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昭和20年の日本にタイムスリップしたような日記。医学生・山田誠也、後の作家・山田風太郎、当時24歳
2004/09/11 21:41
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、医学生として日々を送っていた山田誠也青年(後の作家、山田風太郎)、24歳が記した昭和20年の日記である。
日本が連日連夜、米国のB29の空襲にさらされるようになった頃から、8月15日の終戦、その後の米軍進駐当時の世相が、一青年の冷徹な眼差しによって活写されていく。政府や軍の上層部の言動を憂え、日本の行く末を案じ、民衆の戦争に翻弄される様子に危機感を覚える山田誠也青年。
戦争の渦中にありながら、時代を、そして日本という国を鋭く見据えた記録に唸った。「人間心理の洞察などは、さすがに深い」と舌を巻き、時には畏怖さえ覚えた。
殊に1月〜8月、終戦にかけての熱気がたぎるような記述が凄い。
空襲に脅かされながら、毎日これだけの記録を書きとめ、一日一冊ペースで本を読んでいる。その上、学校で医学の講義も受けているのだ。
若いとはいえ、当時の食糧事情で、これほどのパワーが一体どこから生まれてくるのだろう。後年の山風忍法帖にみなぎる圧倒的な筆力の源を、ここに垣間見たような気持ちにもなった。
最後に、思わず目頭が熱くなった文章をひとつ、引用させていただきたい。昭和20年3月10日、東京大空襲の日の記述である。
>( p.111 )
東京大空襲の翌日の記述が秀逸
2013/09/09 21:03
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
一時激しい怒りを感じるが、結局なし崩し的に怒りをあきらめに変える、このときの山田風太郎の記述が秀逸。こうした諦観を全ての日本人は味わっていたのではないだろうか。
戦時下の東京、鶴岡、但馬、飯田と所を変えて日記が記録した<瀬戸際体験>
2021/02/22 13:40
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
日記は、忍耐力と精神力、それに億面もなく心情を吐露できる馬鹿正直さを問われる<苦行>としか私には思えないが、著者には自ずと違う<修行>だった。
昭和二十年(1945年)、満二十三歳の著者は、東京医学専門学校(現東京医科大学)に学ぶ医学生だったらしい。人間や時代を見詰める眼が冷ややかで皮肉交じりなのも、メスを手に血だまりの中で冷静に解剖処置できる勉学の賜物か。
しかし、心身に紆余曲折の煩悶を抱えた事実は別書『昭和前期の青春』(ちくま文庫)に詳しい。旧制高校受験に失敗して上京、徴兵検査も不適格となり、戦時下の帝都東京で数少ない若者の一人として勤労動員や空襲など戦局の悪化を実体験したのだ。
年初から書き綴られた文語調と口語調が交錯する日記を読むと、まったく平凡な庶民なら日記を認(したた)める余裕も文章を紡ぐ教育の土台も無かった筈だから、医学生で読書家という“高等遊民”がどれだけ貴重な証言者だったかが判る。
不衛生を指摘する銭湯や映画館、行列に割り込む人間模様、歯痛や発熱で訪れる病院などが生々しく描写されるので、なるほどそんな有様だったかと読み手も喜怒哀楽の感情を揺さぶられる。診察代や日用品の値段が示されるため、生活実感も湧く。
手にした新装版が第9刷なので、著者の没後も本書は確実に売れている。本来私的な記録である「日記」が公開刊行され、後世の人間に戦時下の状況とそこに居合わせた人々の感情や行動を赤裸々に伝える点で、唯一無二の価値が見出せるのだろう。
「余は死を怖れず。勿論死を歓迎せず。死はイヤなものなり。(中略)しかれどもまた生にそれほどみれんなし。生を苦しと思うにあらざれど、ただくだらぬなり。」(46頁~47頁)
「先日の都心爆撃に於て死者七百、負傷者一万五千なりと。(中略)一人往来に出でて、薄雲しずかに動き、日翳りて、残雪の路上薄暮のごとき景呈したる刹那、ふと恐るべき身ぶるいを感じき。吾が死する?永劫のあの世へ?」(69頁~70頁)
観念的な死が存外身近にあるとの想いに襲われた若き日の著者は、この数日後、新宿駅近くで敵機B29に頭上を襲われる。その描写は緊迫感、臨場感に溢れる。本書を読み進めば、疎開先でも東京でも、著者とともに「冷汗」を流す<瀬戸際体験>を何度も味わうことになる。
「忍法帳」「明治伝奇物」シリーズの背景にある戦争体験の日記
2005/06/03 17:52
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ご本人もまえがきに書いていますが、敗戦記録は数ある中、一般人の書いたものが目に触れることは少ない。それゆえにあえて出版しようと思い立った、という山田風太郎さんの日記です。「虫けら日記」(戦前)、焼け跡日記(昭和21年)など、幾つかの年代に分かれて出版されている中、この「不戦日記」は終戦の年、昭和20年の部分です。
終戦直前の空襲、食糧事情などの様子、人々の心理描写も素晴らしく、よく言われるようにこの時期の普通の人の生活を記載した貴重な史料としての価値ももちろんあるでしょう。きどった青年らしさも見せつつ、戦わなかった一人の青年の焦燥、その時代の一つのこころ、が痛いように伝わってきます。戦争期の日記には渡辺一夫さんの「敗戦日記」のようなものも一方にはあり、こういった若者らしい激しさに満ちたものもあり。戦争に関係した直接の言葉を聞く機会は確実に減っていきます。その中でこのような日記ぐらいは読み伝えられて欲しいものです。
8月13日の部分が20ページ余に及ぶ長いものなのは、終戦直前の不安な書かせたものなのでしょうか。14日記載なし、15日は、多分後日記入したのか、と思わせる一行のみ、というのが現実感を感じさせます。
終戦を迎えて日々、手のひらを返すように変わっていく人たち、変われないで苦悩する人たち。書き手は、節操なく変わっていく人たちを憤りと諧謔の言葉で繰り返し書き記しています。このような心が、明治維新の変化などを同じようにとらえ、「明治伝奇物シリーズ」にも盛り込まれている、と感じました。おそらく「忍法帳シリーズ」などにも「戦うこと」をどうとらえるかという形で反映されているのではないでしょうか(こっちはあんまり読んでいないので、想像ですけれども。)。山田風太郎さんの名作シリーズの背景にこんな世界があった、と思って読むこともできますね。
さらに加えて、医学生だった著者が読んでいた膨大な量の本に驚かされました。それぞれについている鋭い評価は、それだけでも読み応えがあります。
ひとつだけ引っかかったのは、戦争後の記述の中に、「焼け跡日記」(昭和21年)と重複する部分があることです。12月9日、と20日が、それぞれ「焼け跡日記」の1月17日、7日とほぼ同じでした。混乱した時期の日記ですから、日付が上手く照合できなかったこともあるかもしれません。出版社も違うことですし。でも、気になるところでした。日にちが不確かであったとするならば、出版時にそういう断り書きを入れてくださってもよかったのでは、と思います。
でも、そのぐらいはこの日記の面白さ、価値を損なうものではありません。
この文庫版は改装され、文字が大きくてみやすいのも嬉しかったです。