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著者新境地の歴史ミステリながら、底にある伝えたい思いはこれまでの(数学や言語やAIをあつかった)作品に通じるものを感じる。ミステリの謎解きに負けないくらい主人公たちの心情や考え方の変化にひきこまれた。
タイトルも装本もちょっととっつきにくいかもしれないけれど、若い人におすすめしたい、ぜひ読んでみてほしい作品だと思った。世界史やキリスト教の知識があるに越したことはないけれど(わかるひとにはわかるごほうびもなくはない)、あまりなくてもだいじょうぶだから。
主人公は、与えられた戒律をきっちり守ることを至上として、失敗することを恐れる、平凡だがまじめな(融通が利かない)若者ベネディクト(現代っ子なら共感するところ多いはず)。修道院から下界に降りてその複雑さにとまどいながら謎の聖遺物をめぐる調査の旅や出会いの中で少しずつ成長していく。
そしてもうひとり、知識豊富かつ冷静で自分を客観視でき、聖職者でありながら神ではなく自分だけを頼みとする若者ピエトロ。この二人が出会い、友情を育み、別れてゆくのと重ね合わせるように描かれるさまざまな人間関係が物語に奥行きをあたえている。
宗教のみならず、政治、思想、あらゆる世界における、過剰な潔癖さや単純な二元論にこだわる危うさに対する「清濁併せ呑む」寛容の意義について、考えさせられた。そして、自分の「正しさ」を常に確認せずにはいられない、そしてたしかな未来を信じて安心していたい。そんなわたしたちの弱さをもう一度見つめ直させてくれる物語だった。
あいにく『薔薇の名前(出版社の宣伝で「並び立つ」とうたっている)』は未読なのだけれど、途中のわくわくする感じはずっと前に読んだトーマス・マン『魔の山』に似ているような気がした。
2023年12月、新潮文庫入り(もちろん買う)
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個人的にはフランシスコ会もドミニコ会も一緒くたに「托鉢修道会」だったので認識を改めた。でも何故か主人公はベネディクト会のベネディクト。しかしまあ、如何にも"主人公"な、このヒト。大概めんどくさい奴〜。結局、あの幼馴染クンはトマス・アクィナスだったのよね?
「破門されたまま死ぬ」ことがどれ程キリスト教徒に恐怖をもたらすのかは、残念ながら最後までピンと来なかったけど、自分の罪や過ちや弱さを見つめ、神様と真剣に向き合い、あるべき姿を求めて祈るベネディクトの描写に、「信仰」ってこういうものなのか…と気持ちを動かされたのは確か。
カトリック周辺という舞台の性質上、登場人物は男性ばかりだったが、何気にジャコマ刀自やテオドラが印象的だし、(直接は登場しない)サン・ダミアーノのキアラも効いている。
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ガキの頃、遠藤周作の沈黙を読んだとき、信仰っていったいなんなんだろうってそりゃ考えさせられたよね。
この本において、救いの保証とか、信仰に関する描写はある程度答えに近づこうとしていていいと思う。
でもストーリーが明らかに練り込み不足。
急ぎ過ぎたんだ。
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1252年,アッシジを舞台に繰り広げられる聖遺物の謎.聖フランチェスコの遺体はどこにあるのか.という謎解きの醍醐味がたまらない.また,融通の効かない修道士ベネディクトと金儲けはするが頼りになる助祭ピエトロのちぐはぐな協力関係が確かな信頼に育っていくところがいい.登場人物も脇役でありながらそれぞれの枢機卿が色々な味わいがあり,敵であるニコラですら作者の愛が感じられる.皇帝と教皇の争いや教会内部の権力抗争などもわかりやすく描かれて本当に重厚でありながら楽しい物語だった.
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最初の印象では,ちょっととっつきにくい小説かなと思っていましたが,読み始めると,先が気になって一気読みでした。
ピエトロの父の話が,あともうちょっと掘り下げられていたら,傑作だったと思います。
ピエトロとベネディクトの続編を期待します。
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ノンストップ中世!時代設定とモチーフとキャラの歯車が噛み合ってズンズン進むストーリーに引っ張られて最後までやめられない、止まらない状態でした。13世紀の中世イタリアの宗教世界という舞台そのものに重苦しさと距離感を感じるか、と思いきや、登場人物が現代的でとても身近な共感を感じてしまうのです。特に主人公のひとり「偽ベネディクト」の童貞感満載の厨二病な純粋なる煩悶と、もうひとりの主人公ピエトロの社会の痛みを知り尽くしている現実感覚の裏に潜むロマンチシズムの組み合わせにやられてしまいました。そうなんです、このお話はバディものなのです。まったく違うタイプがお互いに気づきを与え合って成長する青春小説なのかも。ふたりの若者たちの先達である、聖フランチェスコとエリア・ボンバネーロ、レオーネ、キアラ、ジャコマおばさん世代の信仰と独占と嫉妬を巡る物語の謎にベネディクトとピエトロが巻き込まれて、この物語の大きな謎になり、そして結果的に、宗教って何だろう?というテーマも浮かび上がらせてくれています。大満足!かなり昔に行ったアッシジの街並みとフランチェスコ大聖堂を思い出しつつ、楽しく深い読書時間を堪能させていただきました!
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キリスト教とローマ、このモチーフだけで本を手にしてしまう性格はなんとかしないとだなぁw
もう純粋すぎるくらいに純粋な主人公と世の中の清濁を飲んで生きるもののコンビが事件解決に向けて活動するって展開が面白い。ぶっちゃけ、教皇位がどうだとか宗派抗争だとかに興味なければ眠たいだけの話だけど、しいて言えばダン・ブラウンの小説のような感じで好きな人にはたまらないかも。
でも、まぁそんな自分でも読むのに4日かかっちゃったから退屈シーンは山盛りだったかもですw
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中世(13世紀)のイタリアを舞台に、修道僧と助祭が聖者(あの聖フランチェスコ!)の遺体が消えた謎を追うミステリー。カトリックの歴史的・宗教的な事象を背景としていて、日本人の著者がよく取り組んだなぁと感心した。私はカトリックの歴史は一般的な知識しか持っていないし、著者の意図などをちゃんと汲み取れたのかはわからないのだけれど、重い話ではないし、たいへん面白く読めた。(欧州に行くと、カトリックをもう少し勉強しておいた方が楽しめるなといつも反省するのだけれど、帰国するとそのままうやむやに日常に紛れてしまうのだ…)
きっと大多数の日本人にとっては宗教や信仰は霞がかった異世界の話という感じだと思うのだけれど、この小説にも出てくる、聖フランチェスコに共感し行動を共にした老修道僧が、生涯をかけて神と向き合い考えていきついた「答え」はすごく腑に落ちるというか… こういう、人生を信仰に捧げて考え続けた人達の哲学の積み重ねというのは、やはり、尊いものだと感じた。
布石があちこちに置かれていたし、これはシリーズ化するつもりなのかなと思った。続編が出たらまた是非読みたい。
あと、アッシジにもいつか行ってみたい。
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史実を基にされているとのことだが、13世紀のキリスト教、しかも修道会の権力争いをベースにしつつ、聖遺物をめぐるミステリーとしてここまで書き上げたのが、学者とはいえ日本人ということにまず驚いた。無宗教の人が大半の日本で、そもそも修道会がどういったものか、どういう位置付けの組織なのかを事前に詳しくわかってる人はあまりいないのではないか。かくいう私もあまりわかっておらず、途中で調べながら読み進めたが、ぶっちゃけ調べなくとも物語としては問題なく読める(ただ、わかってた方がより深く物語に没入することができる)。
主人公ベネディクトは修道院という狭く閉ざされた環境で育ったが故に、非常に視野・思考が狭く、頑固なくせに純粋で、心が剥き出しのまま守る術を持たないような感じでいる人物。一方、準主人公のようなピエトロは助祭という神職にありながら聖遺物を売買しており、抜け目がなく、一見するとベネディクトとはまるで正反対、生きている世界まで違うように思われる人物。
この2人を軸に話が進んでいくが、ベネディクトの苦悩、自分自身と向き合いながらも少しずつ強くなる過程の描き方は丁寧で素晴らしかった。人間性の面をベネディクトで詳しく描き、ミステリーの物語としてはピエトロがいわゆる探偵のようにいろいろな面から謎を考察し、段取りよく解決のために動いていくので、ミステリー要素もしっかり作り込まれている。
最後の最後の方で、堅物ベネディクトがピエトロに対してそれまでと口調・雰囲気が変わっている場面はサラッと何でもないように書いてあるが、ベネディクト自身の意識の変化とピエトロとの友情という面でも大きな変化(成長)だったのでは、と思う。
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13世紀のヨーロッパ。聖者の骨や愛用品が聖遺物として大切にされていた時代。純真無垢に戒律を守ろうとする修道士ベネディクトと、物事を功利的に考える助祭ピエトロの二人が中心となって、消えた聖人の遺体を探すことになる。聖人が身近だった時代。奇蹟が目撃され、信じられていた時代。宗教の派閥争いも背景にして、ミステリとしても面白かった。
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著者の本は好きなので特に何も考えず本書も手に取りました。本書は小説形式ですが、これまでの小説ように、言語理論を小説仕立てにしているわけではなく(例:白と黒のとびら)、中世イタリアを舞台にした純粋小説のように見受けられました。ここで「見受けられた」と書いているのは、もしかすると1度読んだだけではなかなかわからない著者の真意があって、それは言語学とも関係しているのかな?と深読みしてしまいました。
ネタバレになりますのであまり書きませんが、本書の舞台は13世紀イタリアのキリスト教会にもかかわらず、私は本書の各所から何か日本的、仏教的なエッセンスを感じました。仏教においても仏舎利なるものがありますし、本書の各所に示される、「いま=ここ」を重視するような記述です(これは禅などに典型的に見られる特徴です)。本書を全て読み終わった後に、なにか仏教とキリスト教の融合的なイメージが頭の中に浮かび不思議な気持ちになりました(これは一般的な感想ではないと思いますが私はそう感じました)。また本書では、言語ではなくイメージ(映像)が非常に重要な役割を果たします。言語は所詮断片的な情報しか運んでおらず、イメージ(映像)は大量の情報を含んでいるわけですが、これも私の妄想でしかありませんが、言語コミュニケーションの次のテレパシーコミュニケーションのようなものを想像しました。
つまり本書の著者が言語学者である、ということを前提に読み進めると、ストーリー展開においていろいろな想像が湧いてくるわけです。なぜ言語学者が言語的な暗号ではなくイメージ(映像)を重要なモチーフにしているのか、といった具合です。そういった意味でも本書はミステリーな本でした。面白かったです。
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中世イタリアを舞台にしたミステリー。修道士と聖体を巡る凄い作品。これを日本人が書いたのも凄いと思った。薔薇の名前と共にもう一度読み返したい作品だった。