紙の本
司馬さん、嫌いなんでしょ、でも、避けては通れなかった
2023/09/07 14:35
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投稿者:和田呂宋兵衛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
国民的作家、司馬さんにも好き嫌いはあります。
坂本竜馬、秀吉(ただし天下を取るまで)、土方歳三(ただし組織者として)、
吉田松陰(ただし教育者として)、「菜の花の沖」の高田屋嘉兵衛・・・
このあたり、惚れぬいて書いているのがアリアリです。
乃木将軍については、本書の初めのほうで、積極的な嫌悪はないとしながらも、
「もし、無人島にこのひとと二人きりで流されるとすればーーいや、どうもこの想像は趣味がよくない」
やっぱり嫌いなんだ(笑)。
でも、「坂の上の雲」で203高地のことを書く以上、総指揮官であるこの人のことは、
避けて通れなかったのでしょう。
それと、「馬鹿な戦争」を身をもって味わった司馬さんとしては、
陸軍の極端な精神主義、軍旗への異常な崇拝、玉砕を強要する人命軽視などは、
乃木さんを「軍神」に祭り上げたことに始まるのではという思いがあり、
一度きちんとまとめておかねばと、書き始めたのでしょう。
前半、日露戦争を中心に描いた「要塞」では、乃木さんの指揮官としての行動について、実に手厳しい。
それが後半の「腹を切ること」になると、明治天皇や裕仁親王(後の昭和天皇)とのエピソードなど、
好意的な表現も見られるようになってくるのが面白い。
軍人としてはともかく、「サムライ」としての乃木さんは、ちょっと好きだったのかも。
それにしても、乃木さんの生涯は、実に劇的です。
西南戦争では、不運な形で敵に軍旗を奪われる。
日露戦争では、旅順で大量の戦死者を出してようやく勝利。
それが、息子二人が戦死したことで同情を集め、
あの「水師営の会見」が「敵の名誉も重んじる日本武士道」と世界に宣伝され、
「名将」にされてしまう。
戦後の凱旋では、戦場の軍服のまま明治天皇に拝謁、涙ながらに復命書を読み上げる。
本書にはないが、辻占いや納豆売りの少年に親しく声をかけたというエピソードもあります。
そして明治帝大喪礼の日、奥さんと写真を撮った上で、あの最期。
そりゃ「軍神」にされるだろうし、少なくとも浪花節や演歌の分かる世代までなら、
心に響く所もあるのでは。
だから今でも、「司馬さんはそう書くが、実は愚将ではなかった」という反論が出されるのでしょう。
今から50年余り前、「お荷物小荷物」という変わったテレビドラマがあり、
志村喬演じる明治生まれの頑固爺さんが、大正生まれの息子や昭和生まれの孫たちに、
「乃木将軍のおことば」を持ち出して説教するのがお決まりでした。
乃木さんのこと、実は私も、ちょっと好きなんです。
紙の本
乃木希典について
2019/07/21 15:33
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
司馬遼太郎が乃木希典について論じた本。司馬の乃木に対する評価は主に『坂の上の雲』を本に論じられることも多いが、乃木のみについて論ずる本書は重要だと思われる。
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ちょうど坂の上の雲を読んでおり乃木将軍の人となりに
興味を持ったということと、中学の時に国語の教師が明治帝の崩御の際に
殉死した軍人がいたということとその時の描写を授業で語っていたのを
意外と強烈に覚えていたので乃木大将がなぜ殉死(しかも奥さんを伴って)
へと向かったのかを知りたくて読んでみました。
ただ、司馬遼太郎は一貫して乃木希典という人物に批判的なので
坂の上の雲と殉死しか読んでいないのでは司馬フィルターを通してしか
乃木希典という人物を捕らえていないことにはなるのですが
この本自体は様々な人の証言や状況証拠から経緯を追っており
読み応えがありました。
陽明学の流れを組んでの殉死だとは思っていなかったのですが
説得力のある分析だなぁと思いました。
結末は分かっていながらもその悲しい結末へと向かっていく過程を
知りたくて夢中で読み漁ってしまいました。
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これを読んで、乃木希典は形の美しさにこだわって賞賛されたけれど、軍人としては無能だったという「形だけの人」のイメージを持ったけど、実際はどうなんだろう。もっとドラマチックに書かれているのかと思ったら、すごい淡々としてた。
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乃木さんについては愚将というより、自分の美意識にがんじがらめになって動きが取れなくなった人、といった解釈で描かれている。その「美しさ」が人気のもとなのだろうけれど、ずいぶんとはた迷惑でもあるのもわかる。
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6/27:これは非常に悲しい話です。実力が伴っていないのに、時勢と血筋で祭り上げられ、御輿としてかつがれた乃木さん。もっとひっそりと暮らしたかっただろうに...
西南戦争の時から如何にして自分のポリシーに合った死に様に出会うかということばかりを考えていたのでしょう。寵愛されていた明治天皇と共に殉死するという事は明治天皇への想い、というより、自分にふさわしい場面だった、ということに他ならないと思う。
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6/24:乃木さんの話って事で読んでみる。小説という形式ではなく、司馬さんの考える乃木さん感のような感じです。前回この形式の「空海の風景」で挫折しただけに、すこし不安です...
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坂の上の雲を読んで、読んだ本。
乃木はある意味「ラストサムライ」だったんでしょう。
…でも兵隊さんとしてはちょっと困っちゃうなー(笑)
映画の二百三高地と合わせてみると、ますます胸に迫るものがありました。
…私は個人的に奥様がどう感じていらっしゃったのか知りたくもあり…(笑)
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土方や龍馬や秋山兄弟と明らかに扱いちがうよね、もうちょっと主人公に愛情注いであげていいと思いますよ?
乃木が愚将だったとか伊知地が使えなかったかとかは置いといて、私は乃木さんすきです。
はた迷惑過ぎるまでのストイックさは真似出来るものじゃない。不器用な生き方って美しいと思います。
児玉に静子夫人に、あとここに含めていいのか微妙ですが明治天皇と、なんだかんだでで乃木さん周りの人に恵まれてますね。
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乃木将軍に焦点をしぼった小説、というか随筆?
悲劇の人格者といった見方と、「坂の上の雲」で描かれていた無能っぷりとの差が気になって手にとったけど、読み通すほどの興味が持続できず、途中で放り出しました…
志村有弘「将軍・乃木希典」なんかとあわせて読むといいかも。
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坂の上の雲でこれでもかと乃木将軍の無能ぶり書いた著者が、さらに書く。明治天皇との濃い関係や、形式にこだわる部分、殉死として海外でも報じられた事など、読んでいていやになる事ばかり、そしてこれが陽明学徒の生きざまと書かれてはなおさら読む気がしなくなる。乃木将軍の陽明学の理解は間違っていると思う。
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初っ端から乃木希典のことを無能呼ばわりしまくっててわろん。歴史小説的なエンターテイメントを一切感じない本書を一々出版したところに、著者の苦い気持ちが表れているような気がしますね。お前らやたら褒めてるけど、大した人物ではないということを声を大にして言いたい、というような。乃木希典はまた異なるパターンですが、いつの時代海外でも、数世代前のある偉人が評価を得るということはあって、それにたいして疑問を呈する姿勢ってはあるべきですね。著者の場合は元から思っていたことなんでしょうが。
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「坂の上の雲」の主要人物として登場する乃木希典のその後を描いたスピンオフ作品。
司馬遼太郎による軍人、乃木の評価は著しく低い。「坂の上の雲」でも本小説でも、日露戦争の対旅順要塞での無策ぶりの描写は痛烈だ。
そもそも乃木という人は、軍に求められるのは戦略や戦術ではなく精神主義と考え、軍司令官として自身の失敗を「自死」で片付けようとする傾向にあった。そんな人間は軍を含めて、組織の管理者としては無責任すぎて、不適切だ。が、外部の国民や天皇からすれば、彼の死を恐れない部分が軍人としての潔さ、カッコよさに見えた。
そして、乃木は夫婦そろって明治天皇の後を追って殉死する。日露戦争では2人の息子を亡くしている。一族をあげて日本に殉じた乃木将軍は神の存在となる。
この軍神乃木の存在が、日本軍の悪しき精神主義の基礎となり、昭和の戦力や戦局を無視した戦争につながった。著者が「坂の上の雲」から一貫して乃木の無能をたたき続けた理由はそこにあるんだろう。
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事実誤認の多さが、今では批判されているらしい
ウィキペディアなどで調べてみてください
しかしまあ娯楽小説ですから
日露戦争の旅順攻略戦において、六万もの犠牲を出した乃木希典は
今なお愚将との謗りを受けることが多い
ただ実際の問題は
当時すでに、半ばお飾りの大将だった乃木自身のことよりも
参謀の伊地知幸介らが、己の固定観念とプライドにとらわれすぎて
外野の意見を聞かなくなっていた点にあった
損害が大きくなって、やむを得ず大本営の進言を受け入れたが
それを上手く生かすこともできないまま
結局、児玉源太郎においしいところをさらわれる格好となった
マクロな観点で戦場を眺めわたす目を、伊地知が持ち得なかった一方
乃木はある種の忍耐で、その独走を追認・放任した
ただし、旅順攻略の見通しを甘く見積もったのは大本営も同じであり
そのことが初期方針を大きく誤らせたのも事実だろう
結局は、空気に流れた人々の責任を負わされただけ
そう言えないこともない
そしてその報酬が、乃木の神格化だった
自己陶酔にも似た忍耐と、敵将への丁重な扱いが美談にされた
それは、「弱い父親」への同情混じりの信仰
封建的というのでもない
自己憐憫に支えられた逆さまのファシズムであり
すべての「無能な働き者」たちに、生きる勇気をもたらすもの
乃木と共に仰ぎ見る天皇のもとで
彼らはたしかに、時代を形成する一部分たりえたのだった
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夏目漱石の「こころ」に出てきますよね。
それで乃木希典という人を知り、気になっていたので読んでみました。
自己演出の人なのですね。
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乃木の理想主義。形式主義。そして無能。その無能さにもなかなか自分で気付いていない。悲劇。
その空っぽさは、空っぽさゆえに人が讃える。美しいものを正義としてしまうのだ、われわれ、民衆は。そこに中身がない分、どこまでも清らかな人に見えてしまうのだ。この日本人の感性は、どうにかならないものだろうか? 理性的ではないよなあ。
西郷は理想主義であるが、形式には拘らず、現実を伴ったものであった。だが、清廉なもの、人格に人は寄ってくるという点では同じ。どちらも悲劇だし、いまだにその幻想を抱く日本人も現在進行形の悲劇だ。