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死言状
著者 山田風太郎
古今東西の有名人は死に際してどんな最後の言葉を残しているだろうか。ゲーテは「もっと光を!」。勝海舟は「コレデオシマイ」。近松門左衛門「口にまかせ筆に走らせ一生さえずりちらし、いまはの際に言うべく思うべき真の大事は一字半言もなき当惑」。そして、風太郎の死言状は? 本書は、天才にして鬼才である菊池寛賞受賞の著者が、折々に書き綴ったアフォリズムあふれる現代の徒然草。
死言状
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紙の本死言状
2004/03/08 20:02
僕はこんな爺ちゃんになりたい。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:川内イオ - この投稿者のレビュー一覧を見る
出会いはいつも刺激的だ。
例えそれが、魅力的な異性との出会いではなくても。
出会いは形を選ばない。
例えば私は、山田風太郎という老人が紡ぐ言葉と出会う。
出会いは私に新たな地平を見せてくれる。
例えば『死言状』で、山田翁は
「選挙に拒否権を導入しろ」と提案する。
自分が持っている1票は誰かに投票する権利しかない。
その誰かに投票したくなかったら、
選挙に行かないしか方法がない。
でも、拒否権があったら……。
きっと投票率も上がるし、国民の真意も知れて一石二鳥だ。
山田翁は禁煙の風潮にも異を唱える。
それが、単なる喫煙者擁護なら聞くに値しないが、
山田翁が気にかけるのはいき過ぎた健康志向だ。
「それじゃなくても人が溢れているのに、そんなに
健康に気を使って長生きする人間を増やしてどうする」
山田翁の独り言は、まったくどれも目から鱗だ。
傲慢でもなく、斜に構えるわけでもない。
それでいて、切り口が鋭い。切り口が鋭い割には棘がない。
万物を眺める目が、そこはかとなく温かいのだ。
その語り口からは、山田翁の鷹揚な人柄がうかがえるのだ。
そして、腹を抱えるのとは違う質の笑いを提供してくれる。
『死言状』の後半部分では、勝海舟や近松門左衛門など
著名人が死の際にどんな言葉を残した、を取り上げている。
それはそれで意外性があったり、物悲しかったりで興味深い。
しかし、何よりも私がワクワクしながら読めたのは、
日々の事象に対してTVの前の爺ちゃんがぼそっと呟くような、
著者自信の言葉だった。
私はいつも胸躍る本との出会いを求めている。
しかし読了後、著者にほんわかとした親愛の情まで持ったのは、
もしかしたら初めてかもしれない。