紙の本
重い扉を開けて、私たちはどこへ向かうのか
2023/06/27 19:23
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投稿者:amisha - この投稿者のレビュー一覧を見る
ひとつひとつは短文だが、読み進めるのが困難なほど過酷な歴史を克明に書いている。舞台はアメリカだが、インドを含めた様々な身分制度についても同時に取材を行なっている。
日本の近現代史について、ここまで書く人は現れるだろうか。
終盤で、アメリカはお金でなんとかなる制度は整っているが、貧困層を救済する措置が先進国の中で類例を見ないほど少ないとある。戦争地域でもないのに、市井で銃で撃たれて死ぬ人の確率も多い。それでも移民はアメリカを目指す。
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twitter 評者:秋元由紀(翻訳者)
日経新聞20221210掲載 評者:西山隆行(成蹊大学法学部政治学科教授,政治学)
東京新聞2023325掲載
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ホームコメディやハリウッド映画‥音楽もファッションも‥陽気で楽しく自由な米国が大好きで憧れだった時期から、アメリカの翻訳小説に熱中し始めると、これまで目を背けていた米国の負の側面も見え隠れして‥それでもさすがに「南北戦争」「奴隷解放」は過去のものと思い込んでいたのだけれど甘かった。まだまだ、それこそがアメリカ社会にいまも続く無意識な差別感情を再生産する制度だとは、根が深過ぎて暗澹たる気持ちで読み進むが最後の最後、明るい兆しが有ってホッとしたし、冒頭のアインシュタインの言葉に救いがあると信じたい。
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カーストはインド固有の話だと思っていたのだが、ナチスドイツにおけるユダヤ人、アメリカにおける黒人差別もカーストとして捉えるという視点には目から鱗が落ちた。ニュースで見ているだけでも、自由平等とは名ばかりのアメリカだが、そこで生きてきた黒人女性作家の経験も織り交ぜて語られており、問題の根深さが感じられた。オバマ、トランプ、バイデンと続くアメリカ政治の流れにおいて、熱狂的なトランプ支持の動きが理解できなかったのだが、カーストというアメリカに渦巻く不満の根源を理解することで、腑に落ちる所があった。
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内容はかなり重く読み進めるのは簡単ではなかったが、アメリカに渦巻く不満の根底には、カースト制度があって、そう簡単なものではないのだと改めて思い知らされる。警察官に疑いをかけられそうになった時の恐怖、レストランでの店の対応に対する友人の行動、飛行機内での出来事など、本人の感情描写も明確で印象に残る。 人が持つ根底意識についても考えさせれる。
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「カーストのない世界では、男性であることまたは女性であること、肌の色が薄いことまたは濃いこと、移民であることまたはその国で生まれたことなどが、その人にどんな能力があると理解されるかに少しも影響を及ばさない。カーストのない世界では、わたしたちは皆、それが自分自身の生存のためだとしても、同じ人類の仲間の幸福を気にかけ、これまで信じるように仕向けられてきた程度以上に互いを必要としていることを認める。そして、山火事が猛威をふるい氷河が解けていくなか、世界中の先住民と力を合わせて警鐘を鳴らす。わたしたちは、他者が苦しんでいるときには、人類全体にとって種の前進が妨げられている状態であることを理解する。
カーストのない世界は、すべての人を自由にする。」
ー本文より引用
本書を読んだのは3月ともう3ヶ月も前なのだが、本書にはとても衝撃と感銘を受け、やはり感想を書きたいと思い、やっと書けるコンディションになったので書く。
それでもうまくまとめられるか難しいが。
ぜひ人種差別について考える人たちにもそうでない人たちにも、読んでほしい本だ。
本書は世間一般で「差別」と呼ばれているものは、実は「カースト」という仕組みで成り立っていることを論じている。
論議の対象となっているのは主にアメリカの黒人差別、ナチスヒトラーによるユダヤ人虐殺・差別、そしてカースト制度の元となったインドのカーストである。
差別ではなくカーストという視点から論じることによって、なぜ世界から差別がなくらないのか、なぜ見た目や性別人種などにより人は差別をしてしまうのかが分かりやすく論じられている。
そしてカーストの元に置かれた結果、人々がどのような恐ろしい行動に走ってしまうかまで。
カースト。その視点からこれらの問題を捉えること自体、目から鱗であった。
そしてその構造を自分たちが生き残るために無意識にアメリカ入植者たちが作り出して行ったことに戦慄した。
ヒトラーの所業はいまだに禁句となり断じられているが、そのヒトラーがユダヤ人を迫害するのにアメリカの奴隷制度、黒人差別の構造を参考にし、その制度に対して感動すらしたという逸話には、背筋が凍った。
1944年の春、アメリカで黒人少年が同僚の白人少女に送ったクリスマスカードが原因で、打ちひしがれた父親の目の前で川に飛び込むよう強いられたのの同じ年。16歳のアフリカ系アメリカ人の少女がヒトラーがどんな目に遭うべきかを考え、次の一文でエッセイコンテストで優勝した。
「ヒトラーの肌の色を黒くして、残りの人生をアメリカで送るようにすればいい」
他にも、アメリカで黒人が白人に無惨にリンチされ晒された死体を女児が怖がるどころかうっとりと眺めている写真などは、カーストという制度がどれだけ人を残酷たらしめるかを表しているようで恐ろしい。
なぜこのご時世に差別的な発言や行動を繰り返すトランプが大統領になれたのかも、オバマが大統領という立場にあったにもかかわらず黒人だからという理由で軽んじたり苛立ったりする人がアメリカにいた理由も、本書を読むと驚くほど理解できる。
熱狂的なトランプ支持者がいるのも、(支持者については本書では言及されておらず私個人の考えだが)トランプが掲げる政策がカーストに基づいており、黒人と白人を分けるカースト文化が元になっているのだろう。
とても興味深い記述がある。
とある教師が学校で、茶色い目と青い目という、それ自体に意味のない特徴に基づいて適当な固定観念をつくり、最下層カーストを生成するという実験的な授業を行うと、あっという間にカーストが成立し、道理もなくカースト上位の者は下位の者を虐げるようになった。
「ある集団全体の人に対して一生同じことをしたら」「その人たちを心理面で変えてしまうことになる。茶色の目の生徒に相当する人たちに、自分たちがより優れている、完璧である、支配する権利があると確信させ、青い目の生徒にあたる人たちには、自分たちが劣っていると確信させてしまう。それをその人たちが死ぬまで続けたら、その人たちにどんな影響が出るでしょう?」
ここでも、カーストが人々に心理行動面で現れる影響を如実に示されている。
また著者本人がアフリカ系アメリカ人で、日々の生活の中で、アフリカ系アメリカ人であるというだけでどのような扱いを受けているのか、随所で語られている。
こうして印象に残る部分を取り上げるだけでも、人種差別はカーストによるものなのだと、冒頭に引用させていただいたように「カーストのない世界」が差別のない世界であると言えると、伝わるだろう。
本当に私にとって衝撃的で、明快な内容であった。
カーストによるものだと理解したならば、時間はかかってもカーストを除去していく方法を模索するなど、綺麗事でなく論理的に世界から人種差別を無くしていくことは、可能かもしれない。もちろん、差別のある世界を望む人がいなければの話だが…。
その空気を覆すことは、多くの人が意識をすればいつか叶うのではないだろうか。
そんな望みをも見出せる本であった。
そして日本にもカーストといえるものがあることを考えると、カーストに照らし合わせて考えるならば解決できる諸問題があるのでは。そうも思わせてくれた。
画期的な視点に、本書に出会えてよかったと思う。
以下、備忘録がてら目次をば。
群衆のなかの男
第一部 永久凍土中の毒素と、いたるところで上がる熱
第二部 人間の分類の恣意的構築
第三部 カーストの柱
第四部 カーストの触手
第五部 カーストがもたらす影響
第六部 反動
第七部 目覚め
エピローグ カーストのない世界
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アメリカもインドも行ったことがないので、両国における「カースト」も「人種差別」も肌で感じたことはなく、日常的に冷遇されたり無視されることを経験している「従属カースト」出身の筆者によって書かれた本書の内容も、真に理解できたとは思いませんが、それだけに根強いものを感じます。
「ヒエラルキーの重荷の大半を担う底辺のカーストがカースト制度を作り出したのではないのであり、底辺のカーストだけでそれを直すことはできない。昔から問題を難しくしているのは、カーストによる不公平を正すのにもっといい位置にいる支配カーストの人の多くが、それを直す気がいちばんない場合が多いことである。」
相手をごく単純に「人間」として見る。
まずはそこから始めたい。
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ごく単純に、相手を人間として見る、全ての人を自分と同じ人間として尊重するだけでいい。そうすることで社会、世界全体がより平和に豊かになるのだとウィルカーソンは訴える。