「消費不況」の謎を解く
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紙の本「消費不況」の謎を解く
2001/11/16 17:54
消費の今と未来
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:荻野勝彦 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は2部からなっていて、第1部が書名と同じ「消費不況の謎を解く」、第2部が「文化の経済学」となっている。
第1部は、おおむね著者の前著「消費資本主義のゆくえ」と同様の議論が展開される。現在の日本経済を「消費」の観点からとらえると、それは「消費不況」という「未知の領域」にあるという。その原因は、消費者である国民が、将来不安(その原因は雇用制度の急激な変更や年金制度の行き詰まりなど)のために消費を手控えることから来る総需要の不足であるという。であれば、将来不安を高める急進的な「構造改革」は不況を深刻化させるだけであり、「漸進的・漢方薬的な」構造改革こそが必要であるということになる。雇用制度に関して言えば、長期雇用を維持するための賃金カットである。これは企業の労務担当者の実務実感にまことによく一致しており、非常に説得力に富んでいる。
また、著者はこれまでのわが国における「消費」の変遷を述べ、「コンビニと携帯電話が現在の到達点」であるとした上で、そこにはない「文化」が、これからの消費の希望であると言っている。
これが、第2部の「文化の経済学」につながる。第2部は書き下ろしではなく、主に「生活起点」誌に掲載されたエッセイから成っている。それぞれのエッセイは読みやすく面白く、著者の食や景観などへのこだわりも感じさせて楽しい。そして、読み進めると、著者の考える消費の「文化」がどういうものかが皮膚感覚で伝わってくる。その中には、雇用の安定の大切さ、あるいはチームワークや「あいまいな能力」の再評価が含まれている。そして、本のいちばん最後の方に、「自分の生活が社会のあるべき方向だと考え、社会をその方向で変形させようというのは、傲慢な社会設計家たちがやってきたことだ」という一文が出てくる。「構造改革」の美名のもとに利益誘導をもくろむ証券アナリストや、そのちょうちんを持つマスコミ、評論家などに何度でも聞かせたいセリフである。
この本は、研究書や論文を書くような意気込みで書かれた本ではないかも知れない。しかし、その分リラックスした雰囲気がある。力みや誇張がなく、常識豊か(常識的というわけではない)で明快なので、読んでいて非常に気分がいい。これもまた筆者の力量ゆえだろう。価格も手ごろで、広くおすすめしたい本である。