紙の本
21世紀は国際法の冬の時代
2022/04/19 16:16
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投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界で起きている紛争に国際法や国連で解決できないのかと思い学生時代にあまり学ばなかった国際法を簡単に理解したいと思っていて手にした。国際法の法理念から成立ち現在の国連での論議、集団的自衛権まで基本的入門を網羅している。著者は今時点で起きているロシアの軍事侵攻を予想していた感もある。21世紀を独裁国家や経済的に大国となった国家が自国の利益と指導者の主張を正当化するため国際法を無視して武力に訴えた場合、国連等は機能するか、国際法の無力さと虚しさにも触れている。最終章では無いよりあった方が良い国際法。カタツムリの歩みの如く積み重ねが必要と説く。普段あまりにも国際法等を考えていなかった日本人。理解を深め国際社会に平和を訴え行動することが必要では。
紙の本
国際法という弱いもの
2019/09/17 23:18
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投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
新書という制約上、内容にも理解しやすさに配慮しているとは言え、力の入った著作。国際法という曖昧な制度をその起源から説き始めて、そもそも「法」という確固としたものでなく、人間の生きた信念、理想が言葉として顕現され「規範」になって実際の世界に浸透していく過程を丹念に紡いでいく。もちろん明文化され強制力を持たないにせよ制度として機能していく側面もあってそこも目配りはされているものの、むしろそうでない側面に光を当てている。だから教科書的に箇条書きで教えてくれると期待していたら裏切られる。時には後退しながら、それこそカメのように少しずつしか進んでいけない現実に失望するのではなく、わずかでも以前より進歩した点も認めて肯定しようとする。諦めず、善意を信じて出来うることを模索する姿勢は現実への追従として非難できない真正さがある。結果的に遺作になったという点もあってどうにも甘くなってしまうが、立派な著作だと思う。
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国際法の観点から、人権、集団的自衛権など
国際ニュースを理解する上で避けて通れない
重要なトピックに新たな視点を与えてくれる。
国際法の限界を冷静に見つめつつ、
それでもむき出しの国家エゴより
マシなんだから、うまくつかって
行こうよ、という著者の遺言のように
感じた。
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日本と韓国の関係悪化が止まりません。
従来から懸案だった竹島問題や慰安婦に加えて、徴用工訴訟における日本企業への賠償命令判決、レーダー掃射問題と課題続出です。
両国政府とも先方の責任を主張するのみで、出口が見えないスパイラルに陥っています。
本書は、国際法の泰斗による市民向けの入門書。とはいえ、国際法を体系的に理解しつつ個別論点についても幅広にカバーしていて読み応えのある内容になっています。
国際法の成り立ちから始まり、国内法との相違点や、環境や人権など新たなトピック、戦争と国際法など、興味深い知見がたくさん披露されます。
〇国際法は二国間の条約や協定だけでなく、ガットなどの多国間協定、国連の枠組みでの共同宣言など様々な形態があります。
国内法とちがって管轄権のある裁判所が存在しません(国際司法裁判所の審理は当事国の同意が要件となっている)。したがって、紛争の最終的な解決はどうしても関係各国のパワーバランスに依存 するところが大きく、そうした面から国際法の非力さを揶揄する識者も多く存在しています。
しかし、一方で、成文化された取決めは、大国の恣意的な行動を抑止し、地球環境や人権など、地球全体で取り組まなければならない課題に一定の方向性を与えるという機能は否定できません。
〇それ故、各国とも自国の行為を国際法の文脈に位置づけ、国際法に則っているということを国際世論に積極的に発信します。「国際法違反」というレッテルをいったん貼られてしまうと、国際的な非難のみならず、国連による制裁、関係諸国による内政干渉を招きかねないからです。
その反面教師が、第二次大戦時の日本、ドイツでした。日・独の行為は、1928年のパリ不戦条約(国際紛争を解決する手段としての戦争の禁止)違反とされ、当時の指導者が平和に対する罪で裁かれました。筆者も、東京・ニュルンベルク両裁判は、勝者の裁きという側面を否定できないけれど、戦争の違法化を史上はじめて明記した不戦条約の前では、その正当性は揺らぎようもないと指摘します。
〇筆者は慰安婦問題、徴用工、領土問題にも言及します。慰安婦問題については、1993年の河野談話とアジア女性基金の設立(基金は国費から支出されている)で、日本は公式に本人たちに謝罪しているにもかかわらず、マスメディアが同基金が公的なものではないと報道したことで、国際的に謝罪していないことになっていると、メディアの姿勢を批判します。徴用工については、日韓基本条約、日韓請求権協定を前提とする限り、韓国国内の問題とせざるを得ないとの立場です。が一方で、国際司法裁判所をはじめとする国際法専門家の間では、条約締結時の取決めよりも、その後の人権観の発展により判例変更される「発展主義」が優勢なので、その点も留意する必要があると指摘します。領土問題では、北方領土については日本政府の「日本固有の領土」の主張根拠は弱く、竹島、尖閣については韓国・中国の主張に無理があると指摘します。無難に断定を避ける他の有識者とは異なり、かなり思い切った意見を示されている印象です。
〇筆者は筆をおくにあたってこう述べます。「大���のパワーゲームの前に国際法は無力だという現実に何度も打ちのめされたが、それでも国際法には平和な世界をつくり自由、人権保護を希求する力を持っている。21世紀の日本は、経済的には影響力を低下させつつあるが、だからこそ、国民、メディア、政治家が国際法を理解し、国際法を活用する知恵をソフトパワーとして身につけるべきだ」と。
〇本書の脱稿をおえて間もなく大沼先生はお亡くなりになられました。巻末に娘さんが最後の日々について書かれていますが、命の尽きる最後まで、本書の完成に心血を注がれたそうです。全巻を通じて、筆者の国際法に対する信頼があふれでた名著だと思います。
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著者は死の前日まで本書の執筆をしていたという。その狙いは一般市民向けに国際法認識を共有してもらうことにより、自衛隊や日米貿易摩擦や中韓との歴史問題等々の理解を深めてもらうことにあるとのことだが、語られているのは国際法の可能性と限界である。
著者も言うように「戦争と平和の問題が国際法の中心課題」であるとすれば本書のメインは第3部となる。そこでは中国の台頭やテロ集団、利己的国家(主にロシア)により国際法が揺さぶられ、破られ、蹂躙される<国際法冬の時代>への懸念が語られる。概して救いの無い内容ではあるが、所々の記述から著者の国際法への役割期待が感じられるし、最後は日本へのエールで終わっているのが印象的でもある。