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アメリカ海兵隊の体現する知的機動力を解明し、日本的経営の創造の方位を示す。日本軍の敗因分析をした『失敗の本質』の姉妹篇にして組織論研究の決定版。
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組織論の第一人者である野中郁次郎氏の労作
第1部 「米海兵隊の知的機動力」の解説
第2部 海兵隊のドクトリン「Warfighting」の全訳 である。
野中氏は、伝統的に機動作戦を遂行してきた海兵隊の本質とは何かを、暗黙知と形式知の「SECI」モデルに比べて解説されています。
独自で陸海空での複合作戦を遂行できる海兵隊は、陸軍・海軍・空軍と並んで、独立の軍種である。すべての海兵隊員は、過酷なブートキャンプを勝ち抜いてきた、ライフルマンであり、アメリカン・サムライを自認している。武士道に比する精神がライフルマンシップなのである。
武士の魂が刀なら、海兵隊員の魂は、ライフルである。ライフルで銃撃する、銃弾が尽きればライフルを武器に戦う、それもかなわなければ、徒手空拳で戦う。
気になったのは以下です。
■「水陸両方作戦」とは
・海兵隊の変革点は、太平洋戦争で「水陸両方作戦」である。
・「水陸両方作戦」とは、海上戦、上陸戦、陸戦、空中機動戦、航空戦をくみあわせた陸海空の複合的統合作戦である。
・「水陸両方作戦」は、日本への戦略に引き続き、現在の中国の「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」への有効な戦闘概念の1つとなっている。
・「水陸両方作戦」の概念は、指揮系統、艦砲射撃、近接航空支援、上陸行動および湾岸確保、兵站の5つの構成要素からなる。
・AIで実現できないとされる「心」の領域とは、共観と共感である
・機動戦では、いわゆる「あ・うん」の呼吸で意思疎通を図ることが推奨されている。
■太平洋戦争
・硫黄島における栗林忠道中将指揮下の第109師団はペリリューの戦いが示した島の地形を利用する「縦深防禦」とゲリラ戦法による持久戦を採用し、太平洋島嶼の攻防で唯一日本軍を上回る損害を海兵隊へ与えた
・大変用戦争は太平洋という巨大な空間の地政学をよく理解し、その地政学的なコンテクストの生み出す複雑で不安定な偶発性に機動的に適応した側が勝利した。
■海兵隊の挑戦
・システム的にも人的にも高密度でネットワーク化されている海兵隊は、戦況に応じてリアルタイムに状況分析を行い、適時適切に作戦の微調整を行うことが他の軍隊組織に比して容易である。
■海兵隊の組織的分析
・機動戦を行う組織は自律分散的、協業的なネットワーク型でなければならない指揮統制は現場の適応性や自発性を尊重する
・理想的な兵士は互いに信頼し合い、作戦行動にかんするプロフェッショナルで自律分散型のおリーダシップをもと人材だ。
・敵が予想もしなかった戦略・戦術を採ることによって、相手に「これでは勝てない」という認識を抱かせるのである。
・「機動戦」の対義語が、「消耗戦」である。
・機動戦と消耗戦は二項対立的な概念とされるが、現実の戦争では、二つが併用され、相互補完の関係にもなる。
・戦闘のある局面では量的に相手を凌駕する消耗戦で相手と対峙しつつ、状況に応じて予備軍で相手の虚を集中的に突破する機動戦が行われる
・機動戦の概念の開発に影響を与えた文献として、孫子や、リデルハートだと指摘しているが、実はもう一つある。宮本武蔵の「五輪書」である。生涯負けたことのない武蔵の戦法に学んだと指摘されている。
■海兵隊の人事システム
・海兵隊の昇任制度の特長は、能力・業績・職務経験の昇進基準を厳守し、特進を認めないことである。
・海兵隊は日本型組織に似て各職位に必要な経験を一段階ずつ積み上げて査定される等級昇進である。
・海兵隊はリーダシップとは天性ではなく、潜在能力を引き出すことにより育成されるものであると信じている。
・昇進レースがエスカレートすれば、組織内政治が横行しかねないが、海兵隊では、「仲間の犠牲で仲間の上に立たず」という文化をもつ
・すべての海兵隊はブートキャンプで厳しい訓練に合格しなければ、海兵隊の一員として認められない。学歴も、家柄も、人種も一切関係なく。海兵隊員という称号は「与えるものではなく、勝ち取る」ものなのである。
・この訓練が、海兵隊の一体感と、チームのために死をも恐れぬ兄弟愛が醸成される。
・海兵隊では、士官に「紳士(ジェントルマン」としての立ち振る舞いを要求する。
・広範な職務間ローテションも行われる。在籍期間中、専門分野にかかわらず人事異動が行われ、あらゆる危機に機動的に即応するチームの参加、機動的な管理職が育成される。
・このため、海兵隊員は全体の中での自らの任務の役割や重要性を認識できるようになり、他の軍種の同等職位に比べて、より多くの職能と責任が課せらえる。
・海兵隊全体は大きな家族であり、同一の価値観を共有する
・海兵隊の基盤 名誉 勇気 献身
・海兵隊の基本的価値観
①相互依存
②犠牲
③忍耐
④自身
⑤任務への信頼
⑥高潔さ
・海兵隊に元海兵隊員ということばはない、海兵隊をやめても一生海兵隊員であり続ける
・海兵隊には、「友軍を見殺しにしない」「死傷者を戦場に放置しない」という伝統をもつ。
・海兵隊の性質 ①大胆さ ②冒険心 ③謙虚さ ④プロ根性
・海兵隊の将校と兵士の関係は、上司と部下でなく、教師と生徒、師匠と弟子の関係に近い
・最後に寝て、最初に起き、食事は最後にとり、自ら部下の手本になる。
■知的機動力モデル
・心身一如 心と身体は一つ
・知的創造の方法とは、アブダクション(仮説生成)である。演繹法、帰納法に加えて、第三の思考法である、アブダクションが知的創造を促す
・暗黙知を大切にするということは、人間の主体的な信念、価値観や感性、ひらめきを重視するということにほかならない。
・戦争遂行の大部分は、創造的スキルあるいは、直感的スキルを用いるアートの領域である。
・司令官は、戦況の鳥瞰図のダイナミックなイメージを描けなければならない。
① 状況のクローズアップ、つまり、個人的観察と経験と通じて獲得する「感じ」である
② 状況の全体図
③ 敵司令官の視点に立って敵の意図を推論し、その動きをダイナミックなイメージとして予測すること
・知識は、流動する関係性の中から生み出される矛盾を二者択一によって解決するのではなk、状況によっ���どちらも真理だが、「反面」の真理と認め、中庸をとる。
・中庸とは両極の中間ではなく、完全な調和はないと知りつつも状況の応じて、よりよい近況に向かって矛盾を高次のレベルに止揚していくという概念である。
・海兵隊では、上から下への上司からの命令を「指揮」、下から上への部下からの状況報告を「統制」とよんでいる。
・指揮をとるリーダが同時に統制の権限をもつとは考えない。指揮を執る者は、同時に統制されるのだ。
・不確実な環境下では、後方にいる指揮官より戦場に最も近い者が現実に即応できる。解決策は上司は部下に任務を与えるが、部下には自ら実行方法を選択する自由度を与える、というものだ。
・すなわち、海兵隊の指揮と統制は、トップダウンとボトムアップのダイナミックな共創関係にある
・企業組織には従業員が率直に自分の意見を云えるような場がない。
・知識は天然自然のように誰かに発見されて回収するのをまつ資源ではなく、一人が他者ありは環境との関係性・相互作用のなかで主体的に創り出すコトである
・軍事組織は、帰納的には「勝つ」ことを大前提としている。
・「One for All. All for One」一人はみんなのために、みんなは一人のために。という精神
・現実主義 日本軍のようにタフで献身的な敵に勝つためには我々もおなじくらいタフでなければならない。彼が天皇に献身的であるように、我々も祖国アメリカに献身的でなければならない。これこそが海兵隊の戦略思想(ドクトリン)の神髄だ。
・士官・下士官のミドルを要とするミドル・アップ・ダウンの自立分散型・相互併存リーダシップが縦横無尽に発揮されている
・海兵隊の知識創造は現場を中心に行われている。
■意思決定 OODAループ
・観察から、行動をまでを即座に行うことを目的とした判断プロセス:朝鮮戦争にパイロットの直接体験により、体系化された。
① 観察 ② 情勢判断 ③ 意思決定 ④ 行動
・俊敏性が多様性を生み出すので、OODAのループの要諦は、先手をとり、敵が対応せざるをえないようにすることである。
■海兵隊の語る物語
・海兵隊では、文化や価値観の継承のみならず、新しい戦略や戦術を生み出す場合にも、物語という方法を良く使う。物語は、理性と感情の両方に訴え、個人を動機付ける固有のパワーをもっている。
・戦略的物語は、次に取るべき行動の連鎖を物語として示す。つまり、合理的な必然性よりも、物語的な非合理も含む因果性、正確性よりも筋書きの説得力を重視する。
・それには、ロゴス(論理、理論)だけでなく、パトス(感情、信念)、とエトス(信用、信頼)も含んでいなければならない。
■内面の力、および、知恵
・「実践」とは社会的な関係性のなかで、複雑な形態をもちつつもおなじであるとみることのできる行為であり、個人の一次的で単純な行為である。「動作」とは分けて考えられる
・成功する生徒は、頭の良さを強調するIQで計れる「認知スキル」ではなく、個人的な気質で資質に関連した「非認知スキル」のスコアが高いとされる。やりぬく力、自制心、意欲、社会的知性、感謝の気持ち、楽観主義、好奇心などである
・海兵隊の成功は、数々の失敗の反省の上に構築されてきた。失敗は次の作戦に必ず作戦、戦術、装備の革新を伴った。前線の失敗と提案は、戦闘研究機関へ直接フィードバックされる。
・プロネシスとは、賢慮、実践的知恵、実践理性の訳語にあるように、実践と客観的知識を統合するバランス感覚を兼ね備えた賢人の知恵ないし、美徳である。
・海兵隊は、「知的戦士たるべし」
・実践的賢慮リーダは6つの能力を兼ね備えていると考える
① 善い目的をつくる能力 組織の存在価値と、組織の目標
② ありのままの現実を直観する能力
③ 場をタイムリーにつくる能力 リーダーは最後に食べる 特権を与えられるからこそ、部下を大切ににする利他の精神
④ 直観の本質を物語る能力 暗黙知からあらたなアイデア、コンセプト、仮説を生み出す。さらに海兵隊の歴史に精通し、未来に向けて、歴史的構想を語り続ける
⑤ 物語を実現する能力 相手の意図を察知しながら、ゲームを巧妙に展開する
⑥ 実践的賢慮を組織化する能力 時空間を越えて世界の現実と共鳴する自立分散組織を錬磨する
■集約
・海兵隊はアメリカが生んだプラグマティズムの哲学に大きく影響を受けている
・理想主義や現実主義の両極どちらかであるというより、両方の側面をもっている。
・知的機動力は「二項対立」ではなく「動的二項態」という概念が基盤となっている。二つの相反しながらも相互補完的な性質をもつ要素は両極の一方の実が正しいのではなく、どちらも一面的に正しいのであり、両者を相互作用させながら文脈に応じて両者の重点配分を変えつつ、ダイナミックに実践し有効であることを実証してこそ真理である。
・日本的経営でもっとも重要な要素は終身雇用制であるといわれてきたが、その原語は「ライフタイム・コミットメント」であり「ライフタイム・エンプロイメント」ではなかった。
■結論
・先が読めないほど組織を取り巻くグローバル知識環境の変化が激しい今の時代には、俊敏かつ知的な判断・行動を可能とする組織の知的機動力が必須である。
・知的機動力は組織成員一人ひとりのこころと体を一つにすることで組織が一つの心と体をもって環境に棲みこむ、すなわち、「組織・環境一心体」になることで実現できる
目次
はじめに
第Ⅰ部 アメリカ海兵隊の知的機動力
第1章 海兵隊の歴史概観
第2章 海兵隊の組織論的分析
第3章 海兵隊の知的機動力モデル
第Ⅱ部 「Warfighting」野中郁次郎訳
第1章 戦争の本質
第2章 戦争の理論
第3章 戦争の準備
第4章 戦争の遂行
注
おわりに
文庫版あとがき
参考文献
ISBN:9784122073074
出版社:中央公論新社
判型:文庫
ページ数:336ページ
定価:900円(本体)
発売日:2023年01月25日
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消耗戦に対する機動戦の本質とは何か。そして機動戦を得意とする米国海兵隊の根底にあるビリーフは何かを教えてくれる。優れた組織の秘訣は採用にあると思っていたが、採用後のブートキャンプでも変えることが可能だと理解。今後の日本企業は採用前の厳選か、採用後のブートキャンプ、どちらかを選ぶ必要があると思う。
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人を鍛え上げることで、海兵隊という組織の意思を植え付け、組織が生き残るために、人がその意思を持った細胞となり、組織を継続するために進化し続ける組織。って事かな。
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海兵隊の暗黙的統合が知的機動力モデルとなる。
意識と無意識の相互作用のプロセス全体、すなわち拡張される形を作る。