紙の本
世界史の教える開放性というビジネスモデル
2017/07/17 17:10
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投稿者:Takeshita - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者はローマ帝国と大航海時代の歴史を辿りながら、辺境を拡大し、フロンティアを開拓するという「開かれた思想」の時代に経済は成長し文化は栄えるという。逆に保護主義的、排他的思想に捉われる時、文明は内側から崩れると言う。これを古今の成功、または失敗したビジネスモデルに当てはめて至近の世界経済と日本の現状を論じており、随所に話題豊富で面白い。ただ話があちこち飛びやや読後印象が散漫になるのが惜しい。ただ余人では書けない好著であるのは確か。
紙の本
停滞する日本社会を「歴史法則」を用いて打破していくことを説いた書です!
2017/12/09 09:59
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、非常に画期的で、斬新なアイデアをもった書です。すわなち、歴史的な国家を「企業」に、そしてその国家政策や政略を「ビジネス」に見立て、現代の企業及びビジネスを再検討しながら、そこに内在する法則を探っていこうというものです。ローマ帝国、大航海時代、IT時代などを分析して、そこに新しい企業とビジネスの在り方を見つけ出していきます。そして、現在、低迷する日本経済を立て直すアイデアを示唆してくれます。まさに、希少な書と言えるのではないでしょうか。
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野口悠紀雄氏による経済学始点からの歴史解説。氏いわく歴史学の専門家でないからこそ、歴史から学び自由に意見をいえるとのこと。ローマ帝国の強みを、軍、許容性、税制にまとめるなど塩野七生氏と近い視点ながらも、よりドライに分析されてわかりやい。「世界史の」とありながら約半分はローマ史だが内容は充実して面白い。時折日本の状況に照らし合わせての解説と提案は、わかりやすい面と強引な面、両方を感じた。日人口オーナスだけが日本の経済停滞の原因ではない、なぜなら人口が伸びいていた90年台から停滞がはじまっているから、という論理は反論のための反論で思える。すでに90年台は減少はしてないが1.2億人での頭打ちが完全に見えた時代である。と細いところで気になるところもあるが、最終的に賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ、という結論であり、賛成できる。
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著者の価値観はぶれず、ビジネスマンが歴史をどう読み解くかがわかり、非常に参考になる。ただ、ビジネス書をたまに読んでいる層にとっては、近現代の話は知っていることが多く、トリビア集に思えてしまうかもしれない。もちろん、ローマや大航海時代に明るい人にとっては逆の可能性が高い。
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第Ⅰ部はローマ史、第Ⅱ部は航海時代と現代史である。
謳う「ビジネスモデル」はこじ付けたようであり、古代史~中世史~現代史の論理的ブリッジもほぼなく、野口氏の書きたいものを書いている雑多感は否めない。映画話の挿話も読者にとってはキョトンだ。
国家繁栄の考察としては内容は面白い。ローマ史においてはカエサルではなくローマ帝国初代皇帝アウグストゥスに焦点を当てたのは興味深い。中国の帝王学『貞観政要』でも創業より守成が難しとされており、アウグストゥスが国礎を作り上げ寛容主義を根付かせた結果、衰退の危機を経て五賢帝時代に栄光のパクス・ロマーナをもたらしたといえよう。また15世紀航海時代のポルトガルのエンリケ王子のフロンティアスピリットと驕りによる衰退は示唆に富む。と、ここまではまだよかったが現代史はMBAケーススタディのようだ。世界史の大局観から学ぶ趣旨が置いてけぼりになる。
野口氏の視野と知見の広さは疑う余地はないところではあるが、何故か日本の国家戦略などへの批判的記述では唐突に断定的で偏向的な内容が散見される。また史実への議題提起をしながら要因推定は「しかしそれはわからない」と放り投げれる。HALの由来など誤情報も多い。学者が書く歴史書と一風異なり有識者が書く歴史書は視点がユニークで面白いものの色々と気になることが多い一冊であった。
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異質なものに対して寛容だったローマ帝国。少数精鋭で貿易で栄えた海洋国家、イギリス帝国。ファブレスというビジネスモデルで成功したアップル。衰亡しつつある日本は、歴史から学ぶことはできるか。
それにしてもこの著者は、とても博学。引き出しが多い。
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・「多様性の確保」「フロンティアの拡大」
・寛容主義は正しい。
・コストがあっても、異質なものを認めることにはプラスがある。
異質性は生き延びるための最終的な保険となる。
・日本は、税の軽さが原因になって衰退する可能性が高い。
・江戸時代の分権的国家は、明治維新によって中央集権国家へ。
・国の活性化とは人口を増やすことではない。
達成すべき何らかの目標をもつことである。
・国としてのビジネスモデル
中国:大陸国家 日本:海洋国家
・所有権を放棄する。
「囲い込むのは人の常。開放モデルは神の業」
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最近(2017.11)野口悠紀雄氏の本を読むことがあり、その本の中で紹介されていて気になっていた本です。私が特に興味を持っている、ローマ帝国・大航海時代について、ビジネスモデルという切り口から、歴史を解説しています。
また、当時と現代のビジネスモデルとの共通点・相違点を随所で取り上げられています。歴史の専門家ではない人が語る「歴史」は、違った読み方ができて、自分の生活やビジネスにも応用できるなと思いました。
塩野女史のローマ人の物語を以前に読んだことがありましたが、野口氏による解説も、切り口が違っていて、更には最近の研究成果で分かったことも踏まえて書かれています。ローマ帝国がなぜ長期間にわたり栄えることができたのか、また衰退の原因はどこにあったのか、日本との共通点はどこにあるのか等々、楽しい読書でした。
以下は気になったポイントです。
・本書で取り上げる3つの物語、1)古代ローマ帝国の建設と衰退、2)海洋国家の勃興、3)現代における情報革命(p3)
・成功するための法則を見出すことは難しい、見出せても応用は難しい、過去に成功したビジネスモデルをそのままの形で真似ても、成功するとは限らない。それに対して、失敗を避ける方法は、比較的容易に見出せるし、その知識は広い応用可能性を持つ(p18)
・本書は、歴史的事例そのものを紹介するのではなく、それらを題材として人間がいかなるビジネスモデルを考えてきたかを見ようとする、歴史「に」学ぶ、根底に流れる一般法則を見出そうとする(p22)
・必要条件として、多様性の確保と、フロンティアの拡大がある。これができたらと言って必ず成功するとは限らないが、それを否定した国や企業は失敗する例が極めて多い、失敗しない場合は徐々に衰退する(p23)
・ルビコン川は北イタリアにある小さな川であるが、これを渡ることに重大な意味があったのは、ここがガリア・キサルピナ属州とイタリアとの国境線であったから、ローマの国法では、軍団をここで解散しなければならない(p45)
・軍事的拡大のモデルにはいつか限界がくるが、通商の拡大というモデルには限界がない、空間的拡大が終わったとしても、通商の内容を充実させられるから(p78)
・ビジネスモデルという観点にたつと、何が無かったか?は大変重要な問いである、現代国家にあってローマ帝国になかったものは、現代の国家にも不必要かもしれない(p88)
・アメリカの政治献金は、2010年までは個人だけであったが、政治行動委員会を組織すれば、労働組合・企業からも合法的に献金を受けることができるようになった(p92)
・表向きは、キリスト教世界を広げることが大航海の目的とされたが、実際の理由は、胡椒輸送ルートの開発という経済的なもの(p98)
・ローマがハリウッド映画で使われる理由として、1)誰でも知っている内容である、2)現代世界ではありえないシーン、物語を映画化できる、古代ローマはキリスト教的倫理観が支配する以前の世界であるから(p102)
・当時の若者が厳し��兵役生活に移ったとしても、農場に留まった場合に経験する生活よりも、よりよく、希望のある条件で働けた(p112)
・39年から45年の間にソ連全土で召集された赤軍兵士は3000万人超、そのうち800万人の兵士が死亡、民間人も含めると2000万人、英米の死亡兵士数はそれぞれ25万人(p115)
・ローマ時代の奴隷の値段は、家族4人の年間生活費(1000セステルティウス)であり、かなり高い買い物(p118)
・ローマでは、教育、医療などの知的職業は、奴隷がやるもの、専門地棋士を持っていたギリシア人奴隷はかなり恵まれた生活をしていた(p119)
・ローマ特有の制度として、解放奴隷は市民権は与えられたが、生まれながらのローマ市民とは区別されたが、解放奴隷の子は生まれながらにして、ローマ市民で法的に同等に扱われた(p121)
・人間が自ら進んで働くには、1)未来への希望、2)勤勉に働いたことが正しく評価される仕組み、が必要である。ローマにはこれが2つともあり、ソ連にはなかった(p125)
・属州化された後も、指導者や法を元のままに保てた、1)どの都市もローマとは取引できるが、他の都市とは取引できない、2)ローマ軍に兵士を提供する(p127)
・インドネシアでは日本人が好意的に迎えられたが、日本軍はその期待に応えられず、田中角栄が訪問したときは大規模な反日デモが起きた、寛容政策で統治した地域は、台湾のみ(p132)
・異質性が必要である理由、1)同じ人ばかりだと内輪の論理、なあなあ主義が蔓延する、2)既得権益保護が最優先事項となる、3)外的条件が大きく変化したとき異質性が生き延びるための保険となる(p142)
・日本の財政問題は、税負担が高いことではなく、税負担を上げられずに支出のみが膨張して支出に見合う税負担をしていないこと、ある時国債が貨幣に変わることでインフレが生じて、それにより財政赤字の実質値が解消されるという危険が最も高い(p152)
・企業がビジネスモデルを簡単に転換できないのは、過去において成功した部門の人々が、客観的状況が変わっても、社内で強い力を持ち続け、その部門の存続を要求するから、ビジネスモデルを変えるとは、仕事のやり方・技術を使いつつ、新しい対象に適用すること(p156、170)
・ローマ帝国が衰退したのは、1)ハドリアヌス帝による帝国拡大路線放棄、2)二人のセウェルス帝による銀貨改悪、3)ディオクレティアヌス帝による価格統制、市場経済の機能不全、である。この過程は現代の日本に似ている(p183)
・コンスタンティヌスは単独皇帝となり先制君主制を強化した、またミラノ勅令によりキリスト教を公認した、これでローマ市民は司教になる新しい出世コースができた。330年にはビザンチウムに遷都した、囲碁1000年にわたり世界最大の商業都市として繁栄した(p210)
・293年にディオクレティアヌスが東西に分けて以来、395年正式に東西に分割された(p211)
・誰でもローマ市民になれる、ローマ帝国はどこまでも広がる世界である、という最盛期の寛大な思想は消え失せた、この不寛容の強まりこそが、���ーマ帝国崩壊の最大の原因であろう(p215)
・市場経済は人々の創意を刺激して交易を促進して経済を活性化させる、統制された経済では、人々は抑圧され取引は闇市場にもぐって活力を失う、これはローマ帝国の時代に実証された、スターリンがソ連に秩序をもたらした方法と一緒(p221、223)
・巨大化しつつあるEU,ECBは旧ソ連を彷彿させる、ソ連崩壊の原因は、共産党による一党独裁と中央政府の官僚主義の下で生産手段の国有化、計画経済が進められたから(p232)
・戦前期日本経済の分権的・市場経済的性格を大きく変えたのが、戦時体制である、国有化・間接金融、1942年の食糧管理法により小作人の地位が高まった、物納から小作料が金納、インフレにより実質価値が低下(p240)
・企業に帰属しえない若者たちは、日本国に依存が強まる。それは外国人に対する強い嫌悪感と結びついている(p243)
・ローマが属州を強権的に支配するというのは映画によるイメージ、実際には異質なものを認める分権的な平和主義がローマの強靭さを支えた(p244)
・国の活性化とは、人口を増やすことではない、達成すべき何等かの目標を持つこと(p256)
・ポルトガルは、ギニア・セイロン・ゴア・マカオ・ティモールなど、点の領土を獲得したのに対して、スペインは広大な「面=中南米」を得た。ポルトガルは植民事業から締め出された。ポルトガルは、コロンブスの要請、マゼランの要請を断り、スペイン王室に援助を求めた(p259)
・マゼラン艦隊は胡椒を持ち帰っただけだったが、ドレイクは海賊行為(主にスペイン戦から略奪)によって60万ポンド(当時の王室年収は20万ポンド)の財宝を持ち帰った、出資者は4700%の収益、女王は30万ポンドを得た、4.2万ポンドを使って「トルコ会社=後の東インド会社」が設立された(p271)
・スペイン艦隊はカレー沖において錨を下して停泊、イングランド軍は可燃物を満載して火を放った船を送り込んだ、スペイン艦隊は大混乱に陥り、1か月かけてサンタンデールに辿り着いた。130隻だった艦船は63隻、3万人いた軍隊は1万人(p279)
・比較生産費という概念、リンゴ1個の生産を減らせば、ミカンの生産が何個増えるかを示すもの(p285、286)
・イングランドのビジネスモデルは当初は海賊による略奪、奴隷貿易であったが、海洋国家がその後も繁栄をつづけられたのは、自由貿易のため、リカードが比較生産費の理論を考え出して、反穀物法運動を理論的にバックアップした、仕事の分担を考えるとき、絶対生産費は見るが、比較生産費を見ないため間違った行動をしている(p287、288)
・日本は人工が多いので、経済成長のために輸出に頼る必要はなかった、輸出が必要と考えられるようになったのは、最近で、これは人口高齢化の影響で、国内需要が飽和したから(p303)
・2005年1月、グーグルがIPOした半年後に、世界最大のATTは160億ドルで、以前ATTから分割してできた地域電話会社に買収された。新会社名は同じ名前が使われた(p327)
・仮にIBMがOSとCPUを自社開発していたなら、システム360がメインフレームを支配したように、PCの時代においても、IBM PCが支配していただろう。それを外注したのは、開発を急いだからと言われる、PCの重要性を見抜けなかったのがIBMの失敗、かつてウエスタンユニオンが電話の将来性を見抜けず、ベルからの電話特許権譲渡を断ったのと同じ(p335)
・日立、IBMはビジネスモデルの転換で黒字化した、IBMはサービスに転換、日立は重電路線に転換した、利益幅はIBMが4.7倍となった(p342)
・マイクロソフトにOSの開発経験はなかったので、独自開発をしていた、シアトル・コンピュータ・プロダクツのQDOSを買い取り、IBM PC用に改良してPC-DOS、さらにこれを、MS-DOSという名称で他のPCメーカに供給した、買い取り価格は5.6万ドル、後に訴訟をおこされて100万ドルを支払った(p344)
・MS-DOSを安く提供したが、出荷台数に対して使用料を受け取るライセンス契約にした、また他メーカへの供給も自由とした(p345)
・OSの技術情報を公開したアプリケーションが豊富なMD-DOSのPCが選ばれた、MS-DOSが世界標準になったのはこのため、ソニーのベータ方式がVHS方式に敗れたのは、ビクターがVHS方式を公開したのに対して、ソニーが公開しなかった(p346)
・2000年のソニーはアップルとは比較にならない程の大企業であったが、2017年にはアップルの6%程度、その原因としてアップルは革新的な製品を次々と作り出した。人々のライフスタイルを変えただけでなく、ものの考え方も変えた。人々の期待感も変えた(p350)
・アップルへの供給メーカの構成は、固定的ではなく他メーカへの切り替えもなされる。自動車産業のような固定的な下請け関係でない、市場を通じて部品調達するという水平分業方式(p351)
・低付加価値の生産・組立工程はアウトソース、アップル自らは開発・販売という高付加価値業務に特化する、工場無きファブレス企業である、製造業とサービス産業の中間のような形(p351)
・アップル、ビジオ、Goproも、最初にあるのは多数の従業員ではなく、実現したい製品である。そしていかに少数の従業員で実現できるかを模索する。この差が利益の明確な差となって表れている(p365)
・どこを無料にして利用者を増やし、どこを有料にして収益を得るのか、というビジネスモデルの選択は難しいが、その選択に成功したのがアリババ(p389)
・信濃丸は日本郵船の貨客船であるが、1905年の日本海海戦で仮装巡洋艦として哨戒にあたり、5月27日未明にバルチック艦隊と接触、「敵艦見ゆ」との無線通報を送信した。この無線通報は、海戦の帰趨および日本の歴史に重大な影響を与えた(p398)
・番組の間に宣伝を流し、広告料収入で放送費用を賄う「ビジネスモデル」が、それまでの「直接料金徴収型」から変化した(1922年)、これによりテレビが普及した(p399)
・ネットスケープは有料だったブラウザを無料化して、マイクロソフトのIE(インターネット・エクスプローラー)に対抗しようとしたが、ウィンドウズはすでにPCの標準OSとなっていたので、IEがそれに組み込まれれば、人々は自然にIEを使うようになり、ネットスケープは敗退した(p406���
・フリーミアム、大多数の利用者には無料でサービス提供、一部の利用者だけに有料サービスを提供する方式、PDFがその例(p407)
・グーグルはアドワーズ広告の効率を上げるために、広告が表示された回数(テレビのCPM:cost per Mille」ではなく、実際にクリックされた回数に基づいて決める「CPC=cost per click」に変えた。グーグルは、1)クリック率、2)コンバーション率、3)顧客獲得単価、を提供することで、広告主も広告の効果を正確に評価できる(p417)
・どの位置にどの広告が掲載されるかは、入札金額でなくグーグルが決めるスコアで決定される、これにより「押し付ける広告」から「求められる広告」への誘導が可能となった(p418)
・2003年6月からは、中小零細のウェブサイトもアドセンス広告の対象となり、ホームページ運営者は、広告を集める努力をしなくても、自分が得意とする情報を発信しているだけで、広告収入を得られるようなった。こうして個人のホームページやブログが定期収入を得られるようになった。アドワーズにより自らの検索サービスを収入源へ、アドセンスは零細個人が広告業者になることを可能にした(p421)
・歴史を知り、その教訓に学んでも成功するとは限らない。しかし失敗の確率を減らすことはできるだろう。なぜなら成功と失敗は非対称的だから。失敗するのは簡単だが、成功するのは難しいから(p439)
・歴史を学べば、どの時代にも適用できる歴史的法則を見出すことができるから、それを見出した人はその法則を用いて将来をよく見通すことができる。ある変化が社会を大きく変えるものなのか、それとも一時的なものなのかを把握できる(p445)
2017年11月26日作成
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全体の半分くらいがローマ帝国のはなしで、世界史に詳しくない身としてはほんとにつらかった。
歴史を学んでも成功するわけではないけれど、失敗から、失敗しないための術を学ぶことができる
多様性や変化をさけると、失敗する
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何が変わっているかよく理解できないけど、確かに何かが変わっているこの激動の時代の中で、生き抜くにはどうしたら良いか? という素朴な疑問に適切なアドバイスをくれる本。
歴史的な成功より、失敗から学ぶことの方が遥かに重要で大切だと教えてくれる。
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レビュー『世界史を創ったビジネスモデル』(野口悠紀雄)
序章〜「ローマ帝国のビジネスモデル」〜「海洋国家のフロンティア拡大」迄は
歴史を「成功」と「失敗」の切り口語ってくれているので、知っていたはずの歴史もひと味違ったものに感じられたが、それを現代のビジネスモデルの解説になった部分から、新鮮さが感じられなくなってきた。
それは、前半部分で歴史を語りながら、現代のビジネスを参照してきたことが、後半部分で再度重なって語られているように感じられたことと、後半部分でのビジネスモデルの紹介が、前半のローマ帝国の解説に比べて軽く感じられてしまったからかもしれない。
ちょっと厳しい指摘になってしまったように思えるが、それはこの序章で書かれていた『人間は誰でもある時期になれば過去を振り返伝みたくなる。それは、自分自身もその一員である人類という種族が、これまで辿ってきた道がどんなものであったかを知りたいという欲求だ。
歴史の知識を蓄積すれば、これまで知っていた事柄が、新しい光の中で照らし出される。それまでバラバラに把握していたことがつながる。関連性が分かり、一つの大きな構造の中に位置付けられる。
それはあたかも、ジグゾーパズルで絵が浮かび上がるようなものだ。あるいは。クロスワードパズルで文字がつながるようなものだ。ある時、一気に理解が広まる。』という凄くイメージを膨らませる言葉がそこ重みになって、期待を抱かせすぎていたのかもしれない。
そして、経済学博士号を持つ著者が時おり語たる映画の脱線も面白かったが、やはりローマ帝国の反映と衰退を分析している箇所が、歴史家とは違って面白かった。そのひとつがよくいわれる多様性の重要性を説明してる部分、大事だといわれ、それを受け入れてはいるが、「why?」とどこかで思っていた。そんなことへの回答として書かれていた。
【なぜ異質性や多様性がある必要なのか?】
①同じ人ばかりだと、「内輪の論理」「仲間内の論理」「なあなあ主義」が蔓延しやすい。同質の人ばかりだと、遺伝子が劣化しやすい。不祥事はこういった体質の企業で発生する。
②既得権益保護が最優先事項となり、企業のビジネスモデルを変更できなくなる。新しい事業に着手するのは難しいし、古い事業を切り捨てるのは絶望的だ。このため、組織は硬直化し、衰退する。
*80年代頃。日本企業の「企業一家」的な同質性が、高く評価された。ただそれは、大量生産というビジネスモデルの大枠が既に出来上がっていて、それをいかに効率的に実行するかだけにあったからだ。革命的な進歩よりは、積み上げによる改善が重要だった。
③外的条件が大きく変化した場合、異質性が生き延びるための最終的な保険となることにある。極度に環境適応した「最強メンバー」では環境が激変すると、生き延びられない。だから、異質なものを積極的に残しておく必要があるのだ。
恐竜時代の哺乳類が、異質なものとして現在に我々を残している。
(「周囲の人には彼らが日本で暮らすのは大変なんだから」と包容力のあるフリをしながら、しっかりと鍵をかけたかを確認して街に出て、彼らの行動に必要以上に注意を払ってしまう)
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ローマ帝国のアウグストゥスによる優れた設計や、エリザベス、近代の巨大ビジネスの祖の先見など、歴史雑学を紹介。
マルクス的唯物論世界観の歴史主義には批判する立場にたつが、歴史上の「失敗事例」には学ぶべきだという主張。
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17.6.23 ビジネスブックマラソン
こんにちは、土井英司です。
「一気に読みました」というのは、本にとって最高の賛辞の一つで
すが、「読み終わるのが惜しくて、ちびちび読みました」もまた、
最高の褒め言葉ではないでしょうか。
本日ご紹介する、野口悠紀雄教授の『世界史を創ったビジネスモデ
ル』は、最近読んだ中では最も「読み終わるのが惜しくて、ちびち
び読んだ」一冊。
ローマ帝国からヨーロッパ海洋国家のビジネスモデル、さらには最
近のIT企業のビジネスモデルまで、広く「ビジネスモデル」を論
じており、目からウロコの内容でした。
経済学者のフィルターを通して世界史を見ると、一体どう見えるの
か。これは、塩野七生さんの一連の著書に匹敵するほど読み応えが
ありました。
「多様性の確保」と「フロンティアの拡大」が、なぜ国や企業にと
って重要なのか。誰でも受けいれる合理的な寛容さとフロンティア
拡大で成功し続けたローマ帝国の事例に、指導者は学ぶべきでしょう。
そして圧巻は、数百年先を見通し、平和時代のビジネスモデル(=
通商)を開発し、後の海洋国家のモデルの基礎を創った「国造りの
天才」アウグストゥス。
本書を読んで、彼がなぜ歴史上最高のリーダーとして尊敬されるの
か、その本質がわかった気がしました。
ビジネスモデルとは何なのか、それが機能するには何が必要なのか、
著者の慧眼も、本書の読みどころです。
さっそく、しびれる内容をチェックして行きましょう。
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「ビジネスモデル」という概念は、企業だけでなく、国にも当ては
まる。国がどのような活動を行なうかは、ビジネスモデルの選択と
考えることができるのだ
重要な概念は、「多様性の確保」と「フロンティアの拡大」である。
多様性を実現できた国や企業は、できなかった国や企業に対して優
位になることが多い
ローマを支える柱は、軍と奴隷である。軍を養うには税収が必要だ
し、退役後の兵士に与える土地を獲得するには領土を拡張する必要
がある。これらは周辺地に侵略し、征服することで得られる。そし
て、戦争は奴隷の最大の供給源だ。つまり、戦争はローマにとって
の中核的「ビジネス」なのである
公共施設といえば国や地方公共団体の予算で建設するものだと我々
は思っているが、ローマでは、実力者が私費を投じて作ったのだ
ローマとアメリカの類似点は、以上にとどまらない。もっとも重要
な共通点は、戦争後の対外政策にある。それは、よく言えば「寛容
主義」であり、やや否定的なニュアンスを含めて言えば、「敗者同
化主義」だ
人間が自ら進んで働くには、第1に未来への希望が必要だ。そして
第2に、勤勉に働いたことが正しく評価される仕組みが必要だ
アウグストゥスは、それまでの空間的なフロンティアの拡大が限界
に来たことを知���、それに代わる新しいフロンティアを、通商の拡
大に求めようとした
時代精神を体現したビジネスモデルが生まれるのは稀だ。現代で言
えば、その稀な例が、iPhoneの登場だ。これが画期的であったの
は、もちろん、それが優れた装置であり、便利だからである。ただ
し、それだけでなく、時代の精神を体現しているからだ
優れたビジネスモデルは、単に金を儲けるだけのものではない。ま
た、余剰労働力を活用するだけのものでもない。そこには、人々を
燃え上がらせるものが含まれているのだ
広い領土は持たず、国を全世界に向って開放する。そして、貿易を
中心的な産業とし、少数精鋭で大きな収益を実現する。これは、広
い領土と多数の国民を持ち、主要産業は農業である大陸型国家とは
異質のものだ。海洋国家は、ヴェネツィアやポルトガルが意識して
採用した、国としてのビジネスモデルなのである
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近年稀に見る日本人著者による力作であり、かつ今後の日本の方向
性への示唆に富む内容でした。
首相を含め、政治家は必読。
企業経営者も、起業家も、読めば歴史上の偉人たちが創り上げた
「ビジネスモデル」のすごさにしびれ、テンションが上がる内容です。
ぜひ読んでみてください。
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『世界史を創ったビジネスモデル』という題でローマ帝国と海洋国家から入り、IBMやGoogle、マイクロソフト等々のビジネスモデルに繋いでいくとはなかなか斬新かつ大胆だ。Googleやマイクロソフト等々のビジネスモデルがいつまで続くか分からないが、まだ会社が出来てたかだか30〜40年だ。確かに素晴らしいビジネスモデルであり、誰もが出来ることではない。しかし今や世界は70年代にインターネットが世に出てから様々な分野で技術革新が起き、それぞれの技術革新がインターラクティブに作用して更に新しい技術革新が起きている。しかもそのスピードたるやエクスポネンシャルだ。GoogleもマイクロソフトもAmazonも世界の変化のスピードにいづれ追いつけなくなる時が来るだろう。筆者がローマの成功モデルは柔軟なダイバーシティさが作用して、1500年も続いたと言っているが、既存の成功パターンからの脱却、脱皮をダイバーシティを通じてやって行っても100年がやっとかもしれない。企業は全く別の会社にならないいけないことも排除しないくらいでないと生き残れないかもしれない。
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世界史を創ったビジネスモデル(新潮選書)2017/5/26
地方分権化と市場メカニズムの活用、寛容主義が日本に必要
2018年5月8日記述
野口悠紀雄氏による著作。
2017年5月25日発行。
本書は2014年6月から2016年8月にかけて週刊新潮に
連載した「世界史を創ったビジネスモデル」をまとめたものである。
はじめにでも著者が指摘しているのだけれども
それまでよく知られている歴史上の事実であっても、
別の分野の専門家がその分野の観点で見ると、
新しい歴史像が浮かび上がってくることを示している
というのが本書のコンセプトだ。
本書を読んでいて井沢元彦氏の逆説の日本史や
磯田道史氏の著作などに通じるものがあると思った。
それは非歴史家故に出来ることなのだろう。
だからこそ無意味に難しくなっていないとも思えた。
昨年ヒットした応仁の乱を書いた呉座勇一氏には
本書のような読者を意識した文章というものを理解して
貰いたい所ではある。
参考になって点をあげていくと
成功するための法則を見出すことは難しい。
見い出せても、その応用は難しい。過去に成功した
ビジネスモデルをそのままの形で真似ても成功するとは限らない。
それに対して、失敗を避ける方法は、比較的容易に見出すことが出来る。
そして、その知識は、広い応用可能性を持つ。
失敗の原因を知り、それを避けることは、誰にでも出来る。
多様性を否定した国や企業が失敗する例はきわめて多い。
失敗しなくても、徐々に衰退することはほぼ間違いない。
つまり、多様性の確保は、組織の成功にとって、ほぼ間違いなく必要条件である。
ローマ帝国が崩壊した基本的原因は、異質なものを排除するようになったことだ。
現代ではナチスドイツの異民族排斥政策がその典型だ。
企業も多様性を失うと1980年代のIBMの例に見られるように衰退する。
分権化を実現する手立ては、経済的な問題については
市場メカニズムの活用であり、政治的には分権化である。
カエサルが投降者を寛大に扱うことは、広く知られている。
現に、カエサル軍にはガリア人の兵士すらいる。
それを見れば、降伏したところで残酷な扱いは受けず
むしろ歓迎してくれるだろうと期待できる。だから、戦局のわずかな変化をきっかけにポンペイウス軍から大量の投降が発生し総崩れになったのではないだろうか?カエサルの寛容性はポンペイウスとの戦いで決定的な重要性を持っていたことになる。
ローマの指導者として要求される条件を繰り返せば、
第一には兵士と市民に対して物質的な報酬を約束し、それを実行できること。
第二には正当性を獲得することだ。しかしそれだけでは十分ではない。
国家の理念、あるいは将来のビジョンを提供する必要がある。
しかも空虚な絵空事ではなく、説得力のあるものを。
人は誰も自分の能力を正しくは評価できない。
アウグストゥスが見出したローマの新しい��ジネスモデルは通商の拡大であった。
経済活動に対して国家が干渉しなかったことだ。
エジプトのように交易と工業を国営化し、国家の独占事業とするようなことはしなかった。
軍事的拡大のモデルには、いつか限界が来る。
しかし、通商の拡大というモデルには限界がない。
空間的拡大が終わったとしても、通商の内容を充実させることが出来るからだ。
強権的収奪モデルを長期にわたって継続するには膨大な
軍事コストが必要であり、現実的ではないのだ。
なぜ交易するだけで価値が生まれるのか?それは自然条件が地域によって異なるので、分業によって特定分野に特化するほうが、全体の生産が増えるからである。
交易の利益、あるいは分業の利益とは、18世紀から19世紀にかけてアダム・スミスやデイビッド・リカードが定式化した概念である。
リカードが言うように、分業して交換すれば、どちらも豊かになる。
経済の繁栄は、それによってもたらされる。
現代のドイツが他のヨーロッパ諸国を支配し搾取しているという説明は、事実とは異なる。
それは、ローマ帝国が属州を支配したという見方と同じように、誤りだ。
ドイツの一人勝ちだと、よく言われる。
ドイツに貿易黒字が生じているのは事実だ。
しかし略奪しているから生じているわけではない。
貿易とは、言うまでもなく経済的等価交換である。
しかも、ドイツは貿易黒字を溜め込んでいるわけでもない。
ターゲット2と呼ばれるユーロ加盟国間の決済システムを通じて、赤字国に貸し付けているのである。
貿易収支そのものについても、ドイツがEUから利益を得たという見方には、疑問がある。
ドイツの貿易収支が巨額の黒字であることは事実だが、EUがなくてもそうなっていた可能性は高い。
EUが存在するために、ドイツは農産物をフランスから輸入しなければならないという事情もある。
しかし、もっと条件の良い輸入先が域外にある。
だから、ドイツは世界を相手に自由貿易するほうが有利だろう。
(関税同盟を作ることがかえって事態を悪化させるというこの効果は関税同盟の貿易阻害効果と呼ばれる)
しかしながら、第二次大戦を引き起こしたという歴史的な責任があるのでドイツはEUを尊重せざるをえないのだ。
日本はローマが豊かになり、そして衰退した過程を、
それよりずっと短い時間の幅の中で再現した。
だから、ローマがなぜ繁栄し、なぜ衰退したかを知ることが重要である。
ビジネスモデルという観点に立つと、「何がなかったか?」は
大変重要な問いだ。なぜなら、現代の国家にはあるがローマ帝国にはなかったものは、現代の国家にも不必要かもしれないからだ。
ローマ帝国には(少なくとも初期においては)巨大な官僚機構が存在しなかったことだ。
アメリカと古代ローマは、議会の名称や外観だけでなく、政治システムの基本思想において似ている。
そして、それは偶然ではない。
アメリカ建国の父たちが、古代ローマを意識して新しい国を設計したからだ。
ローマとアメリカの類似性は、以上にとどまらない。
もっとも重要な共通点は、戦争後の対外政策にある。
それは、よく言えば「寛容主義」であり、やや否定的なニュアンスを含めて言えば、「敗北者同化主義」だ。
ロシア兵(ソ連軍)が夕刊だったのは、ローマ兵が退役後の夢にひきつけられたのとは全く違う理由による。
それとは正反対に、絶望と恐怖のために勇敢にならざるを得なかったのである。
1940年初め、逃亡と戦線離脱で赤軍が崩壊しそうになったとき、NKVD「ザグラドオリャードイ」という特殊部隊が作られた
(NKVD 内務人民委員部とは国家保安委員会KGBの前身の戦時中の呼称)
その任務は、戦闘部隊の後方に位置し、逃亡兵を射殺すること。
彼らは、普通の兵士が持っていない機関銃を持っていた。
1942年7月には、命令227号により「封殺部隊」が設立されてザグラドオリャードイを補佐し、逃亡兵や突撃に後れを取る兵士を容赦なく射殺した。スターリングラードだけで数週間で1万人を超える兵士が銃殺された。兵士は、後退のほうがずっと危険だと思い知らされていたから、武器を持たず素手のままでも前進したのだ。
また捕虜になれば、仮に帰国できてもスパイ容疑を追及され、人生は終わりになる。
(部分的個人的感想)****************************************
・・・このソ連軍の実態はかつて小林よしのり氏が1998年に出した
戦争論に中国国民党、中国共産党軍の実態として紹介していた実態と酷く酷似している。
正直言って第二次大戦はアメリカ兵以外では戦勝国、敗戦国関係なく全員敗者だとしか言いようがない。
誰もが不幸だとしか言えない。
第二次大戦でソ連の異常なまでの死亡者数もこれで納得できるというものだ・・・
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しかし、恐怖によって支えられる体制を長期に継続することは出来ない。
ソ連が70年しかもたなかったのは、当然のことだ。
ローマの奴隷のほどんどは一生奴隷だったが、中には解放された者もいた。
人は絶望すれば働く意欲を失うが、希望があれば苦しみに耐えられる。
だから、働くインセンティブを与え続けるため、解放の可能性は重要な手段だった。将来の夢を与えて働かせたという意味で、軍の場合と同じメカニズムだ。しかも、主人は身近にいて、個々の奴隷の働きぶりを詳しく観察できる。
巨大組織での勤務評価とは違って、ごまかしがきかない。
秘密警察こそ、ソ連の中核的組織であり、そしてローマ帝国にはなかったものの典型だ。
現代日本企業はソ連の強制収容所や集団農場とは違うし、日本の会社員は奴隷ではない。
しかし、だからといって、以上で述べたことが現代の日本に無関係だとは言えない。
人間が自ら進んで働くには、第一に未来への希望が必要だ。
そして第二に、勤勉に働いたことが正しく評価される仕組みが必要だ。
ローマにはこの2つともがあり、ソ連には2つともなかった。
では、今の日本はどうだろうか?
ローマの偉大さとは、制服の迅速さでも、広さでもない。
属州の統治に成功したことだ。統治は概して属州の住民にとって善政であり、彼らの生活水準向上に寄与した。だから彼らは属��化を喜んで受け入れたのである。
寛容主義は、最強国となるための必要条件だ。
歴史的事例を見れば、これが正しいことは、疑問の余地が全く無い。
現代社会での反面教師は、ナチスの劣等民族根絶政策だ。
それは、馬鹿げたほどに高くつくものだった。
もっとも大きなコストは、優れた技術者がドイツやハンガリーなどから
逃げ出したことだ。彼らの多くはアメリカにわたり、
その科学技術水準を短期間の内に飛躍的に向上させた。
寛容政策は、受け入れる側にとっても一定の資質を必要とする。
カエサル流戦略(寛容主義)は現代においてももちろん有効だ。
政党や会社の中の派閥争いなどでは、相手の寛容政策に
ひきつけられた内部崩壊が、帰趨を決める。
有能な社員を他社から引き抜く際にも、重要な要素だろう。
寛容政策に対する最大の敵は、国内における反対勢力なのである。
自分たちの既得権が侵されるから反対する。
寛容政策を取れるかどうかは、国内反対勢力との戦いだ。
だから誰にでも実行できるものではない。
異質なものを受け入れ、自らの中に取り入れて、国を強くすること
異質なものと共存するのは、決して容易ではなく、常に緊張を伴う。
だから、人々は同質なものだけで集まろうとする。
それによって結成されるグループのメンバーは、価値観を同じくする人々であり、仲間であり、お友達だ。
しかし、コストがあっても、なおかつ異質なものを認めることにはプラスがあり、プラスはマイナスを上回る。
これを意識するのが、「異質性や多様性の尊重」だ。
組織のとって異質性や多様性が必要である第一の理由は、同じ人ばかりだと「内輪の論理」「仲間内の論理」「なあなあ主義」が蔓延しやすいことだ。同質の人ばかりだと、遺伝子は劣化するのである。
不祥事はこうした体質の企業で発生する。
現代に日本では、東芝の不正会計、三菱自動車やスズキのデータ偽装など企業の不祥事が続いている。東芝や三菱自動車の不正は、上司の命令が絶対的で逆らえなかったから起きたと説明されている。
しかし、これは多くの社員の協力なしには出来ないことだ。
不祥事は、同質集団だからこそ起きる問題である。
それを改善するために社外取締役制度を導入したが、チェックすることは出来なかった。
第二の理由は、同じ人ばかりだと、それらの人々の既得権益保護が最優先事項となり、企業のビジネスモデルを変更できなくなることだ。
新しい事業に着手するのは難しいし、古い事業を切り捨てるのは絶望的だ。
このため、組織は硬直化し、衰退する。
異質性が必要とされる第三の理由は、外的条件が大きく変化した場合異質性が、生き延びるための最終的な保険となることだ。
最も優れたものだけを集めるのでは、保険として機能しないのである。
時代を代表する文化は、数人の優れた創作者がいても形成できない。いかに彼らが優れていたとしても、その時代の大部分の人が権力者と同じ方向を向き、賛同し、高揚するという動きがなければ、生まれない。そうしたことが実現するのは、誠に稀有なことである。
ローマ帝国における都市は、ほとんど完全な自治を享受していた。
帝国の官僚機構が地方の都市の事柄に介入することは、極めて稀であった。
このために、ローマ帝国は、広大な領域をごく少数の官僚機構で支配することができたのだ。
ローマ帝国は、自治を行なう諸都市の連合と、その上にはめ込まれた絶対的な君主制との混合物だったのである。
日本の地方都市は、排他的であり、地域外から移住者を迎えて成長したわけではなかった。排他的である半面で、財政的には国に依存した。
日本の地方都市に決定的に欠けていたのは、財政的な地方分権と地方自治である。
このために、地方都市の多くは、ローマ植民地のように発展するのではなく、個性を失って、衰退していったのだ。
ローマ帝国が衰退した理由
(なぜ大国は衰退するのか グレン・ハバード、ティム・ケイン)
1ハドリアヌス帝による帝国拡大路線の放棄
2二人のセウェルス帝による銀貨の改悪。その後の皇帝たちも、軍事費のために通貨改悪に頼った。
3ディオクレティアヌス帝による価格統制。
これによって市場経済が機能不全に陥った。
もっとも、日本はトランプ発言以上に移民に対して拒絶的であり、異質のものを認めようとしない。それを考えると、われわれには、トランプ発言に対してあまり批判的なことを言う資格は無いと思われる。
市場経済は、人々の創意を刺激し交易を促進して、経済を活性化させる。統制された経済では、人々は抑圧され、取引はヤミ市場にもぐって、経済は活力を失う。このことが、すでにローマ帝国の時代に実証されていたのである。
スターリンがソ連に秩序をもたらした方法は、ディオクレティアヌスが
ローマに秩序を確立したやり方と同じであって、いずれ崩壊するものだったからだ。
ソ連はローマ帝国後期の歴史に学ぶことが出来なかったのだ。
計画経済が何かを知るには、ソ連のアネクドート(小話)を見るのが一番よい。
「君たちは働いたふりをしろ。われわれは給料を払ったふりをするから」
もっと体系的にはつぎのとおり。
「失業はないが、誰も働かない。働かないが、給料は貰う。給料は貰うが、何も買えない。何も買えないが、何でも持っている。何でも持っているが、不満だらけ。不満だらけだが、選挙では現体制に投票」
ところが、おかしなことに、現在の日本では、政府の統制を是認する考えが強まっている。安倍晋三内閣は、官民対話と称して春闘に介入し、民間企業の賃金を引き上げようとしている。
国は一度停滞しても復活することがあるという事実は我々を勇気づけてくれる。
分権化と市場メカニズムの活用こそが、悪政から国家と
経済活動を守る最も強力な手段なのである。
企業に所属し得ない若者たちは、どこに拠り所を求めるか。
それは、学校で教えられてきた概念である「日本国」だ。
国が彼らを守るというのは幻想にすぎないのだが、国に対する依存が強まる。
歴史上初めて、人々が国に帰属意識を持つようになったのだ。
それは、外国人に対する強い警戒感���密接に結びついている。
戦争が採算に合わないのはいつの時代にも変わらぬ真理であり、そうした考えが政策を手動する国では、軍部の暴走は起こらないのだ。
「外に開かれた部分」に対して日本社会が関心を持ち、彼らをはぐれ者にせず、その発想を日本社会の改革に役立てられるなら日本は大きく変わるだろう。
我々は、失敗したビジネスモデルや敗北した英雄の物語に、もっと注目しなければならない。
企業が失敗する理由も様々だ。
新しい技術の価値を評価せず、古いビジネスモデルに固執すること。
異質性を排除し、同質の人々のグループになってしまうこと。
短期的利益にとらわれて、長期的見通しを失うこと、等々。
いまの日本では、分権的な制度が機能しておらず、
官僚機構が肥大化している。国全体も地域も企業も、
異質なものを排除し同じ仲間だけで集まろうとする。
古いビジネスモデルに固執して、新しい技術の導入を怠っている。
異常な金融緩和策で財政支出をまかない、企業は国の介入に依存するようになってきている。
これらはきわめて深刻な兆候だ。
しかし無視ないしは軽視されている。
日本は歴史に学ぶことができるだろうか?
ドナルド・トランプ米大統領は、自由な貿易を否定し、
伝統的な製造業をアメリカに復活させることによって、
失業した労働者に職を与えようとしている。
そして、移民や外国人労働者に対して非寛容的な政策を取ろうとしている。
こうした政策が失敗することは、火を見るより明らかだ。
このような政策がアメリカを強くすることなど、決して無い。
それは、確実にアメリカの産業力を弱めるだろう。
トランプ米大統領の政策は、控えめにいっても時代錯誤の復古主義だが、国のビジネスモデルの基本から見ても明らかに誤りだ。