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紙の本
尊敬してやまない1冊。「偉大さ」「厳しさ」「楽しさ」「虚しさ」「豊かさ」——ことばのさまざまな特徴について考えさせられる実験的な遊戯。
2003/09/22 21:47
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
本を読むことに必死で(もない)、その前に読むべき本の情報を集め(ることもある)、限られた時間で何を読むかを決めるのに必死だから(かな)、感想メモ代わりにここに書き込むとき、より良く書くことにまでは神経が充分に行き届かない。だけれども、読んでいる本は圧倒的に小説が多いので、作家の文体について書いてみたりする折には、今ここで書いている自分自身の文体についても少しは考えることだってある。
という書き出しも、いつもの自分とは微妙にモードが違うのだよ、書評タイトルだってこの本の影響下にあって言語遊戯の仕掛けをしようとしたのだよ、とあとで種明かしをするつもりであったが、パズルのようなものをひねる手間をかけると、次に読みたい本になかなかかかれないから投げてしまった。
ちなみに「偉大さ」は「あ行」から、「厳しさ」は「か行」から語頭を取った。つづく「さ行」が思いつかず「楽しさ」は「た行」、「な行」「は行」をスキップして「虚しさ」で「ま行」、「豊かさ」で「や行」をカバー、「ら行」もさぼってここに至った次第。
巻頭の口絵に、音楽で言うモチーフ、すなわち主要旋律を紹介するようなモノクローム写真がある。主要旋律は、1つめの断章として本文に収められている。それを除いて98の断章、3つの付録の断章から成り立つのが本書で、これらはすべて主要旋律の変奏になっているのだ。
1つめの断章には「メモ」と見出しが添えられているが、2つめのそれには「複式記述」とあり、そこではたとえば「昼の12時の正午頃」とか「乗り込んで乗車した」といったように、ことばがわざと重ねて書かれている。
3つめの断章は「控え目に」という見出しで、主要旋律「メモ」では8行あった文章が半分の4行に圧縮されて書かれている。
感嘆符ばかり用いるように書かれた断章、あまり意味のない数値をたくさん取り込んだ断章、登場人物の主観的な立場から書かれた断章、そして客観的に書かれた断章、手紙風、宣伝文風、論理的分析、尋問、戯曲、電報文に短歌、ソネットとさまざまな形式で変奏が展開されていく。
フランス語を学ぼうという人のため、教科書に使われることもあるということだが、擬似農民ことばや反動老人の口調のパロディーもあり、確かにフランス人エスプリ気質について感じながら面白おかしく取り組んでいけそうな内容である。
『地下鉄のザジ』『イカロスの飛行』、そして今年出た『オディール』と、まだ3冊しかクノー作品は読んだことがないのだが、規則を逆利用し、遊び心と想像力で何かを作り出していこうという彼の本質を知る上で、非常に重要な1冊だということがよく分かる。
クノーの発想のすごさに魅了されるが、日本語に平行移動できないフランス語の造語や表現を、その意図を尊重しながら日本語遊戯に創作している部分が多い。訳者の方の「クノーの原文に導かれたわたし自身の文体練習の試み」という「いい仕事」ぶりに尊敬の念を禁じ得ない。そのあとがきにも記述があるが、翻訳作品でありながら、日本語の恵みについて考えさせられる。また、「伝える」道具としてのことばについて多くを考えさせられる。
タイポグラフィーと本文2色刷の遊びも闊達。笑いや発見に満ちた奇書である。
紙の本
文字で描かれた絵画
2004/07/29 18:50
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:死せる詩人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
文字だけで構成された書籍を購入して、よもや絵画を観賞する事になるとは思いませんでした。
と書くと「何を大袈裟に」と思う人も多いでしょう。実際大袈裟に書いているわけですが、クノーによる99編の文章は単なる文字の集合としての文と言い切る事のできない赴きがあります。中には、その文章単一では読んで意味を理解する事が困難なものすらあります。
99編全て、表わしている事象は1つです。しかしながら全部が違った文体で表現される事で、読者の頭の中に広がる光景はそれぞれ異なったものになるでしょう。文字という名の絵の具を使って、99のカンバスに描かれた同一の題材を持つ異なった絵、それが本書なのではないでしょうか。
本書を読んで何よりも驚くのはクノーの筆致ではなく、翻訳者の努力かもしれません。このオリジナリティ溢れる(溢れ過ぎる)99の文章を翻訳する作業は、困難を極めたでしょう。こんな面白い本を日本語で読めるのはラッキィな事です
紙の本
究極の言語遊戯
2000/11/15 03:16
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:藪下明博 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ある日の正午頃、混雑したバスの中で、趣味の悪いソフト帽を被った首の長い男が、わざと足を踏んづけたと隣の男に言い掛かりを付けると、席が一つ空き、男はすかさずその席に坐った。二時間後、広場で偶然にもまたその男を見掛けたが、今度は連れの男に、コートのボタンの位置が悪いなどと、何やら忠告を受けていた。』
以上が本書に綴られているストーリーの“全容”である。どれだけ先を読み進めてもこれ以上の展開は見られない。またこれ以下の展開も見られない。ただ単にこれだけの内容を、九十九編+三編の異なる文章スタイルで綴ったものである。文字通り『文体練習』の見本市と言った趣の今世紀最大の珍書なのだ! (勿論、本書は“究極的な遊戯”として書かれていることは言うまでもないが…)。
内容紹介など蛇足以外の何物でもないが、因に幾つか目に止まった書き方を紹介すると…荘重体、俗悪体、語頭音消失、語尾音消失、語順改変、コメディー、アレクサンドラン、ちんぷん漢文、アナグラムの文体など。…と、恐らくこんな説明では何の事やらさっぱり分からないであろうが、説明するのもすこぶる困難なので、何はともあれ、ご自分の目で確かめてもらうより致しかたない。取り分け評者のお奨めは、「女子校生言葉」で書かれたものや(勿論原文にはない)、「インチキ関西弁」で書かれたもの(同上)などが秀逸で、爆笑すること請合いである。また、英語の発音通り読み進めれば日本語として意味が通じる(ご理解頂けるかなぁ?)といったアクロバット的な力技も見られ、訳者の苦労がひしひしと伝わってる来る。このあたりは原書とは似て非なるものとなったに違いないが、出版社と訳者の勇気には心から声援を贈りたいものだ。乱れに乱れた言語を操る昨今の若者にも、日本語の『文体練習』としても大いに役立つ一書である。まさか、文部省推薦にはならないだろうが…。
紙の本
初クノー
2021/06/18 14:50
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投稿者:ミチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
とても珍しい本です。ブログでおすすめされていて、購入しました。楽しく、テンポよく読めました。地下鉄のザジも読みたいです。