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紙の本
戦前・戦中期の図書館を知る貴重な1冊
2006/02/13 22:51
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:湯浅俊彦 - この投稿者のレビュー一覧を見る
図書館はさまざまな資料を市民に提供する。あるテーマに関して賛否両論があったとしても、双方の主張を著した出版物を所蔵することは図書館の重要な任務であろう。その意味で今日の図書館はいかにも価値中立的な印象を利用者に与えている。
ところが自明のことだが図書館は歴史的な存在であり、また社会的な存在でもある。そこにはつねに政治的な力学というものが働いている。では戦前・戦中期の図書館はどのような存在であったのだろうか。
そのことを考える上で本書は格好の視点を提供してくれる。本書刊行の目的について著者は次のように書く。
「(前略)戦前・戦中期、『図書館が発達しなかった』時代に、日本図書館協会を中心とする図書館関係者が『図書館充実のために』どのように国家的慶事を利用し、皇室の威光を借りたのかを主題にしている。その意味では、1986年(昭和61年)の国際図書館連盟東京大会への皇太子夫妻招請は、単なる国際的儀礼を超えた次元での検討を促す一つの契機だったのである」(9ページ)
そこで本書では、学校教育と比較して国家から冷遇されていると感じていた戦前の図書館関係者たちが、国家的慶事を図書館振興に結びつけていく姿が『大正大礼記録』(臨川書店)や『紀元二千六百年祝典記録』(ゆまに書房)など近年公開され復刻版として発行された原資料に基づいて克明に描き出される。大正天皇の大礼(1915年〔大正4年〕)、昭和天皇の大礼(1928年〔昭和3年〕)、それに紀元二千六百年祝典(1940年〔昭和15年〕)の3つの皇室行事と図書館の関係が著者によって分析されていくのである。
どのような理由であったにせよ図書館がたくさん設立されたのは良かったのではないか、という考え方に対して著者は、建物だけのモニュメントとしての図書館として捉える考え方を行政や大衆のなかに植え付けたのではないかと批判する。著者の問題意識は戦前・戦中期だけでなく、そのまま戦後の図書館像につながっている。
ネット時代を迎えた今日だからこそ、図書館の政治学について冷徹に見据えていく必要があるだろう。そのとき本書はまことに貴重な資料になりうると確信するのである。
(2006年2月13日)
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