紙の本
神保町の古書街を舞台に、実は壮大なテーマのミステリー
2021/05/18 15:29
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルの「定価のない本」とは古書のこと。物語の舞台は、終戦を経て1年後の神田神保町の古書店街。
主人公の琴岡庄治は店舗を持たない目録販売を営む古書商であるが、その彼を師匠と慕いつつも古書商としてしのぎを削ってた三輪芳松が死んだ。彼の持つ古書の下敷きとなって圧死とされたが...。
事故死とも目されたこの事件を不審に思った琴岡は、自ら調べ始めるが、やがて、戦後日本に進駐していたGHQの陰謀へとつながってゆく。
物語は、エンディングに向かって、奥行きを増してゆき、日本の精神的な危機にまでつながりかねない話へと...うーん面白かった。
投稿元:
レビューを見る
古典籍に関わるミステリー。
舞台は神田神保町、神田神保町と聞くだけで楽しくなる。
印象に残った文章
⒈ 本を売る者に、悪者はいない。
⒉ ダスト・クリーナー計画
⒊ 国家どうしの文化戦争
投稿元:
レビューを見る
終戦から1年、活気を取り戻した神田・神保町。古書の街の片隅で一人の古書店主が崩落した古書の山に圧し潰されて死んだ。事故処理を買って出た仲間の古書店主・琴岡庄司は、現場の店に不可解な細工を発見する。行方を眩ました被害者の妻、注文帳に残された謎の名前そしてGHQの影。やがて、戦後日本の文化の存続に関わる恐ろしい陰謀が明らかになる。古書店主たちは日本の文化を、歴史を自分たちの手に取り戻せるのか・・・
門井さん初読みは、戦後、GHQ占領時代の古書店街を舞台とするミステリ。肝腎の事件は刺身のツマのような扱いで、ラストの謎解きを聞いたときもスッキリ!とはならなかった。むしろそこをとっかかりとして、GHQの陰謀から日本の文化の危機を取り戻しすという古書店主の奮闘が物語のメインテーマ。駆け出し作家の太宰治や徳冨蘇峰も登場して時代を感じさせる。
GHQのこんな陰謀が本当にあったのかどうかは不勉強で知らないし、作中で感じられる作者の歴史観という微妙な問題はさておいても、「古典は『のこる』ものじゃない、誰かが『のこす』ものなんだ」という言葉には深く感じ入った。
この「古典」は「ことば」にも置き換えられるかもしれない。言葉は文化であり、その国そのものである。言葉をないがしろにし、本を読まず、省略語や絵文字だけで感じ取るようなことを続けていけば、日本語はどうなっていくのか。その時「日本人」としてのアイデンティティはどこにあるのか。なんて、色々と考えてしまった読後でした。
投稿元:
レビューを見る
なるほど定価のない本ね、ふむふむ。
古典は誰かが残さないと、ここにはない。
文化を、歴史を、きちんと学べる環境が今ここにあることに、戦後も戦ってくれた人に感謝しなくては。
投稿元:
レビューを見る
反町さんの平凡社ライブラリー全5巻、古本で入手してたけど、2巻の途中で挫折してた。
で、あれを元に和製ハードボイルドが作れるんだ、と感心したのだけど、ラストの独白が「もたれる」感あり。
もう少し上手に処理してくれたら。
あとで坪内さんや反町さんの弟子筋の人たちの書評を漁ってみようかな。
投稿元:
レビューを見る
レビューを拝見して知った本です。
確かな読み応えのある一冊でした。
文句なしの星5つ。
明治生まれの琴岡庄治と神田の古本屋街の書店主たちとの物語。神保町の「本の街」としての歴史が引き起こした事件。
昭和21年(1946年)8月15日の1年後、古典籍(維新以前の和綴じの本)を扱う琴岡玄武道の店主、琴岡庄治は若い頃、立声堂という古書店で一緒に働いていた弟分の三輪芳松が、本の下敷きになって倉庫で亡くなっているのが発見され、不信感を覚えます。芳松の妻タカが姿を消し、犯人かと疑われますが、タカは「ひとりで犯人をみつけるつもりだった」と庄治に告白した後、タカもまた、自殺にみせかけて殺されてしまいます。
そして、庄治はGHQのファイファー少佐にとある事を要求され苦悩しながら日本の歴史の為に戦おうと心の中で一人決意します。妻と四人の子供のたちの身の安全の為に、GHQの狗となり、日本の歴史を売らなければならなかった庄治の苦悩は計り知れないものがありました。
でも庄治は負けなかった。事情は、反転につぐ反転で、真相が明らかになります。芳松の死の真相も解き明かします。
「定価のない本」日本の歴史は確かに守られました。
庄治や古書店主らの働きは、すばらしい叡智のある賞賛されるべきものでした。
作家の太宰治も、鍵を握る人物として登場しています。
投稿元:
レビューを見る
定価のない本
著作者:門井慶喜
GHQの陰謀から日本の文化の危機を取り戻しすという古書店主の奮闘が物語のメインテーマ。駆け出し作家の太宰治や徳冨蘇峰も登場して時代を感じさせる。
タイムライン
https://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
投稿元:
レビューを見る
神田神保町の古書店主が、本の下敷きになって亡くなった。
兄貴分の庄治は、その死の謎を解くために動き始めた。
戦後の混乱期、GHQの日本国民を矯正するという目的でなされた歴史を奪う行為はフィクションでいいんですよね?
古典は誰かが明確な意志と知識をもって努力をしないと『そこにある』ことは不可能。
『のこる』ものではなく、誰かが『のこす』ものなのだということを、改めて知る読書でした。
私には合わなかったかも、です。
投稿元:
レビューを見る
タイトルになっている“定価のない本”とは古書、それも明治以前の“古典籍”のことを指す。本書は第二次世界大戦後の神田神保町を舞台に、古書店主を主人公とした異色のミステリーだ。日本の行方を左右する壮大な陰謀に一古書店主が挑む構成は面白かったが、謎解きは曖昧で尻切れとんぼな感がある。
投稿元:
レビューを見る
定価のない本 古書、中でも明治維新以前の和綴じ本専門の店舗を持たない琴岡玄武堂を立ち上げた琴岡庄治。丁稚奉公の末に才覚を発揮して独立した彼を慕っていた 古書店主になっていた5歳下の三輪芳松が終戦記念日の翌年 昭和21年8月15日に古書で圧死したとの知らせを受けたのが物語の始まり。世界に稀な悠久1400年の歴史を有する日本を更生する密策と思惑を有するGHQに期せずして対峙することになる庄治だが、さて如何なる手立てで圧倒的力量を誇るGHQに立ち向かうのか 立ち向かえるのか? 地味な古書の世界が思わぬ壮大な展開に繋がって行くので快哉を叫びたくなるほどでした♪ 作中で徳富蘇峰や太宰治などにもいい仕事させています(笑)。ちょっと小気味良く、とても面白くて そして良かった。
投稿元:
レビューを見る
終戦から一年が経ち復興を遂げつつある古書の街・神田神保町の一隅で、ある日ひとりの古書店主が人知れずこの世を去る。古書の山に圧し潰され皮肉な最期を迎えた商売敵を悼み、同じく古書店主である琴岡庄治は事後処理を引き受けるが、事故現場からは不可解な点が。次第に彼の周囲でも奇怪な事件が起こり始める――。古書店主の死をめぐる探偵行が歴史の闇に隠された陰謀を炙りだす
事件が無事に解決し物語の最期の章は平成時代。そこで庄治の曾孫・玲奈が祖父に諭される言葉がある。「今の日本人は水がただで飲めるように古典が読めるのは当たり前だと思っているが、古典は水とは違う。水のようにもともと『そこにある』ものではなく、明確な意思と知識を以って、いくらかの偶然の力も借りて、努力しなければ『そこにある』ことは不可能。つまり、古典は『残る』ものじゃない、誰かが『残す』もの」
読み終えて同意に至った。古典好きな私でさえ、古典を学習する時間があったら英語を勉強する方が今の世では合理的なのにと思いがち。でも、それは根本的に間違っているのかもしれないとよくよく反省させられ、残してくれた人々に深い敬意を払わねばならない。
本書では、GHQが「ダスト・クリーナー計画」として、日本の古文書・古典籍をすべてアメリカが買い上げ本国で保管するという壮大な計画を打ち出す。日本が戦争を起こした原因をたどれば不可解な天皇制、そこに至ったのは神話から始まる長い日本の歴史にほかならない、そういう偏った歴史観を一掃するために日本の古書をなきものにするということだ。GHQ本部の言い分にすべて賛同はできないが、特攻隊や「神風が吹く」という非科学的な思想体系に対しては含蓄に富む文章が多々あり興味深い。
不利な形勢から、庄治を中心に書物を守る古書店の人々は『文化の爆弾』を放つ。GHQ占領下の神田古書店主たちが古書を守ろうと団結する熱い思いに心打たれます。
投稿元:
レビューを見る
古本屋ミステリーである。最初ノンフィクションと思って買ったが、フィクションだった。面白かったが、少々わかりにくいところもあった。戦後、古書店が復活していくなかで、琴丘庄治という古典籍商を中心に展開される。話は、神保街で庄治を兄と慕っていた芳松が高く積み上げられた本で圧死するところから始まる。これは事故かそれとも他殺か。ここに戦後のGHQが関わってくる。GHQは日本の古典籍を買い占めようという計画を持っていて、それを庄治にやらせようとする。古典籍は当時二束三文の時代で、庄治が市に出してもほとんど売れない。それをGHQがなんでも買ってくれるということで、庄治はいちやくお金が入ることになるが、それはGHQの日本文化を根こそぎ持ち出すというたくらみのお先棒を担ぐことであった。やがて、芳松の妻も謎の死を遂げる。庄治は古典籍をつぎからつぎへとGHQに持ち込む。しかし、資金の尽きてきたGHQはこれを再び、買い戻せという。庄治はいかなる方法でこれに対処したか。ここには当時の古書店の団結があった。日本に多くの爆弾を落としたアメリカに復讐をしてやる。それがみんなの気持ちだった。そして、最後に芳松の死の真相が知らされる。扱った古典籍は戦後の業界で大きな役割をした反町茂雄氏の本が参考に使われている。
投稿元:
レビューを見る
神保町に行くことが少なくなってしまったが、この古書の街を舞台にしたものだけで、なんか嬉しい。戦前・戦中・戦後と、古書事情の変遷も描かれていて、そこから雑学も吸収できる。ストーリー的には、少々無理もあるが、同じ古書でも普段手にすることがない古書籍の世界を見たから、まあいいか。
投稿元:
レビューを見る
昭和21年(1946)8月、古典籍(明治維新以前の和装本)を専門とする古本屋を営む琴岡庄治が、後輩の不審な死をきっかけに、GHQのファイファー少佐を相手に歴史の争奪をかけて戦う物語。出典の本があるので、GHQは日本の国宝級の古典籍を回収しようとした時期があったのだろう。歴史の裏付け資料である古典籍を日本から奪うことで、その国とその国民の存在根拠を根底から変えようとする政策だ。中国や朝鮮半島では王朝が変わるたびに同じように歴史が塗り替えられてきたという。古典籍を奪い返した琴岡庄治ら神田神保町の古書店主の活躍に誇らしく思う。同時に、自分は本当に日本の歴史に繋がっているのか考えたくなる小説だ。
投稿元:
レビューを見る
GHQと神保町の古書店との、日本の文化を守るための闘い。誰かが明確な意志と知識を以て、偶然の力も借りて、いっしょうけんめい努力しないと、そこにあることは不可能。その努力があったからこそ、日本人が培ってきた歴史が守られる。