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白石氏の私小説?とも思わせてくれるような不思議と自分の身に置き換えられるような年を重ね、多くの人と知り合ってきてそして終焉も視野に置いたような小説。知的で尚且つ深く人生を振り返るべく書き込まれている。
白石氏の『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』は大好きな小説なので、これを超える本は…などと思っていたけれどこの本はまた別な意味で私の胸に深々と刺さってきた。
同世代ってこともあって。
人と関わって生きているという意味を改めて感じてしまう。
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初めて読む作家さんの小説が自伝風な小説であった。
共感できる部分が半分、そう言う考えもあるなぁと思うところが半分。
出版社の編集者と作家の関係など本作りの事も分かる。
芥川賞、直木賞の選考料が1回100万円とはびっくりした。
直木賞受賞作「ほかならぬ人へ」も読んでみたくなった。
印象に残った文章
⒈ 50歳を過ぎた頃から、目の前に伸びている道が未来に繋がっているのではなく、過去へと通じているような、そういう感覚に浸る時間が徐々に増えていった。
⒉ この国で出世したいなら、まずは責任感を放棄(無責任能力)し、家族や部下、友人知人、取引先への同情や憐憫、あわれみといった感情を放棄(共感欠如能力)しなくてはならない。
⒊ 女は想像以上に底知れない生き物で、自分は実は何も知らなかったんじゃないか、と最近あなたは悔い改めているのではありませんか?
⒋ 私はとある作品の中で、自分のことを一番良く知っている他人の死は、限りなく自分自身の死に近いと書いたことがあった。
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白石一文の自伝的小説。編集者時代の思い出や作家になってからの苦労、結婚の失敗、パニック障害、現在一緒に暮らすパートナーことりさんの話などなど。
たっぷり楽しめた。一応ことりさんが実家の母親のそばにいるために主人公の元を離れ、その間にあれこれ考えたり思い出したりする形式になっている。
編集者時代の裏話などどこまでが本当なのか気になることが沢山書いてある。白石作品では、哲学のような独特の「白石イズム」が披露されるけれど、それは今回は珍しくあまり響かななかった。しかしそれ以外は抜群に面白い。
離婚することになった知り合いの台詞 「でも、実際にこうして独り者に戻ってみると、なんだか長くて退屈でひどく空しい夢からようやく覚めたような気がしますね」
「私たちの首には生まれながらに一台の双眼鏡が掛けられていて、私たちはそれを使って周囲の人々の心を覗き込む。この双眼鏡は非常に使い勝手が悪く、たいがいの像はピンボケのままなのだが、ある特定の人物に対してだけは、なぜか一瞬でピントが合って、相手の奥深い部分まできれいに映し出してくれる。(中略)人生上の悩みは大半が人間関係によるものであるのは、ピントの合いにくい双眼鏡を手にして、私たちがいつも「あきらめずにピント調節していれば、いつかははっきり見えるはずだ」と頑張り過ぎているせいのような気がする」
「感情的な人間は誰かに深く語ることでストレスを発散すると度合いは実は少ない。彼らは誰彼構わず不平不満を洩らすので、そもそも深く語るということしない。相談相手は表面的な話を聞くだけで彼らのストレスを解消させてやることができる。だが槇原君のような思索的ない人に関しては、相手の思考の整理を手伝うようなつもりで順序立てて多方面からじっくりと話を聞いた方がいい。それすれば、彼らはたった一度の感情の吐露で充分に癒されることができるのだ。カウンセリングがより有効なのは、そういう思索的ない人間に対してである」
これはなかなかスルドイ。私の周囲の近い人ははほぼ全員が感情的。そして思索的(?)な私の話を順序立てて多方面から話を聞いてくれる者は一人もいない。なるほどねー。
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何とも不思議な小説。440頁もの大部のページを繰りながら、「これは小説という形態を借りた随筆?」「随筆を書いてこなかった著者が考えついたアンサー?」という思いが錯綜した一冊。
本書は還暦を迎えた著者の回想〈出版社時代(文藝春秋)に関わった人・仕事のこと・作家の父親・22年間離婚できない妻と生き別れになった息子のこと・パニック障害と半年間の休職・小説家デビュー…〉を野々村という主人公が赤裸々に語る形を取り、登場する人物造形も仔細に書き込む一方で関わりの薄かった人もちらほらと登場する。
想像するに、旺盛なる筆力で鳴らす著者だけに筆に任せる中で、記憶の隅から次から次へと蘇ってきた回想を綴っていったと見る。事象と心象が交わったところに生まれる文章を随筆というが、老境作家が辿り着いた創作の佇まいが立ち昇る。
本書は様々な回想を縦糸に、そこに20年来の現在のパートナーとの日々の暮らしを横糸に話は淡々と進む。それぞれの話の中に白石作品には付き物の深い思索が挿入され、自己省察が繰り広げられる。
唯一、小説の匂いを強く感じたのはパートナーとの関係について。表題の『君がいないと小説は書けない』は自叙伝タイトルとしてはいささかロマンチック過ぎて鼻白んでしまったが、まぁこれはパートナーへの尽きない感謝と宙ぶらりん状態の彼女に向けた詫びの気持ちから生じた表題なんだろうと推察する。
出会いに始まり現在の暮らしぶりを語るのは十分理解できる。ただ「彼女に抱いた疑念(別の男の影」の下りははたしてどこまでが事実で、どこまでが創作なのか…と勘繰ってしまった。
「自伝的小説」と謳っているから、そういう話もさもありなんだけど、この下りのみ本書の中で屹立しており、前のめりになって読んだだけに長い回想記の一番の感想が「妻への疑念」をめぐる顚末に関心を寄せてしまったのは、はたして良い読み方だったのかな…と思いながら読み終えた一冊。
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日経新聞の紹介文を見て読み始めた。
久しぶりの小説だったが、すぐに世界に入り込むことができた。
面白いのは、やたらと空想、妄想で話が展開していくことだ。読み進めていくと、物語がいつのどの話の展開だったか忘れそうになることも。
知っている人がいなくなることが本当に死ぬことだとしたら。真実というものは、捉えようもないものであり、我々は認知の組み合わせの世界に生きているのだということを認識させられる小説だった。
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白石一文の自伝的小説。
今作で初めて同い年だと知った。
かつて文芸春秋社での敏腕編集者で、若い頃は、ジャーナリスト→作家→政治家を思い描いていたという。一時期は石原慎太郎をローモデルにしようかと考えたらしいが担当編集者となり本人の人となりを知って、とてもローモデルにはならないと、道そのものを断念したことも作中で吐露されている。
自分の感覚として、著名人が回顧録的な自伝を書いたら、もう一丁上がりだなと思っている。
石原慎太郎も20年くらい前に「わが人生の時の会話」「国家なる幻影」を出し、その後は都知事として活躍はしたものの著作はパッとしなかった。田中角栄のことを書いた「天才」は話題にはなったけど内容は印象に残らなかった。
話しを戻すと、
この自伝的小説の登場人物は仮名やイニシャルとなっているが、関係者が読めばそれと分かる内容とのこと。まあ、それはそれで良いのだけど自伝としても小説としても中途半端さは否めず、このまま作家としての勢いも衰えていくのか。
白石一文は、今まで愛読してきた積りだが今作でいささか失望してしまった感がある。
よせばいいのに自伝的小説
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自伝的小説ということで,出版社の舞台裏や作家と編集者の関係などかなり赤裸々に書かれていて興味深い.宮城谷昌光氏の直木賞受賞の真実などもびっくり.小説自体は生よりも死に寄り添った,哲学の香りのする物語.かなり自分勝手な主人公で,自分の生きやすさ生き続けること,作家であり続けることのために,身近な人を特に妻を道具のように考えているのが,正直とはいえ好きになれない.
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帯には「小説史をくつがえす自伝的小説」と紹介されている。
なんだか、自分の考えをつらつら開陳し続けていて、「君がいないと小説は書けない」のストーリーにきちんとつながらない無駄な部分が多い印象で、何度も途中でやめそうになった。
でも、我慢して通読すると、結果なんとなく全部必要だったのかな、と感じられた。なかなか良い本。
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最後まで良くわからず・・・のところが著者ですね。
前作も金沢が出てきて、今回も隣の町野々原市ともじっているけど、あとパン屋さんもあるある・・・
と、我が町との対比を楽しみながら、どこまでがフィクションなんだろうと著者の頭の中を覗きにしているような物語。
で、タイトルはインパクトがあって、最後のどんでん返しを期待したけれど、なんだか肩透かし。
といつも思いながらも、また自作を読んでしまうという魔法。
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ラスト、鳥肌たった…
「運命のひと」と書くと陳腐になるが、人生とはそうやって「ぴたりとピントの合う双眼鏡を持ち合わせている」相手を探し求める営みなのかもしれない。
私小説でもなく、エッセイでもないけれど、白石一文自身をモデルにした小説。
編集者、パニック障害、直木賞、ことり、度重なる引越し、人々との、縁。
これまでの氏の小説の根底を流れる、「圧倒的な人生哲学と幸福論」を垣間見ることができる。垣間見るというかもう怒涛の勢いで流れ込んでくる。くるしい。
その思想は一見刹那的で奔放に見えるけれど、逆だ。人生で起きる全てのことには意味があり、繋がっている。
平坦に、時に冷たくも見えるその裏側で、こんなにも全身で愛を叫ぶ人は見たことがない。これは「この世の全部を敵に回して」を読んだ時から変わらない感想。どうしてこんな切ない叫び方ができるんだろう。
例によってその生き方自体には全く共感できないのだけれど、それは共感できないのか、諦めているのか。羨ましい、と思う気持ちもある。
人生は、「我、かく生きたり」という壮大な承認欲求を満たす作業ともいえるかな…それなら少し共感できるかもしれない。
「自分のことを一番よく知っている他人の死は、限りなく自分自身の死に近い」
「どれほどピントの合った相手でも、見ることをやめてしまっては、その人の双眼鏡が一体どちらを向いているかさえ読み取れなくなってしまう。」
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白石一文さん大好きで、20年前から新作出たら必ず読んでいます。
前作「プラスチックの祈り」同様、主人公が小説家で父親も小説家で、もとは編集者という経歴やパニック障害を患った経験も、そっくり白石一文氏本人のことのように読めた。そうくると何か、え?また?とちょっと残念な感じがしました。私の大好きな作品「私という運命について」など、白石一文さんが書く女性も好きだったし、なんか小説という形をとっているのにただのおじさんの独白みたいで。(言いすぎ?)それに、「前作が何の話題にもならず黙殺されたので東京を離れた」というくだりや、過去の自身の作品中の文章を「かつて私は・・・・と書いたがそれは・・・」と引用しているのも、全部読んでいるファンとしては、あの作品のことだな、と分かってうれしい人もいるかもしれないけど、私はそうは感じなかった。そういう引用も、この小説は小説という作品ではなくて、作家のつぶやきになってしまっている感じがした。(ごめんなさい)。
最後の方は、浮気疑惑のある妻についてあーでもないこーでもないとうだうだ考えつつ、結局は自分にとっての彼女の存在の大きさを認識する、という(まぁ、タイトルからして当然予想のつく)結末でした。
そりゃあそうよね、という展開でありながら、やっぱり心に響くのはさすがの文章です。
このあと白石一文作品の方向性はどうなっていくんだろう?次作を期待しつつ、もう一度かつての名作を読み返したくもなった。
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雪景色の、曇った空の中に白い鳥をさがす主人公の視点で小説が終わる。自分がこの先どこに連れていかれるのか不安混じりの期待感に包まれる終わり方が心地よかった。
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んー。
冗長。面白くない。
話があっちこっちに飛びすぎ。
ついていけない。
途中で何度も挫折しそうになった。
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読んでいくうちに、この小説は主人公のことなのか著者本人のことなのかの区別がだんだん曖昧になりつつも、人生についていろいろ考えさせられた。ト書きの描写が論理的で、男性ってだいたいこう考えてるよなぁ、と妙に納得した。
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自伝「的」小説なんて言葉に踊らされ良いのか?
「私」小説でもないんだから。
実を、きっと虚が包んでいるに違いない。そう思って読んでいくと、友人達の別れかな託されたメッセージの行方は。
ことりさんとのことや、佐藤さんのことは、なんか多分読者へのサービスであるような。