紙の本
中世ヨーロッパの女性検死官。「科学 VS 宗教」の世界。
2011/07/23 17:30
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みす・れもん - この投稿者のレビュー一覧を見る
時代は中世。場所はイングランド。そこへ登場する検死官。生きている人間を診る医者ではなく、死者を診る医者・・・、いや、死者の声を聴く医者だ。その時代でも珍しい女性医師・アデリア。
その時代背景のせいなのか、溶け込むまで少し時間を要した。その小説の世界になかなか入り込めなくて。けれど、アデリアが本来の職務、検死を行うあたりから徐々にペースがあがってきて、あとは惹き付けられたまま上巻を読み終えた。
子供たちだけを狙う連続殺人。悪魔がすぐそばにいる。そしてまだその狂気は治まっていないのだ。そんな中で女性であるアデリアは「医師」という身分を隠して捜査にあたる。検死医として。まだまだ女性に対する偏見が強く残る時代。「女性医師」が、ともすれば「魔女」という烙印を押されかねない。王の命令で渋々引き受けた仕事なのに、さらにやりづらい。けれど、殺された子どもたちの声を聴くため、アデリアは引き返すことはしなかった。
科学より宗教の方が強い時代(こういう言い方は正しいだろうか?)。医師による合理的な治療よりも、神の力にすがる人々が多い時代。人の遺体を解剖するなど、死者に対する冒涜だととらえられてしまう。けれど、自分の意思に反してその命を奪われた者の最後の声を聴くことができるのは検死医だけなのだ。それを理解して貰えないもどかしさもよく表現されている。
この時代の「検死」というものが本当はどうだったのか・・・・ということにも興味はあるが、小説の中で行われる「検死」にも驚かされる。それだけの知識をアデリアが持っていたということなのだけれど、豚を試験台にして蓄積した知識をもとに、死亡時期や死亡原因などを探っていくのだ。かなり克明な描写があり、アデリアが自分の感情を殺して、機械的に作業を進めていく姿にある種の切なさも感じた。それだけ残虐な殺され方をしている・・・ということ。
まだまだミステリの要素より、その時代の描写に対する興味の方が大きい。これから謎解きが始まるのかもしれない。その始まりを感じさせる一文が上巻の最後に。連続殺人鬼はすぐそばにいるのだ。その心の中はどうであれ、身体はか弱い女性であるアデリアはどうやって立ち向かっていくのだろう。
下巻では大きくストーリーが動いていくはずだ。
大きな期待を抱きながら、ページをめくろう。
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楽しみな歴史ミステリのシリーズが始まりました!
12世紀のイングランドを舞台に、検死のできる女性アデリアを主人公とした歴史もの。
CWAの歴史部門であるエリス・ピーターズ賞の受賞作。
ケンブリッジで起きた、子供を狙った連続殺人。
磔のような姿だったために犯人はユダヤ人とされて、暴動が起きる。当時、ユダヤ人が復活祭にキリスト教徒の子供を殺すという噂があったのだとか。
ユダヤ人すべてをケンブリッジ城内に匿ったまま1年、犯人はわからず…
事件の調査を依頼されて、シチリア王国から調査員と死体を検分することの出来る医師が派遣される。
マチルダ女王の時代18年間続いた内乱も治まり、その息子ヘンリー2世の元で、国が平和になりつつある時代。
容疑者を水に落として溺れなければ無罪という審判法はなくなったとか!
つまり、ちょうど修道士カドフェルのすぐ後に続く時代なのですね。
とはいえ女性の医者など異端として殺されかねないという野蛮さ。
知的に進んだ国際都市であったサレルノでは尊敬を受けていた若いアデリアは、仕事に身を捧げた飾り気のない女性。サラセン人の従者を医者に仕立てて通訳兼調剤助手として同行、居心地の悪さを感じつつ、腕を発揮していきます。
調査官のシモンは穏やかな人柄で最初は驚愕しつつもアデリアを認め、バーンウェル修道院長のジェフリーも治療を受けてアデリアを信頼するようになります。
愛想はいいが謎のある王の税官吏ロウリー・ピコウ卿に不審を感じたアデリア。やがて彼に惹かれていき…?
十字軍で数年間、村を離れていた男たち数百人が、戻ってきている時期。
ヘンリー2世というと王妃はアリエノールですからね。次回登場?!
シチリア王国のサレルノには、1050年から医科大学があったのだそうです。
そこでは女性も学び、資格を取ることが出来た!
ちょっと修道女フィデルマのよう?
(7世紀のアイルランドでは女性弁護士がいたというけど~医者はいなかったのかしら…??)
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勧められて読みましたが、面白かったです。舞台は12世紀のイギリス。十字軍やユダヤ人との対立など、古い時代背景にありながら、法医学の女医が主人公となって、難問を解決するという物語です。最後に出てくる犯人は、ちょっと異常なのと、そうなった原因がよくわからないのが残念でしたが、一気に読んでしまいました。
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時代は中世。場所はイングランド。そこへ登場する検死官。生きている人間を診る医者ではなく、死者を診る医者・・・、いや、死者の声を聴く医者だ。その時代でも珍しい女性医師・アデリア。
その時代背景のせいなのか、溶け込むまで少し時間を要した。その小説の世界になかなか入り込めなくて。けれど、アデリアが本来の職務、検死を行うあたりから徐々にペースがあがってきて、あとは惹き付けられたまま上巻を読み終えた。
子供たちだけを狙う連続殺人。悪魔がすぐそばにいる。そしてまだその狂気は治まっていないのだ。そんな中で女性であるアデリアは「医師」という身分を隠して捜査にあたる。検死医として。まだまだ女性に対する偏見が強く残る時代。「女性医師」が、ともすれば「魔女」という烙印を押されかねない。王の命令で渋々引き受けた仕事なのに、さらにやりづらい。けれど、殺された子どもたちの声を聴くため、アデリアは引き返すことはしなかった。
科学より宗教の方が強い時代(こういう言い方は正しいだろうか?)。医師による合理的な治療よりも、神の力にすがる人々が多い時代。人の遺体を解剖するなど、死者に対する冒涜だととらえられてしまう。けれど、自分の意思に反してその命を奪われた者の最後の声を聴くことができるのは検死医だけなのだ。それを理解して貰えないもどかしさもよく表現されている。
この時代の「検死」というものが本当はどうだったのか・・・・ということにも興味はあるが、小説の中で行われる「検死」にも驚かされる。それだけの知識をアデリアが持っていたということなのだけれど、豚を試験台にして蓄積した知識をもとに、死亡時期や死亡原因などを探っていくのだ。かなり克明な描写があり、アデリアが自分の感情を殺して、機械的に作業を進めていく姿にある種の切なさも感じた。それだけ残虐な殺され方をしている・・・ということ。
まだまだミステリの要素より、その時代の描写に対する興味の方が大きい。これから謎解きが始まるのかもしれない。その始まりを感じさせる一文が上巻の最後に。
連続殺人鬼はすぐそばにいるのだ。その心の中はどうであれ、身体はか弱い女性であるアデリアはどうやって立ち向かっていくのだろう。
下巻では大きくストーリーが動いていくはずだ。
大きな期待を抱きながら、ページをめくろう。
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子供を狙った連続殺人事件を調べるために派遣された調査官シモンと、女検死医アデリアの話。
え? その人殺されちゃうの?ってところで下巻に続く。
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詳細な当時の様子が分かり、また国というか都市によって特徴があるのだなというのがよく分かりました。
イタリアやスペインから見れば、当時のイングランドは田舎というか野蛮といってもいいぐらいなのですね。
迷信がはこびつつも、実は庶民の一人一人は、事実を見据えている、逞しい状況が分かります。
残酷な描写もありますが、ヒロインと騎士の最後のやり取りがほっとさせられます。
シモンは最後まで活躍してほしかった。(というかシリーズとしてコンビが続くのかと思っていた)
犯人は中盤見当がついてしまいましたが、共犯者が意外で、最後まで分かりませんでした。
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ミステリーとしての構成も良いし、歴史的な背景にも萌え。歴史小説としても違和感なく楽しめる。作者がもう亡くなっているのは残念。
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上巻。
12世紀のイングランドを舞台にしたミステリー。最初だけ人物を把握するのにちょっと大変でしたが、シチリアの検死医アデリアがイングランドのケンブリッジに到着する頃には、すっかりハマりました。
幼い子供が張り付けにされ殺された事件。死体を検分したアデリアは恐ろしい暴力の痕跡を見つける。
幼い子供が何人も犠牲になるかなり凄惨な事件ですが、事件そのものと合わせて歪んだ権力をもつキリスト教会やユダヤ人、ユダヤ教への民衆の歪んだ偏見が、牧歌的な風景の中にぶちまけられています。
主人公はユダヤ人に育てられた捨て子で医学へ身を捧げ、シチリアの最も優秀な医者であり、かつ女子力皆無の干物女。医者と言っても死体専門。
その彼女とシチリア王の側近のユダヤ人とアラブ人の召使、さらに個性的な登場人物達が邪魔をしたり、協力したりと賑やか。
上巻ではあまり捜査は進みませんが、驚きの展開もあります。
誰に何が起こってもおかしくないんだと、思い出させられて、面白いです。
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中世イングランドを舞台にしたミステリ。なんと、そんな時代にも女性の検屍官がいたとは!当然、魔女だの教会への冒涜だの、時代を反映した偏見や因習も出てきて、女性には大変な時代だったのだなあと思う。
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舞台は1171年のイギリス。
主役はアデリア。
イタリアからやって来た検死を専門とする女医です。
故郷のサレルノでは裕福な生活と地位が約束されていたのに、
王命により遠路はるばるイギリスはケンブリッジに来る羽目に。
そこは女性の地位が低く、医者であることも検死をすることもタブー。
発覚すれば魔女の烙印を押されて死刑もありえる。
ひとりで散歩していたらレイプされてもおかしくないという、
現代人には信じられないようなスリリングな状況に陥ります。
そして仕事は子供ばかりを狙った連続殺人事件の被害者達の検死。
この時代に科学捜査はありません。
ハエのたかる腐乱死体と格闘しながら状況証拠を積み重ねていきます。
読んでいくと誰も彼も疑わしく感じられますし、
宗教裁判などで誰でも簡単に犯人にされそうな怖さもあります。
アデリアも正体が知られたらと思うとドキドキしました。
上下巻に分かれているのでまだ犯人は分かりませんが、
最初の1節に巡礼者たちがケンブリッジに帰ってくる場面があって、
早くもその中で「そのうちの1人が犯人だ」と明言されています。
まあ状況証拠だけだと範囲が広すぎて絞りきれませんからね。
お陰で容疑者の範囲は限られています。
さて犯人は誰か、期待して下巻を読みたいと思います。