紙の本
もっともらしい問いに対する的確な反論
2023/08/08 10:36
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投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ナチスは良いこともした」と問われると、全悪、究極の全悪というのはあり得るのかと考えてしまう。本来人間は不完全で、悪と善を併せ持つからだ。本書は、まず、良いこととはなにかその視点や定義から始め、この問を断罪する。見かけだけ良いことをして、その恩恵を受けた人がいても、ナチスの負の側面を帳消しに出来るどころか、その多少とも埋め合わせにもならないのは明らかである。だからといって、論理的な説明もなく、全て悪だと断罪するのも問題であろう。本書は、論理的に反論し、ナチスを断罪する。
紙の本
事実・解釈・意見
2023/10/13 05:07
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投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史を考えるとき「事実」「解釈」「意見」の観点から整理、検討することが必要と筆者は述べる。この考えを踏まえてナチスの「良いこと」と現在でも思われている政策を検討解説している。アウトバーンはヒトラーの残した良い遺産。と言われていたことを思い出した。しかしこの建設はヒトラーやナチス政権が自分たちで考えだしたものではない。失業率改善、健康増進、手厚い家族支援等が全て第一次大戦後に時の政権が考え始めていた事。一般国民の黙認の下、民族共同体の名で行われた差別や収奪、大量虐殺。でっちあげの内容をナチスに通報したり広めて利益を得た層もいたと。事実を考えるとき多方面から観察し意見を述べることの重要性を思わされた著作でもあった。
電子書籍
暗澹たる気持ち
2023/11/24 19:29
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投稿者:たこい - この投稿者のレビュー一覧を見る
いわゆる陰謀論にハマりやすい人たち(教科書的なことを否定する言説に飛びつく、反ポリコレそのものが目的化しているので正論は受け付けない、など)との対峙の仕方は911以降繰り返し議論となってきているが、そこにアカデミズムからどう向き合うべきかを考えさせられる一冊。
また、同様の言説が自国の歴史修正主義にもあり、それを推進する側は、ここに取り上げられたようなことを意図してやっているようにも思えることを考えると、暗澹たる気持ちにもなる。
紙の本
「良い独裁」と「悪い独裁」?
2023/08/09 22:24
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投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「兵士というもの」でレーマーとかいう質の低い「研究者」の「研究」を鵜呑みにした邦訳者が共著者なので買わなかったが、評判になっているというので買ってみた。
第1章は良くない。いわゆるナチズムの「定訳」だった「国家社会主義」とはソ連やDDRのような「国家権力が生産手段を国有化する社会主義体制を指す」そうだ。という事はソ連共産党やドイツ社会主義統一党は何なのか?かつて台湾で言われていたような「党国体制」が示すように独裁政党が国家権力と一体化したのは第三帝国も同じではないのか?
「国家社会主義」という訳語を批判する引用には「全体主義論でソ連共産主義と一括りにしたいという反共的な思惑とともに」だそうだが、これを書いた人は蒋介石が中華民国総統の地位に就いたのはヒトラーの真似事だと著書で書いていた。辛亥革命で孫文が臨時大総統に就き、北京政府時代は大総統が中華民国の元首の称号であり、中国語では「総統」は日本語の大統領などの訳語なので、文庫本では削除していた。これでは第三帝国は「悪い独裁」だが、ボリシェヴィキの独裁は「良い独裁」だと読めてしまう。
日本にはヒトラーの運動とは関わりなく国家社会主義という概念があるので区別する為に第三帝国のイデオロギーは「国民社会主義」と呼ぶのはいいと思うが、国民社会主義を「全体主義論でソ連共産主義と一括り」にして、どこが悪いのか?そうでないとヒトラーの収容所は「悪い収容所」でスターリンの収容所は「良い収容所」、ドイツ軍占領下の「飢餓政策」は「悪い収奪」でホロドモールは「良い収奪」、ドイツ軍に協力したウリヤーノフは「良い売国奴」でヴラーソフ将軍は「悪い売国奴」なのか?
ヒトラーと一緒に写真に映った少女の祖母がユダヤ人だという例を紹介しているが、同志スターリンが抱き上げた少女の父親が「人民の敵」だと「摘発」された例がある。
せっかく第三帝国の政策を「肯定する」向きに対して上手く反論しているのに、スターリンをヒトラーと比較されるような独裁者と見做されるからか、ボリシェヴィキ体制の擁護論が見え隠れしているのはダメだ。それなら「ソ同盟擁護論」など出さないで第三帝国のみを批判すればいい。それともこれは「兵士というもの」で披露したレーマー様のような研究者の受け売りなのか?
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小さな政党からのし上がっていくところや、前任からの引き継ぎでやった政策をいかにも自分たちのオリジナルでやったよう言うとか、成果もたいしたことがないのに、詭弁で成果があるように見せかけたりだとか、ほんま「維新」にそっくり。いやいやいや、維新がナチスにそっくりか。いまもとんでもないことを大阪で繰り広げてるけど、後年にどんな評価されるんやろうと思うわ。で、このブクレットは多くの人が読むべき。ナチスには三分の理もない。
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Audibleにて。話題のブックレットがAudibleで聴けるということで飛びつきました。岩波ブックレットがAudibleになるなんて、相当ですよね?
何回も泣きました。(※泣ける本ではないです)
無知の怖さ、無知のまま発言している日本人が恥ずかしくて泣きました。
私は、ナチスの本は何冊か読んでおり、聴講生として大学の先生に師事してナチスに関するの外国語文献を読んだりしてきました。また、フランクフルト学派やアーレント、レヴィナスなども(詳しくはありませんが)調べています。フランクルは大好きです。
先哲たちが強く、深く考えてきて経緯を考えて、また泣きました。
結局のところ、一面的な理解で、あれこれ傍から言うことほど愚かなことはないな、、というのが感想です。
批判を恐れずに言うならば、日本でもアメリカでもない第三国が「日本って原爆落とされて良かったよね。早く戦争終わったもんね?ウクライナやイスラエルにも原爆落とせばいいのにね!」と言っているような感じです。
ナチスの政策については、「悪い面もあったけど、良い面もあったよね」分けて考える性質のものではないという印象です。アウシュヴィッツのあとでは、詩を書くことすら野蛮なのですから。わたしたちがここから学ぶべきことは、「何が良くなかったのか」「どこで間違えたのか」のような気がします。
Audibleで聴きましたが、数字がたくさん出てくるので、手元に本があったほうが良かったなと思ってます。買おうかな。
こういう気概のある本が話題になっていて嬉しいです。
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話題の本。2023年7月刊だが、11月現在でもアマゾン・ヨーロッパ史カテゴリで3位となっている。
岩波ブックレットの1冊で、約120頁と、さして厚い本ではない。
「ナチスはよいこともした」という議論は定期的に繰り返されてきていて、特に、SNSが大きな力を持つ現代において、この話題は時に大きく「バズる」。
ナチスはある種、「絶対悪」として位置づけられている。ナチスを支持すると公言することは多くの人にとって躊躇われることだろう。常識的には、多くの人はナチスを否定し、ナチス的であると言われることはすなわち悪口であり、時には中傷であるだろう。
著者らが「はじめに」で触れるように、そこにはポリティカル・コレクトネスがある。そういった「正しさ」に反発したくなる人が出てくるのは必然であるのかもしれない。もちろん、物事を一面的に見ずに多角的に見ることは大切で、常識を疑う姿勢も大事なわけである。だが、ここで問題になるのは、ではナチスに関してよく言われる「よいこと」は本当に妥当なことなのかということだ。
しばしば取り沙汰されるのは、「結局は人々が選んだ政権である」「アウトバーンを作った」「経済を立て直した」「有給休暇や源泉徴収を発明した」「デザイナーズブランドによるかっこいい制服を作った」といったもの。
これらの中には事実関係として誤っているものもあれば、当時の社会的背景を十分に考慮していないものもある。こうした1つ1つを歴史学者が真面目に検証するというのが本書の主眼である。
ヒトラーとある少女との交流を取り上げて「ヒトラーにも優しい心はあった」とするような意見は、ある種、プロパガンダに目くらましされているというのはわかりやすい例だろう。
アウトバーン建設は、そもそもは前政権の方針を引き継いだものであり、軍事的・経済的効果はそれほど大きいものではなかったという。むしろプロパガンダ効果が大きく、この建設により、「ヒトラーがアウトバーンを作ってドイツを復興した」という説が(今に至るまで)生き続けることになった。
労働者向けに福利厚生を取り入れたとの意見もあるが、多くは他国の模倣やすでに着手されていたものの継承で、目新しいものはなかった。これらを大規模に行い、同時に誇大な宣伝を行ったことからナチスの「手柄」であるように見せかけたというのが実態のようだ。
個人的に最も興味深く読んだのは、第三章「ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?」。ヒトラーや幹部にどれほど権力があろうと、やはりそこに人々の支持がなければ体制は維持できない。ここで、ドイツ人がナチを「支持」するというのはどういうことだったのかという考察である。いわゆる「普通の人々」が「悪」を熱烈に支持していたのかどうか。ナチ体制誕生時のドイツには、そもそも反ユダヤ主義が広がっていた。そのきっかけとなったのが第一次世界大戦である。ドイツが劣勢となった理由が、ユダヤ人の「裏切り」や「前線勤務拒否」によるものだという噂が急速に拡大していった。そうした「社会的反ユダヤ主義」は、ナチ体制の暴力的な「政治的反ユダヤ主義」���は一線を画するものではあったが、反ユダヤを受け入れる一定の基板とはなっていた。また、ユダヤ人が迫害され、追放されることで、空いたポストを手に入れたり、あるいは彼らが残した財産を得て経済的に潤ったり、といった、実質的な「利益」も生じた。さらに、ナチ体制がユダヤ人を「敵」と見なしたことで、彼らとの交際にはリスクが生じることになった。積極的に排除しないまでも、消極的に関わりを避けてゆく人々が出るのは無理からぬことではあった。
結果的に、全体として、ナチ体制の反ユダヤ政策はドイツ国民から「支持」されているように見えてくる。だが、それを「熱狂的」と捉えるのは、実像からはかなり離れているのではないか。
歴史学的な視点からの検証はなるほどと頷く点も多い。
「ナチスはよいこともした!」と主張する人々にこの本は届くのかというあたりは若干疑問なのだが、専門家が一般書の形で学識を提供してくれることは大いに歓迎したい。
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「ナチスは良いこともした」という逆張り その根底にある二つの欲求
朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASQ5S4HFPQ5SUPQJ001.html
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「ナチスは良いこともした」という逆張り的な論調が最近多いから「いや、してないよ」という事実を証明しててそれはそれで面白かったのだが、
それよりも「ナチスは良いこともした」という厨二病的歴史修正主義がなぜ出てくるの?っていう時代考察の方がもっと知りたかった
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日本人の多くはこの本を「ナチスのポリコレ」としか感じないだろう。
日本人の大半は「国のためにならない人は、国の受益者になるべきではない」と考えてる/諦めてる/それ以外があるとは思ってない/愛する自民党と同じスタンスのなので何を批判してるのか理解できないだろう。
その上で何が「国のため」なのかを政府に白紙委任してるので、ナチスの政策は許容するべきものです。
つまり、ナチスの政策への批判は、自らへの批判になるため、正面からは受け止めることはできない。
悲しいですが。
多分、読んだ後でも、シレっと「戦争に負けたのが/ユダヤ人を殺しすぎたのが悪かったんだね」と言うでしょう。
この本を読んで、自民党は、思った以上にナチスに学んだんだなぁと思いました。
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「絶対悪」を確認し合うことが社会の歯止めとしての機能。民族共同体は共同体の敵を排除し、種々政策は、結果的に戦争に向かうために必要な整備、人間までもコントロールすることに他ならないことが分かりました。
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結論「していない」。
定期的に現れるこれらの言説は、蓄積された研究、歴史学専門知によってほぼ全て否定されているにも関わらず、SNSなどであたかも真実であるかのように拡散されている。
ナチズム研究者が、これらの「良いこともした」を最新の研究成果を踏まえて、検証していく。
SNSやネット空間にある短くて、切り取られた情報で知った気になるということはよくあることで、とても危ういということがわかる。専門知を丁寧に学んでいくことが必要で、それはナチスに関して、あるいは歴史に関してだけではなく、全て対してそうであって、市民としてはきちんと学び続けることが必要ということだろう。
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いまだに礼賛者が多いのは、ナチの政策がよほど人間の暗黒面に相性がいいのではないかと。ゆえに、怖いと思うのです。昔のこと、ドイツだからといった、小さく評価せずに、未来の我が事として考えてほしいと思うのでした。
日本の優生保護政策なんて、戦後ですら生き残ってましたから。
P4 「ルビコン川」の意味を読者に押さえさせる必要があるかと。
軍隊を入れてはいけない境界線だって
P12 国民社会主義。訳語として、国家社会主義より適切
P45 アウトバーンの舗装が薄い
わずかな滑走路転用可能な高規格をすくって大がかりな宣伝をしたということ?
P48 ライヒスバンク=国立銀行の意味が不明
国立銀行といったら、国立銀行条例で設立された銀行で、銀行券を発券できる銀行のこと。元ネタは合衆国の州法銀行の一形態か。当時は、連邦準備制度がまだだったから。中央銀行なら、そういうふうに書けと。
P66 「善意」の政策など存在しない
P67 "ARBEITSFREUDE"=労働の美
意訳なのか、独英訳だと、労働の喜び、楽しみになるけど?
P68 「日帰り/数日の国内旅行」ごときに、国家的政策はいる?
P72 「たくさん産むと借金チャラ」
日本でもやろうとしていますが
P80 米国のニューディール政策の効果もアレで、結局は経済回復は戦争のおかげというのは、悲しい現実
P103 「民族体」
ワクチンを打たないヤツは排除の理論も同じか?
P109 専門家にケンカを売るとはね
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世の中に、「ナチスってボコられてるけど、ええこともやったんちゃう?」という論があるらしくって、それに、アホかという主張。
具体的に主にネットで「良いこと」と挙げられている政策を挙げ、「オリジナル性」「目的」「結果」の観点からボコる。
まあそうなんだろうな、と思う。
ただところどころ、なんだかなあ、と思うところはあって、「良い」というのを道徳的に「良い」と言ってるけど、そうではなくて、政党として当時の政策としての判断だと思うし。
浅学を批判するのはいいが、「反ポリコレ」と決めつけてレッテル貼ってるのもどうかと思うし、大体、ポリコレではないと思うし。
なんで、相手の立場を勝手に推定して論ずるのかなあ。
じゃあ仮に、ナチスが、「ホロコースト」やってなかったらどう評価するか。
全てが戦争に向けての施策だって、そりゃそうだろうとしか思わない。
オリジナルではなく、それを思い切った規模でやっただけというが、量は質に転換すると思うし。
一番頷いたのは、「事実」と意見の間に「解釈」があるという論。
これまでの色んな研究の文脈を無視して、一次資料からいきなり「意見」に飛ぶと専門家でも間違う。
割と好きだった先生が、最近ネットで色々変なこと言ってて、なんだかなあと思ってたので、全力で頷いた。
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ナチ党の様々な施策を検証し、結局どれもこれも良いことではなく、良いことと錯覚させる宣伝を強力に推進していたに過ぎないと示す。今なお「良いこともした」論者がいるのはつまり、この宣伝の効果が今なお持続していることを意味し、こうした論者が現代の(プーチン・トランプらの仕掛ける)プロパガンダ戦においても脆弱であることが危惧される。