紙の本
世の中がわかりすぎる胎児
2018/09/21 19:51
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投稿者:なお - この投稿者のレビュー一覧を見る
母親のお腹にいる胎児により物語が語られるという斬新なアイデアに驚かされた。
その母親が父親となるべきジョンとは仲が良くなかったことが悲劇のはじまりで、そのうえその母親の不倫の相手がジョンの弟つまり胎児の叔父であるという衝撃的な展開であった。生まれる前からこれらの複雑な関係を知り、でもまだ自分はこの世に生をうけてはいない胎児のままである。まさに八方塞がりの状態である。その後の展開は読んでいただくとして、お腹の子は生まれたら生まれたでマイナスのスタートみたいな感じになってしまい、未来というか現実を知ることは、すくなくともこの子には不幸であったかもしれない。子供は親を選べない(また逆も言えるが)ところがおもしろくもあり、かなしくもありといったところでしょうか。
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母親のお腹にいるわたし。お腹のなかで聞く愛の囁き、ポッドキャストの教養、胎盤から味わうワイン、犯罪の計画…
なんなのだ、これは。
ブラックユーモアたっぷりに語られる、胎児版ハムレット。
普段の綿密な調査から離れて書いた、という作者のストーリーテリングのおもしろさ。
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一人称の小説は苦手(町田康は除く)なんだけどこれは面白い。
母親が見聞きするものから知識を得てる感じなのに母親より賢そうなのはなぜだ?
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ラストの神々しさに息をのむ。愚かな現実でありながら、この希望に満ちた穏やかな感覚は何だろう。翻訳の長文に苦戦したが、忍び寄る犯罪の気配に胎児の運命が気になって何とか終わりまで辿り着いた。母親と対面した“彼”の「この顔のなかに全世界がある」や「容赦ない愛情に人生を盗まれる」等々、ウィットに富む表現にも助けられる。
多くを赦され愛されているのは母親の方だと気づいた時、胸に込み上げてくるものがあった。
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*****
わたしは彼女の声が気にいった。いわば、オーボエを人間の声にしたような声。かすかにしゃがれていて、母音はガアガアいうアヒル、語句の終わりはゴロゴロうなるような声になる、アメリカの言語学者が”ヴォーカル・フライ”と名づけたしゃべり方だ。これは西欧全体に広まりつつあって、ラジオでも話題になっており、原因は不明だが、洗練されたしゃべり方とされ、若い高学歴の女性に多い。楽しい謎である。
p.71
ポッドキャストで聴いたのである。わたしたちは父の蔵書質の長椅子にいて、このときも蒸し暑い真昼に向かって窓があけ放たれていた。退屈は悦楽とそんなに変わらない。それは悦楽の岸辺から眺めた悦楽なのだ、とムッシュー・バルトは言っていた。まさにそのとおり。それこそ現代の胎児の状態なのだ。ただ考えるだけなのである。存在し、成長する以外にはやることがなく、その成長もほとんど意識的な行為ではない。純粋に存在する喜び、まったくなんの差異もない日々の退屈。延々とつづく悦楽は実存的な種類の退屈である。
p.82
愛に、したがって死に、エロスとタナトスに乾杯。ふたつの観念がかけ離れているか、相反しているとき、それは深く結びついているとされるのが知的生活の所与らしい。死は人生のすべてと対立するから、さまざまな組み合わせが提起される。芸術と死。自然と死。ちょっと不安になるが、誕生と死。そして、うれしそうに繰り返される、愛と死。この最後について、わたしのいまの立場から言えば、これほどたがいに相容れないものもない。死者はだれも、なにも愛さない。外界に出て、動きまわれるようになりしだい、わたしは小論文を書いてみるかもしれない。世界はフレッシュな顔をした経験主義者を待ち焦がれているのだから。
p.108
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赤ちゃんから見た両親、不倫、社会をややニヒルな目線で書いた作品。
現代のハムレットなんていうので期待したが、それほどではないかなー。本家の迫力は無いし、訳も分かりづらい。
でも、赤ちゃんにもし、全てが見えているとしたら…そういう目線では面白い作品だった。
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『というわけで、わたしはここにいる、逆さまになって、ある女のなかにいる』という出だしで始まるこの小説の語り手は、もうすぐ生まれる予定の胎児だ。しかしこの胎児は母親の聴いているラジオ番組や外界の音から様々な情報を得て、周囲の人物の様子から世界情勢まで理解しているというとんでもない胎児なのだ。
彼の両親は不仲で、母親は父親を家から追い出し、父親の弟と不倫関係にあるばかりか、弟と共謀して父親を毒殺してしまう。弟の名はクローディア。正にハムレットである。彼は母親の胎内で色々な事を考え、どうするべきか、どうしたら良いのかを思い悩むが、いかんせん何もできない胎児であることがもどかしい。最終的に、警察に追われそうになった母親と叔父が2人で逃亡する寸前に自らの意思で生まれてきて2人の逃亡を阻止することになる。
様々な情報を得て、それを分析して考察する明晰な頭脳を持ち、母親、父親、叔父などに愛情や憎しみを感じながらも、自分からは何もできない胎児の視点で物語が進んでいくのが新鮮でとても面白い。
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胎児の独白?なんだそりゃ、という読み始めの感覚は知らないうちにどっかに行って、ひきこまれて読んだ。皮肉なのに冷たくないという、マキューアン独特の世界。
生まれるときは誰もが、自分では選びようのない状況下に、無力な状態で投げ込まれる。この世は決して生きていくのにたやすいところではないし、醜いこと、不条理なことが山盛りだ。それでもそこに美や真実があることもまた間違いない。そんな感慨が湧いてくる。
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「胎児版ハムレット」との触れ込みだったが、肝心のハムレットの内容が朧気だったので新鮮な気持ちで読んだ。ウィットに飛んだ皮肉と度々挿入される詩の一節一節が読んでいて心地いい。必要以上に汚い台所の様子や露骨な性描写(確かに臨月の胎児としてはたまったもんじゃないだろうけど)も含め、全編通して陰湿で意地悪なのに読後感は爽やか。本家「ハムレット」を読んでから再読してみたい。何気に作中にスマートフォンが登場するぐらい発行が新しい小説を読んだのは久しぶりで、けっこう驚いた。
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実は見えてたりするんじゃないか、
胎盤から出てくるときに、スッポリ記憶だけ落とされてくるんじゃないか
可能性はありそう
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初イアン・マキューアン。これは、ウィットに富んだジョークなのかな?主人公はまだ母親のお腹の中にいる胎児。しかも母の身体をとおしてポッドキャストで世界情勢を嘆いたり、ワインを嗜んだり(しかもものすごく詳しい)、挙句の果てにへその緒で首をつって自殺をはかろうとする。一歳の息子がいる身としてはまさか我が子もなんて思ったり。最後にこの世界に生まれてくる描写は素敵だった。誰もその時のことは覚えてないはずなのに、追体験できるとは。