紙の本
長い道のり
2023/10/16 01:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
長い読書体験だった。
時は江戸末期。所は今の長野県。
いわゆる女の道には不満を抱きながらも自身で道を拓くほどの胆力はない主人公。
全てを見通していそうでありながら無口で娘にさえ真意のわからない父。
あらゆることを仕方ないでやり過ごす母。
比較によってしか立ち位置を確かめられない妹。
弟の早逝から互いの思いがすれ違いを続けて、
作品の9割以上はどこに光があるかを探すような展開。
兆しもなかなか見えないけれど、
新しい時代はもうそこに迫っている。
紙の本
櫛挽道守
2018/02/28 23:07
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雨読 - この投稿者のレビュー一覧を見る
幕末の木曽路の宿場町藪原を舞台に、梳櫛の腕利き職人である父吾助と主人公である娘登瀬、婿の実幸、母の松枝、妹の喜和、弟の直助を取巻く貧困で切ない物語。
みねばりという硬い木材から製作した、お六櫛は神州一の技によって世間に認められその価値が高まって行く、しかし皇女和宮の行列や天狗党の事件など様々な困難や苦悩が取巻くなか、家や家業の存続と言った局面に立たされながら信じる道を歩む主人公。
良いか悪いかわからないが現代社会から忘れ去られた大切なものを考えさせられました。
電子書籍
幸せとは何かを問う作品
2018/01/02 23:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:美佳子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品では、登瀬の半生、弟・直助の死の半年後で登瀬16歳の辺りから第1子誕生後の33歳辺りまでが描かれています。彼女の世界は非常に限られており、早世した弟への思い、父への憧憬、櫛挽の技術の獲得・向上がすべてと言っても過言ではありません。母や妹への家族愛もあるにはあるのですが、タイプも違い、相容れない考え方・感じ方の相違のせいで結びつきは弱く、彼女の感情世界への影響力もあまりありません。
亡くなった弟がどういうわけか草紙を作って旅人に売っていたということが分かり、母も妹もその事実を受け入れようとしない中で登瀬だけが弟の遺作に興味を持ち、できれば集めたいと願います。これは一人前の父のような櫛挽職人になりたいという願いと同列ではないかもしれませんが、かなり重要なモチーフで、彼女の強い行動理由となっています。
詳細は省きますが、尊敬してやまない父についに職人として認められる感動、ずっと気にかけてきた弟の思いに草紙を通して出会えた感動、そしてそれまでかなり謎な、しかし天才的な職人である夫と通じ合えた感動がこの作品のハイライトでしょう。泣けました。
私はこの作品の方が『漂砂のうたう』より好きです。
紙の本
櫛挽道守
2017/01/17 20:21
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kyon - この投稿者のレビュー一覧を見る
優れた職人である父親を尊敬し、因習に縛られた娘が父と同じ道を歩こうとしている。
娘には妹がいる・・・その妹との確執、職人世界の古い因習に揉まれながら己の道を貫こうとしている一人の女性の話である。
今の女性の活躍云々という時代ともリンクする気がする。
男社会の中でいっぱしの職人として極めようとする姿は痛々しい位にひたむきで愛しい。
そこへ天才肌の夫となる男が現れる・・・物語は人間模様も丁寧に描かれている。
感動する一冊となった。
投稿元:
レビューを見る
読むのに時間がかかってしまった。
幕末頃の中山道にある村の話。
この頃の女性は生きにくかったのだろうなと思う。
すべては家のため。子育てに家事に家のために尽くすのが当たり前だった時代に櫛挽に魅せられ他者と違う道を選ぶ登勢は立派というか歯がゆいというか。
最後はなんとなく家族の形も出来て良かった。
投稿元:
レビューを見る
幕末の木曽山中で櫛挽職人の父に憧れ自分が後を継ぎたいと櫛挽職人を目指す女性の話。
女性の立場は今とは全く違い、親の決めた相手と結婚をし子を産み次の世代に継ぐ事こそが全て。自分の道を志す事もままならない時代に父を師と慕い自分の道を見付け揺らぎながらも自分で歩いて行く。弱々しいながらも芯の強さが垣間見える。
父の凄み 母の不変 妹の焦燥 夫の哀しみ 弟への慈愛。
複雑でややこしい。でもちゃんと繋がっていた。
技は受け継ぐもの。自分のものではなく借りているもの。それ故の重み 深み。
投稿元:
レビューを見る
20170125〜0127 時間潰しに入った図書館で見つけた。日経書評で紹介あり。木曽の宿場町を舞台に、お六櫛という梳き櫛の職人を志す女性を描いている。櫛挽の作業は職人技なのだな、ということが良く分かる。主人公の登勢一家を覆う哀しみも櫛挽の音と重なり合う。
読後感は悪くない。ほかの作品も読んでみたいと思った。
投稿元:
レビューを見る
感想はブログでどうぞ
http://takotakora.at.webry.info/201702/article_4.html
投稿元:
レビューを見る
なんでこの人のかく話はこんなに心揺さぶられるんだろう
時代も価値観も今と全く異なるようで
でもどこか根底にあるような
一番揺れ動く、揺さぶられる時代を
なんでここまで鮮やかに描けるのか
投稿元:
レビューを見る
ただただ凄い。凛とした清々しい物語でした。
あらすじ(背表紙より)
幕末の木曽山中。神業と呼ばれるほどの腕を持つ父に憧れ、櫛挽職人を目指す登瀬。しかし女は嫁して子をなし、家を守ることが当たり前の時代、世間は珍妙なものを見るように登瀬の一家と接していた。才がありながら早世した弟、その哀しみを抱えながら、周囲の目に振り回される母親、閉鎖的な土地や家から逃れたい妹、愚直すぎる父親。家族とは、幸せとは…。文学賞3冠の傑作がついに文庫化!
投稿元:
レビューを見る
女の生きる道が、嫁して子をなし家を守ることあたりまえだった時代、女の道を外れて櫛挽きの業を極める登勢。黙して語らず、櫛挽く姿ですべてを教える父吾助。古い伝統を守ることにとどまらず、広い視野で次の世を見据え櫛挽きの道に新しい風を入れる実幸。誰もが生き生きと描かれている。
数々の障壁をものともせず、櫛挽きの道を邁進する登勢の強さには恐れ入るが、実幸に対する醜いまでの反発心を見るにつけ、そうまで頑迷にならなくてもと辟易。さらに、源次への心の揺れまでも心にストンとは降りてこず、ますます実幸ひいきになりながら読み進める。
主人公の登勢に肩入れできなかったことが、この作品を読む上での敗因だった。
それでも、反発し合った妹喜和との互いを思いやるシーンやラストの直助の絵草紙を朗読するあたりは心に染みて、ここまで読んできてよかった!と思った。
ただ、幕末のあたりの歴史的背景に全く不案内なので、その辺は読み飛ばしていたのが、もったいなかったかな~。。。
投稿元:
レビューを見る
タイトル「櫛挽道守」と書いて「くしひきちもり」と読む本作。幕末を舞台に、櫛職人を父に持つ主人公登瀬が、限られた自由の中で懸命に自身の生き方を模索する姿を丁寧に描いた作品です。
時代としてはペリーが浦賀に来航したあたりからになるので、日本史の一大転換期ともいえる頃にあたるのですが、源次を除いて登場人物の多くは不穏さを増す社会情勢から一歩引いたところで日々の生活を営んでおり、よくある波乱万丈の展開があるわけではないです。なので筋だけ読むと正直地味な小説の部類に含まれてしまうのですが、逆にそういった喧騒からの適度な距離感が、登瀬の素朴で純粋な姿を引き立たせているように感じられました。
実は私、読んでいる間は非合理な登瀬の考え方よりも、合理的で実利を重んじる実幸の考え方のほうに共感していたのですが、終盤で実幸が藪原に来た真意を知るに至り、彼の根っこの想いは登瀬と同じ類のものであり、さらに言うと彼自身が合理主義に侵された現代の読者の思考を映しだす合わせ鏡のような存在だったと考えるに至りました。よくよく考えると一見非合理に思える事や異端なものに対して寛容でない姿勢は、現代でもあまり変わらないように思われ、深読みしすぎかもしれませんが、時代小説の外見をまとった現代社会批評であるようにも感じられたのでした。
なお、上記は本作の魅力のほんの一端にすぎません。主人公の父、母、妹、早世した弟、そして源次と、登場人物それぞれの思いが交錯する様は、幸せとは何か、家族とは何かを深く考えさせてくれます。その詳細はぜひ読んで確かめていただければと思います。
投稿元:
レビューを見る
「くしひきちもり」そうそう、これがあった!
いいに決まっているので、とっておいたのです。と思って読んだのがもう2年前。
今さらですが~おすすめなので、ご紹介しましょう。
幕末の中山道、宿場町。
木曽山中で、一心に櫛を作る名人の父親を手伝う娘の登勢。
父の腕に憧れ、あとを継ぎたいと願いますが、娘には他所へ嫁ぐ縁談が来るだけ。
外の世界へ出るのが夢の妹、周りを気にする母親、才能ある優しい弟。
やがて訪れる、いくつかの別れ。
弟の友人は、幕末の空気を吸って、村を出ていきます。
父の腕を慕って弟子入りしてきた男とは、登勢は気が合わないが…?
神業と言われる父親の仕事ぶり、一生懸命ついて行こうとする娘はやがて弟子となっていく。
時代に取り残されたような暮らしでも、思わぬ揺れ動きがふいに起こる生々しさ。
地道な生活感と、真剣な緊迫感。
なんでこんなにいいんだろう?と感嘆します。
こちらの表現力が間に合わないけれど~
すべて目に浮かぶようで、味わい深い。読みごたえがありました。
投稿元:
レビューを見る
生涯をかけて櫛を挽く、そのひとたち。櫛挽の板ノ間に響く、静かで穏やかな拍子に耳を傾けてみたい。
父の背中を追って、女なのにと言われながら櫛挽職人を目指す登瀬。同じ場所に居続けながら、居場所としてのそこ、の概念が心境により変化する描き方がうまい。
幕末という激変する世の中で、信じるものを曲げずにかじりついてきた櫛挽への道。
一歩一歩が信じる道に通じたと気づけた時、大きく息をついた。言葉ではとても尽くせない。
投稿元:
レビューを見る
第9回中央公論文芸賞、第27回柴田錬三郎賞、第8回親鸞賞を受賞作 評価の高い本がやっと来たので、読みかけのものを置いて読んでみた。
まず作者が女性と言うのを知った。
作品は、女性の生き方が主なストーリーになっている。
中仙道、木曽の山中にある藪原宿の集落が舞台。名人といわれる櫛挽職人の父を持つお登瀬の、櫛作りにかけた一途な半生が感動的に描かれている。
女の人生のが、より不自由に決められ、それに縛られていた幕末の頃、世間並みの生き方を捨ててでも、尊敬する父親の背を見て、櫛引の技を極めるために生ていくお登瀬の成長物語になっている。
頼みの弟が早逝し、て家族の絆が破綻してくる。そんな中で、お登瀬は年頃になって、世話人が持ってきた条件のいい結婚も断り、人々から阻害され始める。
無骨な父親に弟子入りを志願してきた若者とともに、家業を継いで、櫛挽きの技を受け継いでいく。
激動の時代を背景に、人の往来からわずかな文化が入り込んでくるような集落で、村の行事や風物を織りこみ、お登瀬の人生が、爽やかに力強く描かれている。
自分で作った物語を絵にしてひそかに売っていた弟。窮屈な暮らしから逃げ出したが、やはり逃げ切れなかった妹、名人の技を慕ってきた弟子、出自を嫌って動いていく時代に飲み込まれた弟の幼馴染。
登場人物も夫々面白くお登瀬に絡んでいく。
読みやすいが力のこもった作品だった。