紙の本
曇りのないベートーヴェンの実像を解き明かす好著
2023/09/25 21:24
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投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
老師ハイドンには歳若い弟子ベートーヴェンが紡ぐ新しい音楽は、世代の違いに根差した「違和感」を伴って聴こえたようだが、著者はこれを「感性の衝突」だとする(76頁)。
伝記作家による挿話(ベートーヴェンは醜男で狂人じみた人物ゆえに求婚を拒絶された)は信憑性が乏しい(85頁)。モーツァルトもナポレオンも短躯だし、医療衛生面の劣悪な時代に、痘痕(あばた)や若禿げ、器官の欠損・変形は避け難い。
歌手や演奏家という芸術愛好の同志やピアノ指導の生徒たる上流階級の令嬢たちとの社交界での交際や無頓着な振舞いこそが、ベートーヴェンの自由な精神が許す真骨頂なのだ。
「本質的な意味での自由人であって、出来合いの社会的制約に自分の本性を馴化しようとせず、またすることができなかった人だったのではないか」(91頁)との著者が描くベートーヴェン像に説得力があり、本質をつかんでいると思う。
本来快活で冗談好きなもじゃもじゃ頭のベートーヴェンが、沈鬱無口な気難し屋として広く伝播されたのも、晩年の秘書役アントン・シンドラーの偏見と誇張に満ちた伝記と筆談用「会話帳」頁の破棄・改竄によるという。遺品が悪意ある者の手中に落ちたことが惜しまれる。
品行悪く、節制や歯止めが利かなかった破滅型の天才モーツァルトと違って、ベートーヴェンは天性の弱さを自覚し、「先人に学び、自らの内なる力でそれを克服しつつ理想の人間性をめざして生涯努力すべきだ」(93頁)との人生哲学を信奉した。
「ハイリゲンシュタットの遺書」に示された如く、聴覚喪失という「不幸」を背負って死ぬのではなく、「芸術」の才能を活かして己の音楽の天分に生きる道を選んだ覚悟覚醒の人だと言ってよい。
本書は丹念な史料探求と熱意溢れる記述で、曇りのないベートーヴェンの実像を解き明かしてくれる好著である。
電子書籍
ベートーヴェンって、
2023/12/06 18:03
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
やはり天才だったんだなとあらためて思いました。数々の交響曲をはじめ、クラシック界で真っ先に名前が上がる人物ですが、手紙など史料からその実像が明らかになります。ベートーヴェンに関心がある方、オススメです。
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『ベートーヴェンの生涯』(青木やよひ、2009年、平凡社新書)
「生まれながらにこぶしをふり上げ、悲惨な境遇をものともせず、すべて独力であれほどの偉業をなしとげた超人的な天才」などと一般には理解されているが、本当のベートーヴェンの姿はあまり知られていない。
そこで、本当の彼の生涯を、「愛の喜びや苦悩や、あるいはためらいや絶望と共に、ありのままにたどってみ」るために本書は書かれた。
年少時代、ハイドンやモーツァルトの出会いから晩年の失聴の時代まで、ベートーヴェンの生い立ち、恋愛、作風、等を知ることができる。
筆者の深い研究には深く敬服するとともに、自分がまだ聞いたことのないベートーヴェンの楽曲も聴いてみようと思った。
(2009年12月29日)
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ちょっと思い込み、思い入れが強すぎはしませんか。ベートーベン相手に冷静になれるわけもないが。当時のパトロン・音楽家たちの交友や援助関係が細かく書かれているのは興味深い。
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私の中での「楽聖」ベートヴェンのイメージが、この本を読むことで「人間」ベートヴェンとして血の通った生き生きとした人物として立ち現れたよう。
様々な社会情勢や交友関係がつぶさに描かれていて語り口に説得力がある。浮かび上がってくるのは、時代の制約に囚われまいとして生きた自由人ベートヴェンの姿。
ベートヴェンの神の捉え方も興味深い(インドの聖典や宗教書などに深く共感。東洋的思想に惹かれていた?)。
バッハと同じように、彼もまた「己自身の神」に対して作品を奉げていたのだと思う。これがあるからこそ、現代でも多くの人々の共感を得ているのだろう。
しかし、「これまでの作曲家の中で誰が一番偉大か?」という質問に即座に「ヘンデル」と答えたというのは面白い。全ての作曲家の中で、最も模範的で完璧な人という意見だったとのこと。ベートヴェンとヘンデルの繋がりは、作品を通して、どこかに見出せるのだろうか。
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今から241年前の1770年12月16日頃に現在のドイツのボンで生まれたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、人類史上もっとも偉大なといっても過言じゃない作曲家ですが、深刻すぎてどうもとっつきにくいという人もいるようです。
美術ばかりか兵器までも守備範囲にした芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチもそうですが、その作品に接するだけでなく、どうしても人となりというか生き方そのものを知りたくなってしまう人物ですが、その通り期待にたがわず悲喜こもごもてんこ盛りの人生劇場の主役そのもので、けっして飽きることのない息をもつかせぬ波瀾万丈の生涯でした。
すでに私たちは、彼の伝記的なものはロマン・ロランの『ベートーヴェンの生涯』(岩波文庫)というすぐれた書物を持っています。
これは、単なる言葉の記述を超えた魂と魂の激しいぶつかり合いの記録といってもいいものですが、真の芸術家どうしの交感とはこういうものなのかと驚嘆したものでした。
本書は、そのロマン・ロラン全集の編集にも携わったことのある青木やよひが、50年余のベートーヴェン研究の成果をもとに渾身のちからを振り絞って書いた超力作で、おそらく今後この本を超えるものはそうやすやすとは出てこない気がします。
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ベートーヴェンというと、耳の聞こえない偏屈で恋愛に不器用な作曲家、ゲーテを嘆かせた野人、最後は孤独で悲惨、といったステレオタイプなイメージが刷り込まれている気がする。
この本は、資料を元に丹念にベートーヴェンの偉大な生涯を追った素晴らしい力作。
先に書いたようなベートーヴェン像を見事にひっくり返してくれる。
如何に彼が当時の中で先進的な思想を持ち、それを体現していたか。
どれだけ情愛深く、関わりのあった人を心配し、恩人に感謝を捧げる人であったか。
ベートーヴェンというと、堅い曲、というイメージがあるかもしれないが、彼は当時の他の作曲家が思いもしなかった様々な実験的チャレンジをし、さらには演奏では比肩する者がいない即興演奏家であった。そんなところを知ると、クラシック音楽演奏家にありがちな「楽譜通り」という言葉も少しばかり虚しくなる。
個人的には、先輩作曲家、サリエリとの交流が意外であり、またここでも固虚像を崩された。。何しろサリエリは、映画「アマデウス」でモーツアルトへの嫉妬に狂った凡才作曲家というイメージが流布しているのだ。サリエリは、尊敬を受ける作曲家であり、ベートーヴェンが若い頃に多大な援助をしたことから、とりわけ彼から敬愛される人物だったらしい。
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ベートーベンに詳しくない人が読むには少しマニアック過ぎる^^; 普通の伝記はいくらでもあるのでそれと同じようなことを書いてもしょうがないんだろうけど。
それにしても「ベートーベン」は歴史上最も偉大な人間の一人なんだと思う。誰も傷付けずただ感動だけを残してるんだもの。
ちなみにベートーベンは難聴であることをなるべく悟られないようにしていたとのこと。
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ベートーヴェンの伝記は初読み。
苦悩に満ちた一生を送った偉人、という印象だったけど、私自身40年生きてきて、まあ、そういうこともあるよね、人生には、と言うほど『苦悩に満ちた』感じは受けなかった。
親しみやすく読んでもらいたい、という青木やよひという作者のフィルターがかかっているからかもしれないけれど、語弊があるけど、まあ、ベートーヴェンといえど、人間だよね、みたいな。
生きるためにはお金がいるし(ステレオタイプの芸術家かと思いきや、この辺意外にちゃんとしてたw)、恋愛だってするし。
そしてインド哲学に傾倒していたことも意外だった。
インド音楽とコラボってたらどんな作品ができていただろう、なんてふと思った。
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ベートーヴェンの研究を沢山していることが良く分かる、著者の自信と愛を感じることのできる作品。
内容が濃いのに、とても読みやすかった。
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今も生き続け、人々を感動させる作品を幾つも創作する人物とは、多々数奇な人生を辿り、その生き様自身が人類の遺産となるものと思うが、まさに音楽家としてモーツァルトやショパンなど(他にも色々いようが)とともにベートーヴェンが挙げられるのであろう。
それにしてもこの偉大な人物を、いかに正確に捉えることは、過去において既に評価が誤って伝えられていることもあろうから、真実を知るにはいかに困難なことかと思われる。
また天才には、多種多様な人物との会偶が必然にあることも再考させられると同時に、ベートーヴェンにとっては若かりし頃から祟りのように付き纏う難聴や激動な時代等こそ、自身を鼓舞させ、闘いながらも乗り越えようと作品に反映させ芸術へと昇華させていくものなのだろう。
音楽家の伝記などを読むとピアノ教室などにおいて、どういった作品や人物かを少しでも小さい時に知っていればより良く作品を弾けるようになるのではなかろうかとも思う。(本書は少しそういったものではないが)
「悲愴」が難聴が始まった頃の27.28歳に作られたとのことで驚愕であるが、少しまた第一楽章でも練習しようかな。