投稿元:
レビューを見る
あ~ヴァランダーよ、さようなら。1行ごと、むさぼるように味わった1冊。読むながら、どこかで見た記憶があったと思えば、海外ドラマ「刑事ヴァランダー 4シーズン3作」の内容。だが、もう一度読むと、かなり換骨奪胎している。
とは言え、終始、ヴァランダーが突如訪れる、「飛んでしまう記憶」に悩まされているので読み手の方も気を抜けない。
解説にもあるが海の風景がいつにもまして豊富。世界一島の数が多いというスェーデン。ラスト、散歩に出かけるヴァランダーの姿は「これから残された時間は自分と孫クラーラだけのモノ・・と独り言ちる・・涙が出てしまう。
リンダの夫ハンスの両親を巡る話の複雑さは冷戦以降のスェーデンの複雑さを思わせ、面白かった。
作中、ヴァランダーが呟く―自分の世代の特徴は冷戦の在り方、中立性、同盟を結ぶ自由、NATOと密接な関係を持つことの重要性など如何に知らなかったか と。
自分はグラスの泡の中で生きてきたようだ と。
そして2人の女性 モナとバイパ。ラストでまたしても女を買ったヴァランダーは余りの嫌悪感で逃げ出す(笑)・・彼は男の世界を出て人間として残りの時間を歩むのだろう と思わせる。
真実は見えているが起案とまったく違う と何度もつぶやくヴァランダー
重厚な11作目、有難う。
マンケル未訳があと2冊あるダイヤ 楽しみだ
投稿元:
レビューを見る
スウェーデンの歴史をなぞるようにこの物語は過去から2000年代まで進んでくる。
潜水艦の艦長だった失踪した男の闇の部分が見え隠れする。スウェーデンの実際にあった事件、1986年のパルメ首相暗殺事件が深く影を落とす。それに並行してスパイの存在や過去の潜水艦の攻撃・作戦がいつまでもその、苦悩する男を精神的に追い詰めてゆく。そしてその妻をも。
ヴァランダー自身もかつての事件時携わった人物や土地や苦い思い出に次々と追われヴァランダーシリーズの総決算大サービスセールのよう。
実際、警察官として捜査した事件ではなかったので、あのケジメのつけ方は少し疑問が残るけれど、リンダの父親、クラーラの祖父としてはよかったのでは・・・
年老いて自分の父親と似てきたと感じているヴァランダーの思いには納得して、苦笑い。
ほかの著作「流砂」や「イタリアンシューズ」を彷彿とさせるシーンもあって、ヘニング・マンケルファンとしては実際泣けてくる。
「私の秋が終わったら誰かの春が始まる」のセリフにはマンケル氏の思いが充分込められている。
訳者のあとがきからすると、もう一冊著作があるらしい。これで最後と思っていたけれど、やっとひとつ私ももう少し頑張って待ってみようと思う(忍び寄る老いに恐れをなして・・・のスタンスがうつってしまった)
投稿元:
レビューを見る
退役した海軍司令官、ホーカン・フォン=エッケは、自宅から散歩にでかけ、そのまま戻らなかった。ヴァランダーは娘のために、ホーカン失踪の謎を調べ始める。海軍時代の経歴に手がかりがあるかもしれないと、当時の知り合いにも話を聞くが、なんの収穫もない。そんな中、今度は妻のルイースまでもが姿を消してしまった。ときおり襲う奇妙な記憶の欠落に悩まされながら、ヴァランダーは捜査を進める……。
物語はこれで完結。過去の事件や登場人物が様々な形で現れる。読了後、しばらく感慨にふけってしまった。
投稿元:
レビューを見る
ヴァランダーシリーズ。娘のリンダの義理の父が失踪。事件か事故か。ヴァランダーの捜査が始まるけれどなかなか思うようにいかない。ヴァランダーは60歳になり色々考える。仕事、生活、死。そういうところがこのシリーズの好きなところでもある。ヴァランダーの迷いや怒りが溢れてくる瞬間とかとても読み応えがある。捜査を通して、娘や自分との向き合い方を考える。行方不明者の捜索とヴァランダーの体の不調や時折起こる記憶喪失への恐怖。事件そのものよりそちらが気になる。苛立ちや悲しみ、孤独が襲ってくる中にあって孫ができたことで変わったもの。シリーズの中で登場した過去の女性も出てきたりと懐かしさもあった。とうとう終わってしまったこのシリーズ。訳者あとがきによればもう一作あるみたいだけれど実質的には今作がラスト。一番好きなシリーズ物で本当に楽しませてもらった。翻訳ものは途中で発売されなくなるものもあるなかで20年近く経っても最後まで読めたのはありがたい。また一作目から読み返してみようと思う。
投稿元:
レビューを見る
恥ずかしながら、ヴァランダー・シリーズを読むのは初である。終わってしまうシリーズの最後の一作と知れているところから手をつけるというのもどうだろうと思われたが、それもまた一興、と運を天に任せて読み始める。そもそもこのシリーズはドラマ化されたものをWOWOWで見ており、心惹かれる印象があった。いつか読まねばならないシリーズの一つとして常に宿題となっていたのだ。現在ではAMAZON PRIMEでの視聴もできるので、シリーズ全作の読書に取り組んだ後、ドラマで追体験してみるのもよいかと思う。この一作を読み終えた今、その思いはむしろ強まったと言える。
スウェーデンの得意とする北欧ミステリの底力を、マルティン・ベック10作で十分に味わったぼくが、その後、ヘニング・マンケルや『ミレニアム』のスティーグ・ラーソンなどの王道を味わうことなく来てしまったのは何故だろう? いずれにせよ『イタリアン・シューズ』という普通小説でこの作家の筆力に唸らされて以来、マンケルへの食指が改めて動き始めてしまった。それにしても創元推理文庫の翻訳の遅さは毎度のことながら驚嘆させられる。王道の作家でありながら未だにシリーズ完訳が成っていなかったとは。しかしそのおかげでこの作品を手に取っているのだ。深謝すべきかもしれない。
本作は、思いのほかスケールの大きな国際冒険小説を思わせる意味深なプロローグに始まる。しかし、その後の描写は、ヴァランダーという個人の行動、思考、体感、心理などを描くことに費やされる。ヴァランダーという刑事を、まるで普通小説の一個の人間のように読者は追跡することになる。家族のこと、過去とのこと、不穏な未来のこと、彼の体や心に起こっている奇妙なこと。微々たるように思えるが異常な、ことのほか重要と考えねばならないのかもしれない出来事などなど。
休職中のヴァランダーの娘婿の親の失踪という、極めてヴァランダーにとって近い事件が発生。通常の警察小説というより、私立探偵小説に近いものを感じさせる全体なのに、違和感さえ感じさせる冷戦時代のロシア潜水艦にまつわる謎。グローバルで歴史に関わるスケールを持つ大掛かりな事件と、今現在ヴァランダーが追跡する親類縁者の失踪事件は、どのような関わりを持つのか?
本作では、『イタリアン・シューズ』でも見せてくれた自然描写も、もう一つの魅力を見せる。島々や礁に満ちたフィヨルドを疾駆するボート。農場や大地を走り抜ける車。ヴァランダーはめくるめく多種多様な人々に出会う。それぞれの風土の差を、肌で感じる。出会いと対話と別れ。中には過去からやってきた女性との悲しき再会が語られる。心を抉られる時間。厳しくも美しい自然の中で。天と地のはざまで。
『いままでの人生に満足している。(中略)現在私の体は一日二時間だけ機能する。その二時間を私は執筆に当てている』とは、がんで余命いくばくもない自分を知ったヘニング・マンケル自身の言葉だが、本書のヴァランダーも、自らの体や心に起きている極めて不安な事象と闘いながら、真相に迫る日々を刻一刻と生き抜いてゆく。初老というには早すぎる60歳という刑事の年齢を64歳のぼくは複雑な想いで追跡���る。
命。自然。心。家族。時間。そうした極めて重たい要素をぎっしりと詰め込んだシリーズ最後の高密度な作品の中、ミステリー的要素は少し重心から外れて見える。しかし、最もミステリアスに見えてくるものは、人間たちそれぞれの関わり方であり、彼らの距離感、信頼、不信、沈黙、その他諸々の感情、ふるまい、表情等々である。
終わったところから、始まってしまったヴァランダーへの興味。ぼくは新たにヴァランダーの過去へとこのシリーズを遡行してみようと決意している。そうさせる何かがこの作品には十分に込められて見えたからだ。
投稿元:
レビューを見る
『ファイアーウォール』以来、約10年振りのヴァランダー。10年と言う時を経て定年間近の60歳になった彼は、健康面の不安や、人間関係の悔恨に苦悩する男になっている。
意味深なプロローグから始まるストーリーはひたすらゆっくり進む。シリーズ最終章という先入観のせいか、刑事ヴァランダーの人となりをなぞるように展開してる気がして、序盤から退屈してしまった。休職中を利用しての個人的な事件追跡というスタイルは、警察ミステリというよりは、私立探偵モノの色合いが濃い。その割に、事件の核心はスウェーデンの国防問題と繋がると言う展開にバランスの悪さも感じてしまって、困惑する読書となった。
元妻が出てきて元恋人が訪ねてきて、人生を振り返ることになるのだが、ここにはシリーズの魅力である深い人生の味わい描かれ、それが退場するヴァランダーの姿と相まって何とも切実。最終巻はヴァランダーの退場のための物語なんだと、悲しいけどそう割り切って読んだ方が楽しめるんだと、下巻になってからシフトチェンジ。
謎解きは小粒で、事件の着地はあっさりし過ぎ。そして物語のラストも煙に巻かれたようで、決して望んだ幕切れではなかったけれど、シリーズを全部読めた満足感は格別。ありがとう、クルト・ヴァランダー。あなたはいつまでも私のヒーローです。
投稿元:
レビューを見る
ヴアランダーの最終作。自分の年齢同じなだけ想いが投影する。全作ずいぶん前から時間をかけ読了、また初めから読み直している。Google earthを開きイースターの道、海、街をヴアランダーの通った場所を空から見ながら読む。前よりグッとリアルによめる。素晴らしい翻訳に今回も魅了された。
投稿元:
レビューを見る
クルト・ヴァランダーを生み出したヘニング・マンケルは2015年に他界している。内容的に“最終章”の本作は2009年に発表されている。従って本作は、その2009年頃の少し前の出来事ということになっている。
ヴァランダー刑事が活躍するシリーズ…1990年代に入った辺りで、難しい年代の娘が在って、妻との関係が面倒になって別居、離婚という状況になる男、1970年代位に社会に出た世代の男が主人公だが、1990年代というのは、そういう世代の人達が想像するような範囲を超えてしまうような出来事も平気で起こってしまうような時代に突入していた…そんな中でヴァランダー刑事は奮戦する。そして、他方でヴァランダー刑事自身の人生の頁も繰られている。
そんなシリーズが幕を引いた…読後に何やら大きな感慨を覚えてしまった…
投稿元:
レビューを見る
これまで様々な社会的あるいは政治的な出来事を背景に事件を解決してきた連作の一番最後に国家の運命に関わる直截且つ強烈な謎を持ってきた。遠い北欧の一国の話を読んできたつもりの日本人にも響く主題である。その一方で、娘と孫との往来を繰り返しながら主人公の老境が深まっていきシリーズのエンディングに至るのは見事な幕引きだった。
投稿元:
レビューを見る
ひとつはっきりしてるのは、何事も外側から見える姿とは違うということ。
シリーズの終わり方が、らしいな。やっぱ最高だった。
投稿元:
レビューを見る
大好きなヴァランダーシリーズの最終巻。
北欧ミステリーはだいたいそうだが、事件そのものよりも登場人物達の背景や抱えている問題の描き方が面白くて次々シリーズを読んでしまう。
ヴァランダーが最後こうなるのか…と悲しい気持ちにもなったが、彼にとってリンダと産まれてきた孫のいる世界は幸せな世界なのかな…と思いながら名残惜しく読み終わりました。
投稿元:
レビューを見る
ヴァランダーシリーズ ラスト
スウェーデンの、政治的背景(自由主義的国家と、共産、社会主義的国家の、狭間における立場)等、元潜水艦艦長らの事件に絡めて深く考察する事の出来る作品。
ヴァランダー刑事の、人間性と、その生活も合わせて、愛すべきシリーズだった。人生の、終末期における葛藤が、哀しく心に残った。ヘニングマンケルが、亡くなってしまっていることが、尚更悲しさを、感じてしまった
全シリーズを、通して只の刑事物ではない素晴らしい作品達だ。
投稿元:
レビューを見る
クルト・ヴァランダー最後の事件である。最後は悲しくて寂しくて泣いた。でも彼にはお疲れ様と言ってあげた方が良かったか。老いへの恐怖、死への恐怖、年を取れば取るほど私自身にも迫りつつある。若い時に政治に関わらなかった後悔も、体力や気力を失いつつあっても、生きねばならない虚しさも。人種も環境も全く違うのに、いつも共感があり、親しみを覚えた。大好きなシリーズ。