紙の本
推理作家として著名な松本清張から昭和史を見ていく試み
2019/11/29 18:05
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「古びない」清張を堪能。語るほど解釈が深まる清張作品。探るほど発見と謎がある昭和史。大嘗祭など皇室のメディア露出。だが昭和天皇と弟の秩父宮の不仲など奥の院の秘話、2・26事件の際の皇居突入計画などの清張と原氏の「推理」には説得力がある。「神々の乱心」が未完に終わったのは本当に残念。結末を予想する著者の分析は鋭い。清張の小説では、表では男が力を持っているようで、実は本当に力があって鍵を握るのは女性だったりする。宮中祭祀、歴代皇后の強い個性、大正天皇の「押し込め」…現代皇室の内奥を想うヒントを与えてくれる。ただ、思いっきり「点と線」と「砂の器」のあらすじとネタバレをしている。ご注意を。
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
松本清張さんの作品には、名探偵は、出てこない作品ばかりです。その意味で、娯楽性は、どちらかというと……ですが、リアリティは、あります。鉄道や方言などなど……。確かにあり得るなと思えるミステリーが多いです
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面白かったです。
松本清張はまだあまり読めていませんが、既読の作品や観た映像化でも昭和の暗部のようなものが描かれてるなと改めて気付かされました。「砂の器」も「ゼロの焦点」も。
そしてめっちゃ格差あるんだなぁ…見えなかっただけか。
皇室にも確執があったというのを初めて知りました。貞明皇后ってそんなに権力握ってたのかな…「貞明皇后実録」出版されてほしいです。秩父宮と二・二六事件と…「昭和史発掘」読もう。
終章の、司馬遼太郎は歴史を男性中心に見て、松本清張は歴史を女性中心に見てる、というのも面白いです。どちらもそれぞれ読み応えあります。
そして「国体」…かつてとは違う形で確立されているかもしれない。これちょっとひえっとなりました。
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松本清張といえば、社会派推理小説というジャンルを確立。現実の社会問題とミステリーを両立した作品を発表した昭和を代表する大衆作家だ。
その一方で、小説の枠を飛び越えて、「日本の黒い霧」や「昭和史発掘」などの取材や調査研究をもとにしたノンフィクション作品も発表している。が、あまりにミステリー作家という面が強すぎるせいか、松本清張を学者として評価する声は小さい。本書はあえて、昭和の歴史学者としての松本清張の思想や研究について再評価する。
本書で紹介されている小説「点と線」、「砂の器」、「神々の乱心」を分析すると、タブーともいえる宗教や社会身分、天皇制に松本清張は挑もうとしていたことがわかる。未完成遺作「神々の乱心」では皇室における天皇一族の不和や表にできない不祥事などをモチーフにして、新興宗教を描いている。また、「昭和史発掘」では226事件を皇室の一部が関わった可能性を主張している。現代ならば炎上スレスレのネタだ。
大作家の名声を備えながらも、マスコミがタブー扱いするネタに挑んだ松本清張の野心は再評価されるべきだろう。彼がもし平成の時代にも生き続けたならば、大震災や原発、天皇退位について、どんな興味を持ち、何を発表しただろうか。
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自分の生まれた昭和のことを何て知らないんだと認識しました。もっと知りたいです。昭和の頃の地方と東京の格差、226事件の背景となった当時の空気感、皇室に残る古代性、女性の存在の大きさ、これらを含めて松本清張作品にチャレンジしたいと思いました。巻末にありましたが、100分de名著も見ました。「神々の乱心」はその時も衝撃的だったのを覚えています。
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没後28年。昭和を代表する作家でありながら、平成・令和になっても同時代性を失わず、いまだに映像化や数多の関連本も上梓される松本清張。著者曰く、作品そのものが戦後史の縮図であり、高度経済成長という時代の証言になっていると。
社会派推理と古代史と昭和史という3本柱の元、一貫して「格差」「差別」というタブーを作品テーマに据え膨大な作品を遺した。
本書は「鉄道」と「天皇(皇族)」に着目し、代表作である「砂の器」「点と線」「日本の黒い霧」「昭和史発掘」「神々の乱心」の5作品をテキストにし、昭和史の暗部に光を当てる。
序盤の鉄道篇は、清張の貧困・学歴差別等の生い立ちに触れつつも、鉄オタの著者の本領発揮も手伝い牧歌的な香りも漂い、穏やかな滑り出し。一転、天皇篇になるや著者の推理は冴えわたり、その考察は一読の価値あり。
二・二六事件は陸軍 皇道派 青年将校1,400名が決起した軍事クーデター。昭和天皇は激怒、断罪を即刻下した。その毅然たる態度の背後にある二人の身内の存在。貞明皇后(大正天皇の妻であり昭和天皇の母)が秩父宮(昭和天皇の弟)への偏愛。その秩父宮を担ぎ出そうとした反乱軍の策略。当時は「大元帥」。陸海軍を統帥し、武力という権力が集中していた時代。その裏で宮中では権力闘争と親子の確執があったのではないか…という清張の推理。
松本清張が社会派推理の巨匠でありながら、古代史と昭和史の研究者としての顔も持っている。これを指して共に昭和を代表する作家である司馬遼太郎としばしば対比される。
近代国家に駆け上った明治時代に日本人の清廉性と勤勉性を見出だし讃えた司馬遼太郎。方や昭和の暗部を徹底的に調べ追及した松本清張。
ちなみに明治維新から終戦まで77年。人間に置換すれば喜寿。このジェットコースター的栄枯盛衰–富国強兵から帝国主義−ぶりをふたりの作家から学べる手軽な方法が読書。今一度通読してみるべきだな思った一冊。
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秩父宮が、東北本線で帰京しなかった。というような歴史を復習するような一冊。
司馬史観への没入を防ぐ。そういう松本清張の捉え方もあるのかと。
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「社会派推理小説」というジャンルを確立し、日本の推理小説の基礎を作ったとも言える作家の作品を通して、「昭和」という時代を論評する。
推理小説の古典とも言える「点と線」や「砂の器」等、単なる推理小説作家では終わらなかった松本清張である。
戦後すぐの社会事情を反映させながら、作品は描かれ、故に単なる推理小説に終わらず、人間模様を描き出し、人々を感動させたのだろう。風俗や社会環境を当時と違っても人間の根本は変わっていない、故に今尚テレビドラマや映画になるのだろう。
当時の鉄道事情等、忠実に実際のものを反映させている故に、真実味もます。
また、「日本の黒い霧」「昭和史発掘」のノンフィクションではなかなか踏み込めなかった事件等にも膨大な資料に基づいて描いている。未完の遺作となった「神々の乱心」などでは皇室にも目を向けている。
松本清張とは驚くほど多ジャンルに挑戦し続けた作家だったと認識させられた。
また、この本を通して、戦前、戦中、戦後すぐの昭和史に触れることができた。
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昭和に生まれ育った人たちなら松本清張を読んだ人は多いのではないだろうか?
この本でも「点と線」、「砂の器」、「日本の黒い霧」、「昭和史発掘」、「神々の乱心」などが取り上げられている。
自分も「昭和史発掘」は長いので途中で挫折したりしたものの、自分も「神々の乱心」以外は読んだことがある。
社会派推理作家であり、ノンフィクション作家であるとされる松本清張氏の活動を、ノンフィクションが主軸であり、史料が足りず推測で埋めざるを得ない箇所が多い場合に小説=フィクションという容れ物を借りたというのは全くその通りだと思う。
そして、松本清張氏の視点を昭和における社会の格差や、差別、語られなかったタブーにメスを入れて白日に晒した先駆者というのもその通りだ。
推理作家として売れてしまったが故に、ノンフィクション作家として、歴史研究者としての評価が不当に低いというのもその通りだろう。
中で司馬遼太郎氏との比較が出てくる。
司馬遼太郎氏の描く時代小説はノンフィクションっぽくみせたフィクションだ。松本清張氏は史実を道具にしながらの推理小説(完全なフィクション)と史料をベースとしたノンフィクションの両方を描く。
作家としての技量の豊富さ、作品の面白さという点で僕は松本清張氏に軍配をあげる。
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NHK「100分DE 名著」のテキストの加筆修正版。清張作品で語る昭和史。
「点と線」「砂の器」「日本の黒い霧」「昭和史発掘」「神々の乱心」を解題し、昭和史を別の角度から描き出す。筆者原武史の専門分野の天皇論と趣味のテツの部分が活かされている。
元々は番組テキストだっただけに分かりやすいが反面一つ一つの論が浅いように思われる。
単に作家の枠に囚われずに歴史家、思想家として松本清張は偉大な存在だったことを思い知らされる。
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面白かった。好きで清張さんは、読んでいたが、いかに表面しか見ていなかったか、反省させられる一冊。天皇制、宮中のいろいろも興味深く読んだ。皇室の記事の見方が変わる。