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自我を殺して生きるしかなかった人々の、心の葛藤や荒廃のすさまじさ、
辛うじて再生することができた人々の、苦悩の深さ。
人間性を育むのも壊すのも人であり、自由と権利がいかに大切かということ。
一方で、どんなに過酷な時代にも、かすかな希望は芽生え
その種もまた人であるということ。
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突発的に米国や欧州の文芸作品を読みたくなります。選択を誤ると途中放棄しちゃうことが多いんですが(苦笑)
非常に重厚な物語でした。
読み進めるのは 独特の修辞法や暗喩があって、正直ちょっとつらいところもあったですが、耐えながら進めて行くうちに様々な想念とかイメージが出来上がっていき、読み終わる頃には、筆者の作り上げた世界/メッセージが染み入る、そんな小説でした。
読み終わってから知りましたが、ノーベル文学賞を受賞していますね。他の作品も時々読んでみよう、、
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これはすごかった。一文一文が読み流せない濃密さで、読むのに時間と体力が必要だった。私にとってこれまでで今年一番の作品かもしれない。なんかもう下手な感想書けません。母親の愛の裏表が濃密に刻まれていて、重く苦しいのに素晴らしすぎる。人種差別は、極端に聞こえるかもしれないけれど、これまで読んだ人種差別の物語のいくつかが、甘やかなロマンに仕立て直されていたのかと思わされるほど苛烈な物語だった。命の帰るところと生まれ来るところの闇。
あとがきにあるように、「見つめたくない、知りたくない、伝えたくない」と、「見つめなければならない、知らなければならない、伝えなければならない」のリフレイン。フラナガン「奥のほそ道」を読んだ時を思い出した。
母乳も血から作られるんだよな、と思ったり。
これ絶版になっているけど、モリスンを悼んでぜひとも重版をお願いしたい。
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ラジオで紹介されていた本。作者の講演録が面白かったので読んでみようと思ったのですが、1ページ目で挫折。長編を読む知力と体力と精神力が無さすぎる脆弱な自分に完敗。改めて挑戦してみたいと思う。
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重いかもしれない。のっけからキツい展開が続く。けれど、物語の牽引力がものすごく強くて、ほとんど一気読みのようにして読み切った。
奴隷制の下では、愛することすら特権になってしまうというメッセージが突き刺さる。
自分の子どもも、伴侶も、友人も、自分の過去も、自分自身の体も、自分の置かれた世界の風景さえも、何もかも愛しすぎないことでしか生き延びられない世界。それが、人間としての尊厳を奪われ、奴隷という動物に堕とされた過去をもつ人々が生きる世界なのだ、ということなんだろうか。
白人の魔の手から子どもを守るには、子どもを殺すしかない世界って……しかも、実話に基づいて構成されているって……(けど、近いことが第二次世界大戦中にもきっと起こってるはず。中国大陸とか南方戦線とか)
「ビラヴド」は最後、また姿を消してしまうけれど、解説によればあれは奴隷船の船底で名前も知られず死んでいった何万人もの黒人たちの怨念なのだという。とするならば、何度でも「ビラヴド」は現世に姿を現し続けなければならないのかもしれない。正視したら正気を保てないかもしれないけれど、忘れてしまうことの許されない記憶なのだから。
その意味で、「ビラヴド」は単に「愛された者」というよりは、「たしかにかつて愛された者ではあるが、今、そうであるとは限らない者」「人間として愛し、愛される存在であったにも関わらず、それを暴力的に奪われた者」、つまり、奴隷制によって人間性を徹底的に踏み躙られた人々と、その過去を引き継ぐ人たちのことなのだと思った。
「BLACK LIVES MATTER 」の流れで読み進めてしまったけれど、それが正解なのか分からない。ただ、物語の締めくくりに「これは人から人へ伝える物語ではないのだ。」とあることに、忘れたいけど忘れてはいけない、けれど思い出したくもない記憶なのだ、という切実な思いを感じる。それを知らずにこの運動に加担しても上滑りになるのだろうな、とは思った。
そして、アメリカにおける奴隷制の悲惨、という特殊な文脈に嵌め込まずに、母娘の物語として見返してみると、ゾッとするほどのリアリティを感じた。「あなたは私のもの」「おまえは私のもの」という母娘の互いへの執着が、エコーチェンバー現象を起こして互いを狂わせて社会との断絶を招く様子は、日本の親子関係では見慣れた風景かも……
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1870年代のアメリカ。かつて農園から脱出した元奴隷の女セサと娘のデンヴァーが二人で暮らす家には、幼くして亡くなったセサのもう一人の娘の幽霊がたびたび現れる。そんな母娘のもとに訪れた、農園でセサと同僚だったポールDは、赤ん坊の幽霊を追い出してしまう。三人での新たな生活が始まりかけた頃、彼らの前に突然ひとりの若い女性が姿を現す。彼女は自らの名がビラヴド(Beloved=愛されし者)であること、そして彼女がセサを求めていること以外には何も知らない。新たに加わったビラヴドによって、一家の生活に変化が訪れる。
セサたちの様子を時の流れとともに描写しながら、セサやポールD、既に亡くなっている姑のベビー・サッグスらの回想により、かつて奴隷として生きていたセサたちの過去の歴史が語られる。そこでは、平和だった頃の農園の生活、白人たちから受けた惨たらしい仕打ちの数々、セサの逃亡とともに起きたデンヴァー出産時の出来事、そしてセサの娘が死んだ経緯などが徐々に明かされていく。
序盤でセサたち一家について大筋の情報を伝えながらも、詳細についてはあえて語らず、時間を前後させながらセサたちが彼女らの歴史を振り返ることで、読み進めるごとに彼女らの人生への理解が濃密になっていく。一筆書きではなく、何度も絵の具を塗り重ねる過程を経て完成された、陰影に富んだ絵を見たような印象を受けた。訳者あとがきによると、著者は1856年の逃亡奴隷の女性の身に起きた悲劇から着想を得ており、彼女が本作のセサのモデルとなっている。重いテーマと作風ながら、最終盤の展開も相まって、読後には心地よい淋しさも残された。デンヴァーが好む、逃亡中のセサと白人の浮浪者の少女エイミーとの一幕は、救いを感じさせる、作中で一番好きなエピソードのひとつだ。
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奴隷としての厳しい生活の過去、亡霊ビーラブドととの毎日、最後は社会へのつながりを持とうとする
デンヴァーを描く。とても長い物語だが読み切った。一回読んだだけではこれまた解読できない。
■第一部(〜P.336)
セサの母、ベビーサッグズの死、セサの息子二人は既に家出、かつて一緒に奴隷として働いていたポールDがある日18年ぶりに現れ同居することになる。
■第二部(〜P.477)
幼児の亡霊ビラブドととの絡み
■第三部
空腹の為、日々の暮らしが苦しくなる中、デンヴァーは、共同体に助けを求める。
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読後しばらく放心。
マジックリアリズムをはらんだ世界観で描きあげる。
これは、この方法だったからこその迫力。奥行き。
アメリカという白人が跋扈する土地に染み込む名もなき黒人達の怨念、怨嗟。
その中で生をつなぐある家族の物語。
『地下鉄道』ともつながった。
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アフリカ系アメリカ人作者による小説。
幽霊屋敷に住む母娘のもとに、昔の農場で同僚だった男、次いでビラヴドという娘が訪ねてきて、各人の過去の事情が徐々に明らかになっていく。
面白いけど、エピソードが重たい。
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自分を所有することを諦め、愛し感じ考えることを手放し、人間性を放棄した男性。自我を殺され、愛する子を護るため世界を抹消しようとした女性。
それぞれが誰かに助けられ、思い出すだけで胸が潰れてしまうほど忌まわしい過去を話せる相手、自分の身体がバラバラにならないよう繋ぎ止めてくれる誰かと、また生きる希望をみいだす。
それでも、過去は消えない。どうにもならない人生への慟哭や助けられなかったことへの懺悔。もっと愛したかった、もっと愛されたかった、もっと人生を愛したかった熱望は、時空をもこえて響いてくる。とても苦しい話だった。
語れない、語りたくないなかで、過去と現在を視覚的にも行き来しながら少しずつ全貌がみえてくる。行間の表現や隠喩もあり、とてもリアルな中にファンタジー要素もあり、読み進めるのが難しい箇所もあった。作者が意図することをしっかり受け止められたか、不安は残る。
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語りたいと思いながらも同時に思い出したくない出来事。そのような経験をした者の右往左往する心情がとても丁寧に描かれていた。いざ語りを始めるとあるところまでは語ることができる。その場では語ることができた満足感を得るが、いざ夜に1人になってみた時、得体の知れない化け物が人々を襲う。
本作では回想が多く挿入されているが(それが大部分であり重要であるのだが)、その回想は積極的に語ろうとするものと、ふと嫌な記憶を思い出してしまう2点があるように思われた。
形式が断片的な語りであるため、ストーリーを追うのが割と大変だった。