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大川内直子(1989年~)氏は、東大教養学部卒、東大大学院総合文化研究科修士課程修了、みずほ銀行を経て、2018年(株)アイデアファンドを設立し、代表取締役に就任。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員。(株)アイデアファンドは、「アイデアで資本主義を面白く」を旗印に掲げ、文化人類学の調査手法を応用した独自のメソドロジーに基づく市場調査・分析サービスを提供している。
本書は、現在生じつつある「アイデア資本主義」という動きを解き明かすと同時に、近年広がっている脱資本主義に対するアンチテーゼを提示しようとするものである。
論旨は概ね以下である。
◆本書では、「資本主義」を、システムではなく、個々人の「将来のより多い富のために現在の消費を抑制し投資しようとする心的傾向」、即ち「今日よりも良い明日を過ごしたい」という一人ひとりの想いから生じる経済行為の表出と定義する。
◆資本主義は(一般に言われているよりも早い)10世紀前後の中国や中東に発生し、その後、①空間、②時間、③生産=消費をフロンティアとして拡大してきたが、21世紀に至り、①は世界全域に広がり、②は射程が無期限まで伸び、③はモノ余りが生じ、かつ、労働力と資源の投入も限界に達したことにより、それら伝統的なフロンティアはほぼ消滅した。
◆伝統的なフロンティアが消滅した今、拡大のベクトルは外向きから内向きに変化している。上記①については、土地の再開発、②については、金融における高速取引、③については、Kaizen(カイゼン)による品質向上などが、それらの例である。
◆「アイデア資本主義」とは、内向きのベクトルの一つとも言えるが、アイデアが生産手段の前駆体としての位置付けを脱し、アイデアそのものが独立した投資対象となる状態であり、優れたアイデアに資本が集まることになる。クラウド・ファンディングはその一例。そこにおいては、モノの生産よりも活用が付加価値を生むことになり、昨今製造業各社がソリューション重視に舵を切っている動きにも合致する。
◆資本主義とは、システムではなく心的傾向である以上、簡単に切り替えられるものではない。それは、経済格差や環境破壊のような問題を引き起こしてきたが、他方で、様々なメリットをもたらし、また、これまで生じてきた問題を、先人たちがその枠内で解消してきたことも事実。よって、資本主義を止めて別のシステムに移行するのではなく、資本主義自体を改良していくのが、現実的・建設的アプローチである。
(繰り返しが多いのは難。半分の頁数で足りるはず)
私は、世界に広がる格差が様々な対立・紛争の元凶と考え、それを生み出す資本主義に強い問題意識を持っている。これまでに、ジョセフ・E・スティグリッツ、広井良典、水野和夫、トマ・ピケティらの著作、斎藤幸平『人新世の「資本論」』、(齋藤氏への批判本らしい)柿埜真吾『自由と成長の経済学』等も読んできたし、本書を手に取ったものそうした流れによる。
読了して、「アイデア資本主義」が新たなフロンティアとなり得ること、資本主義自体を改良していくのが現実的という主張、いず��にも同意する。しかし、本書は、経済格差や環境問題等の一刻の猶予も許されない資本主義の負の側面をどのように解決するかについて、一切言及していない。
様々な意味で「大分岐」にあるこの時代において、根本的に重要なことは、我々が“成長を至上とする”資本主義的発想について問題意識を持ち、様々な角度の言説に触れて、どう行動するべきかを自ら考えることであろう。そのための参考となる一冊ではある。
(2021年10月了)
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何となくみんなが感じていたことを、明確に説明してくれた気持ち良さが本書にはあります。
常に進出するフロンティアを見つけて来た私達。フロンティアが見つからないことが今の閉塞感の原因の1つのように思えます。
そんな時どうすべきか。
著者は文化人類学の概念でインボルーションを提唱しています。内へ向かう発展です。もとはジャワ島の農業発展の特徴を表したものです。
そしてインボルーションを加速させた時に最終的にたどり着いたのが「アイデア」。今のところAIでは不可能な人類だけのものです。
この財産は、新たなフロンティアが見つかった時にはもっともっと活かされると思います。きっと物凄いROIになるはずです。
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今までの資本主義、これからの資本主義を分かりやすく書いてくれている。
資本主義とは精神論というのは心に刺さった。
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資本主義がよく分かる。この本を高校生や大学生の時に読んでいればと思う。一方で世の中を知った上で読んだからよくわかったのかな?
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ちょっと何言ってるかわからなかった。
専門的すぎた。
資本主義の歴史や今の時代やこれからの時代に必要な考え方が書かれてあると思った。
解説が一番共感した←
まだまだ社会勉強が足りないことがわかった。
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文化人類学者が書いただけあり、今まで私が読んだ資本主義に関する本とかなり違った立場から資本主義を見つめている。資本主義を「計算(私は「打算」の方が近い表現と感じた)」「時間感覚」というミクロな視点から定義している。そのユニークな定義から始まる資本主義社会のユニークな捉え方に本書の面白さ(と若干の違和感?)があると思う。
この本は、(アイデア)資本主義についての理解を深めるというより、この社会の中でどう立ち回るか、というヒントを得ることに重点が置かれていると感じたので、その気持ちでページを繰ることをオススメする。
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資本主義とはどんなシステムなのかが非常に分かり易き整理されている、アイデア資本主義という言葉に引かれて読んでみたが資本主義の教科書として十分な本である。
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アイデアの時代だが、以前は何を必要としたのかという事実から、今何を必要としているかがわかったような気がする。資本主義は、人間の一部になっているから、なくなりはしずに、変化していくのだと。
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行き過ぎた資本主義といわれ共産主義が良いのかというとそうでもない。インボリューションと言われるアイディア資本主義は確かに良いと思う。直線的な時間感覚と計算可能性を欠いた状態では資本主義は成立し得ない、ゴーインゴコンサーン、Discount Cash Flow法、うちに向かう発展、将来のより多い富のために現在の消費を抑制し投資しようとする心的傾向、資本主義というものを今一度考えてみたい。
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資本主義を出来上がったシステムとしてではなく「将来のより多い富のために現在の消費を抑制し投資しようとする心的傾向」と定義した上で。と書かれておりますね。フロンティアと言う考えから、資本主義を今、改めて再定義するって話です。そうですね、主義主張には背景があり、時代が反映されているんですもんね、いつまでも不変ではないもんですよね。と痛感しながら読めます。
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資本主義の歴史をまとめた本であり、新しい知見はなかったかな。個人的には両利きの経営を人文学的に捉えた本と理解した。
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著者は普段の仕事で文化人類学的アプローチを使っているかも知れない(知人にもそういう仕事してる人いるので)が、この本は、文化人類学の成果を引用するものの、史学的なアプローチで論を展開していて、文化人類学的なミクロからの組み立ては(著者は文化人類学をそう説明はするものの)実際にはされていない。史学的な論述についても、奴隷貿易が三角貿易であり資本蓄積に寄与した点が評価されていないなど、論理展開の説得力が足りない。インボリューションを引き合いに、内向きという表現をするが、その前に、生産性向上を外向きの拡大の文脈で使っており、そこを分けることの妥当性が分からない。外向き、内向きと、著者自身の主観に囚われているように思え、物理現象としてモデル化したら統一的に扱える気がする(撥水加工のカーペットに水をこぼした時、染み込まないで横に広がるか、撥水能力を超えて縦に広がる浸透するか、とか)ので、共感できなかった。ビジネスの資金調達では、アイデアより人を見る(ピボットしてでも成功するまでやりきると評価された人に投資が行われる)という話もあり、ITや法制度、商習慣の進歩で、起業家と資本がお互いに見えやすくなったと解釈することも可能だろう。いわゆる金余りを「資本のコモディティ化」と表現したのは、なるほどと思った。
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個人的には、ユダヤ教-キリスト教-プロテスタント-共産主義という歴史的文脈から一神教文化を捉え直す必要があると考えている。共産主義の理想は美しい。だが実際に平等を促進してきたのは資本主義であったのだ。識字率は上がり、世界の貧困層は減少の一途を辿っている。
https://sessendo.hatenablog.jp/entry/2022/10/18/204552
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書名から想像する内容と読後感が微妙に違うが、切り口はそれなりに興味深かった。
「将来のより多い富のために現在の消費を抑制し投資しようとする」ことができる人は、ある意味いくばくかの富と冷静な論理思考を持っている恵まれた人だろう。残念ながら自分自身を含め、大多数が不安で仕方がないので、やむをえず現在の消費を抑制し、なけなしの金を貯め込んでしまうのが実情かと感じてしまった。
しかし、経済を回しているのは「将来のより多い富のために現在の消費を抑制し投資しようとする」少数の勝ち組なので、大多数の搾取される側の人々はあまり関係ないというか誤差の範囲なのだろう。