紙の本
『こんぱるいろ、彼方』
2020/06/10 19:29
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投稿者:百書繚乱 - この投稿者のレビュー一覧を見る
真依子は、会社員の夫と二十歳の大学生奈月、中学3年生の受験生賢人の4人で暮らす主婦
パートの職場のあつれき、年ごろの娘や息子とのすれちがいなど、どこにでもある悩みをかかえた生活を送っているが、子どもたちに隠している出生の秘密があった
友人とベトナムに旅行するという奈月に真依子が告げる
「わたしね、ベトナム人なの」
真依子の両親がベトナム人で、ベトナム戦争後の混乱からボートピープルとして祖国を逃れ、日本に帰化した家族だったのだ
母の告白に衝撃を受けた奈月だったが、ベトナムのこと、ベトナム戦争のこと、家族のこと、そして自分のことを理解しようと懸命に学び、母と祖父母の故郷に降り立つ
真依子、娘の奈月、母春恵の視点で交互に語られる家族の物語に女性の自立と生き方、ベトナム問題、民族のアイデンティティの問題が織り込まれ、視点を広げてくれる静かな衝撃作
《家族小説の名手が描く新境地》──帯のコピーより
初出は「STORY BOX」2019年6月号〜2020年4月号
紙の本
人に歴史あり
2020/05/18 19:52
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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
私のような昭和後半生まれの祖父母は戦争を生き抜いた世代だと思いますが、私自身はほとんど祖父母について知りません。母方の祖母は満州にいたこともあるそうですが、母と祖母の仲が悪いこともあり何も聞けませんでした。自分の親や祖父母がどういった人生を辿ってきたかと思うと、どんな人にも何らかの歴史があるものだと思います。穏やかそうなおじいちゃんが、地獄を潜り抜けてきた、とか。ベトナムのボートピープルについても何も知らなかったのですが、重すぎずとても読みやすく、爽やかな読後感でした。
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あらすじを何も知らずに読み始めたので、びっくりした。思春期が入り混ざるほんわか家族物語かなと思っていたので。ベトナムのホーチミンにわたしも行ったことあるのですが、そういう歴史的なことそこまで知らずにいった遥か遠い記憶。偶然と必然があわさって、さいごはすごくあたたかなきもちになった。すごく素直な小説。
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母、娘、祖母、それぞれの目線からひとつの家族を見つめる温かな物語。
この一冊だけを読んでベトナム戦争のすべてを知れた訳ではないのでこの戦争については何も語れないけれど、自分の知らない家族の歴史を知りたいと強く思った。
親も昔は子どもだった、その当たり前のことを意識することで許せることもあるのかもしれない。
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そのつながれた手は家族の過ごした時間。たとえ一度離れたとしても、いつかまた必ずつなぐ日が来る。
子どもは親の手を放そうとし、その手を親はいつまでもつないでいたいと思う。親なのに、子どもなのに、あるいは親だから、子どもだから、わかりたい、でもわからない。そういう葛藤を描く椰月美智子の筆はさえる。
ある日突然知る、自分のルーツ。「母親が日本人じゃない」ということが示す現実。私は、誰なのか。私の国は、どこなのか。祖母、母、娘、三代が持つ、それぞれのアイデンティティ。
知の娘奈月。情の母真依子。真正面から自分のアイデンティティと向き合おうとする奈月と、目の前の困難を見ないふりでやり過ごして生きてきた真依子、正反対に見える性格の二人をつなぐのは血のつながり、家族。
ストンストンといろんな言葉が自分の中に落ちてくる。ちょっとひねくれてしまった心の汚れた大人なので、最悪の状況や、不幸な結末を想像しながら読んでしまったのだけど、椰月美智子のまっすぐなまなざしが最高の結末へと誘ってくれる。
これから「こんぱる」と聞くときっと「金春」という文字と、どこまでも濃く深い青緑、思わず鼻から吸い込みたくなる青緑が頭に浮かぶだろう。
自我に目覚めた中学生から、子育て世代、そして子どもから手を離した年代、すべてにお勧めする一冊。
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小学生の時、学校でベトナム難民の子供たちとの交流があったのを思い出した。
事前学習もしたはずだけど、当時の私は深く考えず、ただ外国の子たちと遊んだ印象。
この本を読んで、当時沢山の人が日本やアメリカに船で逃れたんだなーと、改めて感じた。
奈月のようにいざ自分の親がポートピープルだと知ったら、、こんなふうにきちんと受け止め、さらに理解しようとできるかな。
奈月の強さと、真衣子のことなかれ主義?がうまく対比されていて、リアルだった。
真衣子もそうする事で日本で生活できたのかも。
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素晴らしい小説でした!
奈月は、ベトナムへ旅行することから、母、真依子より、ベトナム人であること、ボートピープルであることを知らされる。
もし自分が奈月の立場がだったらどうしただろう…
奈月はベトナム戦争やボートピープルについて、さまざまな視点で書かれている本を読んだり、祖父母や叔父叔母に話を聞いていく。
そして、奈月は、ベトナムへ行き、ベトナムで感じた空気感や風景、歴史、さまざまなことを吸収していく。
陽の奈月、陰の母真依子。
この物語は、奈月、母真依子、祖母春恵、それぞれの視点や時代から語られる。奈月の行動から、家族のつながりがさらに強くなっていく気がした。
難しいテーマが根元にあるけれど、でもどこにでもいる元気な賑やかな家族。
カバーイラストや色彩がとてもきれいで一目惚れした。ただ、「ベトナム戦争」「ボートピープル」という言葉から、重い内容だったら…と、正直、少しためらいがあった。作中では沖縄の歴史にも話題は広がる。読む決め手は、ネットで読んだ著者の椰月美智子さんのインタビュー記事でした。
今までの歴史の中で起こった出来事や事件などは、自分には関係ないかもしれない。でも、出来事が起こった場所は、大切な人や友人が住んでいたり関係のある場所だったり、旅行にしたことがある場所だったり…一見自分に無関係に思えても、実はつながっていることはたくさんあるのでは、と気づかされました。
家族小説でもあり、様々なことを教えてくれる小説でもあり。ますます椰月美智子さんの大ファンになりました。
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突然知った母のルーツ。
友達と旅行先に決めたベトナムが、母の故郷だった。
奈月の眩しいばかりの正義感に涙が出る。ここ最近、差別的な発言に触れすぎていたのか、力強く差別を否定し、そしてそれに屈しそうになる人にも等しくNOを言える奈月の言動に救われた自分がいる。
娘に自身のルーツを隠す真依子と同じように不安があった。知ったら奈月がどう思うか、それを知った周りがなにを言うか。そこに差別があることを否定する前に、周りの人間の差別心を疑ってしまう。自分の弱さを人のせいにして。奈月と同時に憤れなかった私は、ベトナムに対して、ボートピープルに対して、日本で生きるうえで差別や偏見は残念ながら少なからずあるものと、思ってしまってはいなかったか。自分は差別をしていないと思っても、差別の存在を仕方ないと思ってしまえば、それは間違いない、差別だ。
奈月の言葉に安心したと同時にその言葉が鋭く突き刺さったのは、きっとそんな保身的で差別の存在をどこかで否定しきれていない弱い自分を強く叱ってほしかったのだ。
ルーツを隠していたことに対して奈月は激しく憤り、真依子に言う。
「親がベトナム人だからなんなの?わたしがハーフだからなんなの?なんの問題があるの?小中のとき、クラスにフィリピンの友達がいたよ。高校のときだって、イギリスと韓国の子がいた。みんな大好きな友達だよ。なんでいじめられるのが前提なわけ?」
そして、さらに続ける。
「わたしたちのせいにして、本当はお母さん自身が隠しておきたかったんじゃないの?お母さんが自分のことをはすかしいって思ってるんじゃないの?」
突き刺さる。涙が出た。
私にインド人の友達がいる。日本語も英語もヒンディー語も上手でとっても明るくて優しい友達。その友達のことを好きで、仲良くしていても、その友達に対する周りの偏見の目を許せば、仕方ないと諦めれば、それは差別だ。
奈月のようになりたい。と、強く思った。物語の中で、奈月はベトナムを訪れ、そこで様々な風景、人々、暮らしに触れながら正義とはなにかと自分の中で深めていく。自分の正しさを押し付けることが正しいことではない、と。もちろん、その意見には共感するし、この世界のことは正義と悪には単純に分けられないことはよくわかる。そして、それを実感し自身の信じるところをしなやかに力強く深め広げていく奈月の成長は眩しくうつくしい。
ふれつづけるべきた。考え続けるべきだ。関わり続けるべきだ。
当事者として。
今回奈月は、突然ベトナムという国の当事者となった。しかし、私もまた当事者だ。日本で就職できたことを笑顔で教えてくれたインド人の友達、農家で働く技能実習生、コンビニでアルバイトする留学生。当事者たちと関わり生きていくという意味で私も当事者だ。この多様な人々の生きていく世界の当事者。
この物語に出会えてよかった。私は物語を通して真依子に寄り添い、奈月と旅をして、スアンと海を渡った。私も当事者。物語は私を当事者にしてくれる。物語の力だ。いろんな世界に生きることができる。
ベトナムに行きたいな。スアンの見たニャチャンの海の色を、私も見たい。
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大学生の娘が選んだ海外旅行先はベトナムだった。それがきっかけで明らかになる家族の秘密とは……。うーん、つまらなくはなかったが、おもしろかったとも言えない。この家族が抱える様々な小さな問題と、隠されていた大きな事実が同じ重さで描かれていて、どこに焦点を当てればいいのかわからなかった。現実の生活は、大してドラマティックではないのかもしれないが、ありがちな日常を読みたくて本を手にするわけではないので、物足りなさは否めなかった。この作家さんの本を読むのは2冊目だが、ぼくには合わないのかもしれない。
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まず装丁が素晴しい。眺めていると楽しくなってきます。
重くなる可能性の高い題材を、家族の絆という部分に重きを置くことによって明るく描いています。
ベトナムから亡命して日本人に帰化した真依子ら一家は、日本でしっかりと根を張り、その子供世代は何ら日本人と変わらない生活をしています。むしろ自分の中にベトナムの血が流れているとは思ってもみません。
ちなみに真依子と僕はほぼ同い年だと思います。生まれた翌年にベトナム戦争が終結しました
ベトナムが翻弄された戦争の悲惨さや皆のがんばりは伝えたい。でも今は皆明るい展望の中で暮らしていて悲壮ではないという事を両立させたいという思いを感じました。
現地取材した内容を反映させようと説明的になってしまっているという事も感じたものの、消化不良というよりかは、事象への敬意を感じたので素直に受け止めました。
彼女は本来自分が感じた事を素直に書く方が向いていると思っているのですが、歴史背景が関わってくる話は難しいかもしれませんね。
部分部分とても感動的で、胸打たれました。とにかく娘の奈月が意思的でとてもいい娘なので、重い内容もスカッと爽やかに読む事が出来ます。
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ベトナムで生まれボートピープルとして日本に来た真依子は、自分の名前の由来など考えたこともなかった。ホアマイ、テトの花。南ベトナムのお正月を象徴する花。45年間知らないまま、知ろうともしないまま、ここまで来てしまったという。
娘の奈月から「お母さんって、甘いっていうか、適当、いつも曖昧、いつもどっちつかず。その場を無難にやり過ごせば、問題が解決できると思っている。」と痛烈に非難されてしまう。
奈月からベトナム旅行をすると告げられた時、出自を初めて明かす。
奈月は、ベトナムの歴史を調べ、家族のルーツを訪ね、たくさんのことを考える。奈月の若者らしいまじめさ、正義感に胸打たれる。
そんな奈月だが、南北に別れて戦ったベトナムの歴史に触れ『正しさって何なのだろう』と考える。弟、賢人への頭ごなしの態度も反省する。
真依子はそんな娘に感心し、少しだけ変わっていく。真依子の生き方に寄り添えなかったが、いつのまにか大きくなった子どものハッとする言動に触れた時の喜びには頷く。それがたとえ自分に向けられた批判でさえも。
話の各章は、真依子、奈月、おばあちゃんの春恵の母娘三代の視点で書かれている。
家族は影響しあい、繋がっている。連綿と受け継いできた営みがある。
人は『日々の営みの美しさ』を守るために生きているのかもしれない。
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あたりまえだけれど
日本で暮らしているのは
日本人だけではない
秀吉のころから
とまでも言わなくとも
1945年のあの敗戦の前後に
ちょっと考えるだけでも
実にたくさんの日本人以外の人が
日本と関わりを持ち
また 今も暮らしている
ベトナムの戦争が生み出した
ボート・ピープルの人たちが日本に辿り着いて
ほぼ半世紀になろうとしている
戦場カメラマンとして
当時のベトナムを活写された
石川文洋さん、そして沢田教一さん
の作品に触れた時の印象が強烈で
ずっと記憶に留まっている
また日常の風景で
私の暮らす町でも
ワーカーとして働くベトナムの人たちを
見かけることが珍しくなくなっている
本書で描かれるのは
ボートピープルの祖父母、父母を持つ
日本で生まれ、日本で育った
二十歳の娘が自分のルーツを辿る物語
読みながら
過去に読んだ「ベトナム戦争」の写真、ルポルタージュ
が脳裏に浮かんでは消えていく
どこで 読んだのかは 忘れてしまったけれど
ー人は これからを これまでが 作っていく
という言葉が浮かんできました
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ベトナムという国について、ボートピープルについて勉強になった。そして戦争の根絶を強く感じました。
物語は大学生 奈月、母 真依子、真依子の母 春恵(スアン)の視点で時代を越えて展開します。
友だちとの海外旅行をきっかけに、母親がベトナム出身だと知らされた奈月。事実に全力で向き合って、話を聞いたり当時の過酷な状況を想像し気持ちに寄り添う姿勢がすごい。
すべての人には“今”に続く歴史がある。
真依子と一緒に戦争の残酷さや悲しみを感じたし、自分へとつながる家族のきずなを感じた。
色々と感じることの多い1冊でした。
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実は母はベトナム人でボートピープルとして日本に渡ってきたと言う。
受け止め難い事実を知り戸惑うが、旅行を通してベトナムという国、歴史を知ろうとする大学生の奈月。
ベトナムの親戚とも巡り会い、祖父母の人生を思う。
国や人種に思いを寄せる深い1冊。
読み終わって、このタイトルいいなぁ~と思う本が時々ある。このタイトルも本当に良い!
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平凡な4人暮らしの物語なのかと、冒頭で読みやすいと思ったけれど、実はそうではなく奈月のルーツがベトナムにあることを語るテーマだった。
終盤に入り、タイトルの意味が語られるのも読み手にも心地よい。