紙の本
計画無しの体当たり未知体験が著者を新しい境地に導く
2015/11/24 16:19
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投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の高野秀行は、未知が大好物である。
未知の解明に、綿密な計画を立て、万全の状態で望むのを常としている。しかし、彼の行くところは辺境であり、想定外の出来事に遭遇するのも常である。
以前、彼は、満を持して謎の怪魚「ウモッカ」を探しにインドへ飛んだ(『怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道』)。ところが、『西南シルクロードは密林に消える』でやらかしたことが原因で、空港で入国拒否され、一緒に行った親友が怪魚探しを行うという奇妙なことになった。一方、日本へ舞い戻った彼は、さまざまな外交ルートを通じてインド入国を嘆願し、自転車で東京から沖縄へ向かいながら神社仏閣でインド入国祈願をするという神頼みの旅を敢行したものの(『神に頼って走れ!―自転車爆走日本南下旅日記』)、いまだインド入国は果たせていない。
そんな状態にある著者は、欲求不満がたまるばかりである。
そこへ、ベトナムの猿人「フイハイ」のことを聞いた著者に火がついた。普段は入念な準備を怠らない著者だが、インド入国拒否で入念な準備は吹っ飛んだこともあり、著者の鬱憤は限界を超え、思い立って十日でベトナムへ。もちろん入念な準備はなしである。
そういうことで始まったアジア未知動物探しは、著者の未知中毒を満たすだけの旅。とにかく未知に触れたくてしかたないのだ。入念な準備もなしに現地へ飛び、人々から未知動物の情報を聞いてまわる。
その過程で未知動物が発見できればいうことはないのだが、話を聞けば聞くほど、その存在が怪しくなってくる。もやは妖怪の類であり、水木しげるの世界である。その事実を前にした著者は、この状況にどう対峙するのか。
自然信仰が根底にあるアジアの国で、未知動物探しは本当に大変だ。
アジアの未知動物は、呼び名はあるものの、実体がないものが多い。不思議な事が起きれば、そのモノが起こしたことだと囁かれるが、古くからそのモノを知っている老人などに聞くと、それは違うという話もでてきて、何が本当なのかすら分からなくなる。
そんな状況に、著者は一つの答えに辿り着くが、それは著者を新たな境地へ導いたようでもあった。
著者は、あとがきで、「私は柳田國男と逆の道をたどっているような気がする」と述べている。
著者はこれまで、まず現実的に科学的なアプローチを試み、次ぎに現地の伝承や習慣を考慮して考察してきたという。しかし、いきなり未知へ飛び込んだ今回の体験では、それが小賢しい気がしてきたと述懐する。
確かに、事前準備をしていると、その計画に基づいた行動や考察となり、先入観のようなある種の枠が出来てしまう。それが、時には、未知探しの障害となる可能性だってあるだろう。
逆に、計画もなしに未知に触れるとどうなるか。未知は原因不明だから未知なのだ。自分の持っている知識では理解できないことも多い。だから未知を身体で感じ、ありのままを受け止めるしかない。かつて柳田國男が、人々に聞いた不思議な話を解明せずに受け止めたように、人々の話を受け止めるしかできなかった。
このことを肌で感じた著者は、白黒つけたがっていた未知に対して、少しだけ寛容になったようである。
著者の作品の魅力は、「いるのかいないのか」を信条に、現地の人々に笑われても屈せず、大真面目に未知と対峙することなのだが、今回は未知に体当たりしただけあって、これまでの怪獣探しのような滑稽さ漂う面白さはない。しかし、人々の話す未知に触れ、振り回されながらも、さまざまに考察する著者の様子もまた面白かった。
紙の本
豊かな旅だと思う
2016/03/15 00:35
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投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
高野氏でUMAなら既読だと思ったら読んでなかった。当然発見できないが、旅先の出会いが豊かでいい雰囲気。正直、正体を明かそうとする部分はそんなに面白くない。こんな目的で旅するのは、本当に豊かな精神でないと無理だと思う。リラックスしたい時にオススメ。
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一言で要約すれば『平成版遠野物語』。著者のスタンスは文献主義者・柳田国男と幻視者・水木しげるの中間。前者なら現地まで出かけて自ら聞き取り調査をすることはなかったであろう。後者なら忽ち“未知との遭遇”を果たしていたかも知れない。一方の著者は思い立つやベトナム、奄美、アフガニスタンへと赴き、謎の未知動物の痕跡を求め現地人の間を飛び回る。冷静に考えれば実にバカバカしい。しかしそのバカバカしさが羨ましい。著者のような行動力はとてもないが故郷の山にツチノコやニホンオオカミを探しに行きたくなる。因みに生れは和歌山県。
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表題にもあるように、著者の天職ともいうべきUMAものである。しかし、今回は少し味付けが違う。目撃者や伝承者の話など分析して、かなり民俗学的なアプローチでその正体に迫ろうという内容になっている。勿論アプローチがそうだというだけで、学問的な分析が行われているわけではないのだが、単なるドタバタ紀行ではなく、興味深い仮説がなされていて面白いと思った。
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ベトナムで猿人「フイハイ」を、奄美で妖怪「ケンモン」、アフガニスタンで凶獣「ペシャクパラング」を探しに出掛けて出会った物は・・・・
高野秀行らしい一冊。
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やっぱり高野さんの本は面白い!!今冊はアフガニスタンの凶獣『ペシャクパランダ』の話に尽きる。外務省ホームページで危険度最高の危険度4の「退避を勧告します」で真っ赤っかの地域にUMAを探しに行く。これで事故でもあったら…、大丈夫なのかな?と思ったりもするけれど、いつもの高野さんどおり現地に密着しているので、アフガニスタンのおもてなし(客人が国際的にはテロリストと言われていようが変わらないらしい)の習慣が実感できたりするのは、著者ならではかと。
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未知の動物を探して世界中のどこにでも行ってしまう高野さん。「もう危ないからやめて」という気持ちと「面白いからもっと行って!」という気持ちが入り混じって複雑です。UMAあるところに米軍ありってエピソードが興味深い。
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今回も面白かった!フイハイとケンモン探しに関してはもはや妖怪探し!?といった感があるが、地元の人になんの疑いもなく「いる」とされていて目撃者もたくさんいるのが楽しい、なんか夢がある。アフガニスタンのペシャクパラングに関しては正体がなんとなく見当がついてきているのに何度も米軍陰謀説にたどりついてしまうのが笑えた。それにしてもあれだけの政情不安な国にUMA探しだけのために飛び込んでしまうなんて、すごい度胸。。。
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嘗て、TBS「クレイジー・ジャーニー」アヘン王国の回の出演で著者を知り、その独特のキャラクター性に惹かれ本屋に向かう。アヘン本を買う予定が手にしたのがこっち。UMA好きの僕としては『未知動物』という単語に無条件に反応してしまうのだ。本の内容は端的言うとUMA探しのドタバタ珍道記。勿論、未知動物の発見はしてないが(笑)その未知動物を求める行動力と考察力に敬服すらする。正直ヤバイ危険地帯にも果敢に向かうので読んでて結構ヒヤヒヤする。他の著書も面白そうなのがあるので気になるライターさんではある。
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短編、と言うべきか。ベトナム、奄美、アフガニスタンでのUMA探索が集積され、比較して読みながら楽しむ機会を与えてくれた。奄美のケンモンは『神に頼って走れ!』でその一端を読んでいたので、一粒で二度おいしいと言ったところか? 本書のカバーは、それを思うと笑ってしまう。9・11後のアフガニスタンと言えば命の危険が伴う場所だ。無事に帰国できたことは本書を読めば判るのだが、ホッとする。ペシャクパラングの考察もなかなか面白い。
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ベトナム、奄美大島、アフガニスタン。三ヶ所の土地への発作的な旅と、未知動物の調査について。
奄美大島の集落で聞いた不思議な話がオカルトめいていて、好奇心をくすぐられた。こういう話をずっと聞いていたい。
土地に赴き人に出会うことの温かみ、そして別れのしんみりとした味わい。相棒のカメラマン森清氏の写真がまた良いのだ。
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ずっと気になりつつ未読だった高野秀行さんの本、1冊目。めちゃくちゃ面白かったのですが、他の方のレビューでは「刺激控えめ」と書かれたりなどしていて「こ、これで?」と思いました(笑)。他著もこれから読んでみます。
奄美のケンモンの話が特に好きです。オチが秀逸。三篇どれもUMAに対する現地の方の捉え方が面白いなと思って読んでいたのですが、自分が日本人だからか、ケンモンの存在はなんとなくしっくりくるものがありました。
―私たちの存在にも気づかず、謎の言葉で話しこむ媼二人。寄せ打つ波と、入り江を取り囲む切り立った崖。白いヤギ。ケンモンがほんとうにすぐそこにいるような気がして、ゾクッと鳥肌が立ったのである。(180P)
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アジア(ベトナム、奄美、アフガニスタン)で未知の動物、UMAを探すノンフィクション。終始真剣に探索を行い、命の危険もあるような国にまで行き、探すために現地の人と交流し、色んな場所をたらい回しされ、なんなら銃まで向けられるような経験をしているのに、それを面白く書けるところがすごい。そしてUMAについてだけではなく、訪れた国の内情やその国の抱える矛盾まで考えさせられる深い内容でした。