整との約束を守ろうとする和章の不器用な実直さ
2021/07/09 13:25
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:M★ - この投稿者のレビュー一覧を見る
たった一人愛した人、整との約束を守ろうとする和章の不器用な実直さが、
全編でも今作でも書かれていて辛かった。
整との約束
「自分を幸せにすること」=他の人を愛して幸せになって
を、実直に整と別れた後、守ろうとする和章の不器用な生き方が気の毒。
「一は数えに入らない Einmal ist keinmal」を心の中で何度も繰り返す和章。
一度の失敗が数のうちに入らないなら、整を無理やり抱いたことは数に入らない、とか、・・生き甲斐とやりたい事を探して彷徨う和章。
和章にとって、整は、生き甲斐、生きる意味のすべてだった。
ただ一人愛した人、整の喪失跡を埋めるものが他に見つけられない。
大学の恩師の著書整理の仕事を引き受けて、教授の孫と知り合う。
教授の孫、柊を親密になっていく和章。
和章が整とやり直す展開にしない著者。
和章と柊の二人が親密になっていく様子を読み、
もうこれで整が戻る場所は、完全に無くなってしまったんだ、と悲しくなってしまった。
人生の行き違いすれ違いって、こんもんなんですね。甘くないファンタジー。
深い傷であっても、時間が経てば癒すことができるって、著者や言いたいのかも。
これから和章がデザインするものは、整ではなく、柊のイメージで創作されるんだと思う。
生きるということは、変化変容を重ねることだから仕方ない。
無口で無愛想な年上攻め
2023/02/04 08:24
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投稿者:zuka - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ふったらどしゃぶり』で何を考えているのか分からず、あまり共感出来なかった和章に今作ですっかりはまってしまいました。
整との事があって更に無感情、無愛想になった和章の素の感情を真っ直ぐで危なっかしい柊がどんどん引き出していく様がとても良かったです。
「ふったらどしゃぶり」、も「一度はものの数ではない」もその意味するところが其々のストーリーの中でキーフレーズとしてあって、読み手も考えさせられる。一穂さんの作品は本当に奥が深いなと思いました。
「Einmal ist keinmal」
2022/06/04 07:48
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投稿者:やじやじ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネタバレあり
旧版未読
ふったらどしゃぶりのスピンオフです。
整と別れてからの和章の話
和章の恩師のところで出会った孫の柊
恩師の話も含めてみんな心に棘が刺さったまま生きている感じ
前作読んでいて見えにくかった和章の姿が清冽に描かれています。
前作から和章は整を囲いこんで檻に閉じ込めた的なことを言っているのですが
微妙に檻のイメージがわかなかったのですが
今作ではっきりわかりました。
その檻は鉄柵ではなくて氷の檻だったのだなぁ
柵でなくて箱形でその中に閉じ込めていたのは整だけではなくて和章自身もだったのだ。
しかも氷なので、強い力で砕かれてしまうのだ。
いっそ脆い感じ。
なんとなくすとんとそこに落ちてきました。
和章はもともとの性質からちょっと感性が特別製だったのでしょうけれど
それが整を思う気持ちと両親の事故のせいでちょっと方向性を間違えた
やっぱり少し違う方を向けば整との未来もあったかもしれない
とは思いました
それはたらればの話
和章は整との約束に縛られて(「自分を幸せにする」)窒息しそうなくらいな不器用さが切ない
一人になってしまっても氷の檻から出られない
もともと彼の心はそこにいたのかもしれない
「Einmal ist keinmal」という言葉を繰り返し
二度と会うことのない整の存在に心乱されながら
色々な棘を心に秘めている柊との交流を通して
和章は今まで得たことのない色を得ていくのだ
高層ビルの上では得られなかった
植物たちの侵略みたいな感じ
それは彼を閉じ込めていた氷がゆっくりととけていくような感じ
恩師にも恩師が抱えた棘があって、
それは最後の最後に多分和章の薄氷に大きく亀裂をいれたのだと思う
そして柊の存在
まるでアスファルトを突き抜けて出てくるような植物のように
和章の外壁を破って入っていったのだろうなぁと。
余談ですが、柊のはとこに対する和章の言葉は
まさに私も思っていたことで、これを言ってくれた和章が嬉しかったです。
人は人と出会って変わっていく
酷く傷ついてズタズタになっても癒やされて良いのだと
思わせてくれる作品です。
ただ柊が最後に持っていた手紙の人とどうなったのか・・・知りたいです。
余談ですが、あとがきのSSの柊のお母さんの
おじいちゃんに対する言葉は切なくてそういう気持ちになるのだろうなぁって
正直に思いました
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投稿者:あぶ - この投稿者のレビュー一覧を見る
人も草木も、輪廻の中で足掻く、というお話。
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「ふったらどしゃぶり」のスピンオフ完全版。
前作との違いは読み比べていないのでわかりませんが、読むとやっぱり和章も幸せになって良かったな~という気持ちに。
その相手である柊の話でもある今作は、傷を負った人間が傷を背負ったまま生きていくのに苦しんで、悩んだ末に自分以外の人間によって救われる…というか背負ったまま生きていけるようになる話、かなと。
解決を得ないまま死んでしまった柊の祖父のことを考えると悲しくなりますが、和章がいることによってその痛みが少しでも軽くなるのなら、それ以上のことはないように思います。自然と寄り添い合っていくこの二人には、穏やかで静かな愛情が似つかわしい。素敵なお話でした。
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いやもう。一文一文が大好き!噛みしめ噛みしめ読みました。
心の動きや内面に関する文が多いと思うんだけど、和章さんの心のうちが、その変化が見られるのが何しろ嬉しい。柊も、見た目あっけらかんとしてるけど実は棘や傷を抱えている。柊のじいちゃんである石蕗先生も。それぞれの傷、棘、温もり、美しいもの。やっぱり一文一文が愛しいとしか言いようがない。和章さんの「おれが寂しいんだ」って台詞に、変な話「あっ、やっと表出できた!」って胸が締め付けられた。自分を責めてばかりで自分の気持ちにずっと蓋をして感情を動かさずに来た彼が、息を吹き返したんだなぁって。
で、ムッツリ(笑)いいんだ、和章さんはムッツリが身上だ(笑笑)
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和章の、石蕗先生の、柊の、それぞれの抱えたいびつな棘が、歪なまま静かに受け入れ、他者の存在によって許されていくまでの物語。
柊ちゃんの両親はいわば息子に捨てられたも同然で、書き下ろしでお母さんの痛みがちゃんと触れられていたのにもホッとしました。
柊ちゃんはあそこで両親ともちゃんとわかり合った上で本当の意味で大人になれたんだなぁと。
一文一文の研ぎ澄まされた表現がとにかくどうしよもうなく好きで、初めて読んだ場面と同じ場面でやっぱりまた泣いてしまう。
和章と柊が異なる世界に生きてきた同士だからこそ惹かれ合い、和章の中に新しい色がどんどん足されていくこと、その色彩に戸惑いながらもふたりの恋がどんどん花開いていくところがとても好きです。
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「ふったら、どしゃぶり」読了。
前作では、どうしても整に肩入れして読んでいたので、今作で和章の人となりが理解できて良かったです。勢いよく展開するというより、静かに氷が溶けていくのを見守るようなお話でした。書き下ろしは温かい空気感で、優しい気持ちになりました。
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なんてぴゅあなふたりなのか…
すべての人にとげがあるんだなぁ。人にとっては些細なものに見えるかもしれないとげたち、抜けなくなったとげたち。それも含めて今そこにいるあなたで。これからはそれ以上とげは増えないようにはできる。
なんて真っ直ぐな人たちなんだろう。
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ふったらどしゃぶりを読んでいた時は、正直、和章のことがよく見えなかったし(整というフィルターが強すぎて)ちょっと悪者な印象だったけれど、悪い人では全然なかった。傷ついた人だった。そして真っ直ぐな人。
柊が、本当にいい子で、優しい。そして、柊も傷ついていて。
先生の最後が悲しかったけど、本心がみえて、人間らしさが出たところは、心にささった。
傷ついた人たちの、癒しと再生の物語かな。
穏やかで、前向きな終わりに、救われました。
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表紙が綺麗すぎる!!(表示されないけど)
みんみんさんの沼落ちシリーズ、一穂ミチさんです。
前作『ふったら、どしゃぶり』で幸せになった整と裏腹にフルボッコになってしまった和章がどうなったのか心配でたまらなかった私。
あとがきで「和章はこのまま独りでいて欲しい」「やっぱり和章は整とくっついて欲しかった」等の読者からの声が多かったと一穂さんが書かれていましたが、私の思いは一つです。
誰か!和章を幸せにしてやってー!!涙
みんみんさんに救済があると聞いた時は本当に安心しました、ありがとう一穂さん。
今回の和章は前作以上に猛省しています。整が弱っている所につけ込んで、整をずっと側に置いておいた事に対して更に自責の念にかられている様子。(整も辛いんですが、和章が可哀想だった…)
デザイナーとして売れっ子なのに、あれ以来ぱったりと物作りを止めてしまっています。
そんな折に、大学時代の講師だった元教授の石蕗から書庫の整理のアルバイトをしてくれないかと連絡が来ます。
魂の抜けたような状態で山奥の先生の住まいの近くに仮住まいをして通う事に。
そこで運命の出会い、待ってましたよ。どうか、どうか一つ和章を幸せにしてやって下さい!!と謎の親目線で頼み込んだ相手は、石蕗の孫の柊です。
訳あって親元を離れて石蕗おじいちゃんの元で2人で暮らしています。
植物園で一生懸命に花を育ててる純粋なイケメン。良いじゃないの、和章を頼みましたよ!と早々に拝みますが、2人が結ばれるまでにかなりの紆余曲折が…。そりゃそうか。
和章のイメージは優しいけど手先が器用なのとは裏腹に不器用すぎる人だったんですが、それが今回大分掘り下げられてる上に、石蕗おじいちゃんと柊のお陰で前作では最後の方でしか見られなかった和章の人間らしい所が垣間見えたり、前と違って結構笑ってくれるのでとても魅力的なキャラに変貌していました。
こういうクールで自分を持ってるキャラって笑うだけで破壊力ありますね。
柊がこんな笑い方もするんだ、と見入ってしまうのも分かります。
今回のテーマはおじいちゃんが教授時代に和章に教えた『Einmal ist keinmal』というドイツ語。日本語で『一度はものの数じゃない』という意味ですがこの解釈が2人それぞれ違ったのが面白かったです。私はどちらかと言えば「一度駄目でも諦めるな」という柊寄りの考え方が好きです。
その一度が和章に結構な傷を残してるんですが、柊なら何とかしてくれそうだと期待しましたが、柊も中々にきつい過去をお持ちだった…。
柊が花の手入れで刺さってしまった棘を和章が丁寧に抜いていくシーンがあるのですが、お互いの棘を溶かして行くお話なんだなとこちらに分からせてくれる印象的なシーンでした。
ですが1番好きなシーンは、柊がおじいちゃんから貰った腕時計が止まってしまい上手く戻せないのを和章が直してあげるシーンです。これが多分2人の距離を近付けたきっかけだと思うのですが、なんて事ないシーンなんですがなんか良いんですよね…(語彙力がまた消えた)
前作でも思いましたが一穂さん��ちょっとしたシーンでも美しくしてしまうんですね。
時計もキーアイテムなんですが、和章の止まった時間が動き出したようで嬉しかったなあ。
和章の時間を進めたもう1人の立役者、石蕗おじいちゃんがもう、理想のおじいちゃんすぎて今すぐこんなおじいちゃんが「やあ、君のおじいちゃんだよ」って現れてくれないかなあと思った程。
穏やかだけど鋭くて、悩み事があればすぐに相談したい!
そらこんな良い孫もいるわけだ!!
そんな穏やかに見えるおじいちゃんにも壮絶な過去が…。皆さん辛すぎませんか…?とある事件のせいでおじいちゃんは教授を辞めてしまっています。柊だけは心からおじいちゃんを信じていたのですが、そんなおじいちゃんが和章に放った言葉…。そしてその後に和章が返した心からの言葉…。
泣ける…泣けるよおじいちゃん!!私も信じてるよ!!
私もフルボッコにされていますが、まだ2人はラブラブになりません。これは相当に幸せになってくれないと困りますよ!?とじりじりと近付いて行く2人に1人でやきもきしておりました。
今回も雨が重要なシーンで使われていますが、本作の1番重要な場面の雨は台風レベルの豪雨でした。これはこれでかなり盛り上がるのでとても良かった!
前は雨の音も届かないタワーマンションに居た和章ですが、雨の音が届く場所にいる方が似合う気がします。水も滴るなんとやら、良い男は濡れておけば良いのです。
最後の最後に色々と乗り越えて漸く幸せになってくれた2人に心の中で万歳三唱、良かったね和章…!もう1人で壊れた時計を見なくて良いんだよ!
そして本当の最後にタイトルの真の意味が分かり感動。なんつう…なんつうロマンティックが止まらない!!
私もこんなん欲しい!!(未読の方には何がなにやらさっぱりだと思いますが、きっと皆さん欲しい!!となるはず)まあ私の部屋にこれがあっても浮きまくるだけなんですけども。
表紙の緑色がこの色なのかなーと何だか幸せな気持ちになりました。ありがとう、一穂さん(2回目)
今回はちゃんと完全版を手に入れたので書下ろしが付いていたのですが、こちらはもうずっとハッピーなのでほっこりできました。
本編で久々に少しだけ登場した整を見て思ったのですが、やっぱり整は一顕と、和章は柊と居た方が無理していない感じがして良いですね。
余談ですが、みんみんさんがラブシーンが多いけど、と気にして下さっていたのですが、BLを読んで毎回思うのですが、めちゃくちゃ綺麗に書いて下さるので全く抵抗なく読めます。作家さんて凄いなあ。
さて、次の沼落ちシリーズはおびのりさんオススメの『仮面の告白』とまたまた木原さんが順番待ちです。次は重めが続くのかな?
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「ふったらどしゃぶり」のスピンオフ。
整と離れた和章はスランプになり、デザインができなくなっていた。
田舎にひっこんだ大学の先生(第二外国語を習っただけ)に、書庫の整理を頼まれたので、里に家を借り、山の中の先生の家に通うようになる。
そこ先生の孫の柊と知り合う。
23歳。ドイツの血が1/4のクオーター。先生の家からさらに山の上にある植物園出働いている(どうやらバイト)
整を失って(つきあってはないけど)益々抜け殻っぽくなっている和章は、「きれい」が分からないという。
すこしづつ恩師と柊にかかわることで、かわっていく。
そして柊の古い傷(ここにいる理由)も知る。
整を囲って閉じ込めて、でも怖くて手を出せずにいた和章が、整のことをずっとぬけないトゲのように思っているように、
柊にも抜けないトゲがあり、
恩師の石路(つわぶき)にも、トゲがあり、
3人とも抜けないトゲが体の中にある状態。
無理に抜こうともせず、ぬかせようともせず、ただ穏やかにここで過ごしている。
が。。。
って話。
「メロウレイン」を読んでからこちらを読んだので、
途中ででてくる整がしんどそうなのも、ただの車酔いなんだろうと思えるけども、
そうでなかったら、まだ整は和章とのことで辛い想いを抱いているのかと思ってしまう。
二人はすれ違って、再会とはならなかったけども。
それはそれでよかったと思った。まぁ、会ったとしても整にはもう、一顕がいるので揺れることはないだろうけど(そう願いたい)
和章×柊になるんだろうと思いつつ読んでいるとはいえ、
ヤルのが結構唐突に思ってしまって、そこがなんとなく、ん~~って思った。
状況としてはありだけど、二人とも「好き」のボルテージはそこまで上がっていたんだろうかねえ?
なので☆3にしました。
再読したらその辺、行間が読めて納得できるかな?