- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
3 件中 1 件~ 3 件を表示 |
紙の本
古代アイルランド世界を追体験
2016/01/10 14:42
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:arima0831 - この投稿者のレビュー一覧を見る
舞台は7世紀半ばの古代アイルランド。美貌の修道女フィデルマが主人公。
彼女はモアン王国(当時のアイルランド五王国のひとつ)の王の妹で王女。高位の弁護士でもある。しかも乗馬の名手でトゥリアッド・スキアギッド(楯の戦い)なる護身術の達人。
この時代はまだ、アイルランドは安定からほど遠く、群雄割拠しにらみあっている政治状況。一方、宗教情勢的にもローマ・カトリックとケルト・カソリックが宗教会議などで議論を白熱させている。この混沌とした歴史状況と宗教情勢の中で、文武両道で血筋も美貌も兼ね備えたスーパー修道女が様々な事件や謎を解き明かしていく、という仕掛け。
作者は実はアイルランド史の学究でもあるので、背景となる状況には非常に丁寧な解説がいつもついてくる。このシリーズを読むまで、カトリックにもローマ以外いろいろあった、などということは知らなかったし、古代アイルランドの状況もさっぱりわからなかったが、まずはその辺の話が実にわかりやすく織り込まれてきて面白い。当時の風俗習慣なども、非常に詳細で立体的な世界観で肉付けされているので、登場人物の服装から背後で遊んでいる子供たちの遊戯などまで、ちょっとしたディテールも楽しめる。
私なりのイメージからすると、言語学者のトルキーンが詳細な言語世界を構築しつつ『指輪物語』を紡ぎ出した過程によく似ているような気がする。
描き出される風景には、アイルランドらしい深い森、山と谷、豊かな川の流れが感じられて、イメージだけで心和む。古代らしく夜の闇も濃く深い。
本シリーズの面白さは、そんな具合に古代アイルランド世界を追体験するところに尽きる。この辺の話に多少なりとも興味があれば、まずは面白く読めると思う。
一方でミステリーとして考えると、謎といっても対して大掛かりなものはないし、法廷問答でフィデルマが事件の真相を追求していくくだりは、予定調和的でスリリングさはない。だからミステリー的な面白さを突っ込まれると、正直言って決して面白い作品とは言い難いのではある。
主人公のフィデルマ自身も、何かにつけてあまりにパーフェクトなので、やや面白みに欠けるところもある。しかし本作では、ようやく相方のエイダルフ(ローマ・カトリックの修道士)との中に薄い(ごく薄い)進展を期待する姿勢も見え始めた。この辺がもうちょっと花開いたら、話に彩が増して面白いのにな、などと思う。今後に期待するけれど、あまりに権高な出来過ぎの修道女で王女様と、あちこち抜けた感じのボヤッとした修道士の組み合わせだから、前途多難だろうな…(笑)。
これでシリーズ第八作。本国ではすでに第23作目まで刊行されているようなのだが、日本での新刊は二年ぶり。備蓄は十分にあるはずだが、刊行ペースは遅い。なぜだろう?
他の作品も色々出ているようだし、せめて年に一作くらいは読ませてもらえると嬉しいのだけれど。
ちなみに本作だけで一応は独立した話なので、ここから読み始めて興味が湧いたら過去作品に戻るパターンもアリ、かと。
3 件中 1 件~ 3 件を表示 |