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かつて「未亡人」に憧れていた。
ミュージカル映画『ハロー・ドーリー!』を見てしまったのだ。
主人公ドーリー ・リーヴァイ は「陽気な寡婦」である。
「私にすべてお任せを」の名刺をあちこちに配りまくり、笑顔と、世話焼きな性格を生かして、やりての仲人業をしている。
口癖は、「夫はこう言っていた」。
じれったい若者の肩を叩いたり、背中を押したり、励ましたり、物事のよいほうに目を向けさせて、彼らの恋を成就に向けて推していく。
その間に、ちゃっかり、自分の恋愛も成功させている。
すっかり夢中になってしまった幼き日の私は、将来こんな「みぼうじん」になりたいと舞い上がってしまった。
長じるにつれて、さすがに、その夢に訂正を入れていったのだが。
「陽気な寡婦(メリー・ウィドウ)」なんて、そうそういるものではない。
伴侶を失ってすぐさま幸せになれるなら、それはその結婚が不幸であったからだし、結婚が幸せなものであれば、失ったものの大きさは計り知れない。
ドーリー・リーヴァイがまだしも陽気でいられるのは、幸せの伴侶たる夫を失ってから、かなりの時間を経たからだろう。
『不協和音』の主人公、リリーはちがう。
夫を失って、まだ一年。寂しく、不安定でいる。
見るものすべてが夫を思い起こさせる。
耳に届く音楽は夫からのメッセージだと思い込み、それにすがり、ふとした匂いに、夫を強く思い起こしてしまう。
いっぽう、夫がいないことを忘れてしまう時もある。
カードがくれば、自然に夫からだと思ってしまい、何の気なしに彼の好物を買ってしまいそうになる。
そんな自分をどうにか立て直して、仕事は集中して勤め、二人の息子の母親たる役目も、日々、なんとかやっている。
例えば飼い犬の思わぬしざまに、張った気が折れることもある。
一日一日が、気を張ったり、挫けたりの暮らしなのだ。
その、不安定な日々に、妙なものがやってくる。
たとえば手紙、あるいは贈り物、些細であっても、不穏なもの。
好意のような、悪意のような、どちらとも言いかねるもの。
リリーの日々に、不意に立ち入ってくる、まさしく「不協和音」。
自分がなにに惹かれているのか自覚できないままに、
とにかくページを進めてしまった。
これが読み耽るということだろう。
『ケイトが恐れるすべて』がよかったという人は、これも面白いのではないか。
そして、やはり女性のほうが、より強くお薦めできる。
https://www.youtube.com/watch?v=8Dm4GhaYj84
そしてこちらが「ハロー、ドーリー!」の予告編。
唐突に出てきた小さいおっさんに、「だれだこれ」と思ったのも懐かしい思い出である。
ゲスト出演していたルイ・アームストロングだった。
この予告映像では(3:38)あたりから登場する。