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紙の本
関係性
2019/06/20 13:30
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ペンギン - この投稿者のレビュー一覧を見る
遠近法という観点から絵画を見ると、絵を見る人と描かれたものの関係を描いた人がどうとらえられているのかが伺えておもしろい。
特に、セザンヌのエピソードが印象に残った。「神を信じるか」と聞かれて、「信じなければ、絵なんか描けない」と言ったらしい。絵を描くにあたって、信じなければならないものは実はたくさんあると思う。絵を見た人の感性を信じなければならない。先人の画家の積み上げてきた技術や創意を信じなければならない。描かれるものの存在を、目の前に世界が存在することを信じなければならない。そういうものを総称して神と言ったのではなかったか。ロマネスク美術がルネサンス美術に移行するにあたって、神の概念が安定と調和という概念に拡張され、セザンヌはそれを受け継いで、近代化したともいえるかも。「キューピッドの石膏像のある静物」では、キューピッドの石膏像をわざわざ2方向から眺めたりして、石膏像の存在を必要以上に確認している。そこに現れるのは神の存在を疑う人間の姿だ(疑っても、否定はしなかったようだ)。
ルネサンス美術における神が安定と調和の象徴だと思ったのは、この本に載っているレオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐の写真を見たからだ。周りの弟子たちはイエスの言葉に動揺しているのに、真ん中のイエスだけが少し悲しそうに落ち着いた表情をしている。つまり神とは、この絵の中のイエスのように、安定と調和そのものである、と。そして、画面がただ一つの消失点に収束するように描かれていること、それはただ一つの存在である神のもたらす安定と調和なのだ、と、当時の人たちは思っていたんじゃないかと思う。きっと当時の神は民に向かって「よく見なさい、世界をよく見なさい」と言っていたんだな。時代が下ってから存在を疑われるまでになったということは、よく見ようとして、かえって見えない人もいたってことか・・・。
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