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手描き文字2100余りがズラリ。デザイナー稲田氏が生前手がけた、雑誌、広告、飲み屋の看板などに使われていたと思われる手書き文字のサンプル集だ。ひとつひとつのレタリングに作者のコメントが載っており、使用した筆や描き方のコツが書かれているのだが、同じようにできるかどうかわからない。「丁寧にゆっくりと」「デッサンをしっかり」と添えられた文から、多忙な仕事の中にもプロ意識が垣間見える。
これだけの描き文字をオリジナルで作るというのは、途方もない作業だろう。どこか懐かしく、幼少の頃もどこかで目にした文字たちにノスタルジーを感じる。今ではあまり言われない「出血大サービス」「いがぐり頭の坊主」「ヤング」などの文言にも昭和という時代に思いを馳せる事ができる。
現代はワードでも入力すればそこそこのフォントがすぐに出てくる。商用されていたこれらの手書き文字は、筆やコンパスやホワイトでじっくりデザインされたものだ。絵と同じと言って良いくらい時間も手間もかかる。効率化と無縁の世界だが、こういった手仕事がどうにか残っていかないものかと、ここのところずっと思っている。