紙の本
音声言語は異種間のコミュニケーション
2019/09/16 23:12
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投稿者:あや - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヒトが人間として進化してきたのは、犬がいたからだというのが
最近の新しいパラダイムとされている、というところから始まる。
イヌ科動物が大陸移動していくなかで、南下するほどに小型化していった。
そしてホモ・サピエンスとの出会い。お互いにニッチ(何を主食とするか、生物的環境における位置)
が安定していない状況では、生存するために補完し合える関係であった。
それから、どの種よりも先だって、イヌがヒトの傍らに存在するようになった。
著者は言語を「身ぶり・音声・文字」の3つに分けている。
言語学者、ことにチョムスキー学派はこれをごっちゃにする乱雑だと。
身振り→聴覚障害のある子どもたちが生み出したニカラグア手話。
文字→1秒と持たない音声言語と違い、時空を超える。文明を維持できる。
同じ種同士であれば、音声言語がなくても手話で十分こと足りることは、
ニカラグア手話でわかる。種が違うということは、視覚、聴覚、嗅覚、視覚、の能力が違う、
同じ世界にいて同じ世界を見ていない者同士だということ。
異種間のコミュニケーションに必要だったのが、「音声記号」だったという。
感情に左右されない、相手を同等、もしくはそれ以上の存在として扱う
「丁寧な言い方」での音声記号だという。
そもそも、犬は人の言葉を理解できているのか?ということについて。
犬を飼ったことがある人のほとんどは、私も含め、きっとそこに疑いはない。
作者自身は「理解していると認識している」と言っている。
理由として犬の生まれつきの聴覚能力、嗅覚、仕草を見分ける能力、
視線を感じる能力等、総合的な能力(人間のそれを超える)と、
音声伝達をコミュニケーションの手段とする性格をあげている。
ヒトとイヌとの出会いから、現代の人と犬の「家族として」「子供のような存在」
としての関わり方は、その環境と共にずいぶん変化していることを感じた。
人にとって、犬にとって、私たちはお互いにいい関係でいれているのかな?
ふと、そんな風に考えた。
すでに見送った愛犬達が恋しくなった。
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人が、コミュニケーションを発達させ、文明をつくりあげていく契機となったのは、異種たる犬との共生であったという。
荒唐無稽に感じられもするが、犬とコミケニーションを取りながら、その人間を超えた超能力を利用することで、狩猟が容易になり、大規模な牧畜が可能になった。「文明は犬によって始めることができたのである(p.211)」
犬好きの贔屓の引き倒しに聞こえるかもしれないが、様々な分野の研究成果を総合しながら、ダイナミックに議論が展開する。
紹介されている研究もいちいち面白い。オオカミは人間を振り返らないが、犬は振り返るという実験や、(最近言われる地域猫に先駆けた)里犬や、犬の伊勢参りの話も実に興味深い。
私的な思い出話が差し込まれたりするところも、犬好きには微笑ましく共感できるけれど、そういうウェットなところを省いて、文明論としてドライに書かれていたらもっと多くの読者を得られるのではないかとも感じた。でも好きな本だ。
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人間が言語を修得して進化した過程,犬がオオカミから進化した過程には,相互の作用があった,ということを,様々な状況証拠から導く.
少し「犬好きのひいき目」があるようにも思うが,そうであったとしても,また,ここで導かれた結論が誤っていたとしても,読み物として大変面白かったので良しとしよう.
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犬と暮らすことでヒトは人となった。
犬(狼)は集団で猟をし、集団(群れ)で生活します。
その集団生活の維持にはある種の倫理やルールがあり、犬と生活し猟のパートナーとすることは、人が言語や倫理、知識を得る上で重要な役割をになっていたのではないかという話です。
「馬、車輪、言語」という本でも学びましたが、確かに人は共生する動物から多くの学んでそして進化してきたというのは頷ける話です。
著者はアイアイの観察など、自然や動物を見つめてきた人で東大卒業のため参考文献などもしっかりしているのですが
、文章は読みにくかったです。
いいたいことはわかりました。
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万物は犬によって創られた。アイアイ博士が解き明かす、人間と犬、運命共同体としての関係の特異性と起源。
なかなか本題がはじまらないもどかしさ、正確を期すあまり読み辛い文、イラチな私はかなりイライラしましたが、内容は刺激的ですばらしい。
『犬は人間的な心の特性の誕生のすべてに関係している。』
まえがき
『ヒトが人となる直前の狩猟採集民、イヌが犬になる前の野生動物、その双方に何が起こったのかを、イヌの側から見る視点が必要となる。』第三章 犬の力
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一部に書き間違いなのか、日本語不明瞭な箇所が若干見受けられるのが残念ではあるが(校正含め)、生物としての根元的な人間と犬との違いを総論的に述べており、たくさんのことが腑に落ちる。
著者は"超能力"と表現しているが、人間には理解し得ない微細な兆候や変化を見逃さない犬の観察力の高さに改めて舌を巻き、一方で、娯楽のために他種族を短絡的に虐殺し、さらには同種間で大義なく潰し合い殺し合う人間という存在の唾棄すべき愚かさに嘆息する。
また、著者自身もアイアイを主に研究してきた学者だということだが、霊長類学界のいわゆる主流派には良からぬ思いを抱いているようで、松沢哲郎を一刀両断しているのが面白い。
この書の本質的な鋭さを端的に表す記述がいくつかあるので、私が拙い言葉を連ねるより、少し長くなるがそれらを下に引用して終わりたい。
「客観性は人間の能力ではとうてい達しえない高みである。人間はあまりに多数の偏見によって自己の人格を形づくっているので、そのバイアスからしか事柄を判断できない。」(145ページ)
「犬は現在直下だけを生きることで『永遠に生きている』ものだから、人の絶望の理由はきちんと説明してもらわないと、理解できない。(中略)人は犬から論理を学ぶ。」(235ページ)
「犬は大好きな人のかたわらに常にいる。常にいっしょにいて、常に同意しながら、まったく異なる世界を見ている。その時、人は心が解放されるのを感じる。人同士の絡み合った妄想の関係から解き放たれているからである。」(240ページ)
"おわりに"がまた、とりとめもない雑文と思いきや、秀逸。
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この本はローレンツの本へのオマージュなのかな? ローレンツの本も読んでみたい。
参考資料として読んだ本だったけれど、とても面白く興味深かった。
特に、ヒトと犬の最初のつながりは、牧羊犬や番犬であるとともに、「食料」としての役割も大きかったということが、驚きだった。
つまり、ヤギや牛と同じように食べていたということ。
なぜ、主な役割から「食料」が消えていったかというと、人間と言葉を介したコミュニケーションが取れて、「食料」以上に有用な役割を担うことが分かった身体こそだと思う。
以下、本文からのメモ
47
イヌはジャッカル類のように魚や昆虫を含む小動物と食肉獣の食べ残し、死肉、果実さえも食物としたはずである。
69
……アジアで大型化したオオカミ、ダイアーウルフや現生のタイリクオオカミが、人類に先んじて北米大陸にわたった
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人類の言語の発生の理由や犬の家畜化についての興味深い本
イノシシ猟や北極探検など犬…かわいそう……ってエピソードも多数あるので少しつらい