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紙の本
老練ピッチャーの消化試合
2010/08/13 15:47
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:碑文谷 次郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2年ほど前に単行本で読んでいたことをすっかり失念して、阿刀田ファンとして迂闊なことにこの新潮文庫を購入してしまった。折角だからと、再読をはじめたのだが・・・愕然とした。何一つ記憶にないストーリーばかり。勿論当方の老人ボケのせいである。記憶力の減退という現実には如何とも抗し難い、と当初は殊勝にうな垂れていたのだが、3編、4編と読み進むうちに、ヤッパリこの中身にも罪の一半はあるのではないかと思えてきた。例えば、「銀座の敵」。子供の頃から「目立たせない」「とてもよい人柄」で、皆が熱中するビー玉ゲームでも決してムキに争うことのない年上の信さん。長じて再会したその信さんが、自ら「俺は・・・俺は銀座の敵なんだ」と思いがけなく大げさなことをことを言う。しかし、何故「敵」なのかの理由が独りよがりで、薄い。そうなのかなあと思いつつ読み進むと、ハーフの子にすっかり入れあげて奥さんと離婚騒動が持ち上がっているという後日談で結末となる。また「美人の住む町」は、職場の同僚だった妙子と結婚して彼女が医者から「胃美人」といわれた話とクラブのホステス早苗が「ヘアー美人」といわれたという話を継ぎ合わせたもの。だからどうした、と問うのは野暮というものだろう。まあ、ベテランピッチャーでも、やむを得ず投球せねばならぬ消化試合もあり、勝敗に関係なく投げる姿はファンにとっては痛々しい。特段のオチもなければ、ましてや余韻縹渺たる男女の触れ合いも皆無の12編もの物語をよく書いて下さいました。手練・阿刀田高の息切れが聞こえてくるようだ。
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