰もが正当な順番で読み進めることができる。ぼくもその種の幸福な読者の一人であった。
そのことをここで強調しているのは、これまでの作品の経緯が本書の物語中各所で語られたり、過去作品の登場人物が再登場したりすることに加え、グレーンス警部にとって『地下道の少女』の巻末近くで大きな転機となる出来事が起こり、本書はそれを受けて、その影響から未だ逃れられず、元来の奇矯な行動にもさらなる変化や迷いが生じ、それが周囲のレギュラー・キャラクターとの関係性にも大きく影響を与えてゆき、それは大きなサブ・ストーリーとして本書の事件にも大きく関わってくるからだ。作品毎のストーリーに、シリーズ全体の流れを読み加えると、一冊一冊の物語に相当の奥行と深みが加わるので、大変重要なことだと思う。
さて、この作品のことに移ろう。
そう。この作品は、シリーズとしても単発作品としても、最初から不穏な爆発物だった。本作の前半部(上巻)は、導火線だった。その長い導火線は、実は最初から点火された危険な状態で読者に渡されていたのだが、その事実にぼくらが気づくのは、ずっと後、上巻の最終行に至る頃だ。
そして下巻では、行頭から凄まじい火力の爆発が待っている。爆発後には、収拾の着きそうにない、絶望的な状況が残る。しかし、ここにグレーンス警部シリーズが関わってゆくことで、この難事件の解決に向けて強力な化学反応が生まれる。その構成だけで、十分にすべてが成功している。読後の今だから言える。最後の最後まで、物語の真実はわからない。タイトルの意味も。
今回、作品が扱っているテーマは、犯罪者を警察の協力者に仕立て上げ組織に入り込ませる不法な国家レベルの機密となる潜入捜査である。この潜入捜査を強いられ日々を消耗する主人公は、ピート・ホフマンこと暗号名パウラ。警察機構の極々上部の者しか関わらず、極秘裡の超法規的捜査活動に携わる者たちの心にも大なり小なりの悪の濃淡が感じられ、自らの人間性に向き合う者は、過酷なストレスに曝される。
パウラたちのようなスパイは、正体が割れた途端に組織から追われる身となるが、警察機構にとってはその瞬間から彼らは使い捨ての存在となる。そうした一つの駒に過ぎないパウラは、ある刑務所内での薬物流通を乗っ取り、組織を壊滅させるという重い任務を背負い込む。物語は、深く組織に潜入した主人公パウラを主体に、緊迫した時間と、彼の綿密な準備活動と、その後の作戦の経緯と、そして文字通り爆発的な転換によって静から動へと変わる。
パウラの受ける運命の過酷。切り抜ける意志と、閉じる罠。下巻の疾走感は素晴らしい。この作者ならではのものであるストーリーテリング。パウラの起こした大爆発。そして収拾を運命的に引き受けることになるエーヴェルト・グレーンス警部。彼の心の救いを求める物語と同時進行し、収斂してゆくこの巨大な物語に、握り拳で快哉を叫びたくなる。傑作としか言いようがない。
『制裁』『死刑囚』に続いてシリーズ三本目の舞台となる刑務所内部であるが、そもそも元ジャーナリストであるルースルンドと、共著者であり自らが服役囚でもあったトゥンベリのコンビなので、事実とフィクションをミックスさせて創ってきた本シリーズに重みがあるのである。しかし超法規的捜査活動による捨て駒の存在や彼らに関わる人物履歴データの違法改竄などは現実のものであり、この物語のように収集が着いてはいないらしい。エーヴェルト・グレーンス警部はフィクションなのである。常に現実とフィクションを混ぜ合わせて社会の現実にある矛盾を告発する立場での文学活動を基とするこのシリーズは数々の文学賞に輝いている。当作品は英国でのインターナショナルダガー賞、日本でも翻訳ミステリー読者賞受賞と高く評価されている。
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刑務所に入ることになる“潜入捜査官”の不思議な行動の真意?刑務所での異常な事態に向き合う羽目になるグレーンス警部と、彼が解き明かす事の真相?スリリングだ…そして題名の“三秒間”とは何か?興味深い!!
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上巻の絶望的な幕切れが下巻に入ってさらに増幅。ひりつくような緊迫感が連続する。さらにはこのシリーズ恒例のラストでの一捻りも。
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強烈なサスペンスとカタルシスの下巻。
このシリーズはTVドラマのLaw & Orderに出てくる法の矛盾みたいなニュアンスが感じられる。
前作「死刑囚」で編集者がやらかしたチョンボは今回はなし。
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レコ屋のコメント的にいくと、まさに「必読!!北欧ミステリ最高峰!!」。
ジャーナリスト&元服役囚というスウェーデンの異色コンビ作家による第5作とのことだが、ぼくははじめて読んだ。これは凄い。読ませますね。
複数の登場人物たちの動きを、さながらカメラを切り替えるようにポンポンと見事なリズムで捉えつつ、巧みに読者をその特異で非日常的な犯罪世界に引き込んでゆく構成といい、それぞれ癖のあるキャラクターをさりげなく読者に刷り込んでゆくちょっとしたエピソードや振る舞いの描き方といい。
人々が生きるこの世界には表と裏、光と陰がある、という複眼的な世界観だけでなく、じつはそこにはそのふたつの世界を媒介するグレーゾンに生きる人種が存在するというのが、このストーリーのツボ。麻薬密売組織を壊滅するというミッションを担い、ある意味〝必要悪〟としてその存在の正当性を保証されている潜入者「パウラ」。ところが、彼は綱渡りのような危ういバランスの上に生きている。オモテの世界からもウラの世界からも切り捨てられたとき、「生き残る」という最後のミッションを賭けた「パウラ」の孤独な闘いが始まるのだ。そしてもうひとり、目の上のたんこぶ、昇進から永遠に見放された厄介者として上層部からも部下たちからも毛嫌いされている孤独な男、グレーンス警部もまた、その意味でグレーな存在にほかならない。この「簡単には諦めない男」と「命を賭けて生き残ることを決めた男」、ふたりの「執念」が火花を散らしながら重なり、爆発してゆくさまがたまらない。
そしてやはり、こんな重く暗いストーリーながら、そこかしこにあふれる北欧流のシニカルな笑いが好きだ。グレーンス警部と宿敵オーゲスタムのやりとりとか。
あっという間に読んでしまうので、買うときは上下巻まとめて購入するのがおすすめ。
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潜入捜査員パウラの使命は、犯罪組織がスウェーデンの刑務所に麻薬販売ネットワークを作ろうとするのを阻止すること。
組織の中枢に潜り込み、刑務所内で活動を始めた彼を待っていたのはスウェーデン政府上層部の裏切りだった。
犯罪小説めいた上巻から引き続いての下巻はハラハラのサスペンス。
パウラの生き延びるための策略から目が離せず一気読み。
警察小説でありながら、主人公のグレースンでなく犯罪者(一応)のパウラを中心に据えていて、なんとも重い話になっている。
できれば政府中枢の人物たちのパワーゲームがもう少しあれば良かったかな。
でも、まあラストはかっこ良かったし、読後感も悪くなかった。
そしてタイトルの意味がわかった時のやられた感はすごいよ。
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政府上層部がとったパウラ切り捨て策は、彼が潜入捜査員であることを刑務所内に暴露することだった。たちまち裏切り者に対する容赦ない攻撃が始まる。とっさに刑務所長を殴打して、みずから完全隔離区画へ収容されたパウラだったが、そこも安全ではなかった。ここに至り、パウラは入所前に準備した計画を発動させることを決意する。生き延びるために彼がとった行動は、誰にも想像さえつかない緻密、かつ大胆なものだった!英国推理作家協会(CWA)賞受賞、スウェーデン最優秀犯罪小説賞受賞。
主役はやっぱりパウラだった。冒険小説ののりもある、とても贅沢な上下巻。グレーンス警部のシリーズをもっと読んでみたい。早川書房様、よろしく!
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序盤スウェーデンの人名やら固有名詞に戸惑ったけども、本筋に入ってからの疾走感たるや!
とにかくスゴいの一言に尽きる!
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うーん。唸ってしまうような展開。北欧ミステリー、やっぱりすごいですね。
ホフマンは、どこかしら、マーク・グリーニーのグレイマンを思わせるところがありますね。それだけでも、シリーズになりそうです。
シリーズになると言えば、この作品は、グレーンス警部&スンドクヴィスト警部補シリーズの5作目。これまで、これほど面白い作品を逃していたのが残念。
これより前の作品も読んでみたいと思います。
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スウェーデン警察の潜入捜査の話。犯罪者の主人公を犯罪組織に潜入させて刑務所まで入ったのに、警察上層部は関係を切り捨てる。
切り捨てられたと知った主人公はあらかじめ予防策をとっておいた作戦を実行する。その手際のよさと大胆さがおもしろくて読むのを止められなかった。正義に一途な警察官と、嘘と隠ぺいだらけの上層部の対決がわかりやすく描かれている。
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犯罪組織ヴォイテクを壊滅すべく刑務所に潜入したパウラはスウェーデン警察の上層部から切り捨てられる。切り捨てられたパウラを待つのは死のみ。生き延びるためにパウラは行動を起こす。そして、次第に事件の真相に近づくグレーンス警部は…
パウラを軸としたスパイ・冒険小説の一面と頑なに職務を全うしようとするグレーンス警部を軸とする警察小説の一面を持つ傑作。
上巻の冒頭は『制裁』『ボックス21』『死刑囚』のような暗いイメージも漂うが、下巻は一転、パウラの生き延びるための奇策と同時進行で描かれるグレーンス警部の緊迫感を増す捜査が面白い。
これまで読んだ何れの作品も外れがなく、次の翻訳が楽しみな作家である。
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(上巻より)
胃の中にドラッグを詰め込む運び屋は、
もはや「常識」だが、
刑務所にドラッグを持ち込む方法や、
盗聴する方法、
刑務所の中の様子が面白かった。
エーヴェルト警部が恋人の死から立ち直る話でもあったが、
そちらがかすんでしまうほどの面白さだった。
というか、このシリーズで初めて面白いと思った。
当然のごとく映画化されているらしいが、
ニューヨークが舞台になっているあたりからして、
残念。
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アンデシュ・ルースルンドとベリエ・ヘルストレムによるエーヴェルト・グレーンス警部シリーズ作下巻。
犯罪組織からすれば販路の拡大、警察からすれば闇の組織の一網打尽をそれぞれ期待されて刑務所への潜入捜査を開始したパウラ。と思ったらあっさりとタレコミ屋だということがばれ、更に命の危険さえも感じる状況に陥る。やがて人質を取って刑務所に立てこもったため、エーヴェルトの指揮によりパウラを銃撃、殺害する。
パウラのこの前後の死にたくない想いと、窓辺で銃撃を待ち、それに身を委ねるかのような想いの間に何があるのか、なぜあっさりと死を受け入れるのか、といった辺りが違和感を感じつつも先が気になって読み進めてしまう。
パウラの用意周到な準備は最終章にてより一層際立ってくる。この展開はすごい。まさしく、練りに練って物語を構築しているということがよくわかる。
パウラは、その家族は結局どうしたのだろう、ということがめっちゃ気になりながらいつの間にか最後まで読んでしまう。
様々なレビューでは5点満点とか、最高傑作だとか、いろいろいわれてますが、個人的にはやや冗長な部分もあり、手放しでオススメする!とは言いにくい部分もあることは事実。でも、先を読みたい、という欲求には抗えないくらい先が気になる。待ちうけるラストがまた素晴らしい。
そしてエーヴェルトは結果的にほとんど活躍の場がないまま。実は切れ者かもしれないが、もはや本作ではあまり垣間見られない。こうしたことから、やはり本作はパウラの独壇場だなという印象を強く持った。