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帯にある「胸がどくどく脈打った / 若い人たちに生き方の話をするのに、なぜここまで死の話を重ねるのか」という鷲見清一の問いに導かれて読み進める。
序論に「自分と他人はとりかえられない」という題がついていて、孫に送る手紙のような文章から、誠実で温かい著者の人柄を感じる。
(病気が治った孫に)(もしその病気が治ることがなかったとしても)「なおあなたは自分の人生をいきねばならかったわけです。人は自分を他人ととりかえるわけにはいきませんから、まず自分の人生を、そういうものとしてうけとらねばならぬものでしょう」p,5
避けられぬ、でも誰のせいでもない病気をしたとしても、生きるしかない自分の生への対峙を諭される。
(もちろん、だから他人に頼るな、諦めろ、自分でなんとかしろ、というのとは全く違う)
本論では、激動の大正明治昭和に幼少期から青年期を経て感じていたこと、考えたことを精緻な描写で綴る。
帯にもあったように、死にまつわる話が日常の地続きとして何度もでてくる。そのたびに帯にあった鷲田誠一の問いを思い出しては、死の話が浮き彫りにする生が見えてくる。
関東大震災にあって「おやじさんが「朝鮮人が攻めてくる」と真剣にバリケードをつくっているのを見て、一種の恐怖をもちました。わたしは、そのときの自分がたった十四歳の少年だからといって自分を許すことができません。(……)われわれ自身の内にある流言飛語にたいする無抵抗な追随と、集団的恐慌にまきこまれやすい性質とについてこそ恐怖と警戒をもつべきだったのです」
この文章をツイッターの引用で以前見たことがある気がする。この本だったのか。
「どうしても話しておきたいことが一つあります」から始まる半ページに渡る、当時の体制への批判が心強い。
「あとがきにかえて」の内容に励まされる。
「生きのびているだけで、それが手柄だよ」
と同時に、そうかんたんに言えない人もいる、と誠実な眼差しを個々人に向ける。