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「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和三年(2021)7月22日(木曜日)
通巻第6990号
より。
あれほど酷い仕打ちを受けたのに、なぜ日本人はかくも寛大なのか
中国人の残虐とソ連兵の無慈悲さ、民族の記憶から消えてしまうのだろうか
すでに多くが語られ尽くした観があるが、若い世代は、まったく知らないし、無知である。
戦争末期に侵攻してきたソ連兵が旧満州の日本人に何をしたか。シベリアへ抑留した日本兵にどんなに壮絶な労働を強要したか、日本人女性をなぶり者にした挙げ句に殺害したか。
エリツィンは日本の抗議に耳を傾けたが、「それは私たちとは異なる世代の人たちの行為だった」と反省の色なし。ましてプーチンは日本から盗んだ北方四島さえ、返還の考えはない。
或いは中国人が、通州や通化でどういう残酷な殺人、暴虐を日本人に対してなしたか。
本書は、こうした歴史の断面を総攬的に網羅している読み物で、戦勝国の『戦争犯罪』を抉っている。
扱った『事件簿』は、通州事件、南京事件、黄河決壊事件。ゾルゲ、対馬丸事件、葛根廟事件、引き揚げ者受難事件。元日本兵連続割腹事件、そして抑留者洗脳事案など。
著者はこう言う。
「歴史とは、事件の集積である。一つの事件が次の事件を呼び、また別の事件を誘う。その流れを的確に把握することが、奥行きのある他面多岐な歴史認識の醸成に繋がる」と。
評者は、全体を通読してとくに印象深い取材のなかでも強烈な個所は、ソ連抑留兵のなかで簡単に祖国を裏切り、ソ連に媚びた上、洗脳工作のための『日本新聞』にソ連のプロパガンダを書き込み、天皇制を打倒するべきだと、情報のない抑留日本兵の洗脳に協力した輩がいたことだ。
そのときのボスがコワレンコ。そう、戦後ソ連の対日工作の司令塔だった人物である。
同様に過酷な洗脳工作は中国でも、撫順刑務所内で徹底的に行われた。凄まじい洗脳教育の結果、帰国した裏切り者たちが731部隊とか、三光作戦とかをでっち上げた。
対蹠的に敗戦を恥じて、その責任を取った潔き人々は割腹自決を遂げた。阿南陸相や大西瀧次郎・中将だけではない。じつに夥しい、有能な人々が自決して果てた。
本書は同時に、戦争に散った無名の英雄達への鎮魂歌である。