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1.コロナショック 金融の本質を学ぶ
「米国ドル覇権」の行方
トランプ政権は土俵際 うっちゃるか 押し出されるか
「通貨のシニョリッジ」
2.スペインの覇権 無敵艦隊 銀鉱の発見
フィリペⅡ 1550-1600 貨幣改悪・通貨発行増
3.江戸幕府 小さい財政 分権国家・非軍事国家
重商は積極 重農は堅実
4.ローモデル 国債の貨幣化 MMT?
不換紙幣は信頼により成立 信頼を失うと✖
現代の金融緩和にも通じる普遍原理
5.米国南北戦争
国家と中央銀行で財政を分離 健全性の明確化
中央銀行と一体はどんぶり勘定 財政破綻へ
歴史の知恵
現代はその一線を踏み越えつつある
「コロナ戦争」として支持を確保
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個人だけではなく経済を振り回すマネーの歴史。ギリシャ・ローマ時代からの貨幣改鋳、戦費をどう調達し賄うか。信用がマネーになり、信用創造に至る。株価高騰、繰り返されるバブル。中央銀行の時代、例外のアメリカ。共産主義の計画経済、権力と奴隷。
歴史をざーっと眺めてみると、戦争の費用が大きかったのだと知りました。マネーって、人々の働きの成果を、集めて掠め取っていく仕組みだったのかもと思いました。
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マネーの魔術史 :支配者はなぜ「金融緩和」に魅せられるのか (新潮選書) 単行本(ソフトカバー) – 2019/5/22
優れた為政者は、貨幣価値の向上を望む
2019年11月4日記述
野口悠紀雄氏による著作。
2019年5月20日発行。
本書は「週刊新潮」2016年31号~2017年32号、
「フォーサイト」2017年6月1日~2018年7月6日において
連載された「マネーの魔術史」に加筆修正をおこない、再編集したものです。
全体を通しての感想になるが、軍資金等の無い権力者がマネーを発行しすぎてインフレに襲われるということが繰り返されてきた。
今、日本社会ではイメージしにくいものの、マネーの発行をやり過ぎれば、私達の社会もいつでも本書で記載されたような悲劇が襲ってくるのではないか。
もちろん、色々なモノの値段が上がっている割には
給与が伸びていない事もあり生活が苦しい、若者の●●離れ、専門学校、大学への進学での奨学金(ローン)まみれ、これらだけでもうんざりするほどだ。
しかし本格的なインフレーションが日本を襲えば
とてつもない被害が出るだろう。
少々暗澹たる気持ちになった。
ただいつまでも「見たい現実」ばかりを見ているわけにもいかないだろう。
通貨発行益、マネーの増発による利益は国家にとって大きい。
Facebookの仮想通貨リブラの計画にG20で反対意見ばかり出たというのは本書を読むとさもありなんと思えた。
印象に残った部分を列挙していくと
マネーは何故にマネーとして機能するのか?
→人々がそれをマネーとして認めるということだ。
ニーアル・ファーガンは「マネーの進化史」(早川書房)の中で言う。
「スペインの過ちは、貴金属の価値が絶対的なものだと思い込んでいたところにある。
カネの価値は、誰かがそれにふさわしい対価を見つけて喜んで支払う時に生じる」
自給自足で物々交換になってしまうと、交易の利益は生じなくなる。
持ち運びの容易さ等の点で、紙幣は明らかに金属貨幣より優れている。
しかし、製造コストが金属貨幣より遥かに低いので、増発されやすい。
これまで見てきたように金属貨幣でも改鋳が頻繁に繰り返されたが、紙幣増発の危険はずっと大きい。
実際、中国のどの王朝も、紙幣の発行量をコントロールできなかった。
そして最後には制御不能なインフレーションに陥ったのだ。
現代社会におけるマネーは、金貨でなく、中央銀行の銀行券と銀行の預金だ。
この世界でマネーがいかに作り出されるかを、
これまでの教科書は、次のように説明してきた。
ある人が、銀行券を銀行に預金する。
銀行は、その預金の一部を準備預金とし、残りを貸し出す。
貸し出されたものは、預金となって銀行に戻ってくる。
それが再び貸し出される。
同様のことがさらに続き、最初の預金の数倍の預金が作り出される。
これが「信用創造」と呼ばれる過程だ。
ファーガソンは「マネーの進化史」で、ハーバード大学のビジネススクールでは、学生に銀行ごっこをさせることによってこの過程を再現させ、信用創造過程を教えている、と言っている。
しかし、この説明は誤りなのだ。
銀行は、預金が来るのを待って、その一部を貸し出すのではなく、何もないところに貸し出しを作り出す。
貸し出しは、借り手の預金口座の残高を増やすことによって行われる。
つまり貸し出しと預金が同時に創造される。
現代社会におけるマネーは、コンピューターのキーのひと押しで作られるのだ。
教科書の説明が間違いであると認められるようになったのは、比較的最近のことだ。
イングランド銀行のサイトにある
いくつかの論文が、これを解説している。
また「通貨改革、アイスランドのためのより優れた通貨制度」
(2015年3月)というレポートにも、詳しい解説がある。
(この報告書は邦訳されており、ウェブで読むことができる)
これまで広く信じられてきた説明が間違いだったとは、驚きだ。
この誤りは、金融政策等に関する様々な誤解の原因にもなっている。
エリザベスがあえて改鋳したのは、国民のことを考えたからだ。
ポンドの価値が下がったために輸入品の価格が高くなり、イングランドの国民生活を圧迫していた。
エリザベスは、羊毛業者の利益よりは、輸入品の価格を引き下げ、国内の物価を引き下げるのが重要と考えたのである。
このように、優れた為政者は、貨幣価値の向上を望み、業界の反対を押し切って実行する。
この話を、現在の日本の政策担当者に是非聞かせたい。
経済全体にとって重要なのは、銀山を発見できたかどうかではなく、増加した銀をどのような目的に使ったかであることがわかる。
非生産的な用途に使えば、インフレが起きるだけの結果に終わってしまう。
しかし、それを利用して新しい経済活動を
始めるのであれば、経済成長を実現させることができる。
自分で採掘せずに海賊行為で略奪しても、である。
金融的な手段では、経済の構造的問題は解決できない。
これこそが、ローマやスペインの歴史から学ぶべき教訓だ。
マネーの増発や金融緩和は、短期的に見れば、徴税強化のような痛みを伴わない。
だから、何のコストも伴わずに経済が
活性化するような錯覚に陥ってしまうのである。
このため、政治的に選ばれやすい。
しかし、長期的な経済体質は悪化する。
とくに、マイナス金利を導入すれば、生産性の低い企業が生き残ったり、効率の悪い投資が行われたりする。
だから、長期的に見た経済の体力は、確実にむしばまれるのである。
彼(ヤコブ・マルシャック)が亡くなってから、ある人(日本人)から聞かされた話。
マルシャックは、”Noguchi is one of best students"
と言ってくれたそうだ(彼は、私のことをYukioではなくNoguchiと呼んでいた)。
これは、私の最高の自慢話である。
(第一次世界大戦後のインフレに苦しむドイツで)
紙幣は、額面ではなく重さで計られた。
インクを節約するために、紙幣は片面しか印刷されなくなった。
紙幣を盗む物好きはいないので、むき出しで札束を運んでも何の問題も���かった。
紙幣がいっぱい詰まったかごを盗んだ泥棒が紙幣を置いてかごだけを持って行った。
薪を買いに行く代わりに、札束を燃やした。
中央銀行の最も重要な役割は、こうしたことを阻止し、貨幣価値を維持することだ。
しかし、戦争の遂行や復興は、貨幣価値の安定より重要な目的だと考えられたのである。
復興の完了後、それまでの経験を踏まえて、政府の財源調達はマネーによらないことが基本方針とされた。
これを確保するため、「財政法」第5条によって、
日本銀行が国債を引き受けることが禁止された。
日本の高度成長は、そうした経済環境の中で実現したのだ。
しかし、こうしたことは、すべて忘れ去られてしまった。
2013年に日本銀行は異次元金融緩和を開始した。
これによって、日銀引き受けと実質的に同じことが
行われるようになったのだ。
現代の国家では、貨幣は完全に不換紙幣になっているので、政府による恣意的な財源調達を阻止することが、とりわけ重要だ。
そのためには、中央銀行が政府からの独立性を保ち、
マネーファイナンスを阻止することが必要だ。
しかし、現実には中央銀行は政治に隷属している。
とくに日本の場合はそうだ。
異次元金融緩和によって市中の国債を日銀が買い上げたため、財政規律は著しく損なわれている。
ところが、コンピュータ技術の進歩によって、新しい通貨である仮想通貨が登場した。
これは、政府の自由にはならないマネーだ。
仮に仮想通貨が広く使われるようになり、政府が発行する通貨を代替することになれば、政府はマネーを発行して財源を調達することができなくなる。
政府は、数千年にわたって享受し続けてきた重要な財源調達手段を失うことになるわけだ。
もし、そうしたことが実現すれば、世界は根本的に異なるものになるだろう。
しかし、現状では、仮想通貨の規模はまだ小さすぎる。
そして多くの人々は、仮想通貨をどう使うかではなく、短期的な価格変動を利用した投機にしか関心がない。
この状況が将来どうなっていくのか、まだ見通しにくい。
ただし、マネーの歴史がいま大きな転換点に差し掛かっていることは間違いない。