紙の本
新型コロナウィルスとそれを巡る日本政治問題を浮き上がらせた興味深い一冊です!
2021/03/01 17:14
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『戦前日本における民主化の挫折』、『首相支配―日本政治の変貌』、『参議院とは何か』などの著作で知られる竹中治堅氏の作品です。同書では、2020年1月15日に日本で最初の罹患者が確認された新型コロナウイルス感染症とそれに関わる日本の政治をテーマに書かれたものです。新型コロナウィルスは、中国・武漢での発生から日本への到来し、全国の学校の一斉休校、緊急事態宣言とその解除、そして安倍政権の退陣までをもたらしました。筆者は同書の中で、この9カ月に及ぶ経緯から見えてきたのは、強大な権力を手に入れて「一強」とまで言われた「首相支配」への制約であったと言い切ります。同書は、安倍政権と知事らの対応のプロセスを丹念にたどり、危機が明らかにした日本の政治体制とその問題点を描いた著者渾身の一冊です。
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新型コロナ感染者が中国で出てから菅内閣が誕生したあたりまでを対象に、新型コロナに対応する政治・行政・首長の動きを追っている。
学者らしくソースを明示した記述であり、忘れていたり記憶が勝手に書き換えられたりするところを再度確認するにはいい。
ただ、記述が単調でおもしろみがないとも言える。
出される結論もありきたりなものにすぎないし。知事の権限が制度的にも強かったとか、医療や検査のキャパシティが行動や政策を制限したとか。
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本書では、日本国内における新型コロナウイルス感染症への対応過程を、2020年1月から9月にかけて順を追って詳細に記録されている。
こうした詳細な記録が、今後、政府や自治体の対応方法を検証する上で重要になってくることは間違いないと思われる。
本書では、日本でのコロナ対策が円滑に進まなかった要因の一つとして、地方分権化が局所的に進められたことをあげている。局所的な分権化は、様々な施策と不整合を起こし、今回のコロナ対策における対応の遅れにつながったと本書では指摘している。
政治家それぞれの思惑ではなく、大局観を持った制度設計が必要だということを改めて実感させてくれる一冊。
こうした詳細な記録を記した本は、今後重要になってくるだろう。
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2020年1月に日本で最初の新型コロナ罹患者が確認されてから9月の安倍政権の退陣までのコロナ危機への対応に係る政治過程を首相と知事の動きに着目して振り返っている。そして、感染症対策の分野における都道府県をはじめとする地方自治体の法的権限により首相の指導力が制約されたこと、感染症に対処するための様々な「キャパシティー」(検査、医療機関、保健所の各キャパシティーなど)の制約が政策の選択肢を狭めたこと、新型コロナ対応における「先例」や「モデル」の重要性などについて指摘している。
2021年4月時点から見て、我が国におけるコロナ危機対応の前半期の政治過程がよくまとまっており、何がどのように起こっていたのかを頭の中で整理することができた。リアルタイムの出来事について、このように丁寧に整理し、分析された本を出されたことに敬意を表したい。
感染症対策に係る政策の制約要因や、感染症対策など分野によっては「首相支配」が貫徹しない制度的構造があることなど、本書で指摘される内容も日本政治に対する示唆に富んでおり、興味深かった。
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昨今のコロナ禍の政治についてまとめた新書。この状況下では、中央政府のコロナ対策に焦点が当たりがちだが、日本の地方自治体の権限は割と強いため、with コロナにおいては知事のリーダーシップも重要になる。
にもかかわらず、2021年の県知事選の投票率が高くないのは非常に気がかかり。
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新型コロナウイルス対策に翻弄された安倍前政権と当時の知事たち。法律との関係で、国の権限が及ぶ範囲、そうでなく同等で知事の権限とされている部分がフィードバックされて国の政策立案に影響した部分が書かれる。
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日本政治はいかに新型コロナウイルス感染症に対応したのか。当事者の証言も交え、罹患者発生から安倍政権退陣まで九か月の軌跡を描く
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【琉球大学附属図書館OPACリンク】
https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC03966219
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〇新書で「コロナ」を読む⑨
竹中治堅『コロナ危機の政治』(中公新書、2020)
・分 野:「コロナ」×「政治」
・目 次:
はじめに
序 章 コロナ危機
第1章 コロナ危機対応の見方
第2章 初動期
第3章 緊急事態宣言の発令
第4章 安倍政権の動揺
第5章 緊急事態宣言の解除
第6章 安倍内閣の終焉
第7章 首相の指導力への制約要因
あとがき
・総 評
本書は、新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、首相や都道府県知事がどのような動きを見せていたのかを分析したものである。著者は政策研究大学院大学の教授で、主に首相の権力構造を分析してきた専門家である。
高い支持率を誇った安倍政権は、なぜコロナ対策に苦慮し、最後は退陣に至ったのか――そのポイントをまとめると、以下の3点にまとめられる。
【POINT①】多すぎる政治アクター
現行の法制度においては、感染症対策を実施する際の政治的実権が様々な政治アクターに分散してしまうという問題がある。具体的には、安倍政権(首相)・各都道府県知事・保健所を管轄する政令市や特別区などである。そのため、安倍政権が都道府県知事や保健所に対して直接指示を行うことは難しく、同様に都道府県知事が保健所設置市および特別区の保健所を指揮することも困難であった。時には、経済への悪影響を抑えたい安倍政権と感染抑制自体を重視する知事の間で齟齬が生まれることもあった。
【POINT②】保健所の「キャパシティー」という問題
安倍政権が感染症対策を実施する際に足枷となったのが、保健所のキャパシティー問題であった。検査資源が限られる中、PCR検査などは感染の可能性が高い人に限定せざるを得なかった。また安倍政権は保健所への直接的な指揮権を持たないため、世論の批判を受けて検査対象の拡大を指示した後も、多くの保健所は厳格な条件を維持し続けた。さらに厚生労働省が保健所に人員を派遣した際も、両者の連携が円滑に進まないなど、国と保健所が相互に自律的な関係にあることがキャパシティー問題にも影響を及ぼした。
【POINT③】集権化と分権化の迷走の果てに
コロナ対策をめぐる混乱の背景には、一九九四年以降に首相の指導力を高める改革(集権化)が進められる一方で、地方分権を進める政策(分権化)も行われ、全体の整合性を欠く結果になったことがある。今回のコロナ危機のように、国民に大きな影響を及ぼす問題が生じた際、一部の自治体の対策が遅れた(行われない)場合、国や影響を受ける他の自治体に対応する術がほとんどないという。従って、感染症対策について、現在の権限配分が適当であるのかを、改めて検討すべきだと指摘する。
本書から見えてくるのは、従来のイメージとは異なる「地方自治」のあり方である。これまで、地方自治は「三割(四割)自治」などと言われ、国主導の政治構造が継続されていると言われてきた。しかし、感染症対策では、国(政権)の影響力は限定的で、地方主導の政策立案・実施が目立った。それ故に、様々な混乱も起こったが、今後も続くであろう「感染症(コロナ)との戦い」を考えると、この政治構造を前提として様々な問題を検討していく必要があるだろう。
(1122字)