電子書籍
ふたつのオリンピックに挟まれた男
2020/05/02 23:21
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
1964年の東京オリンピック開催時に肉体労働に励んだカズは、戦後の日本そのものです。2020年のオリンピックを見ることなく、上野の人混みに消えていった後ろ姿も忘れられません。
紙の本
全米図書賞受賞の本書を読み、日本の近代は何だったのかを考える。
2021/12/07 14:30
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
上野恩賜公園のホームレスは東北出身者が多い。語られる、ひとりの人の人生。生きる事の、指の間をすべり落ちていってしまった時間のように、見つめ、聞き、思いを馳せる。上野恩賜公園のホームレス達の人生を。この小説は見えない、いや見ないようにしてきたものが見えてくる本である。物語はカズの故郷を津波が襲う場面で終わる。帰る場所はどこにもない。
紙の本
「人生にだけは慣れることができなかった」男の人生。
2021/01/16 23:41
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投稿者:トリコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「どんな仕事にだって慣れることができたが、人生にだけは慣れることができなかった」主人公の人生。
東北出身者の主人公と天皇皇后との接点を、東北ではなく東京においた点が秀逸だと思った。
単行本初版は2014年だが、自分は東京オリンピック延期後に読んだことで、かえって冷静に味わうことができたと思う。
紙の本
悲しい運のない男の物語
2023/08/01 11:50
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の男はどうしてホームレスになったのだろう、「自分が死ぬことが怖いのではない、いつ終わるかわからない人生を生きていることが怖かった、全身にのしかかるその重みに抗うこともできそうになかった」と男は説明する、家族のため出稼ぎで働き、子供も社会人になりこれから楽ができるかと思っていた矢先、不幸が連続して彼を襲う、本当に彼の母がいうように「運のない男」だ、読んできていたたまれなくなる、どうやら男はもうこの世の人ではないようだ、でも死んだからといって天国へ行くこともなく、彼の栖であった上野恩賜公園あたりをうろついて他人の会話に耳を傾ける、かなしい。彼がさっさと天国に行かないから東日本大震災も目撃してしまう、ますますかなしくなるのに
紙の本
柳 美里を見つけた
2022/11/22 09:48
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投稿者:えんぴつ - この投稿者のレビュー一覧を見る
柳 美里の作品をちゃんと読んだことがなかった。東京キッドブラザースの活動、ややエキセントリックなイメージが先行し、何となく食指が伸びなかったのである。
以前、瀬戸内寂聴さんが「柳美里、あれはいいですよ」話しているのを聞き、そうなのかな・・・と思ったものの、そのままになっていた。本作が全米図書賞翻訳部門受賞したことをきっかけに、手に取った次第である。
結果、柳美里を見つけたと思った。
今、彼女は福島県の相馬に拠点を起き、活動している。
(福島県との接点は、彼女の祖母が、戦後、新潟県との県境の会津・田子倉ダム建設に携わった多くの朝鮮半島出身者相手の店を開いていたからかと思っていたが、そうでもなかったようだ)
福島県の浜通り地方の出稼ぎ者の話である。出稼ぎ者は、好きで出稼ぎするわけではなく、地元で食えないから都会へ出るのである。方言を交え、出稼ぎに出なければならなかった人たちの苦悩を淡々と書き切ったと思う。相馬地方の人たちの多くは富山方面から移ってきた等々、柳田国男の山びと論考にも派生するかのような記述も見られ、柳氏が、丁寧に調べられていることが伺えた。
その昔、多くの「金のたまご」たち、多くの出稼ぎ者たちが、帰りたくても帰れない思いを抱え、ふるさとの訛りを懐かしみ、上野駅に集っていたという話を聞いたことがある。地方への出発点は全て上野駅であった。
すっかり様変わりしたおしゃれな上野駅の姿からは想像できない悲しみが見えた。
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うーん、天皇制の事をもっと突っ込んで書いて欲しかった(自分自身天皇制について詳しくないので)物語としてはあまりピンとこなかったです。
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1人のホームレスの語りによって、彼自身の人生と、ある日の上野駅公園口前の情景が交互に物語られる。
福島県相馬地方の真宗門徒集落に生まれた男は、生家の貧しさから青年期より出稼ぎに赴き、オリンピックの建設ラッシュに沸く東京へもやってくる。降り立ったのは東北への玄関口である上野駅だった。
やがて出稼ぎを終え故郷に帰った男だったが、再び上野駅に降りその周辺でホームレスとして暮らし始める。
ある日のJR上野駅公園口、駅から横断歩道を渡った広場に何人かのホームレスが座っている。語り手の男は彼らの様子を観察し、その会話に耳を傾ける。
やがて広場を通りすぎていく通行人たちの会話や、園内に点在するダンボールハウスの様子、さらには美術館の展示品までその視線と聴覚は範囲を広げて行き、語り手はすでにその肉体を離れていることが判ってくる。
ホームレスたちにとって、最も耐え難い苦しみはなんだろうか。貧困もあるだろうし、差別もあるだろう。
だが最も大きいのは孤独ではないだろうか。
上野公園のホームレスたちは、それぞれがダンボールハウスに住み、顔見知り同士言葉を交わす程度の緩い繋がりを持っているものの、心の深い部分で理解しあったり、記憶を共有したりする関係ではない。それは冒頭の、ダンボールハウスの中で死んでいた“シゲちゃん”について語るホームレス同士の、暇つぶしの話題程度の乾いた口調からも察せられる。
話者のホームレスもまたそうであり、そして彼はホームレスになる前の人生から、他人との心からの交流を持つことなく生きて来ていた。
(書きかけ)
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しかしこれ英米読者には、どんな風に読まれてるのか気にならないではない。東京都内のホームレスのイメージや、日本政府の鬼畜なふるまいとか、よっぽど日本通?でないと、異世界ファンタジーになってしまうような気もしないではない。それでも主人公の懊悩はある程度伝わるとは思うが、それはそれで海外作品を読む自分の理解の程度も同じであろうし。いろいろ考えさせられる「ものがたり」だった。
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本編と柳美里さんのインタビューネット記事の両方を読んで、眞子さまと小室さんとの婚約に関連して話題になった皇室からもらえる結婚金1億円のニュースが頭をよぎった。そのときに抱いた「皇室の圧倒的存在」に対するなんとも言えない感情と、本編の切り口が少しリンクしている気もする。
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散文詩的な美しさはあるが、物語未満であると感じた。
また、私は東北地方の出身なので、地名も方言も馴染み深く、読み詰まることはなかったが、多くの読者の為には、さすがに地名には、ふりがな表記があったら良いのでは。
(意図的に表記しなかったのだろうか?)
解説「天皇制の〈磁力〉をあぶり出す」(原武史氏)については、やや納得できない思い。
ただし、天皇制については、様々に考えられるべき問題であり、現在の日本が、その議論を許される「時代」にあることは、重要なのではないか。
(少なくとも、75年前には世を憚る話だった)
現代の天皇制について、思うころがない訳ではないが、少なくとも、私は平成・令和天皇を「ひとりの人間」として見つめたとき、そこへ敬意を抱いている。
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福島の貧しい家庭に生まれ、上野公園のホームレスになった人生を、現在の上野周辺の光景を織り交ぜながら回想するような作品です。
街ゆく人々の切れ切れの会話や風景の描写は「ホームレスとして道の傍に座って眺めていたらこんな感じかな」と思わされます。
そんな光景を頭に浮かべながら、じっくり読むのがおすすめです。
前の東京オリンピックも、2020年に予定されていたオリンピックも華やかに浮かれている背後には、出稼ぎ労働やホームレスの特別清掃等、豊かさから排除された存在があることを感じ、何ともやるせない
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正直読み終わったとき辛かったが、社会問題を風刺したその内容に非常に心動かされ、読後も色々考えさせられた。ずっしりくる作品なので精神的に元気なときに読むのが良さそう。
読者に様々な解釈を与えてくれる書き方(時系列の前後)や独特の文体も非常によかった。
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全米で賞を取ったというので再読.上野公園という場所の存在がとても興味深く映った.ホームレスの人達の現実,生きにくさと自由,東北の人達の出稼ぎの歴史の重み,そして天皇への思いなど,時間や場所を行ったり来たりしながら走馬灯のように綴っていて,じんわりと心に染み入った.
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時々舞台となった上野公園に行くが、こんなドラマがあると思うと今までと違った目で見ることになると思う。味わい深い本。アメリカ人は本当に理解できるんだろうか。
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全米図書賞受賞を受けてTVで取り上げられていたことから本書を手に取った。率直に何とも重たい話だった。でもこれが現実。まさにコロナ禍においてますます増えているであろうホームレス問題や自殺問題。「コヤ」という言葉が文中に出てくる度に張り裂けそうな気持ちになった。自分には屋根がある住む場所がある。それから山狩りという言葉も初めて知った。心が弱っているときにはあまり読まない方がいいのかもしれない。辛すぎる。