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冒頭に引用されている文章は30年以上前に書かれたもの、しかし現代の日本でも違和感の無いような内容だ。その当時から確かに存在する「移民」を、いまだに日本政府は認めようとしない。その裏で労働力は受け入れようとする矛盾。日本の移民政策・取り巻く環境への理解が深まった。
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タイトルは分かりにくい(それが本書の唯一の欠点)。サブタイトルこそが本書の内容を的確に表している。『「移民国家」の建前と現実』。
日本は「移民国家ではない」と言いつつ(建前)、大量の移民を受け入れている(現実)。それを本書は「フロントドアを閉ざしつつ、サイドドアとバックドアから移民を入国させている」と表現する。上手い例えだと思う。
そして、いないことになっている外国人労働者がいることによって生じる問題やリスクは(いない人に対する支援はできないから)、すべて外国人労働者に押し付けられている、という。
知っているつもりになっていたけど全然知ってなどいなかった。望月さんの文章はニッポン複雑紀行などで読んでいるけれど、その聡明さは本書でも健在だった。政府の政策や送り出し側の国や日本そして世界の経済状況といったマクロと、AさんBさんという一人一人のマクロの両方。数字(統計情報)と文章(エピソード)の両方がしっかりと説得力と彩りを携えていて読みやすく心にしみる。
以下、いくつか印象的な箇所の引用。
トルコ出身の政治学者であるセイラ・ベンハビブは外国人への政治的な成員資格の付与について「永遠によそ者であることは、自由民主主義的な人間共同体の理解と両立しない」と書いた。この言葉は、成員資格の付与だけでなく、むしろそれ以上に社会統合のテーマにこそ関わる。(p.30)
人によって賛否はあるだろうが、外国人労働者を受け入れる業種やスキルの水準について何らかの形で限定するというスタンス自体は存在しうる(中略)しかし、ここに根本的な欺瞞が存在することは明らかだ。表向きは「いわゆる単純労働者」の受け入れに伴う様々な懸念を表明しておきながら、裏側では「いわゆる単純労働者」をサイドドアから積極的に受け入れてきたのだから。自分自身で並べ立てたもっともらしい懸念は一体どこに行ってしまったのだろうか。(p.92)
実習生や留学生が陥る構造的な問題は、これまで真正面から外国人労働者を受け入れてこなかった日本のサイドドア政策自体から帰結した矛盾の現れだと言える。忘れてならないのは、その矛盾から生じるリスクを一手に引き受けてきたのが、彼らを受け入れる日本社会の側ではなく、外国人労働者たちの側であるということだ。実習先から「失踪」した実習生や、上限を超えて働いてしまった留学生の報道に触れるとき、このことを覚えていてほしいと思う。(p.140)
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移民社会日本の現状がよく分かる。とくに技能実習から特定技能への制度の変遷は分かりやすかった。在留資格についても勉強になった。
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日本国家による移民政策とその排除を中心に描いている。個人的に日本の難民政策に関心がありその参考資料として選んだがあまり難民政策については語られていなかった。しかし、日本国家によるいわゆる単純労働者の受け入れは非常に都合の良いもので外国人の権利保証の観点が明らかに欠落している。入管の問題もさることながら外国人労働者への抑圧もしっかりと直視するべきだと改めて感じさせられた。
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発売当初から読みたいと思いつついつの間にか時間が経ってしまった本。やっと読めた。そして読んで良かった。
「移民」この言葉にはさまざまな定義があり得るがどんな定義をとるにしてもすでに日本には「移民」は多数存在する。
そのこと自体は知っていた。それこそ色々な意味合いで。私の育った地元は工業地帯があるためかそこで日系のブラジル・ペルー人が多く、小学校の同級生の5〜10%はにそうした日系移民の子どもたちだった。そして、都市部で居住する多くの人と同じように私も日々多くの外国人留学生バイトの方が支える店のサービスを受けて生活してもいる。
そして直接触れ合うことはないけれど「技能実習生」という制度が過酷なものになり得ることもニュースレベルでは知っていた。
とはいえ、そうしていくつも知っていても全体として「日本における移民とは?」と聞かれてもなんとも答えようがないというか、何をどう捉えて議論すれば良いのか分からなかった。
それが本書を読んでイシュー全体の構造を大まかに掴むことができた。
・移民や外国にルーツを持つ人たちには様々なレベルがあり、労働や生活面で様々な制約の違いもあること
・移民政策は採らないという自民党の保守政党としての建前と経済界からの労働力確保ニーズの狭間で本音と建前が分かれ、不合理や不条理が罷り通っていること
今後どうしていくか、という議論をする際にすでにある現状に向き合った上で考えていくべき問題であることを知れたことがとても良かった。
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望月優大(1985年~)氏は、東大大学院総合文化研究科修士課程修了後、経済産業省、Google、スマートニュースなどを経て、現在(株)コモンセンス代表取締役。日本の移民文化や移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。
本書は、2019年に出版され、現在の日本における「移民」の状況について、これまでの統計上の数値、法律的な扱い・位置付けの変遷等を踏まえて、考察したものである。
著者は、本書を著した理由を次のように語っている。「日本では長らく「移民」という言葉自体がタブー視されてきた。日本は同じ言葉と文化、歴史を共有する「日本人」だけの国であることが当然とされてきた。今でもなお政府は「移民」という言葉を意図的に避け、まるで日本が一つの巨大な人材会社でもあるかのように、労働者たちを「外国人材」と呼んでいる。日本にはいまだに移民や外国人の支援や社会統合を専門とする省庁も存在しない。・・・この国にも「移民」が存在し、取り組むべき「移民問題」が存在する。日本は「遅れてきた移民国家」である。建前と現実の乖離を、そろそろ終わりにするべきではないだろうか。」
政府がどう定義するかは別としても、日本には2018年6月末時点で、永住許可取得者(永住者と特別永住者)109万人、短期滞在許可取得者(日本人及び永住者の配偶者等、就労資格保有者、留学生、技能実習生など)155万人の、計約260万人の移民が存在し、これはなんと大阪市(270万人)とほぼ同じ規模である。それでも、私が1990年代に駐在していたドイツや英国と比べると、はるかに少なく感じるのは、人口比で見た場合に、ドイツが10.1%、英国が8.6%であるのに対し、日本は2.1%とかなり低く、また、外見上明らかに外国人と分かる白人、黒人の数が少ないからに過ぎないと思われる。
しかし、今や外国人労働者なしに日本の経済活動が回っていかないことは自明であるし、その外国人労働者に関して(様々な背景・要因はあるにしても)、技能実習生の失踪、留学生による(法令で認められた)週28時間の超過労働、非正規滞在者の入管施設への長期収容等、数多くの問題が存在しているのは、本書で詳細に書かれている通りである。そして、忘れてはいけないのが、そうした外国人一人ひとり(及び家族)に、日本人と変わらない日々の生活があるということである。(彼らの生活については、室橋裕和氏が在日外国人の日常をルポルタージュした近著『日本の異国』に詳しい)
「社会が関与せず、関心を持たず、足場を与えずに放置し、その生から撤退する対象としての人間をどんどん輸入していく-こうした移民政策から、移民を同じ人間として受け入れ、それぞれに必要な支えを提供し、誰もができるだけ「安定した生」を生きられるように努める移民政策へと転換することができるか。安価でフレキシブルな労働力という幻想を捨て、一人ひとりが経験する当たり前の現実へと目を向けることができるか。」 著者が最後に提起するこの問題を、「彼らの」話ではなく、「私たちの」問題として取り組めるか、それが今問われているのだと思う。
(2020年4月了)
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日本の「移民政策」について、基本的なことから組み立てて論点を明らかにしている。
とにかくエビデンスベースを徹底しており、この一冊だけでかなりの情報量(図表50点以上らしい)がある一方、さすがにデータを見せられ続ける疲れもある。
移民政策は、日本が安価でフレキシブルな外国人の労働力をどのように取り入れるかという制度設計であり、もともとが行政の裁量が広く、外国人に不安定を強いるものである。外国人労働者の増加は非正規雇用の増加と重なるという指摘はその通りだと思う。
日本は外国人の単純労働は受け付けないとしてフロントドアを狭くしつつ、事実上、技能実習生や留学の資格者に単純労働をさせている。しかし、外国の方も経済成長をするため、中国よりもベトナムからの移民が多くなるなど、移り変わりがあり、そのスピードも早くなっている。日本もいつまでも選ばれる国ではなくなる。
外国人労働者が増加し続ける中、いつまで「移民政策ではない」と言い続けるのか。
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総人口が減少する中で、外国人の労働に依存する社会になることは確実だが、実際に働く外国人に対する政府の施策はもどかしい感じだ.差別はどんな社会にも存在するが、お互いが支援しあう形での共存はできないのだろうか.日本人だけが住んでいるのではない.この日本には.複雑な読後感が残った著作だ.
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政治の足下を見つめるための本。現在の内閣だけでなく、ずっと問題を解決せずに、矛盾だけが大きくなって、最早。
不可視という視点を持つと、「移民」だけでなく、本当にいろいなものが隠れていることに気付かされる。
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外国人労働者に関して全然知らなかった、知ろうともしなかったことを思い知った。反省。毎日目にする彼らを移民とすら認識していなかった。建前も苦しくなってきた昨今、どのような道を選ぶのか、きちんと考えないといけないなと思った。
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入管制度の建前と実態の乖離、そのことがもたらす人権問題の現状をコンパクトにまとめている良書。過度に感情によらず、数字に基づきつつリアルタイム感のある報告。良い本。
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2019年からの「外国人材の受入れ/総合的対応策」にかかわる解説としては、これを読めばばっちりな1冊。ただ、日本の外国人政策の根っこにある在日コリアンの歴史にほとんど触れていないのが、竜頭蛇尾というか画竜点睛を欠くというか…というのが私のちょっと不満なところです。ゆえに☆4つ。
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コンビニや飲食店の店員さんだけじゃなく、農業とか弁当工場とか、見えないところで技能実習生や留学生が日本を支えている/支えさせている。
「店員さん外国人やな」から、彼ら彼女らの生活にも思いを馳せたい。
技能実習生、留学生を都合のいい労働力として一時的に使っている現状を豊富なデータで分かりやすく示した入門書。
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日本は年々外国人受け入れ数が増えているが、その環境は整っているとは言いがたい。特に労働目的の移民、迫害から逃れた難民への対応は改善しなければならないと著者は述べている。難民認定率や劣悪な労働環境、日本社会への適応など課題はたくさん。
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移民政策は外の問題ではなく、中の問題がより顕著に噴き出す噴出孔のような存在ということがよくわかる本
新技能実習制度で移民政策ではないと強調していたが、むしろもっと前から移民ともいうべき状態が生じていたことが、よくわかる
南米日系人の話を見るにつれ、経済力にものを言わせていかに勝手なことをしてきたかわかる
また技能実習生を搾取して斜陽となりつつある産業を支えようとする姿勢は、基本的に非正規雇用の問題と同根の問題なのだろう
今後コロナで世界がどう変わっていくかはわからないが、
移民が減るならば、ますます非正規労働者を搾取する構造は深まるだろう