紙の本
「明治」と「昭和」という激動の時代に挟まれた「大正」という短い期間は地味で目立たない印象もありますが、これでなかなか複雑な転換期でもありまして……。
2004/02/28 09:31
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投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルは「デモクラシィ」の誤りに非ず。「デモグラフィ」というのは、「人口統計学」とのこと。統計データの解説なんて無味乾燥でつまらないんじゃないか、という先入観を持つ向きもありましょうが、この「大正」というわずか十五年ほどの期間が、結構いろいろな特徴を持っていて、かなり興味深いデータとなっている。
その特徴というのをいくつかあげると、
一、明治末に導入を検討されていた「国勢調査」が実施されはじめた。また、都道府県別の統計データもぼちぼち出そろいはじめた。
二、第一次世界大戦の余波を受け、日本全体が好景気に。電気やガスなどの社会的なインフラが急速に整い、特に都市部での衛生状態が飛躍的に向上した。
三、「二」と関連して、急速に増大した需要をまかなうため、寄宿舎に工員や女工を集め、交代制で工場に勤務させる制度が定着。これには、肺病などの伝染病の温床となる、などの負の側面もあった。
四、世界的に猛威をふるい、世界大戦の戦死者以上の被害を出した「スペイン・インフルエンザ」の流行、関東大震災、などの天災などによる、人口と出生率の急激な減少。
五、日本が樺太、台湾などの「外地」を獲得し、当時・当地の人口数が、不完全な統計ではあっても、初めて計測された。
六、義務教育の普及により、若い世代の識字率はほぼ百パーセントに。娯楽雑誌や教養書などが売れはじめる。「会社員」という「身分」が確立したのも、この頃。
などなどがあり、いろいろな意味で「現代の日本」の原型ができた「大正」という時代の日本は、世界史的な視野でみてもかなり面白い、といって語弊があるなら、興味深い時代だったんだなぁ、という感慨を改めて持ちました。
本書は、、
『しかし、内地人口だけをとっても、その数は、独立国のなかで、中国・アメリカ・ソ連・ドイツに次ぐ世界第五位の人口大国であった(中略)日本は国内に目いっぱい教育水準の高い人口を抱え、社会的・経済的不安定要因をもち、なおかつ、指導力のある政治家が不在のまま昭和期を迎えるのである』
という文章で結ばれている。
酩酊亭亭主
電子書籍
大正期の人口転換
2022/08/01 08:16
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
死亡率と出生率が共に減少を始める人口転換が大正の頃に始まることを当時の統計を用いて述べられており現代につながる少子化の始まりと考えると重要な時代だと感じた
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[ 内容 ]
「デモグラフィ」とは、出生・死亡・移動などの人口統計全体、あるいは人口の研究を指す言葉である。
つまり本書は、新たに発掘された史料、進展してきた歴史人口学の成果を踏まえ、大正期を人口という窓を通してながめてみよう、という意図のもと書かれた。
その視点で検討してみると、従来「デモクラシィ」の時代と呼び習わされてきた大正期も、かなずしも明るく進んだ面ばかりではなかったことが分かる。
大正時代を捉え直す意欲的な試みである。
[ 目次 ]
第1章 明治と昭和の狭間で
第2章 大正期の全国人口
第3章 第一次世界大戦と戦時景気
第4章 大正五年の出生力
第5章 死亡率上昇―女工と結核
第6章 スペイン・インフルエンザ
第7章 人口指標のいろいろ
第8章 国勢調査
第9章 大正末年の人口
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2004年発行。「デモクラシー」ならぬ「デモグラフィ」とは出生・死亡・移動などの人口統計全体、あるいは人口の研究を指す言葉。先に読んだ『歴史人口学で見た日本』のうち、大正時代に特化したともいえる内容。インフルエンザの予防って昔から手洗い・うがい・マスクと変わってないんだね。
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本作(2004年刊行)を読んだのは、2005年。
当時の私の年齢は、44歳でしたか。
若いですね~
当時某所で書いた感想を、ほぼそのまま転載します。
この本は2004年1月に発行されました。
著者の速水融(はやみあきら)氏は1929年生まれ、小嶋美代子さんは生年不詳です。
本のタイトルにある「デモグラフィ」とは、出生・死亡・移動などの人口統計全体、あるいは人口の研究を指す言葉とのこと。
「デモクラシィ」とは異なります。
以下に【この本からの引用】と【私の感想】を書いてみます。
【この本からの引用】
人間とウイルスの戦いは、宇宙人との戦いにも似た、いわば「未知との遭遇」で、負ければ人類は滅亡するかもしれない。それに比べれば、人間どうしの戦いは何とも愚行としかいいようがなく、イラク戦争の戦費ほどのお金をウイルス対策に向けることができたら、人類の不安は多少なりとも軽減されるに違いない。
【私の感想】
この本の脱稿は2003年11月頃のようですが、この年の春にイラク戦争がありました。
また当時はSARS(サーズ/重症急性呼吸器症候群)が流行していたようです。
人間どうしの戦いを「愚行」とバッサリと切り捨て、爽快にさせてくれます。
【この本からの引用】
インフルエンザ・ウイルスによる流行性感冒が、なぜスペイン・インフルエンザと呼ばれたのかというと、戦時にあって、参戦国はどこも多大な戦病死者の存在、あるいは国内における流行を公表せず、ひとり中立国であったスペインにおける流行が広く喧伝されたからである。
【私の感想】
この本ではスペイン・インフルエンザと書かれていますが、「スペイン風邪」のことです。
スペイン風邪の発生源は定かではないが、スペインが発生源ではないことは確からしいです。
1918~1919年にかけて大流行し、世界人口の50%が感染したというのだから驚く。
死者数は4000~5000万人と言われています。
日本では当時の人口5500万人に対し39万人が死亡。
有名な人物では、島村抱月や野口シカ(英世の母)が亡くなっています。
【この本からの引用】
電灯の一般家庭への普及は、庶民生活に非常に大きな影響を与えた。
【私の感想】
電灯が都市部の家庭で用いられるようになったのは、大正時代のことです。
この影響の一つに出生率の低下が挙げられます。
何やら、電灯のもとで雑誌や書籍を読むことができたし、夜なべ仕事も容易になったとのこと。
そして断定はできないが、夜の生活パターンの変化のため、電灯の普及と出生率の低下は関連があるようだとのこと。
日本だけではなく他国の出生率低下例も挙げているが、確かに関連があるようにも思えます。
意外なところに影響がでるものです。