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著名な小説家も、人生の下り坂に入ると、こうした語りをするようになるのかな、という意味で興味深く読みました。柔らかい姿勢と、強固な信念。村上さんのコメントからはそれを感じました。
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川上未映子さんをインタビュアーに立てた、村上春樹さんへのインタビュー本を読んだ。あまり期待していなかった(超失礼)なだけに、楽しく読めました。村上春樹本はほとんど目を通しているので、新しい一面がみれたかというとそうじゃない。でも、そこにこそ好感をもてた。『騎士団長』の話でいえば、"イデア"にしろ"メタファー"にしろ確固たる意味性をはなから設定していなかったという本人の弁には膝を叩いた。
村上「頭の良すぎる人が書いた小説は枠組みが透けて見えることが多いです。読んでいても、正直あまり面白くない。理が勝っているから、一方通行のステートメントになってしまう。p165
文体は心の窓である。(Style is an index of the mind.)p232
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村上さんご本人もおっしゃってますが、凄まじいインタビューです。川上未映子さんのコミュニケーション能力が垣間見れる。川上さんって人の心に入るの上手なんだろうなとずっと思っていたけど、ほんとうにそうなんだと思う。頭はいいし、勉強熱心だし、発想も豊かで、惹きつける。
こんなにも村上春樹から言葉をぐいぐい引き出すってほんとうにすごい。
決して退屈ではない、対談集です。
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村上春樹分析本みたいのを2冊ほど読んで、うーん村上さんて実はそーんなにありがたがるほどのものでもないのかな(失礼)とか思ったりしていたんだけど、この本を読んでいろいろ過去の作品を思い出したりしているうちに、やっぱり好きだという気持ちがよみがえったので、とてもよかった。昭和っぽいだの古くさいだのといった細かいことはどうでもいい、村上春樹は村上春樹なんだ、というか。(分析本に対して、細かいことでいちいち揶揄するな、っていうような記にもなったり)。
川上未映子さんが実によく村上さんの作品を読み込んでいてすばらしいなと思った。本当に村上さんを好きなことがよくわかって。かといって、持ち上げるだけじゃなくて、ああそういうのきいてみたかったっていうこともきいていて。たとえば、女性の扱いがちょっとひどいんじゃないか、とか。
作品の分析がどうのこうのっていうより、単純に、やりとりを読むのがおもしろかった。
結局、作品って、作者が意識して書いたことだったらこういう意図だ、とか説明できるかもしれないけど、とくに意識しないで流れのままに書いてそうなった、っていうことだと、きかれても作者もわからないんだろうなっていうことがわかったような。
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川上未映子さんが、時に一人の作家として、時に一人の読者として、村上春樹さんに質問している。
それに対して、真摯に言葉を発する村上春樹さん。
文字だけでも、その場の空気感が伝わってきて、濃密な対談となっている。
村上春樹さんの小説家としてのあり方、また、物の捉え方など、非常に興味深く読んだ。
個人的には、インタビュアーとしての川上未映子さんにも興味を持った。
「そういう質問もあるのか」とか「そこまで訊くの?」とか、興味津々だった。
こういう質問の仕方(というか何というか)は、質問の流れなど、ほんとうに楽しかった。
中身の濃い対談集。
ほんとに機会があれば、また、ぜひやってほしい。
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非常に良かった。インタビューはインタビューをする人間によってその質が決まると思うんだけれど、川上未映子は適任だった。用意している質問もさることながら、村上春樹の回答を受け止め、さらに重ねる質問が素晴らしい。本当に対談形式だったのかと思うくらい。川上未映子の小説を読んだことが無かったけれどこれを機に読んでみようかと思う。
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傑作『ヘヴン』などで知られる作家、川上未映子が訊き手として、敬愛する村上春樹へのインタビューをまとめた一冊。時期的に、やはり『騎士団長殺し』の話が多くを占め、過去作品との関連性、登場人物の造形の理由、女性の登場人物の役割や意味合いなど、鋭い話題が多くを占める。
このインタビューの先立つ川上未映子の準備量は相当なものであることが伺われ、かつ同じ作家、かつ女性という違いを持つ者としての独自の論点設定など、後世に残る優れたインビュー集ではないだろうか。何よりも、村上春樹自身が鋭い質問については考え込みながら発言をするシーンなど、独特の緊張感が表れており、スリリングな瞬間もある。
川上未映子自身が村上春樹の作品の構造を、”家”を題材として、整理した概念図(というかイラスト)は、彼の作品を理解する上で非常に優れた視点を持つ。自身のプライベートな精神世界/近代的自我のようなものを描く地下1階と、さらにそこから下方に続く地下2階が集合的無意識のような”洞窟”であり、そこに『ねじまき鳥クロニクル』以降の作品で重要なモチーフとされる”悪”が描かれている、というインタビュー内での議論は、強い説得力を持つ。
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2017年25冊目。
川上未映子さんの下調べ(というか、純粋に村上春樹作品が好きなのだろうけど)と迫り方が抜群によかった。
知的に迫る以上に、「本当のところどうなの?」というしつこさが、これまで読んできた村上春樹インタビュー集と一線を画していると思う。
村上春樹さんの創作方法でとても印象深いのが、計画以上に流れから生まれる未知を力にしていること。
出てきたとこ勝負だと、山の両側からトンネルを掘って繋げるくらい難しいと思うけど、最初から繋がるように書いていてはあの面白い物語は生まれないんだろうなと思う。
そして、そういう未知は、自分ならではの文体と持つことと、とにかく書く作業の積み重ねから引き出されていくという。
頭ではなく身体で書いているんだなと感じる。
規律を持って身体を使っていくことが、想像力に繋がるのだと思う。
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19才のとき、奇跡的に2日続けて村上春樹朗読会のチケットを手に入れたという芥川賞作家の川上未映子による4回のインタビュー。さすがの春樹ファン、質問も深く鋭い。
ただ、それに対する春樹さんの答えっぷりがまた良い。「そんな事言ったっけ?」「それは全くない」「へぇ、そうなんだ」
そうは言っても語り出せば最新作『騎士団長殺し』の話や過去の作品について内容は濃く、感心したり驚いたりとても楽しめた。二人のやりとりを読んで改めて読み返したいタイトルが続出。困った。
○どこの出版社に原稿を渡すかは、書き終えてから決める。これにはちょっとびっくり!
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必要な記憶の抽斗がぽっと勝手に開いてくれるというのが、
すごく大事なんです。
「騎士団長殺し」
ふと思い浮かんだタイトルと、
書き留めておいた最初の一文
上田秋成「二世の縁」が、モチーフ。
1Q84の三人称から一人称に戻った。
僕でなく「私」に。
一般の小説は人々の暮らす1階や2階ではなく、地下1階の(論理的な)話だが、
村上小説は地下2階の話。
リアリズムの文体を使って、非リアリズムな物語。
二つのコツ。
ハッとするような比喩と会話のやり取り。
文体が大切。
僕よりうまく書ける人は少ない。
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これ今までのインタビューで1番面白いんじゃないか?
そう思う理由を、3つ挙げます。
1インタビュアーの川上さんが、よく下調べしてきていること(当たり前のことですが)。村上さん本人よりも作品の前後関係や内容について詳しくて笑える。
2川上さんが、同じ作家ということもあってか、かなりつっこんだ内容を、粘り強く質問すること。インタビュー集『夢を見るために〜』を読むと村上さんは同じ回答の繰り返しが多くて肩すかしを食らうことになるんだけど、川上さんはそうならないように工夫している。
「発行部数が落ちたりすると…」みたいな下世話な役回りをしてくれて面白いし、また、村上作品での巫女的な女性の役割についてもフェミニズムの観点から追及しているのも初めて見た。
3新作『騎士団長殺し』の直後にインタビューしているため、村上さんが作品の細部を覚えていること。とにかく過去の作品は忘れてしまうようです。
短めの長篇(国境の南、スプートニク、アフターダーク、多崎つくる)は実験的なことをやっているなど、初めて聞く情報が引き出せていると思う。
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これは面白い本です、今年の10作の一つでしょう(残り9つは聞かないように)。
まぁ色んな言葉を川上が村上より引き出していて、刺激的な内容ですが、何はともあれ「僕よりうまく書ける作家は少ない」という自信。仮に思い込みであっても、確たる自己への信頼がなければやっていけませんわね、作家たるもの。村上春樹ほどの毀誉褒貶の荒波に揉まれるのであれば猶更のこと。
あと川上未映子の戦闘性も見物です(聞き手としての積極性ではなく、作家としての意識・目線という意味)。この人もアウトロー的立ち位置なんですなぁ。
それにしても村上春樹って何でそんなに皆惹きつけられるんでしょうか?上記のアウトローじゃないけど、この作家、そんなに万人受けするタイプじゃなく、絶対にカルト的な支持を受けるタイプと思うんだけれども。未だ当方の腹に落ちてこない不思議の一つです。
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リンカーンが言っているように、ものすごくたくさんの人間を一時的に欺くことはできるし、少ない数の人間を長く欺くこともできる。しかしたくさんの人間を長く欺くことはできない。それが物語の基本原則だと僕は信じています。(中略)善なるものというのは多くの場合、理解したり嚙み砕いたりするのに時間がかかるし、面倒で退屈な場合が多いんです。でも、「悪しき物語」というのはおおむね単純化されているし、人の心の表面的な層に直接的に訴えかけてきます。(p.101)
頭で解釈できるようなものは書いたってしょうがないじゃないですか。物語というのは、解釈できないからこそ物語になるんであって、これはこういう意味があると思う、って作者がいちいちパッケージをほどいていたら、そんなの面白くも何ともない。(p.116)
僕は思うんだけど、人が人生の中で本当に心から信頼できる、あるいは感銘を受ける小説というのは、ある程度数が限られています。多くの人はそれを何度もなんども読み直しては、じっくり反芻します。(中略)そして結局そういった少数の書物が、僕らの精神性のバックボーンになっています。(p.188)
チャンドラーの比喩で、「私にとって眠れない夜は、太った郵便配達人と同じくらい珍しい」というのがある。これは何度も言っていることだけど、もし「私にとって眠れない夜は稀である」だと、読者はとくに何も感じないですよね。普通にすっと読み飛ばしてしまう。でも「私にとって眠れない夜は太った郵便配達人と同じくらい珍しい」というと、「へぇ!」って思うじゃないですか。「そういえば太った郵便配達人って見かけたことないよな」みたいに。それが生きた文章なんです。そこに反応が生まれる。動きが生まれる。(pp.217-218)
完全に囲われた場所に人を誘い込んで、その中で徹底的に洗脳して、その挙句に不特定多数の人を殺させる。あそこで機能しているのは、最悪の形を取った邪悪な物語です。そういう回路が閉鎖された悪意の物語ではなく、もっと広い開放的な物語をつくっていかなくちゃいけない。囲い込んで何か搾り取るようなものじゃなくても、お互いを受け入れ、与え合うような状況を世界に向けて掲示し、提案していかなくちゃいけない。僕は『アンダーグラウンド』の主催をしていて、とても強くそう思いました。肌身に染みてそう思った。これはあまりにも酷すぎると。(p.336)
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これはすごい。本人以上に知識量はすごく、多様な観点からぶつけてみたり、一つのことを違う切り口で粘り強くぶつけてみたり、聞きにくい下世話なことも切り込んだり、と川上未映子のインタビュアーとしての腕がずば抜けている。村上春樹の逃げはどこまで本気なのか… あと、彼女の小説も読んでみようか。
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「退屈でつまらない答えで申し訳ないけど、退屈でつまらない質問にはそういう答えしか返ってこない」と文豪アーネスト・ヘミングウェイは仰ったそうな。
礼儀正しい村上さんは、もちろんこんなことは口にしたことがない。(が、そう言いたくなる局面は何度か経験したらしい)
この対談はちがう。川上未映子さんは村上春樹ファン、書店員、小説家として、絶妙なタイミングでミーハーと本のプロの間を行き来しながらインタビューする。それが良いんだなぁ。
思わぬ方向に転がる会話の端々から、作家の普段の創作過程が想像できるようで本当にわくわくした。