紙の本
「もしも」の力を考える。
2015/09/23 21:33
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「歴史を振り返れば「絵に描いたもしも餅」の実例がごろんごろんと転がっている。 (P14)
随所に見られるこのような著者の日本語の言葉感覚は、いつもながら心地よい。「歴史には<もしも>は禁物だ。」などといわれるけれど、「もしも」と考えることでヒトは世界を広げてきたともいえる。そのことを詩を実例に著者は考えさせる。
「もしも地球が100人の村だったら」という本もあった。「もしも自分だったら」は他人の心情を理解し始めるにも道しるべかもしれない。科学の解明にも「仮説」という「もしも」が含まれているだろう。
ただ、「もしも」もいいことばかりに導いてくれるわけではないことも忘れてはいけない。「こうしたら振り向いてくれるだろう」が一歩間違うとストーカーになるかもしれないのだから。
引用されている詩には、バイリンガルの著者らしく和訳も併記(長いものは原文は後にまとめてあったりするが)されているので、英語の感覚も味わうことができるのは嬉しい。「もしも」を上手く使った詩を紹介してくれる、と思って読んでも充分楽しい一冊である。
紙の本
もしも、で世界を見てみる
2021/12/16 20:58
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
「もしも」といっただけで、まわりの世界が、ちょっと違って見える。
そう著者はつづっている。
「もしも」から出発して想像を巡らしてみると、新天地に到達することがある
とも。
なるほど、そんなふうに「もしも」で世界を見ると楽しい。つらいこともある。きっとアーサー・ビナードさんのいう「もしも」は、想像力のことなのだろう。
他者の喜びや悲しみ、感動や痛みをも想像できる心。それが詩人を生むのだ。
詩人らしい言葉がつまった一冊。
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いろいろな英文を引きつつ「もしも」「if」の役割について考える本。なるほどなー、ふむふむ、と思うところがたくさん。
もしも、をとてもポジティブな言葉としてとらえている。飛躍、脱出、転換のためのカギとして。反対語は「しかたがない」「無理」という思考停止ではないかというくだりが印象的。もしも、の反対は「現実」ではないんだ、と目の覚めるような思いがした。
「生きるためのif」の章が良かった。
Oh, if instead she'd left to me
The thing she took into the grave! ―
That courage like a rock, which she
Has no more need of, and I have.
母がもし、岩のようなあの勇気をかわりに残してくれていたら!
今の母には必要ないかもしれないもの―
でもわたしにあったなら、どんなにか。
亡くなった母が備えていた勇気へ背伸びするためのバネとして使われているif。一見、無いものを欲しがるような文だ。でも、wantではなくifを使うことによって、無いことを認めたうえで自分に必要なものを見据えて手に入れようとしている感じが出ていると思う。
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詩人のアーサー・ビナード氏、恐るべし。
「もしも」「if」というアプローチから、詩の魅力を教えてくれているが、氏の日本、日本語に対する探究心と愛情が半端ない。
ボキャブラリーもさることながら、古典や和歌にも造詣が深く、文章も日本人顔負け、詩人だけあってその感性も切れ味鋭い。
時々日本人よりも日本を知っている外国人がいないことはないが、まさに脱帽だ。
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「もしも」をキーワードに現代の日本を読む。
何を主張したいのか、本編ではわかりにくい。
それらはあとがきに凝縮されている。
「もしも」が効果的に使われている世界の詩人たちの作品を紹介しながら、世界はどうあるべきか、やんわりと問ういている。
紹介されるのは知らない詩人が多くて、とても興味深かった。それらの詩人たちの作品にもっと触れたい。
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[図書館]
読了:2015/7/5
p. 159
If you do not understand a man
you cannot crush him.
And if you do understand him,
very probably you will not.
もしある人を叩きつぶそうと思ったら、
まずその相手を理解しなければならない。
そしてもし、相手を理解するに至ったら、おそらく
叩きつぶそうなどとは、もう思っていないだろう
p. 154 キリストを看板に使っているカトリック、あるいはプロテスタント、あるいは正教会をとってみても、どうもその教えを実践しているようには見えない。キリストのカッコよさが全部どこかへ飛んでしまい、残るはセレモニーの抜け殻ばかり。
そもそもキリスト教の土台となったユダヤ教も、同じ流れの中から生まれたイスラム教も、経典をひもといてみれば「汝殺すなかれ」と、人殺しを禁ずる戒めに出会う。世界の三大一神教はそこが共通点だというのに、殺し合いの歴史を積み重ねてきて、二十一世紀に入っても、やめる気配などない。
→ そうそうそうそう。そこなんだよ宗教がうさんくさいのはぁ。信仰を否定する気はないが宗教は信用できない。
p. 122 電車内の Please inform the station staff or train crew immediately if you notice any suspicious unclaimed objects or persons in the station or on the train. は相当イラつくひどい英語だそうだ。「お願いだから大至急乗務員に知らせてくれ」とこちらを駆り立てて行動を促しているかと思ったら、悠長なコンマが差し込まれ、続けて「もし何か怪しいものとかに気付いたならば」とガクッと落とされる、空騒ぎメッセージである。immediately の位置もifの位置もひどい。
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『サピエンス全史』の1つのトピックに、「想像力の獲得」があった。
ある時点で、人類は「想像」を手に入れ、そして「物語」が、つまりは「創造」することができ、繁栄に至った、と。
「もしも」の発見である。
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「もし「もしも」がなかったら、ぼくらはこの世に生まれてこなかったかもしれない。」
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一期一会の英語の詩に心を打たれ、思わず書き留めました。しばらくの間、繰り返し眺める詩になりそうです。
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「もしも(if)」があってこそ創造物が生まれるといって過言ではない。著者は、「もしも(if)」を、想像力を呼び覚ます装置、と分析している。「もしも(if)」を用いることによって、思考停止状態の泉に石を投げ入れ、波紋を生じさせることができる。そして詩とは、役に立つものとは言えないけれど、そういう作用を持っていたりもするよね、というように、あとがきでは締めくくられていました。もっとも、そういう一石によって発生する波紋は、琴線を揺さぶる波紋になります。楽しい、哀しい、面白い、切ない。そしてもっと複雑な音色を心中に響かせもする。ものによっては言語レベルが高すぎて、その詩を理解できるまでいかない場合もありますが、そういった悔しかったり残念だったりする経験が、「わかりたい」という意欲に転化して、一歩も二歩も、いや、五十歩も百歩も、言語的山道をのぼっていくようなことになり、見たことのない景色を知ったりもするでしょう。本書は、紹介される詩句がまずおもしろいのですが、なにより著者のエッセイそのものに気持ちよさをとても感じました。読むことの幸せをつよくつくれる文章って、すごいよねえ、と思います。
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もしも詩があったら アーサー・ビナード 光文社新書
歴史にモシモは無いと言うが
「if・もしも」の広がりを切り口にして
過去を洗い直し
未来の可能性を開くことで
重たくて鈍くなった人生に
活を入れることができるかもしれない
特に詩を描く創造の世界には
欠くことの出来ない新たな一歩なのだ
p213のウィリアムプレイクの詩「ハエに」と
p224のエリザベスコーツワースの詩「かもめ」が
良いね
Wise Man of Gothamがバカの代名詞だと聞いて
もしもバカに成り切れるならばすごいねともおもう
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暮らしの中で生まれた詩と人生が 交差する
暮らしの中で生まれた詩 に 励まされる
一見、何の役にも立たないようなものが
結局は、一番の心の支えになっていた
ことはありがちである
そんな想いが
読んでいる間に
ずっと漂っていました