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設定はガチSFだし、どちらかといえば淡々とした、心理描写少なめの文章なのに、情緒に訴えかけてくるものがある。本から慈しみのようなものが滲み出ている気がする。(マイノリティや、理解されることが難しい事情を抱えた人々への)
試し読みを勧めるなら『宇宙流』〜『雨上がり』、『引越し』を選ぶ。
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うーんなるほど。作者がジェームズ・ティプトリー・ジュニアに影響を受けたこと、よくわかる。
SFだが、情緒に訴えるところも、生きとし生けるものへの深い愛情を感じさせるのも良い。
パラレルワールドものでジェームズ・ティプトリー・ジュニアが出てくる「アリスとのティータイム」、人に紛れて暮らす異星人を養子にした女性と異星人の友情を描く「養子縁組」、隣に暮らす異星人との交流を描く「となりのヨンヒさん」が特に良かった。「ヨンヒさん」は、最高。人種差別の暗喩ではあるだろうけど、それだけではない。人間からは「ガマガエル」と蔑まれる容姿の異星人の、故郷を思う心情と、人間との束の間の友情は本当に切ない。異星人が「イ・ヨンヒ」という、韓国では古くさいと思われるような名前を名乗っているのもおかしいが、本当の名前は名乗れないというところは考えさせられる。
「養子縁組」も異星人との友情が描かれるが、どちらかと言うと異星人の子どもの特徴を含めて愛する親の姿が心に残る。「跳躍」はケン・リュウみたいだなと思った。
第二部のカドゥケウスシリーズはもっとたくさん書いて連作長編にしてカドゥケウス社の支配の始まりから終わりまで書いたら『火星年代記』みたいになったんじゃないかと思う。
LGBTや障がい者の社会参加なども興味深いが、南北問題や、(南にもかつてはあり、北には今もある)情報統制など朝鮮半島特有の問題を扱った作品は特に印象に残る。
作者は地方からソウル大学に合格し、翻訳者、弁護士としても活躍中とあるから、とても頭のいい人なのだろうが、作品は才気ばしった感じというよりは、共感させるもので、そこも凄いなあと思った。
他の作品も読んでみたい。
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星新一とか好きな人にはスッと入ってくる感じの摩訶不思議作品。
「傲慢になれば道に迷う」か。
文庫になったら買っちゃうかも。
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韓国人女性作家の書いたSF短編集。“韓国+SF”ということで最近勢いのある“中華系SF”を連想したが、設定や小道具がそれっぽいというだけで、わりと普通の小説だった。日本の純文学系にもありそうな話で、がっつりSFを期待すると肩透かしを食らうが、ちょっと奇妙なだけで内容はおもしろかった。奇妙さの下に見え隠れする韓国の歴史や社会(映画でも話題になった“半地下”や南北問題など)を踏まえて読めば、より楽しめるのではなかろうか。
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・星新一的SF世界観と小川洋子的な静けさが同居した、読んでいて非常に心地の良い短編集であった。
・架空の舞台を用意することで、現実世界を舞台にしていては表現することができないもの、もしくは表現することが許されないものを描き出すことができるというのがSFの特徴であり、強みである。しかしその特徴ゆえにSF小説は私にとってあまりに強すぎるメッセージ性をはらんでいることがあり、私はSF小説というだけである程度身構えてしまう。しかしこの小説は私の先入観を良い意味で裏切ってくれた。
著者チョン・ソヨンは、誰もが持ちうる、私達を取り囲む世界に対する希望や絶望といったようなものを寄り添う筆致で描いている。SFにしないと描く事ができなかったのではなく、偶然彼女にとってのキャンパスがSFであったということなのであろう。
・各ストーリーの舞台装置は現実離れしたSFそのものであるが、具体的な場面場面は私達の生きる日常から遠く離れることはない描写であり、状況が自然とイメージされるように設計されている。自然と彼女の世界に入り込んでいく事ができるのである。この点もこの小説の魅力の一つであると思う。
・特に「アリスとのティータイム」というタイトルが好きでした。
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はじめての韓国女性SF作家作品。人気エリア賃貸物件が格安な訳はお隣の住民がガマガエルのような異星人だったから。宇宙を夢見るも事故で下半身付随になった娘は
囲碁武宮九段宇宙流で人生教訓を学ぶ。亡くなった人の顔が現れる海がある町の出身の女子など。ちょっとだけ変わったお話が多数。まだまだ日本同様男性社会のお隣韓国程よいフェミニズムSF短編集はなんだか心地よいです。
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なんか語り口は日本の女性作家っぽい軽さなんだけど、書いてるテンションは海外小説の短編ぽい…
不思議なバランス感覚だ…
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これは!2023年ベスト10ランクインする本にもう出会ったのでは! あのひと(異星人も含む)があの瞬間に自分の人生にいたから何かが変わった、という瞬間を見事に捉えた、ひととひととの思いと来し方と行く末が繊細に語られている短編集。表紙の絵が後からみるときちんと内容なのでびっくりしました。そう、最後の話はトウモロコシの話@宇宙ですね…
他の作品になぞらえるのは失礼だと思うのですが、初読のときはジュンパ・ラヒリの「停電の夜に」を思い出し、再読のときはテッド・チャンの「あなたの人生の物語」を思い出した。両方大好きだし何度も思い出す作品なので、この本もそうなるのだろう。
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れっきとしたSF小説でありながら、韓国の実状を描いた現代小説でもあるという稀有な短編集。定番のパラレルワールドを舞台にした著名なSF作家に捧げるオマージュ作品にしても北朝鮮との表裏一体の有り様を彷彿せざるを得ない。
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短編作品集なので、一つずつ簡単に感想を書いていく。
第一部
「デザート」
最初はよく分からず、『付き合った男性がデザートに見える』という世界なのかな……と思いながら読み進めると、ラストで実は『全ての人がデザートに見える世界』という事だった。単純に面白いし、お腹が減る。デザートが食べたくなる作品。
「宇宙流」
囲碁の話は半分も判らないし、読んでいてもイマイチ頭には入って来ない。そこから宇宙飛行士を目指す主人公が絡み合う。主人公が事故で宇宙飛行士を諦めた後、どんでん返しで『障がい者を宇宙へ』となるのは、すごいと思えた。囲碁の部分はやっぱりわからないままだったけど、世界が反転するとはこういう事かと思えた。
「アリスとのティータイム」
この話好き――。と思えた。多次元世界の話。フェミニズム文学と言う言葉をこの作品で知った。なにそれ、すごい気になると思ってネットで調べた。物語は特にフェミニズムは関係なく、こちらと少しだけ違う世界の人との交流の話。
「養子縁組」
この辺りから、なんだかがっつりと異世界気分になった。地球に紛れて暮らしている異星人の話。
「馬山沖」
死者に会える海の話にほんのりとした同性愛も相まって、せつない。
「帰宅」
幼いころに別れた家族と会う話。幼すぎて覚えていないでも、他人とも思えない不思議な感覚と何とも言えない奇妙さ。これもせつないけど、それだけではない感覚に襲われる。
「となりのヨンヒさん」
宇宙人が隣に住んでいる話。最初は分からなかった。いや。読み終わっても理解できているのか自信がないが、『言語を越えた交流』というシーンがとても印象的だった。言葉がないから伝わるものがある。それを文字だけの小説で表現できてしまうんだ。と思った。
「最初ではないことを」
死に逝く友を見守る話。他の話と違ってこれはなんだかすごく身近な気がした。死の原因の病はファンタジーなのだけど、死を前にして何かしてやれなかったかと思う気持ちは普遍的な気がする。そして、「誰かにとっての最初の死」にならないようにと願う気持ちも。
「雨上がり」
存在が薄い子の話。存在が薄い理由が『世界が違うから』というのは面白かった。いや。面白いといっていいのか分からないケド。でも、女の子の「注目されたくない」という気持ちはすごく分かる。私もそっちの人だなぁと思った。
「開花」
姉が逮捕された妹の独白。自由に情報を得られない世界の話。ちょっと淡々としすぎていて、読み辛かった。姉が自由に情報を取るために政府に逆らって活動したために逮捕されたというのは読み進めないと分からない。さらに、妹はその『自由』についてよく分かっていない。私はたぶん、戦う姉の方かもしれないなと思いながら、妹にも姉にもなれずただひとり『悶々』する部外者がいいところかもしれない。
「跳躍」
人に触覚が生え、全ての情報がだだ漏れになり、世界が変わっていく話。読み進めていくだけで次はどんな変化が起きるのかワクワクした。
第二部
「引っ越し」
妹の病気を治すために宇宙飛行士の夢が遠ざかった兄の話。兄弟児といわれる病気の子が兄弟にいる健康な子は我慢するというものかな……と思ったら、すごくしっかりと親は何を優先したのかを書かれていて驚いた。
親の前で「僕にとって大切なものは、父さんや母さんには、チエ(妹)ほど大切ではない」と言い切ってしまうのがかっこいい。さらにここに「お前にとって大切なものは何なのか知らないけど、それが何であれ、僕にとっては大切ではないだろうと思う」と続く。ドキドキ。え。この後、喧嘩腰になるの?と読み進めると
『お前にとって大切なものが何なのか分かるなら、それもいいような気がする。僕にとってお前は、それくらいには大切なものだから』
お互いに大切なものを大切には出来ないケド、大切なものの話をしあう事は出来る。それは素敵だなと思える話。
「再会」
人を助けたために大切な試験に落ち、夢を叶えられなかった話。
単純に『助けて良かった』と言う話ではない。助けたけれども、相手が本当に無事だったかどうかは確認ができず長い間、自分は無駄な事をしたのではないかと思い悩む話。最後の最後に「助かっていたよ」と知るのだが、それが二十年後。何が最適だったのかが分からないままというのは苦しい。
「一度の飛行」
正直よく分からなかった。チャンスを不意にした人の話。恐怖は人によって違うのかもしれない。
「秋風」
人の力に頼らず自然のままに作物を育てたいという反乱のお話し。
私もお天気に苦しめられるのは分かると同時に人が全て天気を支配するのは違和感を覚えると思う。そして、『人よりも長く生きてしまう宇宙飛行士』たちの話も絡んでいる。これは対比なのだろうか?と思いながら読んだ。
一瞬にして変わっていく自然の苦悩と、長く変わらない姿の宇宙飛行士の苦悩。
そんな感じの話だった。
どれも、挫折や苦悩が混じっているだけではなくて、同性愛・障がい者・異種族などいろんな要素が混ざっている。読んでいて、気持ちが良かった。
ごちそうさまでした。